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8話 突然変異



この世の中、異世界だって突然変異と言う事が有る。(よね?)


何の因果か、魔力を持たない自分が魔法の世界に飛ばされ、日本では一般的な黒目黒髪が神の如く祭り上げられるのは、どう考えても面倒な事でしか無い。


城内に居る方々は魔力が上級の方々ばかりだから、気配(足元に落ちる影の濃淡で分かるんだって!凄いよね)で十分魔力量の判別がお出来になる。従って、私の見た目と魔力の無さの落差に「可哀想」と思って下さっているからか、大変親切にして下さる。


しかし、一般の方々には気配だけで分からないのも事実なのである。

要は見た目重視。

私の髪の色は黒、瞳の色も黒。これ重要。



さて、此処は元「後宮」と呼ばれていた愛人を沢山囲っていた場所である。今から六代前の王が作った負の遺産の跡地である。

それ以降は一夫一妻で、妻が早くに亡くなった場合は後妻が入る事が有るが、愛人を囲う風習はほぼ風化している。

その「後宮」の今現在は、隣国や本国の貴族の娘達がお勉強に通うための宿泊施設となっており、年間契約五百万円(食事付き)で貸し出されているそうだ。

こんなに高い料金にも関わらず、全20室が満室で、キャンセル待ちも数十名居るらしい。


此処のお城から少し離れた場所に「アカデメイヤ」が有り、政治経済・魔法学・騎士道学などの校舎が並んでいるらしい。

首都ハモンに親戚や知人がいれば、其方のお屋敷にお世話になるのが一般的だが、知り合いの居ない人や(特待生の場合はタダ)、超金持ちの家の子女等はこぞって利用したがるらしい。

そりゃ、一度はお城で暮らしてみたい!って夢見る少女は何処の世界にも居て当たり前だのクッラカーだ。(古いって!)


今は城内が豊作らしく、あの指揮官様を始め独身で良い家柄の男性がうようよしているらしく、お城の宿泊施設は物凄く華々しいのである。



そんな後宮の回廊を俯き加減で小走りに通り過ぎようとしている黒髪ツインテールの少女が居た。

「もしかして、あなたがマリア様ですか?」

目の前には普通の方々、もとい、とある貴族のお嬢様が三人立ち塞がって下さって居た。

「ええっと。正解です」

「やっとお会いできましたわ!」

「この様に高貴な方にお会い出来るなんて、夢の様ですわ!」

「本当に綺麗な黒髪と大きな黒い瞳をお持ちなのですね!」


殿方だけがちやほやされる訳では無く、女性であっても魔力の強い(大きい)方と知り合い、あるいはお友達になるのもステイタスの一つである様だ。


「申し訳御座いません。急ぎ書簡を届けに行く途中ですので、通して下さいませ」

何時もはルルが行ってくれるのだが、本日は別の用で外出中である。


第七騎士隊隊長への書簡を届けるのが今の自分の仕事なのだが、間の悪い事に暇人に見つかってしまったのである。

正規のルートだと一端城の東門を抜け、そのまま外堀を反時計回りに半周し、橋を渡って第三別塔の門を潜ると言うコースになる。

時間が掛かる上に体力的にも面倒なので、最短コースの「後宮抜け」を選択したのが間違いだった様だ。

(今日は庭抜けの方が吉だったかも)


「一緒にお茶になさいませんか?」

「お時間は取らせませんわ」

「少しだけお話がしたいのです」

「誠に申し訳御座いません。まだ仕事中ですので」

「先日、異国の茶葉が手に入りましたのよ」

「まあ、それは楽しみですわね」

「私の部屋に致しましょう」

(だーかーらー、仕事中だって言ってるだろーがーぁ!)

何度も繰り返される脈略の無い会話に、貼り付けていた笑顔も消え、眉間に縦皺こめかみに血管が浮かび、そろそろ暴言を吐きだす三秒前である。


「如何致した、マリア殿」

救世主の御登場だーーーーー!


私が胸に抱えた丸い筒状の入れ物に視線を移し、困った表情を作りながら、私の肩に手を回して急ぐ振りをしてくれた。

「隊長がお待ちだ。急ごう」

「はい。皆様、失礼致します」

「「「・・・あ、いえ・・・」」」

頭を下げて、一目散にその場を離れたのだった。


すこし時間を置いた頃、かなり後ろの方で黄色い悲鳴が聞こえていた。

(今頃指揮官様だったと気が付いたんだろうね)


後宮を過ぎ石の門をくぐったが、それでも私は急ぐ足を止められなかった。

もしかして後を着いて来るんじゃ無いかと考え、その場合の対処法を頭の中で巡らせていた。

それが騎士隊の寄宿舎隣の「協会」の建物を通り過ぎ、更にその先にある森に足を踏み入れようとしていたにも関わらずだ。

「何処へ行くつもりだ」

その言葉も半分位聞こえていない。

突然地面を踏む感触が無くなったと思ったら、今までよりも目線が高くなり、背中には誰かの存在が密着している事に気が付いた。

(うおっー 指揮官さんと一緒だったんだー!)←忘れるなよ自分



「指揮官様、助けて頂いて有難う御座います。それから遅くなりましたが、前回も前々回もお世話になっていたようで、本当に有難う御座いました」

大きな机にはうず高く書類が積まれ、その向こうにある大きな革張りの背凭れ付きの椅子も何処かを向いて居る。その机の端に腰を掛けた状態の指揮官様に、どうにか今までの分のお礼を述る事が出来た。

指揮官様に連れて来られたのは、「協会」と呼ばれる三階建ての四角い大きな建物で、その二階に在る指揮官様の執務室である。


手に持って居た第七騎士隊隊長への書簡は、この部屋に入る前、驚いた顔をして動かない騎士の人に渡されていた。確か、ジョイと言う人では無かったかと思い出す。時々ミリーの警護に付く騎士だったと思い当った。


お礼を述べて顔を上げる。と、指揮官様は私の顔を暫く見つめてから、少々凄味のある無表情の顔のまま唐突に尋ねて来たのである。

「何故『転移術』を使わぬ」

「・・・てっ、転移術と言うか、魔法自体が使えないですし・・・」

冷や汗がだらだらと流れます。誤魔化すべきか?本当の事を話すべきか?


「ほぅー、あの早朝、この練習場には『転移術』で来たのでは無いのか」

「おぅっ・・・そ、それは・・・」

「夜着のまま、靴も履かずにな。ましてその足の裏は白く綺麗なままだったがな」

「はぁぁぁ・・・やっぱりバレてたんですか・・・」

「やっと話す気になったか」

「いえいえ、別に隠すつもりじゃ無いんです。誰に言えばいいのか悩んでたんですよ?」




「これが携帯電話のスマホです。そしてこれがアルが仕込んだ魔法アプリです」

来客用のソファに座り直し、何時も腰に括り付けている袋の中からスマホを取り出しテーブルの上に置く。

私が異世界から来た事や、アルの結婚相手がねーちゃんである事等は、当然王妃である実のねーちゃんから聞き及んで知っていた。お蔭で話が早く進んで助かったけどね。

「持ち運びの出来る電話と言う物か。小さいな」

スマホを不思議そうに手に取り、いろいろ触っている指揮官様だが、タッチ画面を幾ら触っても何も起こらなかった。

「えっ?何で?」

私が指でタッチをすると、画面はくるくる変わりスムーズに動いている。

「お前の世界でしか通用しない物かもしれんな」

「こっちの人の血は赤いですか?」

「勿論血の色は赤だが?」

もしかして、体の構造がまるで違うのかも知れないと思っての質問だったが、見た目は同じ人間である。血の色が青とかだったら、もう少し納得出来たかもしれない。



「言語・風・・・移動、この三つだけか」

「他も落として見たいんだけど、ちょっといろいろ面倒でして」

言語はまず良いとして、テレポートの時もあんなだったし(4話参照)、風のアプリを落とした時も、部屋の中が台風が過ぎ去ったかのように荒れ放題になったのだ。掃除や片づけでその夜は眠る事が出来なかった程である。

「もしも火とか水だったら・・・部屋の中で出来る事じゃ無いなーって思うと、落とせなくって」

「王太子妃には相談しなかったのか?」

「話そうとは思うんだけど、それはそれで面倒かなって。ミリーに言えば、あの馬鹿王子に伝わって、王妃、王・・・考えたら面倒この上ないじゃ無いですか」

「・・・確かに、そうだな」


指揮官様は自分のケツ顎を撫でながら暫く思案していたが、何を思い立ったのか口の端を少し持ち上げるとこう言い放った。

「今夜、消灯時間が過ぎたら此処に来い」

「嫌だ!」

「・・・魔法を使う練習をさせる」

「おぅ!?・・・分・か・り・ま・し・た」

背に腹は代えられない、のです。


「それから、こっちに来る時はこの部屋に飛べ」

それも決定事項の様です。


この方の私に対する態度も、突然、変異したようが気がするのだった。






ようやっとスマホ、魔法アプリの出番です。

本当は魔法アプリの事をうっかり忘れかけてたのですが、これが無いと話が進まないんでした。(笑)

やっと、憧れの騎士さんとの絡みが書けそうで嬉しいです。

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