表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/44

26話 ゴリラとどじょう

23話の少し後、24話と25話とほぼ同時系列となります。





焼けつくような喉の渇きに目が覚めた。

嫌違うかな、水が飲みたい訳では無いけど、喉の表面、首がヒリヒリと熱を持って痛いのだ。

腕を動かして喉を触ってみると、やっぱり手に伝わる温度は熱く感じる。

「触ってはいけない」

優しく手を掴まれて、体の横にゆっくりと降ろされる。

目の前にはぼんやりと人影が見えるが、薄暗い所為か誰かは分からない。

ヒヤリ と冷たい物が首の上に広がり、ヒリヒリとしていた痛みが少しづづ癒えていく。

瞼が重くなり、また夢の中に紛れ込みそうになった時、誰かがこう囁いた。

「名は」

「・・」

言葉を発したつもりだったが、息だけが口から零れた。

そしてそのまま意識を失った。



再び目が覚めた時は柔らかい光の中だった。

ふかふかのお布団は気持ちよく、凄く良く寝たなと実感する気持ちの良い目覚めだった。

「気分はどうだ」

吃驚して声のした方を見ると、ベッドの脇に置かれた椅子に座っているクオーレさんが目に入った。

「・・・・・」(クオーレさん?)

「・・・・・」(クオーレさん?)

「・・・・・」(クオーレさんっ!?)

幾ら声を振り絞っても、口から出て来るのはヒューっと言う息だけだった。


「声が出ぬか」

眉間に皺を寄せたクオーレさんは、私の首をそっと撫でると、何処から取り出したのか小さな手鏡を渡してくれた。

その鏡で自分の首を映して見たら、首にはθ(シータだ!)の上に‘ (アポロストロフィだっけ?)が五個くっついた風な模様が、火傷したように赤くなって張り付いていた。


クオーレさんは私を起こすと、背中に沢山のクッションを詰め込み座り易くしてくれた。そしてベッド脇のテーブルに載った水差しから水をグラスに注いで、私の手の平に乗せてくれた。

「弟がとんでもない事をした。すまない」

(弟・・・あの人が弟さん? 似てないな)

そんな事を思いながら、そう言えばあれから何日経ったのだろうかと気になった。




あれは収穫祭の夜。

私はシンシアの真似をする事にしていたから、亜麻色の髪の毛のウイッグを被り、シャツにズボンと言う出で立ちをした。

そうすると、必需品の「スマホ」を隠す場所が無いので、部屋にあった斜め掛けの鞄を借りる事にした。普段はウエストポーチ型に作った袋に入れて、ワンピースの下に装着しているので誰に見られる事も無く持ち歩いている。(やっぱりウエストポーチって便利だよ。流石日本人、これで首からカメラを下げたらOKだ)


銀貨も数枚持って行こうと思い、侍女として働いた時に頂いた賃金を入れたポーチを机の引き出しから取り出す。

その下には、昨夜書いた手紙が見える。

今夜帰って来たら誤字脱字が無いか確認しようと考え、数枚の銀貨を取り出して、またポーチを戻して引き出しを閉じた。

その時机の上に置いてあった黄色いキャディーが目に入り、それも一緒に鞄に入れた。


私の恰好を真似たシンシアはとても可愛かった。

今巷では「魔女のミミ」と言う絵本が大ブームで、それを反映するかのように黒髪をツインテールに結び黒い服を着ている人達が沢山いた。私はまだその絵本を見て居ないけど、私にそっくりだと言う噂を耳にして以来興味は募るばかりである。

絵本の増版は増えているらしいけど、市場に出回るにはもう少し時間が掛るらしい。何でも今までに無い多色刷りの絵本で、手間暇が大変掛るのだと教えて貰った。


シンシアと一緒に露店を回るのはとても楽しく、綺麗な飾り物を見たり、美味しそうな菓子を買って食べたりと、日本で友達と一緒に居る時を思い出させた。


広場でキャンディーを舐めながら飲み物を買いに行ったシンシアを待っていると、目の前に騎士の恰好をした二人の男性が立ち、何やら話し掛けて来た。

「・・ク・ラ・・家の者か」(カークランド家って言ったのかな)

「はい?」

広場では皆が歌いながら踊っている為、声を大きくしないと聞こえない。だから此処では聞き取れないからと、場所を変えようと行って来たので、何だろうと思いながらも後を付いて行った。

細い路地に入ると突然両脇を取られて、そのまま暗い道を入って行く。

怖くなった私は両腕を振り回して腕を抜こうと抗った。何とか抜けた片方の手で、一人の騎士の剣に手を掛け引き抜いたが、もう一人の騎士に腕を取られて剣を捥ぎ取られてしまった。その拍子で指先が切れ、血が流れて落ちたが構わず反抗した。

しかし、男性二人に更に強い力で両側から腕を取られてしまっては、流石にどうする事も出来ずに声を荒げて助けを呼んだ。

慌てた騎士は口を塞いで何か言っていたが、額に冷たい感触がしたと同時に意識が消えた。(合気道、役に立たず)




何だかざわざわと周りが五月蠅いな、と目が覚めたけど、今目を開けるのは止めた方が良さそうな雰囲気だったので、じっと我慢した。

耳をダンボの様に大きくして、何を話しているのか聞き取ろうとしたが、意味不明の言葉しか聞こえてこない事に不安になった。

そう言えば騎士と揉み合いになった時、ブチっ と言う音がしたような気がする。まさか、鞄を落としてしまったのだろうか・・・多分落としたな、と諦めた時、好奇心に負けて薄目を開けてしまったのだった。


目の前には、どじょうが居た。(何でどじょう?)

小振りな細目の顔にはちまっとしたつぶらな瞳、低い鼻の下には其れこそどじょうの様な細い髭が左右に一本づつチロリと付いて、その下の唇はたらこが二つ置かれた様に見えた。

そのどじょうさんは何やら必死に話し掛けて来るんだけど、何を言っているのかさっぱり分からない。

それはどじょうさんも同じらしく、私が言ってる言葉が分からないみたいで頭を抱えていた。


そんなやり取りをしていた所に、今度は豹柄のジャケットを着たゴリラが登場した。

(何だ?水族館には動物園も併設されているのか?)

どじょうと話をしているゴリラは何だか物凄く偉そうで、私を睨みつけるように見ていたかと思ったら、いきなり私の髪の毛を掴んで思い切り引っ張った。

「痛い!」

その言葉が通じる訳も無く、ゴリラの手には亜麻色のズラと私の地毛が数本掴まれていた。ゴリラはその手にしたズラを床に叩きつけ、私を指差して何やら言っているがさっぱり分からない。但しその形相から怒っているのは理解出来た。


ゴリラが私に近づき、そのデカイ手が自分の首に回った時には流石に天国を近くに感じた。(嗚呼、神様っ!出来れば元の世界の天国に連れてって下さいね!)と心の中で叫んだのが忘れられない。だって、こっちの世界の天国に行っても困るじゃない。


しかし、そんな事を考えたのも一瞬で、ゴリラの口から短い言葉が聞こえたと思った瞬間、喉に激しい痛みが突き刺した。


「シンシアは何処だ!?魔女を身代わりにしてまで逃げたのか!?」


返事など出来る筈も無い。

喉の痛みに息をするのも辛く喘ぐように呼吸を繰り返したが、酸欠になりかけた様で段々と意識が遠くなってきた。

涙で滲んだ目に、キラリと光る物が見えた様な気がしたけど、もうどうでもいいや、みたいな気分で目を閉じたらそのまま意識を失ったらしい。


気を失い掛けた時、何だかさっき以上に騒がしくなった様な気がしたけど、あれは何だったんだろう。


それから何回か喉(首)の痛みで目が覚めた様に思うけど、その度に水を飲ませて貰った様な気がする。


それって、クオーレさんだったのかな。



聞きたい事が有るけど、声が出ないし、どうしよう。



手の上の空のグラスを弄んでいたら、もう少し飲むかと聞いて来た。

こくん と頷けば、さっきよりも少し冷やされた水を足してくれた。



「何が起こったのか分からないだろうな」

(うん)

「気になるか」

(当たり前じゃん)

「ふふふ、お前の顔は言葉は無くとも分かり易い」

(失礼だっての!)

「まずは風呂に入って、食事をせねばならんな」

(先に聞きたいけど)

「此処の湯殿は広いぞ?」

(う、体がむずむずしてきたー)



湯殿までは少々距離が有るらしく、五日ほど寝ていた(寝過ぎじゃん)私は歩く事が出来なかったので、クオーレさんにお姫様抱っこしてもらって湯殿まで来た。その後は侍女のユイナさんにバトンタッチし、身ぐるみ剥がされ、洗い場でごしごしと何回も洗われ、湯船に放り込まれたのだった。

(よっぽど臭っていたのね。恥ずかしいったらありゃしないわ)




温泉の大浴場より広い浴場に、それに見合った大きな湯船、ライオンの口からは勢いよくお湯が流れ込んでいる。湯船の上には真っ赤な色のみかんの形をした果物らしき物が沢山浮かんでいる。手に取って鼻に近づけてみたら、パイナップルの香りがした。









先日の事。親戚からオレンジを数個頂き匂いを嗅いでみたらパイナップルの匂いがしました。多分、一緒の袋に入ってたんだろうなぁーと想像し、異世界ネタとして使わせて頂きました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ