22話・不安しかない
「アフ──っ」
「シー?」
翌日。昨日親しくなったばかりのシナンが訪ねて来た。彼の背後には護衛らしき者が二名ついていて、やっぱりお育ちの良いどこかの子息なのだと察した。
「昨日はありがとう。母上さまに喜んでもらえたよ。こんなに沢山どうやって摘んだのかと聞かれたからアフのこと話したんだ。そしたらこれをお礼に持って行きなさいって」
「いいの?」
シナンはバスケット一杯の菓子を持参していてそれを持ち上げて見せた。
「ありがとう。皆で頂くよ」
籠を受け取り、たった今出て来たギルドに向かって引き返そうとしたらその腕を止められた。
「これは君の分だよ」
「……?」
「ギルドの方には別に菓子折を持参してお渡ししてありますので」
護衛の一人が教えてくれた。
「何かすみません」
「いいえ。シナンさまには同世代のご友人がいないのであなたさまと出会って大層、嬉しかったようです」
気を遣わせてしまったようで申し訳ないと言えば、逆に今後も宜しくお願いしますと護衛達から頭を下げられて恐縮した。
「これからアフは仕事?」
「うん」
「今日はお礼に来たんだ。今度また仕事が終わったくらいに訪ねてくるね」
「あ。シー。俺ギルドの近くの小麦亭で寝泊まりしているから何か用があったら今度そっちに連絡してきて」
「分かった。ありがとう。じゃあ、アフ。またね」
シナンはお礼に来たと言い、俺の仕事に邪魔にならないようにまた出直してくると言ってくれたので、滞在先を伝えることにした。
シナンは手を振り去って行く。その後を護衛二人が一礼して追っていった。いつまでも彼の後ろ姿を見送っていたら、いつのまにか隣に来ていたシーメルに肩を軽く叩かれた。
「良い子だよな。いつの間に彼と親しくなったんだい? アフォン」
「シーメルさん。彼のこと知っているんですか?」
「知っているも何も……」
何だろう? シナンは有名人なのかな? シーメルは口を噤んだ。
「まあ、そのうち相手から教えてもらえるんじゃないか?」
それまで待てとシーメルは言いたそうだったので追及するのは止めた。
そしていつものごとく冒険者の審査に向かい、とんでもないことに巻き込まれようとは夢にも思わなかった。
今日は普段潜んでいる森から少し足を伸ばし、原っぱを抜けて国境付近の林に向かってみようと思っていた。それが広い原っぱを抜けてから妙な胸騒ぎがするのだ。そわそわして言い知れようのない不安のような、恐れのような説明のつかない胸騒ぎのような落ち着かない気にさせられる。
────一体、どうしたってんだろう?
こんなの生まれて初めての経験だ。出来ることならこの場からすぐにでも去りたいような気にさせられた。何かがここにはある。何だろう? 不安しかない。
するとドドドドドッドドドッドと地鳴りがしたと思ったら、大きく足下の大地が突き上げるように縦揺れに揺れた。異様だ。
目の前の大地にひび割れのようなものが幾つも走り、それがある一点でスパッと大きく左右に分かれた。大地が割れたのだ。パックリと口を開けた大地から覗くのは黒い闇で、そこに何かが隠されてでもいそうだ。
「あれは?」




