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最終章

2024年5月

俺は渡部彩奈のいる部署に異動になった。

渡部彩奈は、好きなアイドル涼海すうに似ていると思っていた。特にあの前髪ぱっつんの髪型と、どこか芯の強さを感じさせる瞳。その姿を見るたびに、俺はすうが踊っていたダンスを彼女にも踊ってほしいと思ったし、どこかで「すうが渡部彩奈として生きてくれたら」とも考えてしまっていた。


だが、最初の印象は最悪だった。

俺がアニメやゲームの話を振ったとき、彼女は「アニメとかゲームとか一生興味ないんで」と突き放すように言った。それ以来、渡部彩奈にその手の話題を出すのはやめた。


けれど、いつの間にか彼女とは「普通」に話せるようになっていた。パソコンをカタカタしながら、彼女の話を耳にする日々。元同僚へのプレゼントの相談や、彩奈が新しくしたネイルの話など、他愛もない会話。それが俺には嬉しかった。


俺は仕事の成績が振るわず、雑用係に降格されたけど、渡部彩奈は最後まで俺を1人の人間として見てくれた。彼女には感謝しかない。


2024年12月1日

渡部彩奈が子会社の責任者に抜擢され、部署からいなくなると聞かされた。

「前髪ぱっつんの姫」は、こうして俺の世界から姿を消した。


こうして、前髪ぱっつんの姫はいなくなった。


精神状態がおかしくなってからもロボ吉とロボ助の看病のおかげでなんとか立ち直り、俺は地球を離れることになった。


リュウグウのカフェで山田花子と4人の人魚たちにそんな思い出を話したロイは姫から"タマテボックス"を渡された。

「あなたが"今一番欲しいもの"がこの中に入ってますよ」

見た目が重箱のタマテボックスを受け取り、ドルフィーネの山田花子の背中にまたがり、ギャラクシーイーグル号に戻った。


しかし、家に帰ってもロボ助とロボ吉がいない。

不安に襲われ、叫びそうになると、ユキちゃんが、ギャラクシーイーグル号にやってきた。


「僕は…結局1人だ」

振り返るとユキちゃんが甲羅にクッキーを背負っていた。


置き手紙を読むと、ロボ吉から「宇宙の平和を救ってきます」と書いてあり、テレビをつけると、どうやらルーパーとロボ助とロボ吉はイーグルファイト号に乗りダークトヒラーが居住するブラックハウスがあるエイグ星に向かったらしい。


「・・・俺も頑張らないと」

ロイは動こうとすると体が重い、渡部彩奈の記憶がフラッシュバックしたかのようだ。


「ユキちゃん…僕は」

置き手紙をくしゃくしゃに握って泣いた。

「僕は1人なんだ!生きていちゃいけないんだ」

「そんなこと言わないでよ」

「僕のことが嫌いだから、ロボ助もロボ吉もギャラクシーイーグル号からいなくなったんだ」


ロイはまた床を拳にあざができるまで殴った。


「僕は1人なんだ!生きていちゃいけないんだ…」

「そんなこと言わないでよ、ロイ。生きる価値は誰にも決められないよ」


「でも、渡部彩奈もいなくなって、ロボ助もロボ吉もいなくなった…。結局、僕には誰もいないじゃないか!」

「それでも、私はあなたのそばにいるよ」


ロイはカタツムリの顔は美少女だが、首から下がカタツムリの少女ユキを見つめていた。


「…でもユキちゃん、みんな僕を見捨てたんだ。僕が無能だから、役立たずだから、誰も僕を必要としないんだ…」

「そんなことないよ。ロボ助とロボ吉が行ったのは、宇宙の平和を守るためでしょ?それに、渡部彩奈さんだって、あなたを1人の人間として最後まで見てくれたんじゃない」


「…でも、僕の中では全部終わったんだ。彩奈がいなくなった日から、僕の世界は止まってるんだよ!」

「ねぇ、ロイ。渡部彩奈さんがいなくなったら、ロイさんまで止まっちゃうの?彩奈さんがそんなこと望んでると思う?」

「わからない。わからないんだ。でも、どうやって前に進めばいいのかわからない」

「前に進むのが怖いなら、立ち止まってもいいよ。でも、ロイ。私はずっと一緒にいる。

だから、一緒に少しずつ考えていこうよ」

ロイ: 「…ユキちゃん…」

ユキちゃん: 「大丈夫だよ1人だなんて言わないで。わたしはあなたのこと、ずっと見てるから」


ロイはユキちゃんの甲羅にそっと手を置き、涙をぬぐった。

「ありがとう、ユキちゃん。君がいてくれて、本当に良かった…」

「さぁ、まずはクッキーでも食べようよ。何か甘いものを食べれば、少しだけ元気が出るかもしれないから」


ユキが甲羅に乗せたクッキーを受け取り、ロイはかじりついた。その味は、どこか懐かしく温かいもので、心が少しだけ軽くなるのを感じた。


「…美味しい、」

「えへへ自分でできることがほとんどないから、山田花子ちゃんと一緒に作ったんだ」

「・・・仲良いの?」


「うん…ロイくんの話たくさん聞いたよ。

ロイくんがたくさん苦しんでることも聞いた。

でも私から見ると、君がどんな道を通ってきたとしても、それって全部君が“這ってでも”進もうとした証なんじゃないかな。ほら、私って遅いけど、進むのだけはやめないでしょ。

ロイくんはたくさん頑張ってきたよ」

ロイは、ユキの唇に再度キスをした。

その後舌を絡ませた後言った。


「僕はただのダメ人間だよ。クビになってばっかで、頑張っても結果が出ないし、僕なんて死んだ方がいいんだ」

「でもね、ロイさんは、クビになったあとも、また立ち上がって次の職場に向かったじゃない。そこにいるのは、ただの“ダメ人間”じゃなくて、“どこかで自分の場所を探し続けた人”だと思うけどな。」

「でもさ、何かを見つけるどころか、まともな結果も出せてない。俺は何のために生きてるんだろうって思う。」


「生きる理由なんて、そんな大きなものじゃなくてもいいんだよ。私とはなちゃん、ルルロントのみんなは、ロイくんの存在を祝福してるんだよ。そのたびに君、ちょっとだけ幸せだったんでしょ?」

「…まぁ、そうだな。」

「ほらね!それでいいんだよ。人生って、巨大な意味や大きな成果がないといけないなんて誰が決めたの?一瞬でも楽しいって思えた瞬間があるなら、それが君の人生の宝物になるんじゃない?」

「…なんか、ユキちゃんにそう言われると、少しだけ救われる気がするよ。」


ロイは砂糖とミルクが大量に入ったアイスコーヒーを飲みながらタバコを吸った。


「ふふ、あたし結構良いこと言うでしょ?ほら、そんなに自分を責めないで、これからも君らしく、ゆっくりでも進んでみなよ。

あ、テレビつけましょ」


テレビをつけると、ルーパー皇帝と、ダークトヒラーが握手をしていた。

同盟が結ばれ戦争が終わっていたのだ。


「すると、ギャラクシーイーグル号にたくさんの人が押しかけてきた。


ルルロント全体がロイを祝福していた。

「ロイ様!世界の平和をありがとうございます!」

ロイ様を祝福して大量の花束がギャラクシーイーグル号に添えられた。


「みんな…」


ロイが涙ながらタマテボックスの中身を開けると中には、ドルフィーネの山田花子が作った、真珠のブレスレットが入っていた。


「もう渡部彩奈に固執しなくて良いんだな…

少し気が楽になったよ…」


ロイはブレスレットをつけ海に行き、山田花子の背中に跨った。

「花子ちゃん!ブレスレットありがとう」

「体調良くなったんだね」

「完全には良くはなってないけど…それより…」


夜が明けた。

「日が登った…とても綺麗だ」

海面を第二の太陽が照りつけた。

ロイは山田花子とキスをした。


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