表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

 その女の子の名前は、三雲鞠と言った。

 三久の一つ年下の中学二年生の後輩で、三久の所属している西中学校音楽部の部員であり、演奏している楽器は、テナーサックスだった。

 鞠は物静かな学生だったけど、そのテナーサックスが奏でる音は、荒々しくて、まるで音に命が宿っているように感じることもあって、三久はなかなか、この女の子の奏でる音が気に入っていた。

 鞠は音楽室にある椅子を移動させて、ピアノの横の位置に座った。

「先輩。なにかあったんですか?」

 鞠は言った。

「なにかって、なにが?」

 楽譜をまとめ、鍵盤を閉じてから、三久は言う。

「ピアノの音に、その、迷いのようなものが感じられたから」

 窓の外に降る雨を見ながら、鞠は言った。

 三久は少し、驚いた。

 自分の音に迷いがあることには気がついていたのだけど、それを、一度、三久の演奏を聞いただけで、鞠が見抜いたからだった。

「別になんでもないよ。ちょっと、調子が悪いだけ」

 小さく笑って、三久は言った。

 それから、三久はピアノの席から立ち上がった。

「今日は部活お休みなのに、三雲さんはどうして音楽室にきたの?」

 三久は言った。

「先輩のピアノの弾いている音が聞こえたから、なんとなく」と(少しだけ照れながら)鞠は言った。

「そうなんだ」

 三久は言う。

 それから二人は、沈黙する。

 雨の降る小さな音だけが、人気のない音楽室の室内に聞こえている。


「……じゃあ、私、もう帰るから」

 学校のカバンを手にとって、三久は言った。

「あの、先輩」

 鞠が言う。

「なに?」

「……その、一緒に帰ってもいいですか?」

 ほんのりと顔を赤くして顔をして鞠は言う。

 三久は少しだけ迷ったのだけど、「……うん。別にいいよ」と鞠に答えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ