(10) 襲撃
※遂に状況(運命?)が動き始める!
・・・
「そんじゃさ。俺、今はこうして入院してるから、すぐには無理だけど、そこまで言うなら、一回、その異世界?…行くよ。俺、全治、どんぐらいなのかな?」
割り切りの早さだけが取り柄な、俺。話してるだけじゃ埒があかないと、ほぼ100%の譲歩と相手への歩み寄りをすることを英断して、にっこり笑ってやった。だから、さぞ姫様も筆頭従者も喜ぶだろう…と思ったら、なんだか二人とも微妙な表情を浮かべている。
「マモル殿、ありがたい。必ずや、マモル殿が退院するまでに、帰れるように努力しよう」
「うむ。私も頑張るぞ」
筆頭従者が、表情を引き締めて言うと、姫様も左腕を背中に回し、右手の握り拳を胸の前に当てて、大きく肯いた。異世界風のガッツポーズなのかな?。そして、透き通る黒い瞳の中に、ほのかに赤と緑の光を灯した両目をしっかりと見開いて、決意をアピールしてくる。不思議な色の瞳だけれど、高価な宝石みたいだな…と思った。
が、何ともスッキリしない会話だな?
「異世界へ帰る時には一緒に来い」と言うから、訳わかんないけど…とりあえず1回行くって譲歩したのに、「帰れるように努力する」って…何だよ?
「・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・帰れないの?」
俺の問いかけに黙り込む二人。
…マジかよ?。さんざん異世界の話を聞かされ、しかも切っても切れない間柄になったから異世界に連れ帰る!…と、長々とした問答を要約すれば、そういうことだと思うんだけど、さらにオプションが付くの?
ここで、フザケるな!と怒れるような性格なら、俺は、きっとイジメられたり、こんなことに巻き込まれて入院してたりしないんだろうな。ため息をつこうとした、その時…
【 ぞわりっ 】
俺の傷が疼いたのか。何か胸の奥深いところに、とても嫌な感覚が流れ込んできた。いや、無理矢理ねじ込まれたという感覚に近いか?。その違和感は、件のカテーテルの異物感の比ではない。内臓に異物を突っ込まれて、しかもそれをグリグリと掻き回され…たことは勿論ないけど、そんな感じ。居ても立ってもいられず、俺は、体をベッドから起こす。
「どうした?」
俺の突然の変化に、一瞬、驚きを見せた筆頭従者だったが、すぐに彼も空気の変容に気が付いたのか、姫様を自らの背後に隠し、病室の扉の方を振り返る。
何も無い。が、ただならぬ圧力を感じる。
「さすが姫様の守護者だな。私より先に異変に気が付くとは…」
筆頭従者は、左目を眇めつつ、臨機応変に体を動かせるように体から力を抜き、左腕を扉の方へ向かって掲げる。
「さすが」とか言われても俺には何がどうなっているのか理解できていない。心臓が恐ろしい速さで鼓動を刻み、強制的に血を巡らせられる感覚で、体が途轍もなく熱をもったようで、居ても立っても居られない状態が続く。
危険が迫っていることだけは、本能的に分かる。実際に音が聞こえるわけではないが、俺の中で踏み切りで聴くような、カンカンという感じの警告音が鳴り響いているような気がする。
「違う!ラサ!あっちだ」
俺は、病室の窓の方へ向き直り、筆頭従者に叫ぶと同時に身を硬くする。
次の瞬間、窓ガラスが盛大な音を立てて割れ、飛び散った破片の一つが俺の上唇を掠め、血の味が広がる。
俺と姫様の位置関係が偶然良かったのか、奇跡的に姫様に破片が降りかかるのを阻止することができたが、俺の中に、言いようのない怒りが湧き上がる。筆頭従者を呼び捨てにしたことに、互いに気づく余裕はない。
「また、逆からかよ!」
忌々しげに声を荒げながら、筆頭従者は、先ほど俺に説明で見せた時の何倍もの速さで、手のひらに闇色の光を集め、それを窓から侵入しようとしていた襲撃者に向かって放つ。
闇色の固まりに打たれて、黒い服の襲撃者が一人、落下していく。この病室って、何階にあったけ?。平和な時代しか経験していない俺は、襲撃者のことを一瞬、心配したが、入れ替わるように別の黒服の襲撃者が、今度は2人同時に現れて、そんな余裕はすぐに無くなった。
「同じ手に引っかかった自分に腹が立つ!…ということで、その怒りの憂さをお前達で晴らすから覚悟しとけ」
筆頭従者は、今度は右腕も上げ、両腕で闇色の光を操る。「なんだ…左だけじゃなく右でもできるんだ」と、どうでも良いことに感心する俺は、しかし、この間、馬鹿か阿呆のように体を硬くするだけで、身動きできずにいる。
立て続けで、合計3人の襲撃者を迎撃した筆頭従者に俺は圧倒されるばかりで何もできない。幸い、病室の窓は、どうやら二人同時までが限界のようで、次も二人が窓の上側から現れ、部屋の中へ身を躍らせようとする。いったい何人いるんだよ?。襲撃者は、俺には一人ひとりの見分けが全く付かない無表情で、目の辺りには細い横棒のようなサングラス?なのかな?を付けていて、今、侵入しようとしているのが新しい襲撃者なのか、それとも、さっき闇色の光に打ち落とされたヤツが復活してきているのか、それすら分からない。だから、余計に不安を覚え、その恐怖心が、ますます俺の体を硬くして、身動きできなくする。
「マモル殿!扉側は、任せたぞ」
途切れなく襲い来る相手に両腕で対応中の筆頭従者は、俺にそう叫んだが、ちょっと待ってくれ。オッサン、俺は、人と戦った事なんかない、イジメられっ子のへタレなんだぜ?忘れんなよ!心の中で悲鳴を上げるが、声すら出ない。
「ジン。何をやっている。今度こそ姫様をお守りする、名誉挽回のチャンスだろうが!」
俺が頼りにならないことにやっと気づいた筆頭従者は、病室の外に控えているハズの別の従者に向かって怒鳴った。
しかし、ジンと呼ばれた従者が室内に現れることはなく、代わりに病室の外の廊下で、何かが弾け破壊される音と、何人かが直接入り乱れているような喧噪が聞こえてきた。
「くそっ。廊下は、廊下で取り込み中かよ」
一瞬、廊下側に気を逸らしたことが原因か、筆頭従者の手から放たれた闇色の固まりは、襲撃者の一人を窓の外に突き落としたものの、もう一人には遂に避けられる。病室内に侵入を果たした襲撃者は、筆頭従者には目もくれず、俺の方に…いや、俺の後ろに居る姫様めがけて、また指鉄砲のような仕草で腕を掲げて、その指先に青白い光を宿した。
!!!!!!!!!!!!!!!
俺の記憶が、急激にフラッシュバックする。そうだ、俺が撃たれたのは、この青白い光の固まりだ。断片的に残っていた記憶の映像は、やはり俺が姫様を守ったという時に目にした光景だったようだ。
また、撃たれるのか?今度は、死ぬかな?死ななくて済んだ場合、あんまり痛くないと良いな…とか、この期に及んで情けない思考が頭をよぎるが、取りあえず、今度こそ自分の意志で姫様を守ったと胸を張って言えるようにと、姫様の盾になる覚悟を決める俺。ま、結局、覚悟を決めただけで、さっきまでと同じで、身をより硬くするだけで、全く動けないんだけど。恐怖で、意識が飛びそうになった、その瞬間
「がっ…!」
俺の目の前で、青白い光の固まりを放というとしていた襲撃者が、突然、のけぞり崩れ落ちる。
放心状態の俺の耳元で、凛とした美しい声が優しく響く。
「安心しろ。これからは、私がお前を守るといっただろう?」
気が付くと、俺の左脇から、姫様の細い腕が前方に伸ばされ、そして同じく姫様の細い右手が、俺の硬直した腰を右から優しく抱き支えてくれている。
姫様に触れられて、俺は、初めて自分がガクガクと小刻みに震えていることに気が付いた。情けないことに、俺より、ずっとか細い腕に、俺は守られるだけで、何も出来ずただ震えているのだ。「やっぱり、こんな俺が、姫様を守っただなんて、嘘だな」…今、考えるようなことではないのだろうが、ネガティブな思考に支配され、目の前が暗くなる。
そんな俺の心を読んだのか、姫様は、その可憐な頬と慎ましやかな胸を、俺の背中に押しつけ、「落ち着け。私は、お前を信じている」と囁いた。
俺は、本当にダメな男だ。こんなみっともない状況でも、初めて女性に後ろから抱きしめられるという状況に胸を高鳴らせ、襲撃者が訪れた瞬間から既にオーバーワーク気味だった俺の心臓がさらに加速されたことで、遂に失神してしまう。
(だめだ…姫様を…守らなきゃ…)
未だに襲撃は続くというのに…。その思考を最後に、俺の記憶は途絶えた。
・・・
※主人公が情けないまま、今話終了…で…時間をおいちゃうわけにはいかないので、なるべく今夜中に、次話を書き上げて投稿する予定です。




