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Baby Tune (ベイビーチューン) 〜謎の少女に人生を破壊されながら頭痛だけは治る件〜  作者: 末紀世(まつきよ)


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桜の季節に出会い別れて



静かだった。


あまりにも、静かだった。


ピッ。ピッ。ピッ。


機械の音だけが、一定のリズムで続いている。


白い天井。白い壁。消毒液の匂い。


「……」


まぶたが重い。体も、重い。


ゆっくりと、目を開ける。光が、少しだけ眩しい。


「……ここ……」


声が、かすれる。


病院だった。


腕には点滴。胸にはセンサー。


現実だった。


横を見る。


……何も、いない。


「……チェリ?」


返事は、なかった。


当たり前のように。


静かだった。


少しだけ、胸が痛んだ。


ドアの外から、足音。コツ、コツ。


カーテンが、静かに開く。


光が、差し込む。


そして、声。


「おっはよーございまぁーーす」


振り向く。


そこにいたのは、看護師だった。


白い制服。優しい目。柔らかい声。


名札が、揺れる。


桜木 智絵里


「気分はどーですかぁ?」


言葉が、出ない。


ただ、見てしまう。


どこか、似ていた。


笑い方。距離の近さ。声のリズム。


でも、違う。


ちゃんとした、大人だった。現実だった。


「かなり無理してたんじゃないですー??」


カルテを見ながら、静かに言う。


「しばらくはぁ、大人しくしましょーね」


優しい声だった、子供に話しかける様に。


うるさくは、なかった。


少しだけ、物足りなかった。


「……なんか、違和感」


窓の外を見る。


青い空。


そして、桜。


満開だった。


風が吹く。花びらが、ひらりと舞う。


静かに、とても静かに。


「もうすぐ、散っちゃいますねぇ。」


智絵里が、窓の外を見ながら言う。


「でも」


少しだけ、笑って。


「また、来年咲きますからねぇ」


その言葉を聞いて。


なぜか、胸が少しだけ軽くなった。


ふと、枕元に目をやる。


そこに、小さなものがあった。


丸くて、赤くて。


さくらんぼの髪留め


「……」


誰が置いたのか、分からない。


聞かなかった。


ただ、少しだけ笑った。


その日、ユウの頭痛はなかった。


ただし――


少しだけ、静かすぎた。


でも。


それでも。


春は、来ていた。


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