32話・大神官登場!
「アフォン君!」
「ミハイロさん、ダニールさん」
はあはあ、息を切らして登場したのは強面二人組。聖殿で聖騎士よりも頼もしいと称される腕っ節の強いミハイロと、正義心の塊であるダイールさんだった。二人とも巡礼の際は旅装をしているので、受付のお姉さんにはならず者と勘違いされたようだ。
二人は大神官さまのお供で巡礼についていたはず。それがここにいると言うことは?
「おっほっほ。お邪魔しますぞ」
二人の後から好々爺のお爺さんが現れた。笑い方がどことなくマダレナに似ている。いや、マダレナがこの人に似ていると言うべきか。
「大神官さま」
「おじいちゃん!」
俺とマダレナの声が重なる。
「おや、面妖な姿をしておる。わしの孫娘はどこぞの呪いでも被ったのかな?」
「違うわ。これはその……」
大神官のじいちゃんはパペット姿を見てマダレナだと見破った。実はマダレナは大神官の実の孫娘だったりする。それは聖殿内で秘されていることだけど。
それを知らなかったキリルや、イギアル王子は今頃、あわ食っているかも知れない。孫娘を偽聖女として追い出した王子のことを大神官がよく思うはずも無いから。
「これはアキーム大神官殿。お久しぶりです」
「……!」
大神官はベルリアン帝国の皇帝がこの場にいて驚いただろうが、皇帝が眼帯を外して両眼を晒していたのでそれで大体の事情を察したようだった。
「ベルリアン皇帝陛下。あなたさまがアフォンの父君でしたか」
「余はずっとこの子を捜していた。無事に保護してここまで立派に育ててくれたこと感謝する」
「恐れ多いことでございます。アフォン、良かったですね。お父さまに会えて」
「はい」
俺が実の親を恋しく思っていたのは側で見守っていてくれたアキーム大神官が良く知っていた。
「アフォン君のお父上がベルリアン帝国の皇帝陛下?!」
この場に乗り込んできたミハイロとダニールは慌てて跪いて失礼を詫びた。
「皇帝陛下の御前を騒がせて申しわけありませんでした」
「知らなかったとはいえ、失礼致しました」
処罰はどのようにでもと潔く受け止めようとする二人を見て皇帝である父は止めた。
「十八年間、捜し続けてきた息子との対面を邪魔されて面白くない気持ちはあるが、この場にいる余は非公式でこの国を訪れている。貴殿らのことを問えない。でも、お礼を言わせてもらおう。今まで息子を慈しんで育ててくれてありがとう。そのようにここに乗り込んできてくれたということは息子の身を案じてのことだろう?」
「はい」
「これからも息子のことを宜しく頼む」
「は、ははっ」
父が二人に頭を下げると、二人はもちろんのこと皆が驚いていた。その脇では大神官がシーメルからマダレナを取り上げて「この馬鹿娘めが」と、叱責していた。
「あんな頭の足りん娘が出て来て驚いて自分に術をかけてしまっただと? まだまだ修行が足らんな」
「おじいちゃん。解除の呪文教えて下さい。てへっ」
「何がてへっだ。しばらくそのままの姿でおれ」
「ふぇええん」
可愛いパペット姿のマダレナに、大神官は容赦しなかった。聖殿でも大体、二人の仲はこんな感じだった。大神官はマダレナが孫娘だからと甘やかすことはなかった。彼女に自分と同じように厳しい修行を課してきた。マダレナは適度にサボりがちで、それが申し訳なくて彼女の代わりにいつも大神官の課す修行に真面目に取り組んでいたのは俺の方だった。




