第三章 - 魔術師との遭遇
涼が廃工場にたどり着いたのは、真夜中だった。東京の外れに位置するその場所は、長らく人の出入りが途絶え、鉄とコンクリートが荒廃した空間だった。彼はエルセリアで得た地図を片手に、懐中電灯を頼りに工場の奥深くへと足を踏み入れた。冷たい空気と金属の匂いが漂い、足音だけが響き渡る。
「ここが…リンクの場所か。」
涼は呟きながら、工場の床に刻まれた奇妙な文様を見つけた。それはエルセリアで見た魔法陣と同じものだった。だが、その文様は血のような赤黒い色で描かれており、不吉な気配を漂わせていた。
床に膝をつき、慎重に魔法陣を観察していると、背後に気配を感じた。振り向く間もなく、鋭い声が彼を捕えた。
「止まれ、旅人。」
声の主は闇の中から現れた。黒いローブをまとった魔術師だ。その顔はフードで隠されており、手には奇妙な模様が彫られた杖を握っている。杖の先から漂う光が薄暗い工場内を照らし出し、不気味な影を作り出していた。
「君が影の魔術師か?」
涼は臆することなく問いかけたが、返答はなかった。その代わりに魔術師の杖が閃き、空間に裂け目が生じた。そこから出現したのは、エルセリアでも見たことのない異形の魔物だった。複数の目と牙を持つその怪物は、低く唸り声を上げながら涼に襲いかかってきた。
「まずい…!」
涼はとっさに手を掲げ、エルセリアで習得した防御魔法を唱える。青白い光が盾となり、魔物の攻撃を受け止めたが、その衝撃で足元が揺れた。魔術師の冷たい笑い声が響く。
「お前の力では、この門を閉じることはできない。だが、鍵となる存在として…利用価値はある。」
その言葉を最後に、魔術師の姿は霧のように消えた。