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9話 黒い翼




「うーん。良い景色ですよね」

「そのアプリとかは、如何にか為らないのか?」

「文句はアルに行ってくださいよー。数字しか無いから中身分かんないですもん」


開いたアプリは『翼』。数字は『10』。

順番に『2』を落とす予定だったんだけど、指揮官様が要らぬちょっかいを出すものだから、手が滑ってそうなっただけである。


で、数字をタッチした瞬間、空に居りました。

空ですよ!空!?

宇宙遊泳でもしましょうか?

かえるさんを見習って、平泳ぎの格好で進むんですか?


「俺の言う事が聞こえるか?」


騎士団のグラウンドの中央には指揮官様が立って、こちらを見上げていた。

どうやら魔法で話しかけて来ている様だ。

「はい。聞こえます」

「右後方に大きな木が有るだろう、あそこまで移動するぞ」


魔法は兎に角イメージが優先のようだ。

「鳥を思い浮かべるんだ」

(鳥・・・そう言えばカラスから糞を落とされたなぁ・・・)

カラスを思い出した所為か、私の背中には黒い翼が生えました。

嗚呼、こんなんばっかりだー


落ち込みつつも、ふらふらしながら大きな木を目指して行くと、その木のてっぺんには指揮官様が待っていて下さった。

差し出される大きな手をしっかり掴むと、指揮官様の大きな胸の中へと引き込まれてしまった。それでもほっとしたのは、空中と言う不安定な世界より、ずっと安心出来る場所だからだと思う。


「俺でも飛べないぞ」

「えっ?木の上に居るじゃないですか」

「風を使って登っただけだ」

「・・・この魔法って意味無いですよね?日中だと目立ち過ぎるし、夜だと暗くて見えないし」

背中の黒い翼をバタバタと動かしてみる。

「・・・そうだな。嫌、日中は絶対に使うな」

急に真面目な顔になった指揮官様は、少しだけ怖い顔をしていた。


その後も一時間ほど空中歩行(飛ぶと言う行為は思った以上に怖いのだ)を練習し、執務室へ戻った。のだが。

「その娘が噂の『黒髪の美少女』か」

ソファに寛ぐのは茶髪で短髪、瞳の色は緑色、騎士の制服を着こなす体は騎士そのもので、太い首に大きな体は筋肉の塊の様である。若干厳つい感が有るが、決して指揮官様に劣らない男前である。(この人もケツ顎だぁー!)

「アシュレイ、何しに来た」

「噂の真相を聞きに来ただけだが、どうやら本物の様だな」


今日の午後、「指揮官が黒髪の女性を連れて来た」と言う話で騎士達が大騒ぎをしていたそうなのである。

特定の女性の話も無く(非特定の噂話は山の様にあるらしい)、協会や寄宿舎にも女性を連れて来た事が無い指揮官が、である。

それも、その女性を抱えて執務室に篭もったものだから、噂が凄い勢いで飛んでいるらしい。


筋肉の塊さんは、数秒じっと私を見ていたが、おもむろに立ち上がり扉へ向かって歩き出した。

「手伝う事が有ったら言ってくれ」

それだけを言うと、部屋から出て行った。

「気が付いたか」

「ん?何に?」

「あいつは副指揮官のアシュレイだ。覚えておけ」

「ええっ?副指揮官様でしたか!」

エリートさんは男前とか美男子とかじゃ無いとなれないのかしら?等と可笑しな事を考えてしまい、何の話をしていたのかを失念し、終いにはちゃんと挨拶しなかったと、また反省してしまったのだった。


あの日以来、騎士隊(協会)への書簡や手紙類の配達は私の仕事となったのだった。

(誰かさんがご指名して下さるお蔭でねっ!ちくしょー!)


「マリアちゃん、これも頼んでいいかな」

「はい。お手紙ですね。えっと、ティア様でしたら、夕食の時に一緒になりますから、その時にお渡し出来ます」

「マリアちゃん、僕も頼むよ」

「はーい」


二・三日に一度の割合で「協会」へ配達に来る。

当然テレポートを使って、指揮官様の部屋へ飛ぶのだが、其れに関して騎士隊の人達はまるで気にしていない様である。

初めこそ私の見た目で吃驚されるが、指揮官様も普通に話すし、その部下である副指揮官のアシュレイさんも普通に接してくれるので、他の騎士の方々も最近では気さくに話し掛けてくれるようになっている。

少しだけ、来るのが楽しみになっている「協会」なのである。


コンコン。 指揮官様の部屋のドアをノックする。

「入れ」

「失礼致します」

その上司は机に腰掛け、真剣な眼差しで書類に目を通していた。

窓から差し込む光で髪の色は蜂蜜色に輝き、少し陰になった表情は彫の深さを強調するかのように陰影を付けている。

(ナレーションを付ければこんな感じか!?ちくしょう!カッコ良いぞっ!萌度MAXじゃん!)

「それでは戻ります」

と言って頭を下げるが、その拍子に手にしていた封書が数枚 ひらひらと舞い落ちた。

「あ・・・」

そのまましゃがみ込んで落ちた封書に手を伸ばすと、同時に大きな手が重なった。

大きな手の真ん中の指には大きな指輪が嵌り、節くれだった手の甲には無数の小さな傷跡が見える。その大きな手が私の手を握り締め、もう一方の手で落ちた封書を取り上げてくれた。


「あの、ありがとうございます」

そうは言う物の、片手には持ち帰る封書や書簡、反対の手は握られたままでは受け取れない。どうした良いのか一生懸命考えるが良い策が見当たらず、本当に困っていたら頭上の方から「ふっ」と軽い息が流れて来た。

(わざとかっ!)そう思った時である。

握られたままの手をぐいっと引き上げられ、中腰の体勢だった私はよろけながら引かれた方へ傾いた。


「うぉっ・・・」

目の前は壁が有る。じゃなくて!指揮官様の胸の中に納まっている状態である。

「す、すみません!」

慌てて離れた時、反動で手にしていた封書や書簡をばら撒いてしまい、何だか焦っている自分が恥ずかしい。

「明日の消灯後に此処な」

「・・・はい」

床に散らばった物を拾いながら、何だか物凄く悔しかったのは何故だろう。

ふと思い出したのは、映画を観終わってエンドロールの途中で退室し、帰ってからあのエンドロールの後に数分の続きがあったと知った時の悔しさの気持ちに似ている気がした。

今後、指揮官様には余り近寄らない事にしようと心に誓ったのだった。



一旦、自室にテレポートして、頼まれたお手紙類は机の引き出しに仕舞って置く。殆どのお手紙は、夕食の時に食堂で顔を合わせる待女の皆さん宛てであるからだ。殆どが恋文である事から、城内の待女さん達も結構モテるのが窺える。



残りはお偉いさん方への書簡が数枚。

これらはミリーの執務室へ届ければ良いのである。



ミリーの執務室へ行くと、其処には何故か王妃様がいらしており、仲良くお茶を愉しまれていらっしゃった。

「マリア、待っていたのよ」

「私ですか?」

「今日ね、新しいお針子の面接が有るの。ミリアムの所へも数人入れるつもりなのだけど、この子もルルもマリアに決めて欲しいと言っているわ。頼めないかしら?」

「私でいーんですか!?」


王妃様付のお針子さんは六人居る。

その内の三人が年度末に当たる九月で寿退社をするのだそうだ。

この国では殆どが一年単位で考えられているようで、結婚や転職が決まっても、年度末までは在籍する者が殆どなのだそうだ。それだから、その二月前には新しい人材を取って、引き継ぎ等がされるのである。


待女もそれと同じで、こちらは来週面接があるそうだ。

私みたく、途中からってのはかなり珍しい事のようである。


さて、お針子さんの面接である。

長方形の会場に、三十人程の人が一列に並んでいる。それぞれの手には自慢の縫物が下げられており、ドレスだったり、タペストリーだったり、ぬいぐるみなんてのも有る。

面接官は三人で、二人は王妃様の御針子さん代表で、もう一人は待女長官であった。

お針子さん代表は既に知り合いになっていたので、軽く頭を下げて挨拶をすると、向こうもにこりと笑って挨拶を返してくれた。

待女長官は・・・やっぱり苦手である。

それぞれに一言二言言葉を掛けては、手に持った用紙に書き込みをしているようである。


私はただそれを、黙って見ているだけで十分だった。






魔法アプリには趣味としか言いようのない物が含まれております。

実際に使用する時は、時と場所を選びますのでくれぐれも用心してご使用下さい。


ほんっと、趣味でごめんなさい!

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