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33話 美千瑠と剣




「サリーちゃん!もう少し手加減してよっ!」

「これでもしておる」

うぅ、手がジンジンする。

「美千瑠、タッチ交代」

「いいよ」


サリーちゃんと美千瑠は剣を構えて騎士の礼をする。

お互い初めの構え-左手を背中に置き右手に剣を持ち顔の中央に垂直に置く(左利きの人はこの逆)-をしてから剣先を合わせて練習が始まった。


カンカン キンキン キュイーッ キン ・・・


痺れる手を振りながら、芝生の上に広げたラグの上に座り込み、二人の練習を見ている私にユイナが冷たいジュースを差し出してくれた。

「ありがとう」

「ミチルは上手いな」


ポニーテールに結んだ薄茶色の髪を、左右に揺らしながら剣を振る姿は無駄が無い。

元々剣を持つ事が決まっていたかのように、細い肢体には体を動かす為に必要な筋肉が付いている。細面な顔は眉毛も睫も薄い所為でぼんやりとした印象を受けるけど、細くて切れ長の目はくっきりとした二重で、色素の薄い瞳は意外と意思が強く宿っている。(多分)

只、額の上、髪の毛の生え際に有る長さ2センチの傷が目立つため、顔の印象が薄くなるのだと思うけど、本人は隠す気も無く全ての髪の毛を1つに結んでいる。




美千瑠に始めて会ったのは、もう五年も前になる。

姉ちゃんが拾って来た(本当にそんな感じだったのだ)時は、男女の区別も出来ない状態で、虚ろな瞳には何も映さず体中には痣が点在していた。

一週間ほど家に居たけど、一言もしゃべらず寝たきりの状態だった。その後暫くすると何処かのクリニックに長期入院となり、再会したのは半年も過ぎた頃で、家に来た時にはまるきりの別人で驚いたものだった。その時初めて美千瑠に笑顔を向けられて、この人はもう大丈夫なんだと安心したのを覚えている。

美千瑠は父親がアメリカ人、母は日本人のハーフで、スラリとした長身の美人であった。



姉ちゃんは詳しくは教えてくれなかったけど、中学生だった私にもある程度は聞かなくても分かったし、何度か警察の人が来ていた時の話から両親から虐待を受けていたと知っている。

両親を早くに亡くした私には、親が居るのが羨ましい時期もあったが、パワフルな姉ちゃんのお蔭で寂しい思いはした事が無い。

せっかく両親が居ても、幸せになれない人も居るんだと、この時初めて知った。




「ミチル、重力を掛け過ぎだ」

「そう?」




美千瑠のスマホには「重力」が追加されている。

剣の腕が良い事と、それを生かして騎士隊に入隊したいと言う本人の要望を受けて、アルが追加したのだ。

剣が上手でも所詮女の子の力ではタカが知れている。其処で、剣に重力を掛けて重くしたり、逆に相手の重い剣を受ける時にはその力を軽くする。

剣が無い素手の場合でも同じように重力を調整すれば、物凄いパンチをご披露出来るらしい。


美千瑠はそれを上手に使いこなす。

うん。羨ましい。私だって同じアプリが入っているのに、上手く出来ないのが物凄く悔しい。




アシエル国に戻って半月位経つが、今この国に残っているのは私と美千瑠だけだった。

姉ちゃんと綾香と舞は五日ほど滞在した後、イシュダールへと帰って行った。

姉ちゃんはアルからの帰って来てコールで渋々帰る事に決め、綾香は騎士隊へ行くと言い、舞はサンと決着を付けると言って帰って行った。

私達五人は自由にテレポートが出来るから、三日と空けずに皆の顔を見ている。

それは五人の持っているスマホが自由に使え、メッセージの遣り取りが出来るからであって、寂しいと感じる事が無かった。(流石に電話は使えないけど、メッセージが使えるのは便利である)




今一番忙しいのは姉ちゃんだった。

アルの正式な妻であり、カークランド公爵家の次期当主の伴侶となる事から、学ばなければいけない事が山の様に有るらしい。

先ずは文字を書けるようにならなければいけないから文字を覚え、歴代の家系図、他の公の家の立場や仕事、それ以外の伯爵家や男爵家の動向まで叩き込まれる。


元々頭の良い人だからそれ程苦でも無いらしく、中学高校の勉強から比べれば小学生低学年レベルだと言って笑っていた。

婚姻式は翌々年の春と決まり、それまでの間にドレスの準備や祝いの品の準備等が行われる。イシュダール公国での婚姻式は春にするものと決まっており、翌年の春までには準備が整わない事から、翌々年と決まったのだ。





「ミチル、左が薄い」

「つぅ・・・はあっ!」

カキーン キンッ カンカン ガツ 


二人の打ち合いはまだ続いている。




「サリヴァン様も随分穏やかになられた」

「美千瑠と相性がいいんだよ」

「ミオのお蔭だ」

「サリーちゃんも友達が欲しかったんだよ」

ユイナは私の顔を見て、そうだな、と言って笑った。




サリーちゃん(サリヴァン第五王太子)は、本当は寂しがり屋さんだと思う。

一番の末っ子でわがままに育ったけど、同い年か近い年齢の人と接する事が無かったのがそれを増長させたのでは無いかと思う。

だいたいお城の中には年長者しか居ないし、王太子って事で年上でも構わず顎で使うし、それに文句を言う人が居ないのが不味いと思うんだ。

両親は王様と王妃様で忙しいのは分かるけど、自分の息子の責任はちゃんと取らないといけないって事、知らないのかな。(これも日本の常識、異世界の非常識なのかなあ)



私がこのお城に連れて来られた時、その経緯を聞いて腹も立ったけど、何よりその馬鹿王子の様子を見たくなって探し回ったのである。

左腕と左足大腿部の骨折、顔の半分も魔法を受けて赤黒く変色しているらしい。

それらを『治癒の力』を余り使わずに治すと言っていた父の言葉を確認したくて、城の中をユイナと二人で走り回ったのである。


探し当てたのは三日後の午後で、北の外れにある騎士隊専用の病室だった。


左腕は木の板で固定され紐でベッドに固定されている。

左足も木の板で固定され、それを天井から吊るされた紐に引っ掛けた状態のまま宙に浮いていた。

顔は相変わらずゴリラの形相で、変色して居た筈の顔色は普通に戻っていたけど首元に少しだけ赤みが浮かんでいた。

ベッドの脇には沢山の本が積み上げられており、体を動かせないからか今も分厚い本を片手に難しい顔をしていた。

開いている扉をコンコンと軽くノックすると、やっと此方に気が付いた。

「お前っ!何しに来たっ!」

「・・・・・」(笑いに来たよー)

「笑いに来たそうです」ユイナが通訳をしてくれた。

目を丸くして驚いた顔はやっぱり威嚇するゴリラそのものだった。


その日は挨拶程度で(一時間位かな)帰り、翌日からは午後の時間潰しの場所となった。


初めの頃は「帰れ」だの「五月蠅い」だのと大声を張り上げるばかりだったのも、途中からは相手をするのを止めた様で本ばかり読むようになった。

私も実の所、本を読みたくて通っていたのだから丁度良かったのだけど、スマホが無いので自由に読めない。

ましてや此処はアシエル国だから、今まで覚えたイシュダール公国の文字とは違っていた。

ユイナから辞書(イシュダールの文字をアシエルに変換した物)を借りての読書である。


ユイナが一緒の時は、分からない所があればユイナが教えてくれるのだけど、生憎と毎日一緒には来ることが出来なかった。それはユイナが侍女であるからで、いろいろと仕事も持っているのだから仕方が無い。

ユイナが居ない時は、紙に書いてサリーちゃんに聞く事にしたのだけど、初めのうちは100%シカトだった。



でも、有る事が切っ掛けで少しずつ話をしてくれるようになったのだった。





美千瑠は美桜をとても大切にしています。

美千瑠が瀕死の状態で花沢家に連れて来られてから、美千瑠の世話をしたのが美桜だったからです。

何も語らない(語れない)自分の傍に、ずっと居てくれて、ただ笑顔で接してくれた美桜を天使だと思ったのだと、後に語ってくれます。


美千瑠は気に入ると、なんでも固執するタイプです。

元の世界から引き継いだのは、美桜に対する愛情と、みたらし団子への愛情は生涯変わらなかったとか。(笑)

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