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54話・その人ならうちにおるよ

 今後どうしようかと言えばミハイロが昨晩、宿屋で聞き出したことを教えてくれた。俺はヌコライ大公爵という人のことを良く知らない。知っているのは父さんにとって従弟に当たると言うことと、彼の結婚式に出席する為に宮殿を出た父さんが行方不明になっているということだけ。

 目の前をロバに引かせた荷台が横切る。目の前で人参が一つ落っこちた。それを拾い上げて「落ちましたよ」と、ロバを引く人に声をかければその人は足を止めた。



「おばあさん?」

「あんた。この間の?」



 奇遇にも聖都であった行商のおばあさんに再会した。



「おばあさん、どうしてここに? 行商の方は?」

「うちで取れた農作物を大公爵さまのお屋敷で全てお買い上げ下さることになってね」



 そのおかげで行商に行くことが出来なくなったのさとおばあさんは苦笑を浮かべた。聖都で会った時は買ってくれる人が待ってくれているから頑張って売りに来れると言っていた気がする。


「あれ? でも、おばあさんはトルフに住んでいたよね?」


 トルフは聖都の外れにある。聖都と大公爵領との間にあるけれど、トルフからわざわざここまで引いてきたと言うこと?



「そうだよ。今までは聖都に向かっていたんだけど、今は大公爵さまのもとへ向かっているのさ」

「大変だねぇ」

「本当は聖都にも売りに行きたいんだけど、わしらが住む一帯の村の者は、全て大公爵さまのもとへ治めることが決められてしまってね」



 その言葉にミハイロ達と顔を見合わせあった。これは密偵の報告していた食料の買い占め?



「そうなんだ。おばあさんの行商を楽しみにしていた聖都の皆はがっかりするね」

「心苦しいんだけど、村長が決めたことだから逆らう訳にはいかなくてね」



 ポクポクとロバの進める足音に、おばあさんの言葉が落ちた。



「それよりあんたはどうしてここに来たんだい?」

「俺のお父さんがここに来て行方不明なんだ。俺と同じような瞳をしているんだけど、おばあさんは何か知らないかい?」



 前髪を上げて見せるとおばあさんは息を飲んだ。



「あんた……!」

「あ。ごめんね。いきなりで驚いたよね?」



 苦笑するとおばあさんに思ってもみなかったことを言われた。



「その人ならうちにおるよ」

「えっ? 本当?」

「嘘は言わねぇ。でも、ちょっと待ってて。ここいてね。これを納めてくるから」

いつの間にか大公爵邸前に来ていたようだ。おばあさんはそう言うと、ロバに引かせた荷台と共に中に入っていった。

「うわあ。何かここ嫌な気配がする」

「おい、レナ」



 胸元からマダレナがひょっこり顔を覗かせる。止めようとしたら大丈夫だってば。と、反論が返ってきた。



「何か隠れていそうですね」

「不穏な気配がするな」



 ミハイロとダニールが言う。皆も嫌な気配を屋敷から感じ取ったようだ。しばらくしておばあさんが屋敷から出て来た。


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