めめちゃんの話
めめちゃんの話をさせてください。
めめちゃんは、私の大切な人です。
めめちゃんは、私と一緒に住んでいます。
一緒に住んでいますが、家族ではありません。恋人でもありません。友達でもないかもしれません。
それでもめめちゃんが私にとって大切な人であることに変わりはないのです。
めめちゃんはいつも、私が一人ではどうしようもなくなってしまったときにそっと隣にいてくれます。
解決の手段を一緒に考えてくれたり、時にはおしゃべりをしながら作業をしたり、泣きじゃくる私の言葉に耳を傾けてくれたり、消えてしまいたくなった私をぎゅっと抱きしめてくれたりします。
「あなたが生きていてくれれば、それでいいのよ」、と。
そう言って優しく笑うめめちゃんに、何度命を救われてきたか、ちょっと数えるのは難しいでしょう。
なにせ私はとんだ死にたがり屋でした。
テストで点数が下がっては死にたがり。人に馬鹿にされては死にたがり。恋破れては死にたがり。
怒られては死にたがり悲しんでは死にたがり。
本当にくだらないことでさんざこの世の終わりのように嘆いたものでした。
それでもかならず、つらい苦しいと泣く私にめめちゃんは暖かに笑いながら言うのでした。
「あなたがいなくなったら寂しいわ」
こんなに優しく笑んでくれる人を寂しがらせてはいけないと、結局のところ私はいつも死ぬのを断念してしまいます。もしかしたらめめちゃんは、そう言えば私が死なないことをわかっているのかもしれません。
それでも良いのです。
めめちゃんが私を大切に思ってくれているなら、めめちゃんから扱いやすいやつだと思われていてもそれで良いのです。それが良いのです。
めめちゃんと一緒にいられるならそれでよくて、そうなっていれば幸せなのです。
「めめちゃん、大好き」
鏡越しにめめちゃんに言葉をかけます。ありったけの愛、ありったけの好きを言葉にします。
だって私はめめちゃんに、こうすることしかできないんです。
「ありがとう、私もよ」
鏡の中、私の口がめめちゃんの言葉を吐き出しました。
いつものように暖かに笑いながら、めめちゃんは私の口を借りて話します。
ねえ、改めてめめちゃんの話をさせてください。
めめちゃんは、私の大切な人です。
めめちゃんは、私の体に住んでいます。
一緒の家に住んでいますが、家族ではありません。恋人でもありません。友達でもないかもしれません。だってそれらはすべて、肉体を異にする相手と築く間柄だからです。
それでもめめちゃんが私にとって大切な人であることに変わりはないのです。
多重人格と呼ぶのでしょうか。はたまたイマジナリーフレンドと呼ぶのでしょうか。
いいえ、いいえ。
そんなありきたりの言葉で、私の大好きなめめちゃんは、語れやしないのです。