23話・あいつが来るぞ!
「近づいちゃ駄目よ。あっくん!」
揺れが収まった後、大きく裂けた大地の切れ目が気になって近づいて見ようとしたらマダレナに止められた。
「何かせり上がってくるわ! 下がってっ」
また地鳴りのようなゴゴゴゴゴッと大きな音がして今度は横に大地が揺れた。すると割れた大地から何かが顔を覗かせ、ゆっくりと上昇してくる。それは何かの要塞にも思えるが大きな壁で囲われた建造物のようにも思えた。
「なんだ? あれ?」
「ダンジョンかしら? 迷路の形をしているわね」
「ダンジョン? 魔物が潜んでいる? あれって地下牢のことじゃ?」
「誰かが攻略中に何か変な仕掛けでも押して地上に浮上しちゃったんじゃない?」
訳知り顔でマダレナが頷く。地下にあったダンジョンに挑んだ誰か冒険者が、罠にはまったということか? 無事でいてくれたなら良いけれど。
地上に姿を現した巨大な建造物の壁の内部から「おい、何が起こってる?」「揺れが止まった?」「何か変だぞ」と、男性数名の声がした。このダンジョンに挑んでいた冒険者達かも知れなかった。
今日はこのダンジョンに挑んでいる男達が出てくるのを待って、その成果を審査してギルドに報告をあげれば良いかなどと暢気に考えていた所に、「うわあっ」と、悲鳴のような声が上がった。
「うわああああっ。でっ、出たぁ~!」
「こっち来るなぁっ」
「化け物っ。向こう行けぇ!!」
男達の恐怖の声が聞こえてくる。マダレナと顔を見合わせると「止めろ──っ」と、いう悲痛な声が聞こえてきた。
「助けてくれ──」
「誰か──っ」
声を聞くに尋常でない様子だ。何かこの迷路の中で男達の身に何か良くないことが起こっているのだ。
「レナっ。皆を助けないと」
「あっくん! わたしを装着してっ」
「了解!」
急いで白猫熊のパペットを左手にはめると、左手に熱い熱量が集まって来るのを感じる。パペットと左手が一体化して一つになれたと思ったら突如、周囲に雷鳴が鳴り響き、天に向けて左手を挙げていた。その手が迷路へと向けられる。
「行くよ、あっちゃん。聖獣破!!」
マダレナがクワッと大きく口を開けた。目映い閃光が一直線に飛び出していく。勢いよくそれは迷路の壁にぶち当たり、メリメリと容赦なく壁を突き破った。
「突破!!」
迷路がさっくり割れた。真ん中に道が出来る。迷路の中を彷徨っていたらしい男達がわらわらと出て来た。何かから回避するように慌てている。
「助かった。良かった」
「あいつはやばい!」
「あんた。何してる? 早く逃げろっ」
迷路から逃げ出してきた男の一人が俺に気がつき声をかけてきた。誰もこの迷路を破壊したのは俺たちの仕業だと思ってない様子だ。男は走り去りながら言った。
「あいつが来るぞ!」
「あいつ?」
皆が我先にと一目散に逃げ去り、すぐに辺りは静まりかえった。逃げ出した男が言った「あいつ」が気になってその場に留まる。




