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転生したら桃の中でした

作者: 夕山晴

 気づくと真っ暗な世界で目を覚ましていた。

 しかも纏わりつく甘い香りと、べたべたする肌。


 ここは……どこ?転生、したのよね?



 忘れもしない、つい先ほどの出来事だ。

 ぱんぱかぱーん と大きなファンファーレと共に現れた神様を名乗る青年。


『当選おめでとう!君には転生の機会が与えられた。さあどこに転生したい?』

『……え?』

『んん?まだ意識がはっきりしていないようだね。君はさっき病室で死んだんだよ。通常はそのまま天に登っていくのだけど、若い子限定で生まれ変わりの抽選会をしているんだ。私の気まぐれなんだけどね』


 茶目っ気たっぷりにウインクをする神様に「はあ」と気だるい返事をした。


『それで、君はそれに当選したんだ。おめでとう!君が好きな世界へ転生させてやろう』


 そう言われて、ぱちくりと瞬いた。

 生まれてからずっと病弱だった。

 入院生活が長く、楽しみにしていたのは現実逃避するためのファンタジー小説。


 最近は転生モノをよく読んでいたのよねぇ。

 って、だからこんな自称神様が目の前に現れたの?これは夢?


 顔をしかめて、神様を見ても、にこにこと返事を待っているようだ。


『じゃあ、本の世界に転生してみたいかな』


 夢なら、夢なりに楽しんでみなくちゃ。起きてもどうせ病室だしね。

 王子様と恋に落ちちゃったり、魔法が使えちゃったりするかも。


『せっかくなら、やっぱり王道ストーリーで、ヒロインがいいな』

『ふむ、その願い叶えてやろうぞ──』



 そんなやり取りをして、気づくとここだ。

 真っ暗じゃん?

 真っ暗で甘い香り……花いっぱいの棺の中じゃないでしょうねー!


 そうしばらくバタバタともがいていると。



 ぱっかーん


 突然浴びせられた強烈な光に目を閉じて、手で塞いだ。

 まぶしい!何、なんなの?


「んぎゃあ!ぎゃあ!」


 叫んでも口から出るのは、言葉にならない泣き声だけ。

 恐る恐る目を開けると、目を塞いでいた手は小さく丸みを帯びていて。

 自分が赤ん坊であると知ったのだった。


「あらまあ。可愛らしい赤ちゃんだこと」

「うむ。桃から生まれたのでな、桃子という名前はどうだろう」

「桃子。可愛い名前だわ。ふふ、私たちの元へ来てくれてありがとう。これも神様のおかげかしら」

「全くだ。こんなに大きな桃が流れてくるなんてあり得んしの、神様からの贈り物だろうて」


 そうして、桃から生まれた桃子はお爺さんとお婆さんの養子となった。



 ◇◇◇



 時は経ち。

 桃子は思う。これは夢ではないのだろうと。


 だって夢なら長すぎる!


 赤ん坊だった桃子はすくすくと健康に育ち、十六歳になった。

 今も鮮明に思いだせる自称神様を毎日呪う日々だ。


 確かに?王道ストーリーと言ったわよ。

 勧善懲悪ストーリーだもん、王道のストーリーであることには違いないけど。

 しかも知らない子はいないんじゃないかというくらい有名なお話。


 でも私が思っていた世界はこういうのじゃなくって!

 王子様とか騎士とか魔法とかお姫様とか妖精とか!そういう話のつもりだったのに!


 なんで、ももたろう。


 ヒロインと言ったからだろう。性別は女の子にしてくれている。

 どんな配慮なの。



 話の流れは知っている。

 川を流れてきた桃の中に入っていた赤ん坊──この場合は私の事──が、元気に逞しく育って、鬼を退治にしに行く話。


 全然、鬼退治なんてしたくないんですけど。


 そう思いながら過ごしてきて、桃子はか弱い女の子に徹して生きてきた。

 極力運動はしない、重い物も持たない。

 なのに、だ。

 気づくと壁を拳で壊せるようになっている。

 拳型の穴が開いた壁を見ながら桃子は大きな溜息を吐いた。


「ここも直さないといけないな~」


 穴の修繕跡がたくさん残る壁を撫でながら、育ての親であるお爺さんお婆さんの帰りを待っている。

 桃子は容姿はいいのに、怪力だからという理由で友達も恋人もおらず、極力人目に触れないようにしていた。

 お爺さんとお婆さんは隠しているようだが、村の人間に不気味がられているのを桃子は感づいている。

 自分が姿を見せることで、お爺さんお婆さんに余計な負担を掛けさせたくなかったから家の外に出ることもあまりしない。


 優しい二人だ。

 血の繋がりなんてない、しかも得体のしれない赤ん坊をこんなに長い間育ててくれたのだ。

 結構な年配の二人には、子供の世話は大変なことだっただろうと思う。

 感謝しかない。


 壊さないよう力加減に気を付けながら、ご飯の準備をする。

 かまどに火を入れて、お米を炊いて。

 今日は天気が良くて気持ちがいいから、奮発して川魚を焼いちゃおうかしら。

 七輪を軽々と持ち上げ、戸口の前で炭を起こす。


 しばらくして山の麓から人影が見えてきた。

 お爺さんとお婆さんだ!

 話す相手のいない桃子は、お爺さんとお婆さんが帰ってくると喜んで出迎える。

 二人と話す時間が安らぎの場だった。


 が、今日は二人の他にもう一人ついてきていた。

 普段は、桃子を気味悪がって訪ねてくる人間はいないのに。


「も、桃子や」

「お爺さん、どうしたの。お帰りなさい」


 ちらちらと見知らぬ人間を警戒しながら、桃子はいつもと変わらず笑顔で出迎えた。


「えっと、こちらの方は?」

「あ。ああ。村長さんだ……桃子に話があるそうでな……」


 お爺さんから引き攣った顔で紹介された村長へ、桃子は気味悪がられないように穏やかに挨拶する。


「こんにちは。ようこそいらっしゃいました。せっかくなのですが、ご飯の用意があるので手短にお願いしたいのですが」


 嫌な予感がした。

 村長は嫌われている桃子に笑いかけてきたのだから。

 早々にご帰宅願おうと、話を進めた。


「いやはやこんなに可愛らしいお嬢さんだとは。噂とは当てにならないものですな」

「いえ、そんな」

「桃子さん、と仰いましたかな」

「はい」

「実は、貴女にここからそう遠くはないある島へ行っていただきたく、打診に参ったのです」


 島。

 嫌なワードに桃子はびくりと肩を震わせた。


「その島には悪さをする鬼が暮らしていましてね、我々は困っているのです。聞けば、貴女はその容姿に伴わず、だいぶ力がお強いとのこと。そこで桃子さんに鬼が悪さをしないよう伝えてきてもらえるといいのではないかと村の会議で話に上がりましてね」


 体のいい厄介払いだろうか。

 誰の血縁でもなく、もともと気味悪がられていた人間で、多少力が強いからと。

 鬼にやられて死んでも困らず、万一鬼の悪さが減れば万々歳といったところだろう。


「一見可愛らしい桃子さんですから、鬼も急には襲ってこないでしょうし」


 一見って失礼すぎるでしょ。それに急じゃなければ襲ってくるかもしれないじゃん。

 だから嫌だったのに、こんな世界は。

 分かっていたとはいえ、唐突に降って沸いた鬼退治に、泣きそうになる。


 だって鬼でしょう。怖い。

 震える手を押さえて、お爺さんとお婆さんを見る。

 掌を前で組んで祈るように話を聞く二人も顔が歪んでいて、自分も同じような顔をしているのではないかと思った。


「ああ、何も身体一つで行ってくれとは言っていませんよ。切れ味は保証できませんが刀と、伝説のきびだんごをお渡しします」


 伝説がどのようなものかは知らないが、きびだんごは仲間を引き連れていくためのものだろう。

 決定事項のように通達された”打診”は刀と団子、島までの地図を渡すとすぐに終了し、村長はさっさと帰って行った。

 静まり返る家の中。

 食事の用意を終えて、食卓に着いても会話はない。

 今日は美味しい焼き魚を食べるはずだったのに。

 味がしない切り身を、もさもさと噛んで飲み込む作業を繰り返した。


「行かなくても、いいんだよ」


 お爺さんはぽつりと言った。

 お婆さんも、うんうんと頷いた。


「可愛い桃子。ずっとワシらとここに、」


 言いかけてお爺さんの口が止まる。

 そうできないことは、桃子にも分かっていた。

 村の会議で決まったことを覆せば、あっという間に村から弾かれる。

 弾かれてしまえば、ここを出なくてはならなくなるだろう。

 高齢の老夫婦には厳しい決断だ。


「ううん、行くよ。行ってくる。早い方がいいもんね!話をしに行くだけだもん、明日行ってすぐに帰ってくる」


 その日は久しぶりに川の字で眠って、最後になるかもしれない家族水入らずの時を過ごした。




 ◇◇◇




「じゃあ、行ってきます!」


 昨日開けてしまった穴の修繕が終わり、桃子は元気よく家を飛び出した。

 手には刀と、そして、きびだんご。

 あとはお昼ご飯用のおにぎりと、懐にはお婆さんお手製のお守りだ。

 姿が見えなくなるまで手を振って、桃子は鬼が住むという島へ向かった。


 大丈夫。戦いに行くわけじゃない。

 話をしに行くだけ。


 だから持ってきたきびだんごは使わないつもりだ。

 ぞろぞろと仲間を連れて行ってはそれこそ警戒されて攻撃されるかもしれない。


 村長に渡された地図を頼りに歩いた、ほんの一時間。

 あっという間に島へ着き、桃子は単身、鬼の住処に乗り込んだのだった。




「すみませーん!どなたかいませんかー!」


 大きな門の前で声を張り上げた。

 桃子の住んでいたあばら家とは違い、頑丈に作られた建物は、さながらお城のようだった。


 こんな良いところに住むなんて。

 金銀財宝を奪って歩いているの?!


 きょろきょろと辺りを見回していたが、がちゃりと重々しい錠の音がして、桃子は顔を引き締めた。

 門がゆっくりと開く。


 怖い。

 知らず刀を持つ手に力が入る。

 話をしにきたはいいが、そもそも言葉が通じるのか。それすら聞かなかった。

 開くなり殺されるのは嫌……!


 ぎゅっと瞑った桃子だったが、予想外の言葉に面食らうことになる。


「ようこそー!お待ちしておりました!」


 出迎えてくれたのは、ちくちく頭の人間で。

 しかもにこにこと愛想の良い笑顔付き。


「え……?にん、げん?」


 ぽかんと口を開ける桃子に、ちくちく頭は、やだなーとこれまた愛想良く頭を下げた。


「ここにあるでしょう、角」


 ちょこんと頭のてっぺんに生えた角を見せられる。

 確かにある。

 すっごく小さいけど!


「ささっ、お疲れでしょう。どうぞこちらへ。お部屋も準備させていただいておりますよ」


 そうして通された綺麗に整えられた部屋。

 花瓶に花まで生けられている。

 用意されたお茶には小さな花が浮かべられ、お茶請けのお菓子も女子受けしそうな甘い砂糖菓子。

 人間のような鬼の登場で恐怖心が薄れた桃子は小さな歓声を上げた。


「わぁ!」

「お気に召していただけたようで、嬉しい限りです。この島の主人、鬼丸様がお呼びになるまでしばらくお寛ぎください」


 終始にこやかに、ちくちく頭の鬼は退出して行った。

 綺麗な部屋に桃子が一人残されて。

 再び恐怖心が膨れ上がった。

 持ってきた刀はいつの間にか手元にはない。

 荷物を持ってくれるというからちくちく頭に渡してしまい、そのまま返ってこなかった。


 なんでこんなに歓迎ムードなの?おかしいよね。

 用意された部屋といい、ちくちく頭の態度といい、わけがわからない。


 は!私、ご飯なの?もしかして自らやってきた美味しそうな餌なの?!

 そうだとすれば、歓迎ムードも頷けるものだ。

 桃子は、鬼の親玉──さきほどのちくちく頭は、鬼丸様と呼んだ──からの呼び出しを涙を堪えて待つ。

 その時間はとてつもなく長い時間に感じた。




 そうして、鬼丸からの呼び出しがかかる。

 先程案内をしてくれたちくちく頭の鬼に連れられて、鬼丸が待っているという部屋に到着した。

 す、と襖のように開けられた大広間の最奥に、彼はいた。

 部屋の両側にはずらっと角の小さい鬼が控えている。

 ちくちく頭の指示のもと、恐る恐る中央まで進み出て、そこで座った。



 ややあって降る、凛とした声。


「人間の小娘が一人、単身で我が城へ来るとは、誉めてつかわそう」


 ちくちく頭の鬼とは比較にならないほど大きく立派な角を持つ、長髪の。

 黒い衣服を身に纏い、口の端を上げて笑う、その美形。


 桃子は目を瞠った。

 こんな美しい人見たことない!

 人じゃないけど!


 鬼丸の顔面に怖気付きそうになるも、桃子は使命を果たそうと言葉を絞り出した。


「あの!私は、ここへ話に来たのです!どうか私の村で悪さをするのはやめていただけないでしょうか……!」


 勇気を振り絞った言葉に、鬼丸はやや停止して、それから眉を寄せた。


「悪さ、とは?」

「ええ?」


 逆に質されて桃子は慌てる。

 そういえば村長に詳細な話を聞くのを忘れてたんだった。

 桃子は人差し指を顎に当て、首を捻った。


「……金銀財宝を奪ったり人間を襲ったり家畜を荒らしたり、かな?」

「そのようなこと、したこともなければしたいとも思わん」

「へ?」


 鬼丸の返答に桃子はぽかんと口を開けた。

 横に控える鬼たちも、そうだそうだと口を出す。


「でも!このお城すごく立派だし!」

「それは小鬼たちが働いて稼いできてくれたからだ。俺たちは身体が人間より丈夫にできているのでな、少し危険な給金の高い仕事も苦にはならん。小鬼の角は小さいし帽子を被れば人間に混ざっても気づかれんしな」


 働き者の鬼なんですね……。

 鬼のイメージからはかけ離れた実態に桃子は床に手をついた。

 なんだか疲れるな。


「じゃあ、悪さって言われることは何もないん、ですか?」


 桃子は鬼丸の顔を見て、それから両側に控える小鬼を見渡す。

 目が合ったちくちく頭は、頬を掻きながら、あえて言うなら、と手を上げた。


「鬼丸様が結婚適齢期のため、道行く女性に声を掛けて幾人かこの城まで連れてきたことはありますね。門を見るなり青ざめて踵を返してしまう方々ばかりでしたけど。鬼として村人と会ったのはそれくらいでしょうか」


 本当に花嫁を探してまして、と困ったような顔でちくちく頭の小鬼は言う。


 ナンパってこと?

 悪さって……これ?


 しょうもない出来事に桃子はただただ絶句した。

 拍子抜けして、近づいてきた鬼丸にも気付かなかったほどだ。

 声を掛けられ、ようやく気付く。


「ところでお主……、旨そうな匂いがするな?」


 すぐそばで見る鬼丸は、無表情で。

 桃子は震え上がった。

 やっぱり鬼だもん。人間を食べるんだ……!


 鬼丸の手が桃子目掛けて伸び──。

 長くて骨張った指が掴んだのは、お婆さんが持たせてくれたおにぎりときびだんごが入った袋。

 それを桃子の目の前に掲げた。

 桃子の目は点になる。


「そ、そ、そんなものでよろしければ、どうぞ」


 桃子の了承を得て、鬼丸は袋を開けて中身を取り出した。

 美味しそうな匂いは、おにぎりだったろう。

 桃子もときどき気になっていた。

 きびだんごからは匂いはしないし。

 鬼丸は微かに目を細めて、おにぎりではなくきびだんごを手に取った。


「これは──」


 両脇に控えていた小鬼も騒めきだす。

 鬼丸はそれを口に入れ、何度か咀嚼して飲み込んだ。


 桃子は驚愕した。

 食べ終えた鬼丸はなんとぺそぺそと涙を流し始めたのだ。


 ええ?!何、なんなの?!

 慌てる桃子を余所に、周りのお付きの小鬼までハンカチで目を覆う始末。


「刀だけでなく!これは、鬼丸様……よかったでございますねぇ……!ようやく伴侶が見つかりまして!」

「は、はんりょ?!」


 なんなの、どういうことなの。

 桃子は慌てて声を上げる。

 大歓声で喜ぶ小鬼たちの中、一人取り残されてあたふたと戸惑った。

 自分の知らない事があると感じたのだ。


「…………お主、もしや、知らずに来たのか?」


 怪訝な顔の鬼丸に、桃子は慌てて首を縦に振る。

 なにがなんだかさっぱりわからない!


「お主が持参してきたきびだんごには、生涯仲間でいる、つまりは添い遂げようという意味。そして錆びた刀は互いに傷つけないという意味がある。結婚するときに相手へと持っていく、古くからの風習だ」


 聞いたことのない風習だったが、人との交流がなかった桃子には仕方のないことだった。


「でもそれは私が用意したものじゃ……!」


 その二つは村長から渡されたものだ。

 古くからある風習なら、村長が知らないはずはない。

 桃子の慌てる様子に、鬼丸は鼻を啜った。


「……俺が花嫁を本気で探していると伝わったのであろうな、村長から提案があってな。似合いの娘を一人寄越すから、他の者には手を出さんでくれと」


 鬼丸はすっと桃子を指す。

 それが桃子だとそういうことだ。


 つまりは村長に諮られたのだ。

 厄介払いだったのかもしれない。

 人身御供のようなものだったのかもしれない。

 もしくはほんとにただお節介なお見合いの仲介だったのかもしれない。

 真意はわからないが、村長が置いて行った品は戦うためのものではなく、ただの持参金のようなものだった。


「お主が桃子、だろう?お主が……力が強いということは、その村長に聞いて知っている。けれど、俺は鬼だ。お主の、たかだか人間の小娘の力ぐらいではやられん。……大事にすると約束しよう。どうだ、俺の妻にならぬか」


 目にうっすら涙を浮かべ懇願する鬼丸に、桃子は不覚にもときめいた。

 美形の涙目なんて最高だわ。

 恐れる鬼の親玉でありながら子犬のような目つきというギャップもすごい。

 村長の策略やらお節介やらなんてすっかりと吹き飛んだ。


 元々村には居ても居なくても変わらない。

 人間に危害を加えない、美しい鬼の妻なら、それでもいいんじゃないかな。

 しかも、不気味がられた私の怪力を一つも怖がらず、あろうことか受け止めてくれるなんて。


 それに。

 角が生えた人型の──そう、魔王。

 美形の魔王だと思えば、ファンタジー要素の香りがしてテンションも上がる。


 人生初のプロポーズに、桃子は思いっきり鬼丸の手を握った。

 家の壁とは違い、びくともしないことに安堵しながら、小さく「はい、私で良ければ」と頷く。

 距離感を確かめ合うように互いにそっと背中へ回した手は、どちらとも少し震えていたが、見合わせた顔は照れながらも笑顔で。

 小鬼たちの歓声が城中に響き渡ったのだった。




 そうして、鬼の城へお爺さんお婆さんを呼び寄せて。

 鬼丸と桃子は末永く幸せに暮らしましたとさ。


本の中に転生して、日本昔話だったらテンション上がらないなって思って。

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