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11話・パペットはちっとも大人しくしてくれない


「あの人の態度がそんなだから、特権階級を鼻にかけるキリルみたいなのが追従するのよ。大迷惑だったわ」


 パペットが腕組みしようとするが、腕の長さが足りなくてお腹の前で手を合せるくらいになっていて、それが滑稽に思えて可愛すぎた。

 それを見て笑いを漏らすと、「わたしの話を聞いてる?」と、憤慨される。



「聞いていましたよ。あなたさまが殿下をお好きでなかったのは分かりました。それとキリルの態度を面白く思ってなかったのも」

「それにね、わたしには好きな人いたんだからね。殿下との婚約は嫌だったわ」

「えっ? それは初耳です。誰ですか? そのお相手は? 俺の知っている人ですか?」

「誰にも言わなかったもの。でも、あなたが良く知る人かしら」



 パペットがこてんと首を傾げる。相手がもの凄く気になった。マダレナが六歳で聖殿に来てからずっと自分がお世話をしてきたのだ。その俺が気づけなかった相手って誰だ? 気になって仕方ない。



「誰ですか? それは。俺にも言えないことですか?」

「……」



 パペットは口を閉ざした。



「マダレナさま?」

「……」

「マダレナさまっ」

「……」

「マダレナさまってば」

「スー……」

「寝てる?」



 パペットに顔を寄せると静かな鼻息が聞こえてきた。マダレナさまに謎を残されて気になりつつも目を閉じ、いつの間にか寝入っていた。








 翌日。俺はシーメルから請け負ったミッションを遂行する為に森の中にいた。表向きは希少キノコを探すふりをしながらこの森を通る冒険者達を観察していたのだ。

希少キノコとは今大人気の食材で、体の老化や余計な脂肪を減らせるという効能が有り、若い女性や美食家、大食家に注目されていて、このキノコの粉末を食事の前に飲んでおけば太らないし、若返ると評判なのだそうだ。


 ギルドには難易度が低めのものから高いものへと依頼書のランク付けがされていて、初心者は難易度が低めの依頼から始めた方がいいとシーメルからアドバイスを受けていた為、俺は初心者らしく難易度が低めの食材探しをしている振りで審査に取りかかっていた。

 俺の胸には冒険者初心者を示す「双葉マーク」のバッチが輝いている。そのせいかここを通る冒険者達には励まされた。



「おっ。新入りか? 頑張れよ!」と、声をかけ手を振って去って行く者や、なかには何を探しているのか聞いてきて希少キノコを探していると言えば、「ここよりも湖の近い場所の方が見付かると思うよ」

と、親切にも教えてくれる者もいた。


冒険者達は皆、気さくだった。彼らには自分が審査をしているのは内緒だ。なるべく目立たないように彼らから距離を取って様子を窺う。

人の気配がなくなると胸元がごそごそと動いた。衣服の隙間からひょっこり白猫熊のパペットが顔を覗かせた。



「うわあ、マダレナさま。じっとしていて下さいよ」

「じっとなんてしていられないわ。窮屈なんだもの。あっくん。それにわたしのことはレナって呼ぶお約束よ」

「はいはい、レナ」



 パペットのふわふわな毛が胸元をくすぐる。もぞもぞ動かれてくすぐったい。少しは落ち着いて欲しいのにパペットのマダレナは、さっきからちっとも大人しくしてくれないのだ。そのおかげで実はヒヤヒヤしていた。

 マダレナのことは、シーメルと食事をしたときに捜索をお願いしていたが、本人がパペットになった事を明かせずそのままにしていた。マダレナからはこの事を二人の秘密にした方がいいと言われたからだ。他の人には内緒にしている。


その時にマダレナから愛称呼びを約束させられた。俺が「あっくん」マダレナが「レナ」だ。

 パペットとなったマダレナは、物珍しく思われて最悪攫われてどこぞに売り飛ばされるかも知れない危険性を孕んでいるのに本人にその危機感がなさ過ぎた。


マダレナは「大丈夫。人の気配がしたら、お口はチャック状態で人形のごとく大人しくしてるから」とは言うがなかなか大人しくしてくれるように思えなかった。ここは野外で誰が見ているか、聞いているか分からないってのに。


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