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5話 やっぱり異世界

「あれ? 生きてる?」

目覚めて見れば・・・以下省略。


剣を見た瞬間に恐怖に襲われたのだが、、、意識を手放し過ぎだ、自分。


目の前、何時ものベッドの脇には心配そうなミリアムさんの顔が有った。

「お加減はいかがですか?」

うう、お加減要らない。説明が、説明が欲しいです!あれも夢ですかあー!?


「あの、私、どうして此処にいるんでしょう?」

「指揮官様がお連れになりました」

にこやかに話されるミリアムさんによれば、騎士隊の寄宿舎と練習場が有る敷地に迷い込んだらしい私を、騎士隊の指揮官様が偶然に見つけて、少し離れているらしい城内まで連れて来て下さったそうです。

私は疲れの為に途中で気を失ったらしく、その指揮官様に抱き抱えられて届けられたそうですが、何故かミリアムさんが嬉しそうです。

「指揮官様で良かったのですよ。怪我をされていた時に寝室まで運んで下さったのもあの方でしたから」

指揮官様、あの状況をどう思ったんでしょうか。顔を見ておりませんが、お礼を述べる機会が有ったらその時にでも聞いてみよう。


スマホをちらりと確認すれば『12』の数字は『移動』に変わっていた。あれはテレポートってヤツでしたか。

あの時ふと思い出したゲームソフトの名前に反応したと推測される。


ベッドの布団の中から抜け出し、ベッド脇の椅子に座っているミリアムさんに向き合う様にして正座をする。

「ミリアムさん、聞きたい事が沢山有ります」

目の前の綺麗なお人形さんがにっこりと微笑んで頷いてくれた。




此処はイシュダール王国の首都ハモン。

『転移術』『治癒の力』が実在する魔法(力)の国である。

代々の王族が世を統制しているが、それは絶対王政では無く、王家に流れる血が魔力を強く含んでいる為その体制が続いているだけなのだと言う。

例えば、王が『癒しの力』しか持たない者であれば、政治や福祉、軍事などの政策はそれぞれの能力に合った者を指導者に迎えると言う。

それも階級制度には関係なく、能力(魔力)と指導者の資質を持った者が選ばれる。


庶民も王族をこの国の象徴と捉えている向きが強く、王家の為に働く事は幸せな事だと言って憚らない者も多数居るのである。


「って事は、そうじゃない人も居るんだよね?」

「はい」

自分の能力(魔力)を人の為に使う事を拒み、自分の私利私欲の為に使う者も少なからず居ると言う。

それが、盗賊や暗殺者の類らしい。

能力(魔力)が平均よりも少し高い位の人で、自分の思う職種に着けなかった人が道を踏み外し易いらしい。(日本でも居るなあー)


それらを取り締まるのが騎士団の仕事である。

常に帯剣し、どんな事態にも対応出来るように日々訓練をしているそうだ。

能力(魔力)主義の一団で有るが、普段は市井の喧嘩事の仲裁に入ったりと、庶民的な事も手伝って、若い女性に人気の集団でも有るらしい。


「その能力ってどうやって調べるの?」

「髪の色と瞳の色を見れば分かりますわ」


髪の色が濃い程魔力が強く(大きく)、瞳の色が濃い程術に長けると言われているらしい。


「わ、私の世界では魔法って有りませんよー!?」

ミリアムさんはにっこり笑ってこう言った。

「はい。存じております」


その後も昼食を取りながらだったり、午後のお茶を頂きながら会話は続いた。



やっぱりアル(アルバート)はミリアムさんのお兄さんに間違い無かった。

アルバート・カークランド52歳。カークランド侯爵家の第一長子。

アルの髪の色は伽羅色で、瞳の色はミリアムさんと似た暁色だった。

アルも自分の持つ色に相応しい魔力の持ち主で、特に『転移術』と言う瞬間移動がずば抜けて優秀だった。頭脳も優秀だったようで、アカデメイヤ(こちらの学校の事)で学友だった王太子とは悪友と呼べるほどの仲良しらしい。(だから、胡散臭い雰囲気が似てるのね)

卒業後はその頭脳を買われ王太子の若き宰相としてこのお城で働いていた。時々得意の瞬間移動であちらこちらと多くの町や村へ出かけては、そこでの現状を報告するなどしていたと言う。


しかし、ある日。

「妙な夢を見た」

その言葉を最後に行方不明となったと言う。

それが三年前の出来事で当時49歳のアルには婚約者も居たのだそうだ。


「知り合い全てに声を掛けて探し周り、それでも見つからなくて・・・困っていた時に王太子が神官様に頼んでみようと言って下さったのです。王宮付きの神官様はこの世を見渡す目をお持ちです。ですから本当に嬉しかったのです。でも、神官様に探して頂いても、兄はこの世には居ないと言われてしまって・・・」

その時の事を思い出しているミリアムさんは少しだけ寂しそうだ。


「でも数日後に、神官様から伝言を届いたのです」

「伝言?」

「はい。この世にはおらぬが、別の世に居るようじゃぞ。近い内に便りがあろうぞ。と」





三年前。家の庭に外人が落ちていた。(らしい。姉がそう言っていた)

それを拾ったのは姉の萌である。

げっそりとやつれた顔で、背は高いが痩せていた男を、姉一人で家の中へ引き摺り込み、甲斐甲斐しく世話を焼いたと言うのだ。

丁度その時私は修学旅行中で不在であり、帰って来たら見知らぬ外人がにこにこと姉の後ろを付いて歩く姿に只々吃驚したのである。


だって、私の姉の萌は、引籠り生活をこよなく愛する者なのである。

小説家と言う仕事柄、24時間自宅に居る。

嫌、小説家だって外出はするだろう、普通。

極端な出不精の所為か、衣食住の必需品をほぼ全てネットショッピングで済ませてしまうのだ。

姉妹で楽しくお買い物がしたい私にとっては、凄く悲しい事である。


両親を早くに亡くしたからか、私はねーちゃんが大好きである。

料理は上手だし、誕生日に作ってくれるケーキはめちゃくちゃ美味しい。

大学こそ行かなかったが頭脳も明晰で、私の家庭教師もしてくれていた。


そのねーちゃんが頬をピンク色にして、胡散臭い外人と見つめ会ってる姿は、悲しいかな可愛かったのである。

妹の嫉妬も長続きせず、まあ何となく三人の生活が当たり前になっていたのである。





「兄が行方不明になって半年経ったある日、一通の手紙が届いたのです。それには異世界の事が書かれておりました」






父上母上、そしてミリアム 皆元気だろうか


私は今、魔力の無い世界に来てしまっている。

しかしこの世界は、魔力と同じように沢山の物に溢れている世界でもある。

人々が快適に暮らせるように技術が発達しており、特にインスタント食品なる物は素晴らしいの一言に尽きると思う。

熱いお湯を入れるだけで具材が入ったヌードルが味わえたり、レンジと云う四角い箱に食品を入れるだけで暖かな味付きのライスが食べられたりするんだよ。


それから、部屋や手元を明るくする為の光も自由に使え、驚く事に夜も昼間の如く光で溢れているんだ。

お手洗いも用が済めば勝手に水で流してくれるし、洗った手を風で乾かしてもくれるよ。


そうそう!驚いたのは車と云う乗り物で、馬車から馬を取った様な物なんだよ?不思議だろう?どうやって動いて居るのかは今でも謎なんだ。


魔力が無くても、魔力が有るのと同じように生活する異世界の人間は素晴らしい!


素晴らしいと言えば、とても大切な女性に出会いました。

このまま「日本」と言う国で暮らそうと思います。


魔力が殆ど無い世界なので、魔力が満ちるまでは時間が掛かります。

そちらへ転移する為に必要な魔力量が満ちるには数年か数十年か・・・

手紙も半年に一度位がやっとだと思います。

それでも、時々手紙を送ります。


皆を愛しています。


アルバートより






やっと異世界だと実感した5話です。

事実を認めると自分の立場もイロイロ考えなくちゃ行けなくなります。

次話、数か月後の様子から。


アルの説明が抜けておりましたので、訂正しました。

伽羅色=きゃらいろ、赤みがかった茶色



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