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16話 情報は食堂で




「クラーク家のお嬢様が隣国からお戻りになられたらしいぞ」

「そうか。しかし、直ぐにと言う事は無いだろう」

「どうかな。お互い良い年齢だからな」

「本人はその気じゃ無くとも、親はな・・・」

「しかし、それではあの娘はどうなるのだ」

「寄宿舎でもその話で持ちきりで、実は困っている」

「指揮官殿も、あのように派手になさるから・・・」

「何か考えが有るのでは無いか?」

「今は分からんが・・・」

「まったく・・・」


食堂は噂話の宝庫である。


「マリア様は今日はお休みですって」

「まあ、残念ですわ」

「今日こそは聞かせて頂こうと思っておりましたのに」

「マリア様なら、お似合いですわね」

「ええ、大変可愛らし方ですもの」

「初めは、ちょっと驚きましたわ」

「それは皆さん同じでしょう」

「私もツインテールをしてみたのですが、似合いませんでしたわ」

「華奢なマリア様だからお似合いなのですよ」

「でも、もう少しふくよかになられませんとね」

「お胸やお尻がもう少し盛り上がると宜しいですのですが」

「御渡りをされる方がいらっしゃいますし、ね」

「うふふふ。楽しみですわ」

「今度、甘いお菓子を用意してご招待いたしましょうよ」

「まあ、それは良いですわ」

「でも、クラーク家の・・・」

「そのお話でしたら・・・」


貧乳が話題になるのは勘弁して欲しい。


「昨日は11時過ぎに来たが、夜食は何も残ってなかったぞ」

「昨夜は第八騎士隊が遅くに戻ってさ、夜食の話を聞いて皆で来て平らげていったらしいぜ」

「まじでかぁー」

「夜食を当てにしてると食いっぱぐれるぞ」

「でもよ、食堂の連中よく夜食なんて作る気になったもんだな」

「お前知らないの?マリア様が始めたんだぞ」

「え?黒髪の天使が?」

「ああ。何でも、残った物を捨てるのは勿体無いからって、パンに色々な食材を挟んで持ち帰ったって話は有名だぞ」

「オレ知らなかった」

「食堂の連中も、残り物を処分するのは嫌だったらしくてさ、マリア様から作り方を教わって始めたんだとさ」

「へー凄いな」

「最近じゃ、昼でも自分で作って持ち帰るヤツも居るらしいぞ」

「あ、それってサンドとおにぎりだろ」

「今度オレも・・・」


残り物でも喜んでくれれば、グッジョブさ!


「隣国の王太子が来るって話は知ってたか?」

「嫌、知らんな」

「何でも黒く輝く宝石を探してるとかって話だぜ」

「黒く輝く宝石?黒い石か?石炭とか?まさかな」

「何でも光り輝く黒い石が有るらしいぜ」

「光り輝く?聞いた事も無いな」

「そうだよな、オレも聞いた事ないし・・・」

「お前の聞き間違いじゃ無いのか・・・」


石炭って消臭作用が有るのを知ってるかい?


「何これ!」

「可愛いでしょ?」

「へー絵本なんだ」

「最近、凄い人気になってるのよ」

「全然知らないわ」

「私も知らなかったから、生地屋のマーサに頼んでたの」

「今日は納品の日だものね」

「そ、でも印刷が間に合わないらしくて、頼んでからもう5回目の納品日だったのよ」

「えー、そんなに!」

「今夜私の部屋で一緒に見ない?」

「見る見る!」

「それじゃあ、消灯後の・・・」

「お茶を・・・」


絵本?気になるなー。私も混ぜてくれー。



チェックのテーブルクロスががさがさと音を立てて捲られたので、同席希望者か?等と考えていたら、食堂の料理長が不思議そうな顔をして覗き込んで来たのでした。

「マリア様、何をして居るのですか?」

「うぎょっ? あははは、見つかっちゃったぁ~」



ここは食堂です。

中央には大きなテーブルが置かれ、その上にはバイキング形式のおかずが大皿に乗って沢山置かれています。このテーブルには緑と白のチェック柄のテーブルクロスが掛かっており、それが足元を隠すほどの長さが有る為、人が入り込んでも見えないのです。


普通に歩いて食堂へ行こうと思ったのだけど、20歩位歩いた所で断念しました。

部屋へ戻り、テレポートを使って食堂のドアの陰にある暗がりへと出て、其処から顔を覗かせ食堂の中を観察しました。

まだ夕食には早い時間の所為か、人はまばらで見知った人も殆ど居ません。

(ラッキー!)

大きな取り皿を手に、トマト味のピラフ、カレー風味のチキン、ニンジンのグラッセ、キュウリのピクルス、エビの春巻き、それとバター味のパンを取ろうとした時、後ろから聞こえて来たのは知り合いの騎士団の人達でした。

まあ、いろいろと顔を会わせずらいのもあり、慌てて逃げ込んだのはテーブルクロスの下でした。


この場所は特等席です!

ゆっくり食事が出来て、色々な話が聞けます。

但し、食事を取り終わるとフェードアウトしてしまう為、詳しい話までは分かりませんが。

それでも、広く浅くがモットーの私には十分なご馳走です。


ああだけど・・・フォークを持って来るのを忘れました。

初めは手掴みで食べてましたが、話し声が遠くなる頃を見計らって、見事ゲットして参りましたよ。

その後も、スープとか、果物とか、取ってはテーブルの下へ運ぶ姿は、珍獣に見えたかもしれません。


「まあ、噂は聞いてるけど、食事はゆっくり食べた方がいいからさ」

「ううっ、ありがとうございますっ!」

料理長のレッカーさんの好意で、厨房に材料を運び入れる裏口に小さなテーブルを置いて下さいました。

嗚呼、やっぱりテーブルでゆっくり食べる食事は美味しいですね。



お腹が一杯になり、料理長のレッカーさんにお礼を述べて自室へ帰ることにします。

その時「おやつ」と言って、クッキーを頂きました。

ナッツが沢山入ったサクサクのクッキーは、とても美味しかったです。




さて、部屋へ戻りましたが、何かを忘れていないでしょうか?

部屋の中をぐるぐるぐるぐる歩き回って考えましたが、全然思い出せません。

テラスに出て気分転換と思い空を見上げたら、大きな木の上にキラリと光る二つの光を見つけました。外は薄暗くはっきりとはそれが何なのか見えません。

じーっと見つめているとおぼろげに形が判別でき、あれはもしかして・・・と思った時に「にゃん」と泣き声が聞こえました。


「おいで」と幾ら話しかけても降りて来ず、椅子やテーブルを持って来ても届く高さではありません。でも、猫だし自分で降りてくるだろうと思い、暫くそのまま見ていたのだけど全然降りてくる気配がありません。

小さな光の玉を手の平に浮かべて猫の近くへと願います。光の玉はふわーっと浮き上がって木の上の猫を照らしてくれます。

猫は、ぷるぷると震えて後ずさりをしますが何故か途中で止まります。よくよく見てみれば首に嵌めている赤いリボンが気の幹に引っかかっているようです。


私は少しだけ考えて静かに黒い翼を携えます。

音を立てない様に、余り風が舞い上がらないようにと願いながら、ゆっくりと木の上を目指します。

「にゃん」

赤いリボンに指を掛けて引っかかった部分を外し、まだ少し震えている猫を抱き上げてテラスへと降り立ちました。

猫は真っ黒い猫でふわふわの手触りです。多分誰かに飼われているのでしょう、喉を撫でてあげるとグルグルと喉を鳴らして目を細めています。

少しだけ手触りを楽しんだ後そっと床に降ろしてやると、私の足に数度体を擦り付けてからのんびりと茂みの中へと消えて行きました。

暫く猫が消えた辺りを見ていましたが、何処かで微かに「にゃー」と言う声が聞こえた気がして一人にやにやしてしまいました。




「うーん、本でも読もうかな」

さっきまで何を考えていたのかも忘れてしまい、部屋の中へと戻り本棚へ向き合います。

だって部屋の中には沢山の本が有るのです。本好きには堪らない空間ですよ。

本を読むのに丁度良い赤い大きな椅子は座り心地も満点で、長時間座っていても疲れませんでした。

しかし、幾ら疲れないからと言って、消灯時間になるまでずっと本を読み続けるのは普通じゃ無いですよね。(五時間位経ってて、自分でもびっくりですよ)



本にしおりを挟んでテーブルに置き、テラスの窓を閉めようと思ったら、背後に大きな気配を感じて思わず振り向いてしまいました。

「ミオ」

「うおっ!」

突然現れて突然抱きしめられて、変な声が出てしまいました。

「昨日は済まなかった」

「ん?昨日って?」

「あのように姉との醜態をみせ   」

「あ゛―!此処ってデューの部屋だったんだ!」

何を今更です。ごめんなさい。

新しい部屋へ引っ越しをした気分でおりました。

少しだけウキウキしていたのは勘弁して下さい。(だって、本が沢山でね、うう)


そこで思い出したのは、王妃が来ていたのに寝落ちしてしまった事でした。

「ぎゃー!デュー、どうしよう!?王妃様放っといて寝ちゃったー!」

「・・・・・」

「謝りに行ってくるー!」

「ミオ、もう遅い。それに昨夜は私達が悪かったのだ。気にするな」

「う、本当にごめんね?」

見上げる私に小さな口づけを落とすと、ふっと優しく笑ってくれました。


「俺はこの部屋へは余り来られないが、不自由が有れば言ってくれ」

「うん。ありがとう」


デューは総指揮官と云う立場上、余り協会を離れる事が出来ないと教えてくれました。

遅くまで警備に当たる者達、深夜の喧嘩や物取り、翌日の計画などなど、沢山の事を考え実行に移すには、協会で寝泊まりするのが一番都合が良いらしです。

それでも五日に一度休みが貰えるとも言っていたから、その時にはゆっくり話が出来そうだと思うと、ちょっぴり嬉しかったのは内緒です。


その後も他愛の無い話をして、デューは仕事へと戻って行きました。


次回、王妃様にお会いした時は、忘れず謝罪を入れて置こうと心に決めたのでした。







今回は日記風で書いてみました。


実に楽しかった!(笑)

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