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12話・希少キノコを生み出したのはわたしです


「危ないから隠れて……」

「あれぇ。この匂い。希少キノコじゃない?」



 パペットのレナがクンクン鼻先を動かす。



「マダレナさま……あ、いえレナは希少キノコの匂いが分かるのですか?」

「分かるよ。だってわたしがもともと希少キノコを生み出したようなものだもの」

「なんだって……?」



 マダレナとは長い付き合いだ。口から自然に飛び出した「マダレナさま」と、いう言葉にパペットが目を尖らせた(そのように見えた)ので慌てて言い直すとご機嫌な様子でレナが胸を張っていった。



「カーラが産後のダイエットに悩んでいたでしょう?」

「カーラさんですか? でも別に太ってはいなかったと思いますが? 綺麗な方ですよね? 太っていましたか?」

「あなたって駄目ね。全然気がついてなかったのね?」



 カーラとは女性神官だ。交際していた幼馴染みと長年の交際を経て結婚していた。この国では聖職者の婚姻は認められている。大概の女性達が結婚退職を望む中でカーラは珍しく、結婚後も仕事を続けたいと大神官さまにお願いし、産後の復帰も果たしていた。

 それにはレナの口添えもあったと言う。その彼女が太っていた? 想像もつかない。


「彼女の場合は産後のお腹が凹まなくて悩んでいたの。出産前の体型に戻らなくてご主人に愛想を尽かされたって泣いていたわ」


 男って駄目よね。女心を全然理解してないとパペットが激しくジャンプする。怒っているらしい。俺からみるとその仕草も可愛くて頬が緩んでしまう。



「あっくん。何笑ってるの? わたしは真剣に怒っているのよ」

「すみません。可愛すぎて」

「か、可愛い? わたしが?」

「はい」



 一気にパペットが動きを止めた。今までマダレナはあまり感情を露わにすることがなかった。元の姿は蜂蜜色の髪に薔薇色の瞳をしていたが切れ長の目つきをしていたので、人によっては受け取る印象が冷たく感じられていたのだ。

このように感情をぶつけてくること次第珍しい。姿が円らな瞳をしたパペットであることもあって怒っていても可愛いとしか思えなかった。


「レナは優しいですよね。一神官の悩みを聞いてあげてそれを解決してあげようとしたのでしょう?」


 レナは初めて会った時から大変聞き分けが良かった。我が儘も言わず、お世話係の俺の手を焼いたことは無かった。どこか人生を達観したような老成された何かがあった。そこが物足りなく思ってはいた。でも、自分にはある秘密を話してくれて共有していたことで他の人には言えないことを何でも話してくれるようにはなっていた。その彼女が自分だけにこうして感情をぶつけてくれるのが嬉しかった。



「そうよ。偉い? カーラの為に希少キノコを生み出して密かに栽培していたら、そのうち希少キノコを食べ続けていたカーラが綺麗になったと神官の仲間達の間で噂になって、希少キノコがそのうち口コミでどんどん知られるようになっちゃったの」

「偉いですよ。もう凄いです」

「本当? 嬉しい。って、あっくん! 向こうに魔獣がいる」



 マダレナを褒めると、照れていた彼女は異変を感じとったらしく真顔になった。「うわあああっ」と、いう悲鳴と共にどこからともなく血の匂いまでしてきた。


「誰か襲われているわ」


 もしかしたら先ほど声をかけてくれた冒険者のうちの誰かかも知れない。気になって悲鳴の上がった方へと駆け出した。


「この道を真っ直ぐよ!」


 マダレナが鼻をヒコヒコ動かして誘導する。しばらく走って向かった先に大熊の魔獣がいた。魔獣は二足歩行で立ち、腕に一人の男を引っさげていた。その魔獣を数名の男達が一定の距離を保ちながらも取り囲む。

恐らく今、聞こえた悲鳴は大熊の腕に下がっている男のものに違いなかった。周囲を取り囲むのはその仲間達のようだ。男は気を失っているのか身動きせず、大熊が大きく腕を振り上げたことで放り投げられて地面に強く叩き付けられていた。



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