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窮鼠なんとやら

作者: 朱崎ナオヤ


単純な話です。途中で分かってしまってもどうか最後まで温かい目で見てやってください。


 ここまでか……。


 オレは大きな溜息をついていた。


 ひとまず暗がりに逃げ込むことには成功したが、相手の執拗な打撃により、オレは文字通り「虫の息」だ。

 おそらくオレは今日、ここで死ぬことだろう。全く、惨めな人生だった。


 オレはゴミ溜めの中に生を受けた。親の事は知らない。捨てられたか、それともオレを生んですぐに死んでしまったのか……。


 オレには三人の兄弟がいた。兄と姉、そして妹だ。

 四人で支えあって、生きていた。

 オレたちの生活は苦しかったが、なんとか生きられないことはなかった。

 泥水をすすり、残飯を貪りながらでも、いつかはこの生活を変えてやろうと夢見ていた。

 

 しかし、残酷な運命がそのギリギリの生活をも踏みにじった。

 “アイツ”に見つかってしまったのだ。

 住む場所を奪われ、何度も理不尽な暴力によって殺されかけた。


 オレは歯向かう事ができなかった。


 非力で、武器となるようなものも持っていなかった。相手を出し抜く策も無ければ、頼りになる仲間もいなかった。


 ……いや、こんなのはただの言い訳だろう。結局のところオレが反抗しなかったのは、ただ臆病だったからというだけのことだ。


 相手が怖くて怖くてたまらない。

 それだけではない、初めから勝つ気すらなかったのではないか。

 圧倒的な実力差に恐れをなして、諦めきっていたのではないか。


 そんなことだから、そんなことだから兄と姉が殺されたときもオレは何も出来なかったんじゃないか。

 悔しいのに、殺したいほどに憎らしいのにオレは隠れ家から一歩も出ることができなかった。

 妹を抱きしめて、泣きながら震えていた。


 その妹ももういない。

 今さっき、その命を儚く散らした。


 オレはその最期にゆっくり立ち会うこともできなかった。死の間際の彼女を支えることが出来なかった。

 

 自分のことで精一杯だったから……。

 

 ……その亡骸を見捨ててオレはここに逃げてきた……。


 ……まったく、自分で自分の醜さに吐き気がする。どこまでもオレと言う奴は最低だ。

 ここで殺されるのがお似合いだ。さっさと殺されてしまおう。


 だが、どうせ最後だ。アイツに一泡吹かせてやるのも、悪くない。


 アイツに一矢報いるために、オレには何が出来るだろう。


 オレは黒装束に包まれた身体の様子を確認する。

 まず右腕を見る。いや、そこに右腕は無いんだった。

 左腕を見る。ああ、それも無いんだった。


 結局最後の悪足掻きも出来やしないのか。

 

 違う。そんなことは無い。オレにはこれがあるじゃないか。

 アイツには無くて、オレにはある。オレが自分の中で唯一誇りに思っていたこれが。


 オレはそれを大きく広げる。使うのは初めてだが、なぜかオレはうまくいくような気がしていた。大丈夫。オレにはきっとできるさ。


 いくぜ。

 クソヤロー。

 最後くらいはド派手に決めてやるぜ。


 オレは地面を蹴り上げて、一気に空中へ飛び上がる。いける。飛べる。アイツは顔を恐怖に歪め、こっちを見ている。

 ハッ、ザマーミロだぜ。


「ふ、ふっざけんなよ。何で、何でこっちに飛んでくるんだよっ!?」


 アイツが叫ぶのが聞こえた。オレがアイツを怯えさせている。そう思うとたまらなく愉快な気持ちになった。


 オレが死ぬまで、しっかりその眼に焼き付けろ。

 

 さて、顔にでも張り付いてやろうか!?

 

 

“Gが顔を目がけて飛んでくる”ことは「窮鼠猫を噛む」のもっとも顕著な例だと思います。


お読みいただき、どうもありがとうございました。


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