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Baby Tune (ベイビーチューン) 〜謎の少女に人生を破壊されながら頭痛だけは治る件〜  作者: 末紀世(まつきよ)


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2/5

仕事にならない



朝は、来てしまう。どんなに来てほしくなくても。


「ねえねえねえねえ!!今日どこ行くの!?」

「……会社だよ……」

「会社!?なにそれ楽しそう!!イベントある!?」

「ない」「あるよ絶対!!!」

「ないって言ってんだろ……」


頭は痛くない。それだけが救いだった。それ以外は、全部終わっている。


スーツに着替えながら、ユウはため息をつく。視線の先では、チェリがクローゼットを勝手に開けている。


「うわぁああああ!!なにこれ!!同じ服いっぱい!!!」

「触るな」「なんで!?」「仕事用だからだ」「つまんな!!!」


ドアを開ける。少しひんやりした外の空気。


「うわぁああああああ!!!外!!!ひろーーーい!!!」

「静かにしろ……頼むから……」


通勤電車。ドアの閉まる音、人のざわめき、吊り革のきしむ音。


「ねえねえねえ!!押されてる!!すごい!!ぎゅうぎゅう!!!」

「やめろ!!!はしゃぐな!!!」


ユウは無の顔で耐えた。すでに精神は削れている。


会社に着く。自動ドアが開く。冷房の効いた乾いた空気。キーボードの音、マウスのクリック音。規則正しい、静かな世界。


「……いいか。ここでは絶対に騒ぐな」

「りょーかい!!!きゃほーーーーーい!にゃははーー!」


絶対無理だと分かっていた。


デスクに座る。パソコンを起動する。カタカタカタ。


「ねえこれなに!?」

「……」

コロコロ、とペンが転がる。

「やめろ」

椅子が勝手に回る。

「やめろ」

書類がパラッとめくれる。

「やめろって言ってんだろ!!!!(小声)」


同僚が振り返る。

「……朝霧、大丈夫か?」

「だ、大丈夫です……!」


(死ぬ)


パソコン画面。資料を開く。カチッ。閉じる。カチッ。別のウィンドウが開く。


「ねえこれ面白いね!!いっぱい出てくる!!!」

「やめろぉおおおおお!!!!(極小声)」


マウスが勝手に動く。ファイルがドラッグされ、ゴミ箱へ――


「やめろ!!!!!!!!」


ガタッ。椅子が鳴る。視線。


(終わった)


そして午後。


会議室。こもった空気。プロジェクターの低い音。


「では、朝霧くん」


終わりの始まりだった。


ユウは立ち上がる。手が震えている。


「本日の、資料について……」


カチッ。スライド表示。


「ねえつまんない!!!」「!?」


スライドが切り替わる。関係ないページ。


「ちょ、違っ……」


ペットボトルが、ふわりと浮く。


「うわぁあああああ!!!すごい!!浮いた!!!」

「違うんです!!!!」


完全に、終わった。


ズキン。


来た。視界が揺れる。音が歪む。


ユウはしゃがみ込む。


「……っ」


「また痛いの?」


チェリが覗き込む。


ふわり、と。


胸元が少しだけはだけ、谷間が露わに


その瞬間。


「ツン…」音が、消えた。


プロジェクターの音が遠のく。人の気配が薄れる。呼吸だけが、はっきり聞こえる。


「……はぁ……」


痛みが、ない。さっきまでの苦しさが嘘みたいに消えている。


「……なんだよ……これ……」


「えへへー!」


「ねえさ、がんばるって、ずっと我慢することなのぉ?」


「えっ…あっ、あぁ。」


———


「朝霧、いい」


安田の声だった。


「俺がやる」


資料を受け取り、そのまま話し始める。


「この部分ですが――」


会議は進んでいく。普通に、成立している。


(すげぇ……)


会議後。


「朝霧」


廊下。少しひんやりした空気。


「頭痛、まだ治ってねぇだろ」


「……」


「無理して誤魔化すな」


言葉が刺さる。


「……すみません」


沈黙。


「今日はもういい。帰れ」


「……はい」


チェリが横でぴょんぴょん跳ねる。


「ねえねえねえ!!この人またかっこいい!!!」

「……そう、だな」


帰り道。夕方の空気。少し生温い風。


「会社ってすごいね!!!」

「最悪だよ……」


ふと、気づく。


痛くない。


「……なんでだよ」


「えへへー!なぁーんでかなぁー?っふぉーーい!!」


その日も、ユウの頭痛は消えていた。


ただし――


「もう会社行きたくねぇええええええ!!!!」


別の意味で、激しく頭が痛い。



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