No.101-2-01 Moon Walk 01
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< Log name = Haruka >
さて、ここからはツアー客全員で集団行動。ホテルのロビーに集合した私たちは、期待に胸を膨らませていた。いよいよ月面デビューだ。アポロが月に来た時はダイレクトに着陸出来たのに、今は地下に降りちゃうもんだから、風情もへったくれもない。
ロビーに集まった五十名のツアー客の面々も国籍、年齢、仕事が全く違うけど、この時ばかりはみんなワクワクしているのがわかった。みんな好きなんだね、冒険が。
ガイドの女性がツアー客に向けて説明をする。
「みなさんお揃いですね。では移動します。メディアの方は撮影は許可が下りている場所のみとさせて頂きます。街頭での撮影や市民に話を聞く行為は禁止されていますのでご注意下さい」
結構厳しいもんだなと思った。メディアの人もブーブー文句を言っている。
不満を全く気にしていない女性スタッフは手元のタブレットを確認し、全員をチェックして、誘導を始めた。歩いて数分かかる場所まで、発光して光の筋が目印になるスティックを持ちながら先導する。着いた先はエレベーター。表示看板には「BUGGY STATION」と書かれれていた。
「はい、じゃあこちらに集まって下さい。これから月面バギーの体験を行って頂きます。こちらのエレベーターから地下一階まで直通ですので、順番に上がって下さい。そこで宇宙スーツを装着して頂きます」
宇宙スーツ! その途方もないワクワク感を呼び起こすワードに私の胸は高鳴っていた。しかも装着って。着るんじゃないの。装着なの。もう、そのSF感が堪らない!
そんなことを考えてにやにや笑みを放出していたら、タカに首根っこをつかまれエレベーターに乗せられた。
地下一階フロア。天井を隔て、その先はもう月の表面。直接宙を見ることができないので実感がないが、鼓動は高鳴りっぱなしだ。
フロアはバギーが多数並んでおり、まるで倉庫のような造り。一角には詰所だろうか、小屋が建っていた。さらに向こう百メートルくらい先だろうか、坂道が延びていて天井へとつながっているのが分かる。あそこから月面に出るんだ。
「ではこれから用意されている宇宙スーツを装着して頂き、班に分かれてバギーに乗車して頂きます。スーツには名前が表示されていますのでお間違い無く」
詰所からハンガーラックを引っ張ってくるオジサン。五十人分の宇宙スーツが一列にラックにかかっていた。
「ほらよ」
ぶっきら棒なオジサンはラックを置き去りに詰所に戻っていった。一人で着れるのかな?
ラックに吊るされている宇宙スーツの上には名前が立体表示されており、順にみていくと自分のを見つけた。
宇宙スーツは一体型で背中にジッパーがあり、腰の下まで開けられるタイプ。厚さは思ったほどなく、動きやすさを追求したのか膝肘は蛇腹状になっていた。
左手にはボタンが数種類あり、小さなモニタも搭載している。頭の円形のガラスがいかにも宇宙服って感じでテンションが上がる。
これが私の宇宙スーツ……。
ちゃんと着られるのか不安だったけど、難しいことは無く、ジッパーを開けた状態で足から入り腕を入れて、球体を頭に被せる。あとは左のボタンにクローズと表示があったのでそこをタップしたら自動的にジッパーがあがり、プシューっと自動で密閉してくれ、私の体にフィットするように調整された。ワオ。これは気分が上がる。
一体型の宇宙スーツを着終えた私はくるりと回ってポーズをとる。本来なら大きな鏡で自分を映し出したいところだが、そんなものないので脳内で補完する。
うん、宇宙キター!
なんかこの動きが制限されている感じ。このスーツに守られていないと、呼吸すらままならない場所。これからそんなところに行くんだ! なんて考えただけでテンションマックス!
「ねえねえ、みんな。似合う?」
ついつい高揚感を隠し切れず、みんなに聞いてしまった。すると、みんな同じ宇宙スーツの恰好で、こっちを振り返ったのが少しシュールで笑ってしまった。ん? タカ?
「う、うう」
「どうしたの? タカ、苦しいの?」
ナミが心配そうにしている。ふん。だらしない。あ、そういえばタカって……。
カ泣いてるんだ! あれー? どれどれ? あ、確実に泣いてるわ。どうしよう言い触らしたい! うん、でもやめておこう。気持ちは分かるもの。だってタカの夢って宇宙飛行士になることだから、感極まっちゃうのもわかるわ。仕方ない。みんなには黙っておこう。私もいいところがあるもんだ。ウンウン。あ、でも何か生意気なこと言ったら、この件をいじってやろう。ウンウン。
< Log name = Taka >
うう、やばい。気づかれちゃったかな? ついつい宇宙スーツを着て、感極まってしまった。でもみんな気づいてないようだ。良かった。ちょっと距離をとって体を動かしてごまかそうっと。
< Log name = Nami >
タカ、そんなに嬉しかったのね。月に来て本当に良かった。弟みたいな存在の幼馴染が感極まっているのを見ると、お姉ちゃん本当嬉しい。帰ったらおばあちゃんに報告してあげよう。
< Log name = Wren >
タカ先輩が泣いていた。ハンカチを渡した方がいいのかな? あ、でもどっか行っちゃった。