飢えた白狗(1/4)「耳ざわり」
「ねえ、知ってる?」
――私に話しかけるな――
「え?知ってるって、なにをですか?」
「コンビニ鳥居の呪殺の話!」
「コンビニ鳥居……?」
「そう!学校出て✕✕駅行く途中にコンビニあるじゃん?そこの駐車場の端に小さな鳥居があるんだけど、実はあそこ、本当に神様がいるらしいの。私見に行ったんだけど、実際、供え物がいつもしてあるの。だからこれ、ガチな話だよ」
真剣な表情で怪談を語る同級生を、蔑んだ目で見そうになり、私は慌てて表情を取り繕う。
「それで、呪殺っていうのは……?」
「そう、それが怖いのよ!まず鳥居を汚したり壊したりすると神様に呪い殺されるの!それから、鳥居の前で、強い殺意を持って願うと呪い殺せるらしいのよ!」
ああ……普段誰にも話しかけられない私に、わざわざ話しかけたのは、怪談話を誰かに聞いて欲しかったからか。くだらない……心底そう思ったとき、別の場所にいた女子が会話に割り込んでくる。
「なになに、なんの話してんの?」
「あ、聞きたい?駅行く途中にあるコンビニの呪殺の話!」
「なにそれ?」
「コンビニの駐車場に小さな鳥居があってさ──それで──」
「え〜こわ〜い……」
会話の水が私から離れた隙に、帰ることにする。どっちみち表情を取り繕うのも限界だった。
「ごめんなさい、用事あるから私そろそろ帰るね」
「あ、呼び止めてごめんね!またね〜」
別の話し相手を見つけているから、私をすんなり解放してくれる。運が良かったな。もし途中で他の子が割り込んでくれなかったら、帰るのを渋られたかもしれない。実際あの子、しょっちゅうあの手の話をするのに、誰彼構わず捕まえては長話してるから。
ふう。
早く帰りたい。学校は、疲れる。まあ帰ったって、とくにやることもないのだけど。
強い殺意で願うと呪い殺せる、か。
硬いコンクリートの帰り道を歩きながら、ふっ、と、心の底から蔑んだ笑いが出た。強い殺意で呪い殺せるなら、そんな簡単なことはない。
それが出来るなら、
私はとっくに殺してる。
人間以下の、あの男を。
瞬間的に小さい頃の忌まわしい記憶がよみがえり、ズキン、と頭が痛んだ。
高校進学を機に、養護施設は退所したから、私は誰もいない家に帰っている。自治体からの補助で一人暮らしの費用は全て賄えるが、家の事は基本的に自分でやらなければいけない。食料の買い出しもそうだ。
私は帰る前に自宅から最寄りのスーパーへカレーライスの具材と、あの子の餌を買いに行った。今はもうだいぶ大きくなったあの子の餌を。
買い物カゴをセルフレジに置いて、会計を済ませていると、レジの手伝い担当の、頭髪に白髪が混じった人の良さそうな女性が近づいてきて口を開いた。
「いつもえらいねえ」
「あ、いえ。ありがとうございます」
「ううん、感謝しなくていいのよ。ほんとに若いのに、立派だと思う」
「は、はい……」
「一人で暮らしているの?」
──だから──
──私に話しかけんなつってんだろ──




