25話 面倒なお客
その日は第一騎士隊が町の巡回担当だった。
第一騎士隊は十八名で形成されており、四名一班の四班で巡回している(残り二名は隊長と副隊長で、全体を統括している)。その内の一班が間もなく昼時の鐘が鳴るだろうと思う頃、市井の細い小路で子供たちが喧嘩をしている所に出くわした。
騎士隊の顔を見るなり逃げ出す子供たち。
構わず取っ組み合いの喧嘩を続けている二人の子供を引き離し、それぞれに事情を聴き出す。
どうやら、一人の子が持って居たおもちゃを取り合いしていたらしい。
よくよく聞いてみたら、それも拾い物だと言う事が分かり、持ち主が探しているかも知れないからと、一旦持ち帰る事になったと言う。
落し物や拾い物は騎士隊で一旦預かり、「預かり物リスト」に明記される。
第一騎士隊の隊長が、これは何と明記すべきかと副官のアシュレイに尋ねて来たのがこの「スマホ」の発見の切っ掛けだった。
「その子供に詳しい話を聞いて来よう」
「一緒に行く」
その子供は厳つい騎士が来た事に驚いて、最初はわんわんと泣き出した。
何事かと慌てて出て来た両親も、総指揮官と副指揮官が揃って出向いていた事に驚き、自分の息子が何か悪さをしたと思って息子に対して怒り出した。
その間に入って事を治め、子供にやさしく話し掛けたのは、案内をしてくれた第一騎士隊隊長だった。
「収穫祭の仮装の日の夜に見つけたんだ」
その子供が話す事によれば、収穫祭の五日目の仮装の日の夜、広場で櫓の火落としが終わる頃、友達と一緒に綿あめを手に帰って来たと言う。友達は二軒手前の家へ帰り、自分は一人で二軒先の自宅へ向かった。自宅の戸に手を掛けた時、自宅の前に有る花壇に何かが落ちているのが見えて、そちらへ数歩進んだ。
其処には茶色の肩掛け鞄が落ちており、肩の紐は切れていた。
其れを持ち帰り、鞄の中に入っていた珍しい物を友達に見せびらかしていたら、喧嘩になったと言う事だった。
それ以外に銀貨が二枚入っていたが、それは使ってしまったと言って母親から拳骨で頭を殴られてまた泣いていた。
子供から落ちていた鞄とその中身を返して貰い、協会へ戻った。
鞄の中は、ハンカチや露店で買ったと思われる装飾が綺麗なペンが入っており、それ以外は何かを包んでいた黄色い包み紙が一枚、皺くちゃになって入っていた。
「肩紐は、千切れた様な切れ方だな」
鞄を見分していたアシュレイは、鞄を裏返して眉を潜めた。
「デュアリス、これは・・・」
「・・・血、だな」
背中に冷たい風が吹き抜けた。
「指揮官、広場でマリア殿の隣に座っていたと言う人物が見つかりました」
それはこの町の酒屋の店主で、収穫祭で殆どの酒が出てしまった為、翌日にはその仕入れに隣町や田舎の酒蔵まで買い付けに出て行ったと言う。
買い付けから戻ったのは二日前で、今日店を開いたら騎士隊の人が立ち寄り、話を聞いて驚いたと言っている。
酒屋の店主が見たのはやはり収穫祭の五日目の仮装の日の夜だった。
櫓の火落としが始まって間もなく、自分の隣に二人の姉弟らしき人が座った。しかし、姉らしい黒髪の魔女の姿をした女性が立ち上がり、何かを買いに露店に向かって行った。露店に並んだ魔女が振り向くと、残った弟らしき小柄な少年は嬉しそうに手を振っていたと言う。その仕草がとても可愛くて、自分も酒が少々入っていたから気軽に声を掛けてみた。
「仲の良い姉弟だねえ」
「ありがとう」
とても可愛い笑顔が返って来たから、もしかして妹だったかと思った時、騎士が二人その子の前に立って何かを言っていたと言う。
「広場はあの騒ぎだろう?ぼそぼそ話してる声なんて聞き取れるもんじゃない」
直ぐに何処かへ向かって行ったから、ああ知り合いだったんだなと思い、後は一緒に来ていた仲間と飲んで騒いでいた。その後は知らないしその子も見ていないと言っている。
「騎士、か」
「デュアリス、先程の子供の仲間が騎士を見たそうだ」
俺達が帰った後、両親からこっぴどく叱られた少年は、友達の所に行って愚痴をこぼしたそうだ。その話を聞いた少年の友達は、そう言えば亜麻色の髪の毛の男の子を見たと思い出し、騎士隊へ教えに掛けつて来てくれたのだった。
その男の子が見たのは二人の騎士と長いローブを着てフードを被った一人の合計三人だった。その三人は街灯の近くに立っており、一人の騎士の腕には亜麻色の髪の毛の小柄な男の子が抱き抱えられていた。
少年は忘れ物を家に取りに行く所だったから、その人達の横を急いで通り過ぎ、また来た道を戻って友達の待っている所へ向かったのだが、その時はもうさっきの騎士達は居なかったと言っている。
しかし、この少年は遠耳の持ち主で、普段はその耳に蓋をしているが、騎士達の雰囲気が気になったので蓋を開けて聞いてみたのだそうだ。
「クラーク家の娘だ」「間違いなく亜麻色の髪の毛だな」「仮装なんぞされては迷惑だ」
少年にとってはさっぱり意味の分からない話だったから、耳にまた蓋をして遊びに向かったと教えてくれた。
遠耳とは、遠くの話声や小さな囁き声が聞こえる事で、これも一つの魔法である。
「シンシアと間違えられたのか?」
「長いローブの背中にAを象った刺繍が入っていたそうだ」
「アシエル国の術者か」
「強硬手段に出たのかも知れないな」
「しかし、何で今頃になって話が次々と・・・」
不思議に思った事を考えようとした時、ノックの音が大きく響いた。
「入れ」
ドアを開けて入って来たのは第三騎士隊員のポールである。
「指揮官、ジョイの姿が見えません」
「何時からだ」
「昼前の練習には居りましたが、その後は見当たりません」
アシュレイと顔を見合わせた。
昼前後は丁度あの「スマホ」が見つかった時に当たる。
「ポール、ジョイの部屋を調べてくれ」
「はっ!」
敬礼をして部屋を後にしたポールだが、直ぐに戻り報告をした。
「私物は一つも無く、急いで出て行った形跡がありました。それと騎士隊の馬が一頭行方不明になっております」
「聞き込みはアイツもしていた筈だな」
「聞こえて来ない様に細工をしていたか」
「間者だったか」
「ジョイは人の気配を読むからな」
「確か、ヤツは・・・キャンベル家の者だったな」
「キャンベル男爵はアシエル国の元宰相の第二子息で、娘しか居なかったキャンベル家に婿入りしたと聞いている」
「・・・アシエル国の第五王太子サリヴァン殿か」
先ずはキャンベル家へ赴こうと立ち上がった時、応接用のテーブルの上に置かれた「スマホ」から真っ白い光が部屋中に溢れだした。
「これは、魔力、か」
「一体、・・・」
光が眩し過ぎて目を開けて居られなくなった時、耳をつんざく様な轟音が唸り響き、体中に重い重力が圧し掛かって来た。
(これは、あの時に似ている、数倍増しているが、まさか!)
「到着、と。あれ?美桜は?」
「アル、間違えたの?」
「うげぇ・・・姉さん、気持ち悪いぃ」
「め、目が回りますわぁ」
「・・・・・うぅ」
応接セットの机の上に、人が五人。
一人は同族と思われる背の高い男性が一人。
他の四人は女性で、黒髪黒目、ミオと同じ「メイド」服を着用している。
みしみしと悲鳴を上げ始めた机の上から最初に降りたのは男性だった。
「お、デュアリス様とアシュレイ様ですね?ご無沙汰しております」
同族と思われる男性は、少し細目の体を傾げて挨拶をし、伽羅色の髪を揺らしながら笑いかけて来たが、どうも胡散臭い。
(え?胡散臭い?)
「もしや、アルバート、か?」
「覚えていて下さって光栄ですねえ」
「一体どう言う・・・」
「所で、美桜は何処ですか?」
面倒な案件が増えた瞬間だった。
異世界人パート2、やっと到着です。
本当はもっと早くに登場願いたかったんですけど、とある人物がとあるガンプラの発売日まで待ってと泣いて頼むもので、少々遅くなりました。(笑)