3.「恋人」になるまで(前日譚・アトラス視点)
先輩のイリスは働き始めて三年目に異動してきた。
慣れない仕事をそつなくこなす、ではなくいっぱいいっぱいになってるのが可愛かったなんて言ったら怒られそうだけど、とにかく一目惚れだった。
話しかけられると気恥ずかしくて、自分のことを話すのも苦手だし上手く答えられなかった。しばらくすると懐かれててたって言ったら変だけど、親しみを持って話しかけてくれていた彼女は急にそっけなくなった。
周りの人には変わらないし、他の男性局員には普通なので、男嫌いとかでもないらしい。
となると原因は
「…俺か」
確かに愛想はなかった。返事もそっけなかったし嫌われてると思われても仕方ないかもしれない。
かといって仕事の接点はほとんどないし、今更近づく術はない。
転機が訪れたのは灯火送りの打ち上げだった。
二次会参加者の中に彼女を見つけ、カウンターで一人になったところで横の席に滑り込む。
「ディオダートくん」
少し緊張した面持ちで名前を呼ばれる。
「お隣、いいですか」
いつも話しかけてくれていたことを、今度はこちらから聞いてみる。
最初は警戒していたようだったが、元々話好きは酒が進むと饒舌になった。
「…かお」
酔っ払いがふわふわと喋る。
「なんですか」
頬に触れられた手を上から掴む。
お、振り払われない、嫌じゃないのか
ニコニコと撫でている。
「なんすか」
「…かっこいいなあって」
キャーッと言って顔を隠している。
俺は俳優かなんかか。避けられていた理由は不明だが顔は好きらしい。
「じゃあ付き合いますか」
「え〜いいの〜?」
酔っ払いがヘラヘラ笑う。ダメ押しで頬杖をついている手を握ってみる。
「うん、付き合お」
彼女は頭に?を浮かべながら、コクリと頷いた。
顔と押しにも弱いらしい。あと酒も。
「チョロいなこの人」と心配になったが
「あとどいつの顔が好きなんすか」
と続ける。挙げられた名前は全員顔の系統が似ていてヒヤッとする。
そのままぶつぶつ言いながらカウンターに突っ伏して眠ってしまった。
「珍しい組み合わせだね」
声をかけられて振り向くと他機関のルーカスがいた。
さっきのリストに上がらなかったがきっとドストライクで好きで、恐らくイリスの好きだった男。学院の先輩で最年少で局長になりそうな。できる男。
「何してんの」
ルーカスが続ける。
「さっき付き合いました」
「え〜酔っ払った子たぶらかしちゃだめだよ〜」
「いいんです、俺の顔が好きらしいんで」
「そう」
「ちゃんと送りなよ」
そういって先輩の頭を撫でようとして、少し迷って俺の頭を撫でた。
別に魔力で浮かせることもできたけど、なんとなくおぶって寮まで帰った。
まだ寝ぼけているイリスの手にメモを握らせる。ちゃんと忘れないように、酔っ払っていたからと誤魔化されないように。
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おつかれさまです。
付き合ってくれてうれしいです。
今日から恋人として
よろしくお願いします。
アトラス