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18話・シーメルの事情


「シーメル。何か進展があったか?」

「難しいですね。皇帝陛下。あれから十八年も経っていますから」



 シーメルはギルドの所長室に掲げられている魔法の鏡に向かって話しかけていた。鏡は魔法の通信器具で高級品だ。まだこの国には出回っていない。

 その鏡には雄々しい容貌をした眼帯姿の男が映っている。年の頃はシーメルとそう変わらない中年の男で、この国より遙か遠くにあるベルリアン帝国の皇帝スィンザだ。

皇帝は深くため息を漏らした。


「あれが昨晩も夢に出て来て、私の大事なあの子はどこにいるの? 早く捜してと嘆くのだ。それが悲痛な様子でな」


  皇帝陛下は数年前に皇妃を喪っていた。皇妃は十八年前、生まれたばかりの皇子を攫われたことで深い悲しみに苛まれて自分を責めて亡くなったのだ。

  皇帝は方々に手を回して皇子の行方を捜した。しかし、何の手がかりも得ず捜査は難航している。

シーメルは皇帝の命を受け、ギルドの所長という立場を隠れ蓑にしてこの国に潜り込んでいた。シーメルは皇妃の実兄でもある。皇子がいなくなったのには、このリシャール国王の寵妃が絡んでいるとみて間違いないと思っていた。



「忌々しいあの女について何か分かったか?」

「残念ながら何も手がかりがありません。あの後、ポリーナはこの国にきて出産し、その後姿をくらましたようなので」



 ポリーナとはシーメルや、妹の亡き皇妃にとっては害でしかない存在だった。母親の葬儀の後、屋敷に乗り込んできた娘は、自分はこの屋敷の侯爵の娘ポリーナだと名乗り、それを知らなかったシーメル兄妹は困惑した。父親に確認をとると、娼婦に産ませた娘だと認めた。

 母親が亡くなり頼れるのは父親しかいないと言うので父が彼女を引き取る形で同居が始まった。


 生まれながらの貴族である自分達とは違い、礼儀一つなっていない彼女は、侯爵の娘であるというプライドだけは高かった。父親がこれからの事を考え彼女のために養育係や、躾ける為にマナー教師をつけたのに勉強を嫌がり教師らには逆らってばかりいた。

 それなのに娼婦の血か、一歩屋敷から出ると誰かしら男性を誑かすのはお得意のもので、必ず屋敷にはポリーナに会いに男達がやってくるようになっていた。


 でもポリーナはそれに満足しなかったようだ。シーメルの実妹の許婚を狙うようになった。シーメルの妹は皇帝と婚約していたので自分が成り代わろうとしたのだろう。

 しかし皇帝は馴れ馴れしいポリーナの態度を嫌悪した。そのうち何かしらやらかすと思っていたが、皇帝と妹の婚約パーティーの場で取り巻きの男達と共に姿を見せて妹に虐められていたと虚言を吐き、皇帝の怒りを買って取り巻きの男らと一緒に処分が下った。


 ポリーナは国外追放され、これで厄介者と縁が切れたと思っていたが、しぶとく彼女は遠く離れたリシャール国で王太子殿下に出会い、ちゃっかり数年後には寵妃の座に納まっていたようだ。

 皇妃の出産のお祝いに友好国である各国の代表が姿を見せた中に彼女がいて驚いたものだ。リシャール国の王太子殿下には、この国の皇妃が自分の姉なのだと言い、妹として一言お祝いを言いたいと言って同行してきたらしかった。


 本来、寵妃とは愛人のようなもので公の場に連れ出すことなどあってはならない。リシャール国の王太子は一度だけとポリーナに泣きつかれて同行させたらしい。しかも常識を疑うのだがポリーナはお腹が大きかった。妊娠中ならば尚更、長旅に連れ回す王太子の気が知れなかった。妻である王太子妃とは不仲だと聞いていたので、恐らくポリーナが二人の間に入って引っかき回したのだろうが。

 そのポリーナが姿を見せたことで嫌な予感しか無かった。



「あの女が産んだ王子が聖女と許婚だと聞いたが?」

「父親に良く似た顔だけ王子は、聖女さまとの婚約を勝手に破棄して別の女に夢中らしいです」

「父親が父親なら、子も子だな」

「ええ。あのポリーナの息子ですからね」

「また何か分かったら知らせをくれ。シーメル」

「了解です。あ、陛下。そういえば……」



 シーメルは気になったことを口にしていた。それに興味を示した皇帝がこの国をお忍びで訪れるのはそう遠くない日々になる。


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