表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lip's Red - 姫様と緋色の守護者  作者: kouzi3
第1章 異世界との邂逅
2/39

(1) 姫と従者と俺との出会い

・・・


 断片的な記憶はある。確か、俺は、かるいイジメにあって、とあるビルの2階の庇から「勇気試し」という名目で、飛び降りるよう急かされていた。

 で、俺は

 「まぁ…逆らっても面倒臭いだけだしな。この高さくらいからなら、怪我ぐらいで済むだろ」

とか、おそらくそんな感じで、飛び降りたんだと思う。よく覚えてはいないけど…

 落下の衝撃なのか、その後受けた不幸な事故によるショックによるものか、どうも前後の記憶が曖昧だ。

 ま、もっとも万年低血圧な俺にとって、寝起きに記憶が混濁というか、ぶっちゃけボーっとしていることなど、日常茶飯事なのだけれど。


 そんな、記憶を夢の中で再生しながら、再び俺は意識をとりもどす。


・・・


 「ちっ!生き残ったか…」


 え~と?今、何とおっしゃいましたか?…てか、オッサン誰?

 目を開いた俺のベッドの横には、黒いスーツに身を固めた、あからさまにただ者ではない空気をおまといになった壮年のオッサンが立っていた。

 「…そのまま、帰らぬ者となっておれば、選択の儀は無効であったと強引にでも主張して、新たな者の選択の余地を残せたのだが…。誰も来ない内に、再度、闇へと突き落としてくれてやってもいいのだが、神聖な選択の儀を、私の手自らで汚すわけにもいかぬし、何より、姫様が最初に、この小僧の覚醒を確認してしまわれた以上、もう我々では如何ようにもならん」


 え~と、相当に不穏当なコトを言っているようですが、誰と話ししてんのオッサン?。よく見ると、同じように黒のスーツに身を固めた屈強感をこれでもか!と発散させる男たちが数人、オッサンの後ろに控えている。

 まだ自己紹介もすましていないのに、無遠慮にオッサンは俺の顔をのぞき込んで、強すぎる意志を目力に宿して、俺に告げた。


 「小僧。我々の夢と存在意義を奪ったからには、貴様には、それ相応の覚悟をもって生きてもらうから覚悟しておけ。お前は、簡単には死なさぬ。姫様の為にも、我々が命に賭けてもお前の命は守る」


 はい?何ですって?「死なさぬ」と言いながら、今にも殺されそうな雰囲気なんですが…


 「しかし、お前が死なぬ限りにおいては、お前の安全を保証する義務を我々は感じぬ…まぁ、大怪我をせぬよう、精進するのだな」


 何か踏み入れてはならない土地へ、勢いよく両足で着地してしまったような気がしてきたけど…俺には、オッサンたちの言っていることが全然理解できてないよ?もっと、分かるように解説してくれよ…


 という無言の叫びが、オッサンたちの耳に届くワケもなく、ある意味、金縛り状態にされた俺を残して、オッサンたちは霞のように音もなく、次の瞬間には、一人残らず病室から消えていた。


・・・


 しばらくの間、俺は惚けたように病室の扉を見ていた。お得意の痛み遮断スキルで、俺が病院に居る理由であるところの…どうやらかなりの重症な…体の痛みは、俺の「他人事格納領域」に押しやってある。僅かにのこる熱をともなった傷の脈動だけが時間の経過を俺に教えている。


 その見つめている開きっぱなしだった扉の隙間。いつの間にか、その隙間から窺うように病室内を覗き込む瞳に気が付いた。


 じーっ。


 え~と。音がしそうなぐらい、じ~っと見つめられるって体験したことあるかな?俺は、初めてな気がする。漫画だったら、吹き出しというより、擬態語とかの描き文字で表現されそうなぐらい。見事な見つめっぷりだな。


 「天使?…お姫様?…天使のお姫様?」


 やや混乱気味の俺は、取りあえず思ったことを口にする。我ながら間抜けな気もするが、俺の人生の中で、女子にこんなに見つめられるなんて経験は過去に全くナッシングだったし、しかも、どうやら、その顔立ちはこの国の国産美少女にはどう見ても見えないぐらい、見事な程に鋭い美しさを放っているのだ。緊張のあまり、阿呆のように、口が勝手に動くのを止められなくても俺を責められるヤツはいないと思うよ。


 「お前には、私が天使に見えるのか。お前の期待を裏切って悪いのだが、私は天使ではないぞ」


 そう言って彼女は病室内に入ってきた。


 「えっと、お姫様というのは否定しないんですね…」


 彼女は睨む様に俺を見つめながら近づいてくる。「何故、私が姫であると判ったのだ?」と訝しむその表情も、見事なほどに美しい。


 「とにかく。お前が、無事で私は嬉しい」


 「う。あ。はい?」


 「お前には、言葉だけでは足りないと承知しているが、取りあえず、まずは礼を言わせて貰おう。私を守ってくれて感謝する」


 はい?。今、何て?守った?俺が?お姫様を?…混乱し言葉を出せずにいる俺が、礼を受諾したと受け取ったのか、彼女は、さらに俺に近づき、そして、俺の手をとった。「あ。案外、冷たいんだな。女の子の手って…」などと、ワケのわからない感想をいだきつつ、俺は緊張のあまり飲み込んだ唾が喉を固まりとなって降りていく音を、彼女に気づかれませんようになどと、馬鹿なことを考えた。どうしてだろう、その考えが伝わったのかのように、彼女は、優しく俺に言う。


 「私の手が冷たいのではないぞ。お前の手が、熱を取り戻したのだ。よかった…」


 「あの・・・」


 なんとか、彼女と会話をして、事実確認をしよう。まずはそれからだ。と冷静になろうとして失敗し、言葉を失った俺に、自分への呼び名をどうしたものかと考えあぐねた故の沈黙であると誤解した彼女は「姫様と呼ぶが良い。私の従者たちは、みな私をそう呼ぶのだ」とフォローしてくれた。優しい?のかな。


 「えっと。姫様。俺は、姫様をお守りしたんですか?」

 「そうだ。お前は、私の暗殺を試みた男たちから、その身を挺して、私を守ったのだ。私は、銃で撃たれた経験を有していないので、お前の痛みを理解してやれぬが…さぞ、痛いのであろうな。済まぬ。何度でも礼を言おう」

 「あ。ああ。痛みには、俺、強いというか、まぁ、姫様が心を痛めるほどのことはないですから気にしないで下さい。でも、俺、姫様を守った記憶とか、全然、無いんですけど…だから、礼を言われても…」

 「銃に撃たれたのだ。生死の境を彷徨う重症だったのだ。体と心にさぞ負担がかかったことだろう。お前の記憶が、そのショックで失われたとしても無理はない」

 「いや、なんとなくの記憶は、あるんですけど…守ったという所がどうも…」


 俺だってオトコの子だ。美少女で、しかもお姫様なんていう、これまでの俺の人生からは想像もできないような相手から感謝される快感は捨てがたいものだが、長年の負け犬人生が俺の体にしっかりと植え付けてくれた「ぬか喜び防止回路」が正常にはたらいて、俺は、分不相応な「姫様を守った」などという身に覚えのない名誉な地位に対し、丁重に辞退をすることにした。だってさ、どうせ、すぐに真実が明らかになって、あからさまにガッカリなんかされるんだよ。誤解が少ないうちに、早いとこ正直に否定しといたほうが、ガッカリの落差が少なくってダメージを受けずに済むんだ。うん。経験からくる見事な衝撃吸収の技だな。偉いぞ俺。


 「俺。偶然、姫様の前に落っこちて、ちょうど姫様の盾になる位置に落ちたから、それで身代わりに撃たれただけだと思います。あはは。まぁ、それでも姫様が助かって良かったなとは、心から思ってますが、守ろうとして守ったのとは、価値が違いますよね。あはははは」


 姫様は笑わない。「解せぬ」といった顔で小首をかしげる仕草も美しい。


 「・・・何を言っている?お前は、間違いなく、私を守ると言って、私をかばったのだぞ?」

 「え?」

 「確かに、お前は上から降ってきた。どうして、上から降ってきたのか私は知らぬが、着地したお前の位置は、偶然で私の代わりに撃たれるような位置ではなかった。間違いなく、お前は、私を守るために、私に覆い被さったのだ」

 「覆い被さった?俺が?」

 「守るために覆い被さったのでなければ、不埒な行為として私がお前を撃ち殺しているところだぞ」

 「じゃ、じゃぁ、きっと、俺、着地して、姫様と、その暴漢たちを見た…ってことですね」

 「うむ」


 俺は、自分の頭の中で、残された記憶と今、姫様から聞かされた情報をつなぎ合わせて整理する。


 「…わかりました」


 俺がそう言うと、姫様は嬉しそうに目を細めた。


 「そうか。わかったのか」

 「はい。俺は、きっと、暴漢のあまりの迫力に、恐れをなして、姫様の方へ偶然逃げたんですよ。きっと」


 姫様の笑顔が凍り付き、次の瞬間には少し怒った顔に変わった。最初の印象では表情が乏しいクールビューティ?っぽいイメージだったんだけど、よく観察すると表情は豊かなんだな。


 「何を言っている?」

 「ほら。思い出して下さい。って俺は、思い出せないんですけど…きっと、その時の俺、情けない顔してたでしょ?」


 俺の問いかけに姫様は、ため息をつきながら挑むようにこう言った。


 「何だ。お前は自分で気づいてはいなかったのか。お前は。お前の顔は、あのときはっきりと笑っておったのだぞ」


 は?


 「笑っていた?」

 「そうだ」


 えっと?


 「俺が?」

 「だから、そう言っている。ひょっとして、私の言葉は、お前たちの国の言葉にうまく適合していないか?」

 「えっと…遠慮なくいうと…ちょっとおかしいけど…意味は通じてる。俺笑ってたんだ…。でも、ひょっとしたら、姫様を守ろうとしたんじゃなくて、単に、俺の好みにピッタリな女の子発見!とか、調子にのって飛びついたとか…って、俺、そんな大胆なヤツじゃない気がするけど…」


 「ふむ。私は、お前の好みにピッタリなのか?」


 一瞬、頬を染めて、しかしすぐに元の整った顔にもどる姫様。

 「え?あ、ごめんなさい。つい本音が」

 「…ふむ。私としても、お前のような変なヤツに命を救われたなどと信じたくはないが…しかも、それが初対面の女に問答無用でのしかかるようなヤツにはな。しかし、私は、ハッキリとこの耳で聞き取ったぞ。お前の覚悟を。あれは、聞き間違いとは思えぬが…」

 「あの…。俺、なんか、口走っちゃってましたか?」


 思い出起こすように一度目を閉じて、それから目を開きしっかりと頷く姫様。


 「うむ」

 「うわぁ。すげぇ不安なんですけど。聞くの怖いけど…聞かないと今夜眠れなさそうだし。…お願いします。どうぞ言っちゃってください」

 「私が突然、銃をもった連中に囲まれとき…」


 そう言って、彼女は、俺が撃たれた時のことを、ゆっくりと語り出した。その美しい紅玉のように光る唇で。


・・・

※初めての小説なので、読んでいただける方が少なくても頑張ろうと思って書いていますが、こんな私の初の拙い作品でも、数名の方がお気に入りに入れてくださっているようで、大変、感謝しています。

※このまま、読者様が少なくても、できるだけ完結まで、こつこつと各話を継続してアップしたいと思いますので、お付き合いのほどヨロシクお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ