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2.「恋人なので」


「恋人なので」


そう言ってアトラスは繋いだままの私の手の甲にキスをした。


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酔っ払っていた間に付き合っていたアトラスとはまだ上手く距離感が掴めずにいる。


灯火送りの翌日、アトラスからのメモを見つけて前日のことを思い出した。どうやら酔っ払って付き合うことになってしまったらしい。


それこそセクハラなんじゃないかと、そのまた翌日踊り場に呼び出して確認しようとしたが


手を取られ指を絡められ


「恋人なので」


と言われてしまった。


恋人なのでと言われて仕舞えば確かにそうか、と妙に納得してしまって「どこが好きだ」とかそういう話を全くしないまま今に至ってしまっている。


過去の婚約者は「僕のことが好きかわからない」と言って私に別れを告げた。


ちゃんと好きなのに!

と思ったけれど、縋ることもできずに結婚しない方が良い人間なのだと自分を納得させた。


自分で思っているよりあまり「好き」が表に出ないらしい。殊更好きな人の前では。



「恋はしない」つもりだったのに、恋人ができてしまった。


しかもデートに適度に誘ってくれる今の感じが心地良い。


手を繋ぐのも抱き締められるのも「恋人なので」といわれて仕舞えば納得してしまっている。


肝心なアトラスのことは付き合っていても、あまり知らない。


聴き上手で、気づいたら私ばかり話している。

あまり自分のことを話してくれない。


ーーもっと何が好きだとか、何が嬉しいとか知りたいのに


繁忙期を抜け久しぶりのデートで小道を歩いていると


犬とすれ違った。


アトラスは、はた、と足を止めてチラチラと後ろを振り返っている。


「犬、好きなの?」


「ええ、まあ実家にいて」

照れくさそうな顔で俯く。


「…今度デートする?」


ビクリと肩を揺らした彼にそのまま抱きしめられた。


慣れはじめてしまったアトラスの腕の中で続ける。

「叔母さんの家にたくさん犬がいてね」


「…いいの?」

アトラスが小さな声で呟く。


「恋人なので」

と少し得意げに口にしてみる。


ギュッと抱きしめる力が強くなった。


こんなに喜んでくれるならもっと口にするようにしようと思った。

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