31話・聖剣の秘密
「あれ? でもユカって女は勝手に入ってきてなかった?」
「あの人は異世界人だからこの世の理からは簡単に外れられるのよ。あの時はいきなりでわたしもビックリしたわ。だから慌てちゃってこんな姿になっちゃったけど」
マダレナの話通りだとすると、ユカが乗り込んでくることはあり得なくないかと思ったら、聖女の結界は異世界人には利かないものらしい。あの女は規格外ってことか? キリルは元々聖騎士だし、結界に閉め出されることはなかったようだ。
「マダレナさま。あなたさまが結界を強化して下さったおかげでアフォンの身は守られていたのですよ。感謝します」
「ありがとうな。レナ。今まで親に捨てられていたと思っていたから、お父さんがこうして十八年間も捜し続けていたと知れて俺は嬉しい」
マダレナが不審な者が聖殿に入れないようにしてくれていたから結果的に俺の身は守られていたのだ。俺の素性を知り、邪魔に思うものが命を狙っていたとしてもおかしくはないのにこうして無事に生きてこられた。
シーメルの言うとおりだ。俺はシーメルに同意した。それに有り難くも自分は両親にとっていらない子じゃなかった。必要とされていた。その思いが胸に満ちて情けなくも視界を歪ませる。
頭上から「おまえは愛する我が子だ」と声が落ちてきて頬を熱い滴が伝っていた。シーメルは男泣きに泣き、マダレナは再びぐすぐす鼻をすすり上げた。しばらくしてシーメルが声をあげた。
「でもこれからどうなさいますか? 陛下」
「そうだなぁ。余としてはアフォンをこのまま連れ帰りたいが本人の意志もあるだろうし」
俺は神官ではなくなったので、ギルド所長のシーメルさんが許可してくれるなら自分が生まれた国に行ってみたい気持ちもある。そう思いながらシーメルの方を見てマダレナと目が合った。
────マダレナをこのままにはしておけない。
「俺はお父さんと一緒に行きたいです。でも、マダレナを置いては行けない。彼女も連れて行って良いですか?」
「勿論だよ。おまえが勇者として覚醒したのは聖女さまのお力添えもあるからね」
「お父さんまで何を言うの? 俺が勇者だなんて。まさか聖剣引き抜いたからだなんて言わないよね? あれはたまたま……」
「たまたまじゃない。あの剣は勇者だったご先祖さまが残した遺品で勇者の血を引く一族の中でも、直系の者にしか抜けない物なんだ。自分達は成人の儀式で身の証を立てるために聖剣を抜いてみせるが、その剣が所有者を選んだことは余の覚えている限りでは一度もない」
「えっ? じゃあ、聖剣を引き抜いた後、聖剣はどうしていたの?」
「戻っていたよ」
「……? 洞窟の壁に?」
「ああ。あの洞窟は皇族の成人式が行われるときは通行止めになるからな」
なんで聖剣エクスカリバーよ。俺の元に来た? 厄介事にしか思えない。でも、その聖剣を携えることで俺がベルリアン皇帝の血を引いていることを示しているとも分かり複雑な思いだ。お父さんはそれはおまえの物になったから返さなくて良いぞとニコニコして言うが、それで良いの?
そこへドドドドッと連打のノック音がしてドアの外から「大変です!」と、受付嬢の声がした。
「どうした?」
シーメルが声をかけると受付嬢が中に入ってきてドアを塞ぐように立ちはだかる。そのドア越しにドドドッと叩く音や「ここで匿っているのは分かっています」「速やかに出しなさい!」「アフォン君はどこですか?」と、憤りを含む声が聞こえてきた。しかもその声には聞き覚えがあるような気がする。
「あの、見るからに怪しそうな人相の悪い二人組が突然押し寄せてきてアフォン君に会わせろと言うので今、所長に確認してくるのでお待ち下さいと申し上げたのですが全然、話を聞いてくれそうになく……」
ぷるぷる震えながら受付嬢が助けを乞うような目で見てきた。
「早く出しなさい!」
「アフォン君! アフォン君いるのでしょう?」
受付嬢は泣きそうになっていた。ドアの向こう側から激高する声が響いている。
「アフォン。知り合いなのか?」
「はい。良く知っています」
皇帝の問いかけと俺の答えと、ドアが開いたのは一緒だった。




