21話・我々は駆け落ちしたことになっていました
「それは王都では有名な話なのですか?」
聖女についての噂というと、もしかしたら自分達のありもしない仲についてだろうかと不安が過ぎった。そしてそれがまことしやかに噂として流れていたとしたらマダレナさまにとってとんでもない不評となる。
「……いいや。王都では出回っていないし一部の関係者の間だけだ。きみが神官をしていたと聞き、思わず口にしてしまったが口外しないでくれると助かる」
「大丈夫ですよ。私には親しい友人もいませんし、そこまで語り合えるような仲の者もいませんから」
自分で言っていて空しくなってきた。以前はイギアル王子という友人がいたはずなのに、それは幻だったのだから。
「マダレナさまが親しくしていた従者と駆け落ちをしていなくなったと、彼女の許婚であるイギアル殿下が言い出して、いなくなった聖女の代わりに後任として自分の恋人を押しているという話だ」
「それはないですよねぇ」
「きみはマダレナさまのことを知っているかい?」
「知っていますよ。いつも国の平和を願い、皆のために幸せを願っていた頑張り屋な御方です。男性と駆け落ちするようなふしだらな御方ではありません」
「そうだよな。私も直接お会いしたことはないけれど、母上さまに聞く聖女さまは姿が綺麗なだけではなくその心根も美しい御方だと聞いている。そんなことはあり得ないと思っているのだが」
「良かったです。一人でもマダレナさまの事を信じて下さる御方がいて」
皆が皆、イギアル殿下の言い分を全面的に信じているわけではないと知れて心強く思った。胸元のパペットに服の上から触れると、シナンがじっとこちらを見ていた。
「きみ……」
「あっ。シナンさま。そこに思い出草が!」
「えっ? 嘘?」
シナンの足下で紫色が揺れていた。まずは一本発見だ。その後、次々と発見して日が傾く頃には花束に出来るぐらいの思い出草を収穫していた。
「ありがとう。きみのおかげだ」
「いいえ。シナンさまが必死に探したからですよ。お母さまが喜んで下さるといいですね」
俺の言葉にシナンは照れくさそうに微笑む。彼の詰んだ花束を見たらどんなに母親は喜んでくれることだろう。自分には母親がいないがその様子を想像して羨ましく思った。
「これ、きみにやるよ。約束だっただろう?」
そういって彼が差し出して来たのは花束の半分だった。
「こんなには受け取れません」
「二人の共同作業だったんだ。これは報酬の半分だよ」
そう言って押しつけられる。花束に戸惑っているとふいに聞かれた。
「そろそろ帰らないとな。アフォン。きみはいつもここにいる?」
「え? まあ、しばらくはそうなるかと……」
「きみのことこれからアフと呼んでも良い? 私のことはシーと呼んで」
「はい。構いませんけど」
「じゃあね、アフ。また来るね」
バイバイと手を振ってシナンは帰って行った。夕焼けを背にしたシナンを呆気にとられて見送っていると、ひょっこりパペットが顔を出す。
「あっくん。お友達が出来たわね」
「友達? あれは違いますよ。ただ親しくなったってだけで……」
「もう、妬けちゃう。愛称呼びまでしちゃって」
「……!」
イギアル王子の時には、望んでいても出来なかったことがこんなにも簡単にできてしまうだなんて思いもしなかった。
「これもあなたのお得意の何かのご縁よね。良かったわね。あの子はあの馬鹿王子とは違って誠実だと思うわ」
「そう言えば、レナ」
「なあに?」
「彼の話を聞いていて思ったのですが誤解されたままで良いのですか? 我々は駆け落ちしたことになっていたようですが?」
「……多分、大丈夫じゃないかしら?」
「いやいや大丈夫じゃないでしょう。大神官さまが心配されているような気がします」
誤解の種は取り除いていた方がと言えば、そうねぇとマダレナは言った。
「大神官さまにはお知らせだけはしておいた方がいいわよね。あっくん、知らせてくれる? 私はこんな姿でお手紙は書けないから」
取りあえずその晩、大神官さまにあててイギアル王子に聖殿を追われたことや、マダレナがパペットになってしまった経緯をと現在自分達の状況を記した手紙を書いて急ぎ聖魔法で飛ばすことにした。




