ああ、神よ
そこにあったのは、何名かの兵士の死体だけだった。
おかしい。野盗に襲われたにしては、金品が奪われていない。確かに荒らされているが、戦闘でついたような傷ばかりだ。
しかし、私達は戦争をしているわけでもない。フロスタ王国も、グリッセ公国も、今は平和を保っているはずだ。
彼らは誰に殺された?
「ねえ、カルヴィン? どうかしたの? 本当に誰もいないの……?」
「……居ません。生きている人は、誰も居ません」
彼らも決して弱くはない。敵が同じ人数であれば、一人として欠けることなく勝てるだろう。ならば何故、このようなことになっているのか。
「それって……」
「早く、王都へ戻りましょう。このことは早急に陛下へお伝えしなければ」
「え、ええ、わかったわ」
ソフィーナは扉の外に居るが、彼女にこの光景は刺激が強いだろう。彼女から見えないようにしながら外に出る。
「恐らくここに居た兵士でしょうが……皆、死んでいます。血も乾いていません。もしかしたらまだ、彼らを攻撃した者が近くにいるかもしれない」
「そんな……みんな、死んでしまっているの? 一人も残らず?」
「残念ですが。人を殺した者は、何を思ってか殺した場所まで戻ってくることがあります。出来るだけ早く、ここから離れた方が良いでしょう」
陛下から渡された魔法石はあと一つある。これを使えば、ここから王宮まで飛べるはずだ。
教えて貰った石碑の場所まで駆け寄り、石をはめ込む。
四日前と同じように光が体を包む。
王宮の中庭。
既に見慣れた風景では無くなっていた。
「あ……嘘、ど、どうして……」
周りを見渡しても、誰も居ない。花は踏み荒らされ、至る所に誰かの血がかかっている。
「生存者を探しましょう。もしかしたら、まだ誰かいるかも知れません」
きっと誰かがいる。まだいるはず。
背中を嫌な汗が伝う。
「そうよね、そうよ、誰かいるかもしれないわ。まだ誰かが」
物音一つしない王宮は、普段なら美しく感じるのに、ただ恐ろしさを感じさせるだけだった。
あれだけ咲き誇っていた花は荒れてしまっている。辛うじて石碑は残っているが、壁もボロボロにされている。
一番近い部屋は、扉が壊れ、中に居たのだろう誰かの血痕のみが残されていた。
「誰か居ないの? 返事ができるなら答えて!」
「……他の部屋も、探してみましょう」
部屋を移動する。扉を開け、瓦礫をどかし、また別の部屋へ。
ずっと違和感を感じていた。何かがおかしい。静かだ。ここはただただ静かで、何も聞こえない。
何も、聞こえない?
そうだ、聞こえない。市民の声すら聞こえない。苦しむ声も、もがく音も、何も聞こえない。
ここはいつでも、王都の賑わいが聞こえていたではないか!
人の姿を探し、幾つも扉を開けた。
生存者は見つからない。
王都は静まり返って、人の気配がしない。
「誰か、答えて! お願い、誰か!」
ぱら、と小石の落ちる音がした。
誰かがいる、まだ生きている。
良かった。
期待に顔が緩む。
「何処に居ますか? 返事をして下さい、すぐ助けます!」
小石の落ちる音。キンと高い、聞いたことの無い音。
そして、轟音。
「伏せて下さい!」
「きゃああああっ!」
壁を裂く光。
伏せた頭の上を、圧倒的な熱が通り過ぎる。
立ち上がり咄嗟に剣を抜く。
光が消えかかる先に薄らと見える複数の人型。
感情のぽかりと抜け落ちた表情、一対の翼。奇妙なことに、そこに居る者は全く同じ顔立ちをしている。ゾッとするほど美しい、中性的な外見。
人間ではない。これが天使、なのか? 助けに来てくれたのだろうか。神は私達を、まだ見捨てていなかったのだろうか。
「あなた、は……天使さまなの?」
「金髪赤目の少女――了解。処分対象と断定。金髪の青年、判断を」
「ねえ、天使さま……? 何を言っているのかわからないわ」
「了解。実行します」
ゾクリと総毛立つ。
その声は冷たく、命を感じさせない。
助けに来たんじゃない。私達を、殺しに来たんだ。
目が合う。逸らせない。光。そう、光だ。天使の口が開く。彼らは喉を震わす。
『主は決断なされた』
『主は決断なされた』
『聖なるかな、聖なるかな』
『聖なるかな、聖なるかな』
彼らは主を讃える。
――聖なるかな、聖なるかな、聖なるであることは、主の元に来ることができる。
神を賞賛し、彼が永遠であることを望む。
聖なる光は邪悪を討ち滅ぼし、神の存在を確かなものとする。
―― 主よ、わたしたちの神よ、あなたこそ、栄光と誉れと力とを受けるにふさわしい方。
讃えよ、讃えよ、讃えよ。
声は反響し、重なり合い、言葉は詠唱となる。
光が、浄化し――
「カルヴィン!」
悲鳴のような声。
意識が引き戻される。私は、何をしていた?
「っ、逃げますよ!」
へたり込む少女の腕を掴み、引き寄せ、そのまま部屋から転がり出る。
一瞬前まで私達がいた場所を、強い光が焼き尽くす。立ち上がれ、走れ、走れ、走れ、走れ!
とにかく遠くへ、できるだけ速く!
「まって、カルヴィン! 逃げるって……どこに行くの? 私たち、どこに行ったらいいのよ」
「どこでも構いません、とにかくここから離れましょう!」
陛下の寝室まで辿り着けば、地下に逃げ込む道がある。とりあえず、王都から出ることはできる。
焦るな、落ち着け。陛下は逃げ切ったはずだ。生きていればきっと、見付けられる。
「対象、逃走しています。増援を願います。繰り返します――」
相手が一人であっても勝ち目がないというのに、まだ増えるのか!
正体不明の光は、あまりにも力が強い。直撃は避けられても、熱や砕けた瓦礫は体に傷を付ける。武器が剣一つなど、相性が悪すぎた。今はソフィーナも守らなければならないのだ。
「対象、発見。処分致します」
左か!
十字に別れた通路を走り抜け、すんでのところで攻撃を躱す。爆発のような地響き。衝撃で体が押し出される。咄嗟に少女の体を抱き抱え、地面に叩きつけられる。もし直撃していたら、どうなるのか。今は考えるな、とにかく寝室まで行くんだ。足を止めるな。
「きゃっ!」
右の壁が崩れ、天使がまた現れる。いったい何人居るんだ! 飛んできた瓦礫を剣で受け止める。破片が服を、肌を切り裂くが、前を目指して走り続ける。
「まだ走れますか!」
「ええ、大丈夫よ!」
もう少しだ、もう少しで寝室だ。天使達はそう足が速いわけでもない。十分に距離は離せた。
「見つけた……このまま進みますよ!」
「わかったわ!」
かつては確かに重かったはずの、ボロボロになった扉を蹴破り、寝室に入る。クローゼットの中、右端のタイルの下。決められた鍵を持つ者しか開けられない扉がある。
所々煤けてしまっているが、確かに陛下の寝室だ。ふと、ベッドの脇に目を向ける。
「ここにも、天使が来たのでしょうね」
他よりも大きく、焼け焦げた跡。少し近付いて眺める。
「……これは」
陛下の服の、切れ端が。端の焦げた布が落ちていた。黒くなった床に散らばった、短い髪。小さく山のようになった、燃えかすのような物。陛下がいつも身につけていた、小さな指輪が転がっている。
「陛下、の……」
嘘だ、違う、きっと生きている。陛下は賢い方だから。きっと逃げ切っているはず。だから大丈夫だ、早く逃げないと。天使が追い付く前に扉を開けないと。きっと王都から脱出したはずだから。
「どうしたの?」
「……いえ、大丈夫です。急ぎましょう」
大丈夫だ、大丈夫だと自分に言い聞かせる。こんな少女に心配はかけられない。せめて彼女だけでも、逃がさないと。
クローゼットに入り、タイルを退かす。思った通り、小さな鍵穴付きの扉があった。
「私も直ぐに行きますから、先に入ってください。暗いですが、少し進めば灯りがあります」
「わかったわ。私は大丈夫よ」
普段から首にかけていた鍵を挿す。手が震える。恐らくこれも術具なのだろう、鍵を回すことなく扉は開いた。
ソフィーナに先に下に降りてもらい、自分も飛び込んでから扉を閉める。かすかに天使の声が聞こえていた。
「ああ、あなたの言った通り、明るいわね。天使たちは、ここまで追いかけて来るのかしら」
「扉は絶対に壊せないはずですから、大丈夫でしょう。崩落しないか、少し心配ですが」
扉を閉めるとかなり暗くなる。壁には、等しい間隔で灯りが付けられている。
「このまま真っ直ぐ進んだらいいのかしら? 結構広いのね」
「本来は王族のための避難路ですから。扉が壊れないのも、王族を確実に逃がすためですよ」
この道を実際に歩くのは初めてだが、何度か陛下から話を聞いていたので問題は無い。天使達が扉を壊そうとしているのか、軽く揺れている。
緊張から会話は無くなり、静かな道を歩く。陛下の声が、何度も何度も頭の中で思い出される。あの髪は、床に散らばる布は、陛下のものだ。見間違えるはずもない、陛下のものなんだ。
どうして、あんなところに。
陛下は本当に、逃げ切ったのか?
同じような景色が延々と続き、自分が今どこにいるのかわからなくなる。思考がぐるぐると同じことを繰り返す。
「あら? 分かれ道だわ。どっちに行けばいいのかしら」
「ああ……ここは左ですね。右は無駄に長く続いているだけの行き止まりですよ」
思ったよりも進んでいたのか。どちらの道も行き止まりのように見えるが、左の道は隠し扉がある。ここまで追っ手が入ってくることも無いだろうが、念には念を、ということだろう。
「ここ、行き止まりだわ」
「隠し扉ですよ。上手く隠されていますが、鍵穴がちゃんとあります」
地上の扉と同じ鍵を使い、扉を開く。鍵穴はとても見付けにくいように作られている。この扉や鍵は、五百年前に作られたものらしい。
扉の奥は、小さな部屋になっていた。奥の壁に赤い扉がついている。
「それにしても、王都の地下がこんな風になっていたなんて……」
「ここまで来れば、もう大丈夫でしょう。少し休憩しましょう」
そう言うと、ソフィーナはへなへなとその場に崩れ落ちた。
「ああ、怖かった……本当に怖かったのよ、わ、私、どうしていいか……」
「大丈夫、大丈夫ですよ。私達は生きています。」
少なくとも、まだ生きている。突然の襲撃ではあったが、逃げ切ることだけはできた。
「王都から出たら、そうですね……海を渡って、森にでも逃げてしまいましょう」
「王都には、戻れないの?」
どこか悟ったような声を聞いて、腹の底が冷えるような感じがした。
「王都には、恐らくはもう天使しか居ないでしょう。初めてですよ、こんなにも王都が静かなのは」
「そう……」
王都へ戻ったとしても、廃墟と死体しか無いだろう。王宮が攻撃されるというのは、そういうことだ。
「なら、母さんも……もう、死んでしまったのかしら」
何も、言葉が出てこない。
酷く寂しそうな、静かな言葉だった。
私達は生き残ってしまった。二人だけで、何ができると言うのだろう。これからどこに逃げても、天使達は監視している。いっそ森にでも隠れて住もうか。
「駄目ね、弱気になって。カルヴィン、怪我は大丈夫? 大怪我はしてないみたいだけど、擦り傷とか……」
「大丈夫ですよ。この程度、怪我のうちにも入りません」
打撲に擦り傷に火傷と傷だらけだが、立ち止まっている場合ではない。早く陛下を見付けなければ。
「先へ進みましょう。いつまでも地下に居るわけにはいきませんから」
「わかったわ、行きましょう」
赤い扉は、鍵は必要ないようだった。押すと軽い力で開き、また道が続いている。
「……ねえカルヴィン、あれ、何かしら?」
「剣……でしょうか?」
薄く光を放つ何かが壁に立て掛けられている。恐らく剣だろうが、なぜここに?
近くの地面には袋と、二枚の封筒が置かれている。封筒を手に取って見てみると、一枚は私へ、もう一枚はソフィーナへと書かれていた。
「ソフィーナ、こちらはどうやらあなた宛のようです」
「手紙? この字……母さん、かしら」
私宛のものも、よく見慣れた美しい文字で書かれている。これは陛下の筆跡だ。こんな場所に置いてあるということは、陛下はここまで来たのだろう。
やはり逃げ切れたのか!
期待に胸が膨らむ。もしかしたら、陛下が逃げる先を記してあるかもしれない。はやる気持ちを抑えつつ、封を開いて手紙を取り出した。
『カルヴィンへ。
貴方に何も説明できなかったこと、そして貴方に母親らしいことをしてあげられなかったこと。とても申し訳なく思っています。きっと貴方は気にしていないでしょうが、私の自己満足で貴方を王宮に縛り付けてしまった。これからは、自由に生きて下さい。フロスタ王国は滅んだのですから。
きっとこの手紙を読んでいるとき、フロスタ王国はただの廃墟となっていることでしょう。貴方は国を離れたことを、悔やんでいるかも知れませんね。しかしそれは私の命令ですから、貴方が悩む必要は無いことです。
私はこの国が滅びることを、知っていました。知っていたからこそ、貴方とソフィーナだけでも逃がしたいと思ったのです。貴方たち二人は、私と、私の親友、レイシーの宝です。国王としては、一人でも多くの国民を守るべきだったのでしょう。しかし私は、王である以前に一人の人間であることを選んでしまった。』
ぶるぶると手が震え、先を読むのが恐ろしくなる。陛下、あなたは、あなたは何を言っているんだ。
『血が繋がっていなくとも、貴方は私の息子でした。私は、友も家族も、捨てることのできない弱い人間です。国民を守ろうとすれば、きっと貴方は国に残り、このフロスタ王国の為に死んでいったのでしょう。私は、そんなことは許せなかった。それに、ソフィーナは、一人では生きていけないでしょう。
私の夫は、病気で死にました。子供も作る前に。貴方が私の元へ現れる前、私の大切なものは何も無かったのです。友と貴方だけが私の宝でした。国民のために宝を手放せるような、王として正しい人間にはなれない。それでいて、生き延びようとする強かさも持っていない。それが私なのです、それが私という生き物なのです。私はここで、国と共に滅びることを選びます。』
言葉の意味が、飲み込めない。脳が理解することを拒む。何故、どうして、なんで、幼児に戻ったように、そんな言葉ばかりが浮かぶ。陛下が、貴女が一人生きていてくれれば、私はなんだってできるのに。なんだってやってみせたのに。貴女が居ないのに、私はどうやって生きていけば良いのですか。私はどうして生きているのですか。
『これまでこの国の為、騎士という身分にあってくれてありがとうございました。もうこの国に縛られる必要はありません。好きな場所で、好きなように生きてください。袋の中身とこの剣は、ささやかではありますが、旅立つ貴方へ私からの餞別です。聖剣クライズ、だそうで、国に古くからあるという剣ですが、ここで死ぬ私には必要のないものです。売ってしまっても構いません。
職や家が必要であれば、カリド王国へ行くと良いでしょう。彼らはきっと、フロスタ王国の者を暖かく迎え入れてくれます。海を渡る必要はありますが、そう遠くもありません。少なくとも二人だけで行くならば、他のどこよりも安全でしょう。
好きなように生きろと言った手前こんなことを言うのは少しおかしいかも知れませんが、ソフィーナをよろしくお願いします。貴方ならきっと、大丈夫だと信じています。
さようなら、カルヴィン。貴方は確かに、私のかわいい息子です。生きてください。どうか、幸せになってくださいね。
フロスタ王国女王 クーニグンデ・フロスタ』
何も信じたくなかった。生きろなんて、そんな、なんの為に。私は国の為じゃない、国の為じゃなくて、陛下の為に生きていたんです。信じられない、嘘だ。ただ呆然としていた。
「カルヴィン! 母さんが、母さんが生きているわ! この道を通ったって、母さんが!」
言葉が上手く出てこない。ただ震える息が漏れる。
「カルヴィン? ああ、私ったら、ごめんなさい、一人で喜んでしまって」
「……いえ、大丈夫ですよ。それ、は……喜ばしいことですね」
自分が笑えているのか分からない。世界が崩れていくような気がした。
「カルヴィン、あなたとても顔色が悪いわ! 少し休んだ方が……」
「大丈夫です。早くここを出てしまいましょう」
「そう? 本当に大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫ですよ」
陛下……そうだ、陛下が、ソフィーナをよろしく、と。そう言ったんだ。だから守らないと。私がこの少女を無事に逃がさないと。
「この先は真っ直ぐ歩けば外に繋がっているはずです」
袋を手に取る。ずっしりとした重みがある。かなり汚れてしまった鞄の中にしまい、立て掛けられた剣を持ち上げる。
僅かに光を放つそれは、握ると手に吸い付くように持ちやすく、ひんやりと冷気を放っていた。胸の奥が少し、熱くなったような気がした。
「この剣は、あなたが持っていてください」
「わかったわ。でも私、剣なんて使ったことがないわよ」
「念の為、ですよ。上手く使えなくても構いません」
今まで持っていた剣はソフィーナに預け、重くなった剣をベルトにかける。ああ、私が守るんだ、絶対に。陛下の命令は守らないと。
地下の道を黙々と歩く。緩やかな登り坂だ。何が縋るものがないと、遠くて暗い穴に落ちてしまうのではないかと思った。何かやるべきことが欲しかった。命令が欲しかった。今はソフィーナをよろしく、と、その一言だけでも縋り付いていたかった。
「あ、明るくなってきたわ!」
「もうすぐ地上ですね」
眩しさすら感じる光。とても長い時間地下に居た。いつにも増して輝く、雲ひとつない空が、今はなぜだか憎たらしかった。
「外だわ……私たち、逃げ切ったんだわ!」
「本当に良かった。良かった……」
立ち止まって、外の空気をめいっぱい吸う。少しほっとした。これからどうにかして、海を渡らなければならない。運賃はどうにかなるだろうが、どうやって海まで行くか。
「これから海に、行くのよね」
「そうですね」
夏の強い日差しは、薄暗い地下に慣れた目にはやはり眩しかった。眩しくて、目に染みて、痛くて痛くて、何故か涙は出なかった。
「もう、王都には、戻らないのよね」
「そうですね」
「……大丈夫、大丈夫だわ。きっとなんとかなるわ」
「ええ、きっと。さあ、行きましょう」
長い長い旅の一歩目を踏み出そうとした、その時。
「ソフィーナ!」
「え?」
キンと響く高い音。天使達の光。狙いは、ソフィーナだ。私が守らなければ。考えるより先に体が動いていた。少女の前に体を滑り込ませる。そのまま倒れ――間に合わない! 避けられなくてもいい、ソフィーナだけでも守れ!
「凍り付けッ!」
体が熱くなる。目の前を、白く光が塗り潰した。