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15話 スマホ、不携帯




「何?これ」

怒涛の一日が終わり、やっと部屋へ戻って来てみたらドアに妙な物がぶら下がっていた。

≪清掃済み≫と書かれたプレートは、良くホテルとかで見かける物に似ている。

結局お昼に戻る事が出来ず、これから戻って掃除だぁーと思っていたからか、そのプレートを見た瞬間、少しだけ心の中で(ラッキー)と思ったのは勘弁して頂きたい。

でも、誰が?である。


恐る恐るドアを開けると、そこは雪国では無く(古っ!)、朝出る時に見回した部屋とは随分、嫌、かなり?様変わりしていたのだった。



早朝、ミリーに連れられて最初に目に入ったのは壁一面に作りつけられた本棚で、その本棚にはびっしりと本が入っていた。後は使い込まれた濃い茶色の木目の家具が多く、隣の寝室には大きなベッド(今までのベッドも大きいと思っていたが、更にその倍の大きさがある)が置いてあるだけで他には何もなかった。筈だが。


目に飛び込んで来たのは真っ赤な布張りの肘掛け付きの一人掛けの椅子である。それも熊でも座れそうな程大きいサイズだ。その前には木の丸テーブルが置いて在り、それを挟む様に反対側に同じ椅子(但し使い込まれており色は青)がもう一脚置かれている。

真っ青な壁に作り付けられていた本棚はそのままだが、埃は払われ棚は良く磨かれていた。磨いたお蔭でその本棚には美しい彫刻が施されいるのが見て取れ、大層驚いた。


そのまま隣の寝室へ続く扉をゆっくりと開けて見ると、黒のビロード、ピンク色の織地、白のレースの三層構造で飾られた天蓋付きのベッドが目に飛び込んで来た。

ベッドの脇にはトルソーが置かれており、それには私が日本から着て来た時のメイド服が着せられ猫耳のカチューシャが乗せられていた。

それ以外にも化粧台、チェスト等が置かれており、全ての窓には今朝まで無かった豪奢なカーテンとレースのカーテンがぶら下がって居たのだった。



「気に入って下さったかしら?」

びくうっ! と体を縮めて振り返ると、其処には王妃様が微笑んで立っていらっしゃったのである。

「私の気持ちですわ。受け取って下さいませね」

私の手を取りぎゅっと握ったかと思ったら、思い切り抱きしめられておりました。

私の顔の位置は王妃様の胸の谷間に埋まり、息苦しさに上を向けば、頬を赤く染めて私を見下ろす王妃様がいらっしゃる。

「やっと、やっと、愚弟にも春ですわっ!」


嬉々として語られた王妃様の話を要約すればこういう事である。(だって話が長いんだもん)

「私の弟が公然であなたに求婚した様な事になったけど、お願いだから逃げちゃ駄目よ。ここはあの子の私室だし、此方側の塔は防御魔法が掛けられているから、誰にも邪魔されないから安心してね」

と、言う事らしい。


それでか。

今までの部屋は一間だったから、二間続きの部屋に移動になって、本当にこんなに良い部屋に住んでいいのかと、ミリーに何度も聞いたのだ。私は所詮待女なのである。分不相応な扱いは、お城で働いて行く上では足枷にしかならないのだ。

しかし、ミリーはきっぱりと「ここ以外に安全な部屋は無い」と言い切ったのである。

ミリーと王妃様が結託して、いろいろとして下さった事には感謝している。

でもさー、いきなりデューの私室って・・・ 食われるのか? 私。



「姉上!」

「あら、意外と早いわね」

「何を勝手に!」

「あなたに任せていたら、上手く行くものも上手く行かないもの」

「だからと言って、その様に・・・・・」

「五月蠅いわねー、大体あんたの行動が・・・・・」


延々と続く姉弟喧嘩は終わりが見えず、疲れていた私は両者を放っておいて(失礼だとは思ったが)着替えもせず風呂にも入らずベッドへ倒れ込んだのだった。

許して欲しい、本当に今日は疲れてへろへろだったのだから。





翌朝、ミリーから今日は休むように言われていた所為だからなのか、随分とゆっくりと寝てしまった様に感じる。

天蓋付きのベッドのカーテンは下され、窓の豪奢なカーテンも引かれたままで時間の把握が出来ない。

カーディガンを探すが何処にも見当たらず、そう言えば昨夜は着替えもせずに眠ったのだと思い出して、ベッド脇に置いてあるルームシューズに足を入れながら隣室へと向かった。

シャーっと音を立ててカーテンを開け、大きな窓を開くとその先には広いテラスがあった。そのままテラスへ出て、空を見上げるがもう随分と日が傾いており、夕刻に近いのだと実感した。


ぎゅるる・・・ぎゅ~っ・・・


お腹の虫が盛大に騒いでいる。

このままもう少しだけ深窓の令嬢を気取ってみたかったけど、やっぱり私にそんな事は似合う筈も無く、お腹の虫を宥めながら大欠伸をするのだった。


食事の前に着替え、着替えの前にシャワー、で、シャワーで済まそうと思った。しかし、タオルを手にこの部屋に付いている浴室に足を踏み入れたら、其処にはナント!猫足の白いバスタブが鎮座しておられたのである。

入浴する事に決めてしまった自分は多分相当にやけていただろうと思うんだ。(ヤッホー)

バスタブの横にはチェストが置かれ、其処にはさまざまな香りの入浴剤が用意されている。

その中からキウイ色の苺の形をした物をチョイスする。

バスタブには爽やかなキウイの香りが立ちこめ、ほーっと心を癒してくれた。

(キウイ色の苺は「キウ」と言う果物で、味も香りもキウイと同じで大変美味しいのだ)



バスタブの泡で遊びながらも、思い出すのは昨日の事。

昨日は本当に散々だった。

夜も明ける前に叩き起こされ、西の塔の待女の襲撃に遭い、スマホの事をミリーに話したら又大変な事になってしまったのである。


ミリーからはもっと早くに言って欲しかったと拗ねられてしまい、ルルは私が普通に魔法を使っているのだと勘違いしていたと驚かれてしまった。

この事は秘密にしておく事は出来ないからと、早速王太子のオスカル王子に連絡が行ったのであるが、10分も経たない内に『転移術』で突然現れ、私の顔を見て散々嫌味を言った挙句にスマホを取り上げ、そのまま何処かへ行ってしまったのである。


「****?*****!」

「*******、**********?」

ミリーとルルの会話がまるで分からず、途方に暮れる私が居る。

(あれが戻って来ないと、こっちでの生活は無理だなー)


20分程すると、突然目の前にオスカルがまた現れた。

「*******!********!?」

「スマホ返してー。あれが無いと意思の疎通が出来ません!プリーズ、スマホ!」

「******。」

「ス・マ・ホ」

私を疑わしげに見つめるオスカルだが、意思の疎通が出来ないのは困るらしく、迎えに来させた騎士の人達に指示を出して私を何処かへ連れて行くことになった。らしい。


迎えに来た騎士さんは、ポールとジョイの二人である。

「協会」でよく会うし、よく話もする。

しかし、今はオスカルが一緒の所為か、目的の場所まで誰も何も話さなかった。

(良かった~話し掛けられても困るもん)


着いた場所は「会議室」みたいな部屋だった。

長―いテーブルが中央に有り、それを挟んで12客づつの椅子が置かれている。

その半分には人が座っており、その中央には私のスマホが鎮座していた。

後から聞いたら、其処に居た人々は神官や王と王太子の宰相の方々で、日々城内の魔法の色々を取り仕切る事に関連のあるお方なのだそうだ。


「これはどうやって使うのだ」

おー、話が分かるー。

「本来は画面をタッチして使いますが、私の場合はそれを携帯しているだけで、いろいろな機能を使う事が出来ます」

「例えば?」

「例えば、言語、言葉です。3メートル離れると意思の疎通が不可能になります」

「3メートル?どのくらいの距離だ?」

一人の男性がスマホを手に移動を始めた。

長いテーブルの中間程まで離れた時、私の言葉も、相手の言葉も分からなくなった。


それからは大変だった。

沢山の質問が飛び交い、その質問に答えさせられる。

実際に魔法アプリを作動させたりもした。

しかし、この魔法アプリは私にしか使えず、此方の世界の人は誰一人として作動させる事が出来なかったのである。


結局、私のアプリは魔法では無いと判断された。

魔法を使った時に出る『影』(魔法の燃えカス?みたいな物らしい)が無く、他の物に何ら影響が無いと言う事らしい。


でもこの騒動のお蔭で分かった事があった。

それは、スマホを起動させている動力について分かったのである。

スマホを開いて見た所、基盤と基盤の隙間に一センチ程の『原石』と呼ばれる、魔法の源の石が埋め込まれていたのだ。

その石は半永久的に力を繋ぐ物で、かなり高価な石なのだそうだ。

こっちに来たばかりの頃は、いつか電池が切れるんじゃないかと気が気では無かったんだけど、一週間経っても一カ月経ってもバッテリーは満タンなままだった。

電気の無い世界で、どうやって充電してるのか不思議に思って居たが、これで解決出来て少しだけ安心したのである。

(しかし、アル・・・何時の間に?)



昨日の事を考えていたら長風呂になってしまった。

お腹が空いたのと、長風呂の所為でふらふらしつつ、簡単に着られるワンピースに着替えて食堂へと向かったのだった。

(腹減ったー!)






言葉が分からないと本当に不便だろうな~とは思うけど、でも身振り手振りで何とか為るのも人間です。

数年前にドイツに言った時、観光バスの運転手さんと仲良くなりましたよ。それも身振り手振りだけで!(笑)

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