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37話 舞はお姉ちゃん




「美桜!何時までそうしてるのよっ!?」

「もう諦めた方がいいんじゃ無い?」

「美桜が行かないなら私も行かない」

「ああ・・・もう・・・」


舞、綾香、美千瑠、三人共とても美しいドレスを着て、とても綺麗に結い上げた髪に、とても派手な化粧が真、似合っている。

私はまだ普段着のままで髪も結って無いし化粧もしていない。

それがどうしたあ!と言いたい所だけど、今日ばかりはどうにもなりそうに無い。



なんせ今日はお城に招かれているのである。

国王直々による私達異世界人への謁見が有り、その後は歓迎会と称した夜会があるのだ。

行きたくないけど、行かなきゃいけない異世界人。


「ぬーん、よっしゃあ!腹を括って行きますかあ!」

うだうだ考えてもしょうがない。

姉ちゃんとアルはとうにお城へ行っているのだ。

今日ばかりは何があっても行かなきゃいけないのだから、兎に角準備をしようと思い直した。


しかし、頭の中では逃走ルートを検索するべく、勝手知ったるお城の構造を思い浮かべていたのだった。

(大丈夫、スマホが有るから何とかなるさ~)




お揃いのドレスを着た四人はカークランド家の馬車に揺られてお城を目指す。

この度のドレスは舞が作ったドレスで、物凄く可愛い。

黒のシルクサテンの生地に同色の薔薇の刺繍生地を合わせた物を使い、その刺繍がより目立つように形は至ってシンプルだ。少し高めのウエスト位置からはたっぷりのギャザーをよせて膨らんだスカート、その中にはピンク色と白のパニエを重ね、ウエストの切り替え部分には深紅のベルベッドの細いリボンがあしらわれている。それぞれの襟と袖は異なっており、それがまた個性を引き出して物凄く可愛い。


美千瑠はスクエアーカットの襟にパフスリーブの半袖。

綾香はVネックの襟にタイトな肘位までの五分袖。

舞はふくよかな胸を強調させた深めのUネックの襟にラッパの様に広がった長袖。

そして三人の首には紫色のティアドロップ型(涙型)のネックレスが輝いていた。

そう言えば、姉ちゃんも同じようなネックレスをしていた様な気がする。


で、私のは、細かなシャーリングが入った襟元を肩下まで下げたオフショルダーの襟元で、着る前に見た感じは首の詰まったランニングにも見えた。

大きく開いた肩と首元に少し寂しさを感じて、手持ちのネックレスでも着けようかと思ってチェストの引き出しに手を掛けたら、舞から止められてしまった。

髪の毛を結い上げる時間が無く、片方に流すように纏められた髪の毛でその心配も無用だった。





十五日前、突然国王から謁見の申し入れが有り、それから直ぐにドレスの作成に入った。

舞には手持ちのドレスで良いと言ったけど、前から国王の謁見が有るだろうと聞かされていたから、姉ちゃんとドレスは作っておいた方が良いだろうと話しており、生地やデザインの用意は出来ているから大丈夫だと言って笑っていた。

「それに私には強い味方が居るしね」

にやりと笑う舞の部屋(正式には仕事部屋なんだけど、結局はあそこも舞の部屋になる)には足踏みミシンが鎮座している。


舞は、こっちの世界に来る時に祖母の形見の足踏みミシンを持参して来たのだ。

転移した時、それはデューの執務室のあの部屋のテーブルの上だったらしいけど、五人の重量とミシンを含めた大量の荷物により、ミシリと音を立ててテーブルは潰れたと聞いている。(部屋の床も抜けそうになったと騎士隊の人が教えてくれたっけ)



舞は姉ちゃんと同じ高校の同級生で、入学式の日に同じクラスで隣の席だった事から仲良くなったと聞いている。

お互い、その時の印象は「私の方がデカイ!」だったらしい。

確かに姉ちゃんも舞もEカップと云う高校生にしてはデカイ胸を持っていたから、その辺りで闘争心も持ったのだろう。(私の胸が育たなかったのは姉ちゃんに胸の遺伝子が吸い取られた所為だと思って居る)


舞は姉ちゃんと同じ位の身長で、背中まで伸ばした髪の毛は真っ直ぐに揃っており、それと同じように前髪も眉毛のラインで切り揃えられている。丸い目は何時でも眠そうに半眼で、少し低目の鼻の下には何かを企んでいる様なやや上がり気味の口角が印象的な唇がとっても可愛い。

趣味はコスプレ、特技は縫物と云う人物で、進学校に入ったのに服飾の専門学校へ行った人である。


母親は舞を生んで直ぐに亡くなっており、その数年後には父親も交通事故で他界している。

母方の祖母に育てられた為、見た目は純然な大和撫子なのに、中身は残念な腐女子である。

祖母は昔から和裁・お花・お茶を教える先生だったのもあり、躾は結構厳しかった筈なんだけど、流石に性格までは矯正出来なかった様である。

私は舞のおばあちゃんが結構好きだったので、時々遊びに行っては一緒にお茶を飲んで「おばあちゃんの知恵袋」を拝借したものだった。

その祖母も昨年の初めにぽっくりと他界し、皆が驚いたのは記憶に新しい。

(前日、おばあちゃん・舞・姉ちゃんと私の四人でカラオケに行って大騒ぎしていたから、翌日舞から電話を貰った時は私も姉ちゃんも信じられなかった。当の舞も信じられなかったらしく、出ても良い筈の涙がついに出て来なかった程だった)

おばあちゃんは美空ひばりさんが大好きで、懐かしいわあと言いながら楽しそうに歌っていたのが印象に残っている。




「美桜?大丈夫?」

ぼーっとしていた私を心配して、舞が髪飾りを直しながら声を掛けてくれた。

結局時間が無くて、私だけ片側に寄せて編み込んだ髪にドレスと同じ赤いリボンを飾っただけになったのだ。

「う、ん。マジ、参ったな・・・」


舞の言う大丈夫?は私の心の準備が出来たかどうかの確認だろう。

他の二人も心配そうに私を見ている。

「もしも、彼が、今日来てて、声を掛けられたら、思い出しましたって言うよ、多分だけど・・・」

「ほう~ 彼 と来たましたか」

「うっ」

綾香の色っぽい流し目が何かを語っているけど、知らない振りをしたい。


「わざわざ言わなくてもいいんじゃ無いのか」

「うっ」

美千瑠のその言葉に心が惹かれるけど、黙っているのも悪い気がするし。



二日前、父の好きだったあの曲が切っ掛けとなって、忘れて居た何かを思い出した。

何かなんて言うのも烏滸がましい気がするけど、デュアリス総指揮官、デューの事だった。

アプリの習得練習に付き合ってくれたり、協会への仕事、私の為に色々としてくれた優しさや、彼の部屋に咲いていたしゃくやくの花の事も全て。


そしてずっと頭を悩ませていた綺麗な装飾のペン。

あれは収穫祭の露店で見つけた物で、今までお世話になったデューへの贈り物だった。渡せるかどうかも定かでは無かったけど、デューの瞳と同じ青い瞳の虎が印象的で、渡せなくても手元に置きたいと思い銀貨三枚で購入した物だった。


顔や名前すら忘れ、あのキスさえも忘れていたのは驚異な事だ。


シンシアの事も好きでデューの事も好きで、自分一人で悩んでいたのが懐かしい。

誰かに相談していれば良かったのにと、今だから思える事だ。


随分前に『錠』のアプリが開いていた事に不思議に思い、姉ちゃんに聞いてみたら「忘れ物防止用」だと聞かされただけで、それ以上何も言わなかったし、私も聞かなかった。

あの時に教えてくれれば良かったのにと言ったら、「あの時教えたら余計に困ったのはあなたよ」と言われ、そう言われてみればそうかもしれないと落ち込んだ。

(教えて貰ってたら、デューと面と向かって話なんて出来なかったと思う)

それに、自分で鍵を開ける切っ掛けも、もっと遅くになっていたかも知れない。

『錠』の事情を知っているのは、姉ちゃんとアルとデューだけらしい。



事情を知っていてデューは会いに来てくれていたのかと思うと、それは凄く嬉しい事だけど悪い事をしたなと言う気もする。

もしかして・・・と期待もする。

でも、言葉では何も貰っていないのも事実で、単なるこの世界でのコミュニケーションだったのだとすると勘違いも甚だしい所である。

本人に聞くのが一番だと分かって居るんだけど、今は一気に思い出したばっかりだから、答えがどっちだったとしても、流石に受け止める余裕が無いのも事実だ。

やっぱり暫くはこのままで良いかもしれない。

もう少し自分の気持ちを整理してから、会うなり聞くなりをしたいと思った。



だけど、会ったらどうする?


「あぁ・・・どうしよぅ・・・」


今まで通りに話をする自信は全く無い。

そんな私を見る皆の目は生暖かく、これから先に起こるであろう私とデューの珍事を想像してなのか、それはそれは楽しそうに笑っているのが少々悔しい。

此処で何か、ガツンと言ってやろうと思ったら、ガツンと音を立てて馬車が少し大きめな石を踏んづけて、グラリと揺れた馬車の中で舌を噛みそうになったのだった。

(気が萎えるよぉ~)


結局良い考えが何も浮かばないうちに、馬車はゆっくりとスピードを落としてお城の中へと入って行った。





「今夜が無事に終わります様に!」

美桜が手を合わせて拝んだのは、控室に飾られている歴代国王第7代目の肖像画の前だった。

偶々元の世界での神様の人相に似ていたからに過ぎない。

(ごめんね。国王さん)





美桜から見れば舞は姉ちゃんと同級生、だから姉ちゃんと同じ存在。

しかし萌からすれば舞は同級生だけど妹と同じ存在。(精神年齢が低いからだそうだ)笑

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