39話・姉ジュアンヌ
馬車からおりると真っ白な外観に圧倒された。胸に押郷愁のような何とも言えない思いがこみ上げてくる。どこかで嗅いだような大地や、木々の緑の香りを乗せた風が懐かしいような気にさせられた。
「ここでアフォン、おまえは産まれた」
「立派なお城ねぇ」
お父さんの告白に暢気なマダレナが反応する。中へと促された時に、清楚な感じの女性が後ろにずらりと使用人達を侍らせて現れた。
お父さんが知らせを送っていたらしい。その先頭に立つ清楚な女性がなんとドレスの裾を持ち上げてこちらに向けて駆けてきた。
ミモザ色をした髪に、エメラルドグリーン色の瞳。話に聞いていたとおりだ。俺よりも四歳年上の姉に違いない。彼女は皇帝に抱きついた。
「お父さま。お帰りなさい」
「こらこら許婚もいて、来年には婚礼をあげる身の上なのに落ち着きがなさ過ぎるぞ」
「だって十八年間、捜し求めていた弟が見付かったのよ。じっとしてなんかいられないわ。お父さま、そちらがそうなのでしょう? 早く紹介して」
清楚な彼女はこちらに期待の目を向けてきた。
「アフォン。これはおまえの姉、ジュアンヌだ。ジュアンヌ、アフォンが……」
「あなたが私の弟なのね? 会いたかったわ」
お父さんの紹介を最後まで聞くまでもなく彼女は俺を抱きしめてきた。
「お父さまに良く似ているわ。お母さまもご存命だったらどんないお喜びになられたことか……さあ、中に入りましょう。私が、いえ、お姉さまが案内してあげるわ」
ジュアンヌは中に入りましょうと手を繋いできた。もう十八才になるのに異性と手を握ったこともない俺は抵抗があったが従った。
亡き母親のことはここに来るまでの間に、お父さんから聞かされていた。お母さんは俺が攫われてからそのことで自分を責め続けて数年前に亡くなってしまったと。最期まで俺のことを気にかけていたらしかった。
その母に外見が良く似ていると言われるのがこの姉のジュアンヌで俺より四歳年上。本来、世継ぎであったはずの俺が攫われたことで彼女は数年後、皇太子となった。
俺が攫われて消沈する皇妃を前にして、煩い親父どもは側妃を設けて皇子を産ませてはどうかと、自分の娘を勧めてくる始末。それを快く思わなかったお父さんはジュアンヌを後継者にした経緯があったらしい。
その辺りはシーメルさんから聞いた。その姉に手を引かれて幼子に戻ったような気がして気恥ずかしかった。
「緊張してる? そう堅くならないで。お父さま、宰相らが執務室でお待ちでしてよ。アフォンのことは私に任せて」
父は姉に俺を取られて形で渋々執務室に向かったようだ。十八年間、身近な女性と言えばマダレナや女性神官のみでそれ以外の女性とあまり交流したことのない俺は、どう反応して良いのか分からない。
頼みのマダレナは周囲の目を気にしてか大人しくパペットになりきり中。
「ここは食堂よ。あとで案内させるわね。ここを真っ直ぐ行くと武器庫に馬房。騎士舎があるわ。そして二階にあなたの部屋があるわ。お父さまの部屋や、私の部屋の近くよ」




