No.101-1-01 arrive 05
< Log name = Taka >
トレインに揺られること十分程度、空港からさほど遠くない所にホテルはあった。
……。えーと、これ、マジっすか?
何がかと言うと「超豪華」なのである。
西洋の一流ホテルのような外観。ここ月っすよね? マリウス丘の空洞の中にある岩盤を削って作ったとは思えない瀟洒なつくり。外観の豪華さを演出している配色はマッピングによるものだろう。
空港の壁とは違う色調のマッピングなので、建物のコンセプトによって外観を変えているのだろう。素材を変えて外観を作るのではなく、マッピングで変えてしまうところは月らしいと言える。
中に入るとロビーの造りにも息をのむ。ギリシャのパルテノン的な何か(?)な、柱があったり、金ピカな調度品が飾ってあったり、豪華絢爛っすねえ。
ロビーには人がちらほらくつろいでいる。今日到着した人たちは全員このホテルに宿泊するらしく、空港でみかけたような人も確認できた。
「人口もまだ十万人に届いてないし、旅行地としても高額だし、そんなもんか」
「そうね」
ナミが相槌を打つ。
「豪華なのは別に良いが、趣味には合わないな」
本音が漏れてしまう。せっかくの旅行だが、憧れの土地にこのような趣向は望んでいない。ハルカが全面的に同意してきた。
「わかる。なんかビカビカして、センスが無いというか、なんというか」
「そうねえ。私もシックなデザインの方が好みかな。というか、普通の高校生にこの手のタイプのホテルは不釣り合いだと思うな」
ナミも不満こそ言っていないが、合わないらしい。レンはどうなのだろう?
「お前はどうだ?」
「特に」
「特に…か」
「しいて言えば、月と言う土地なのにギリシャの建築様式を取り入れるのは矛盾を感じています。あとマッピングの基調色が岩肌と合っていなく、目の色彩感覚を低下させる恐れがあります。あと、大理石を……」
「わかった! そこまででいい。すげえ文句あるんじゃん。今の話を設計者が聞いていたら爆発してしまうわ(笑)」
ド―――ン!
なんだ!? 本当に爆発したのか!? 爆発音らしきものが聞こえた。建物の外から。そこまで近くは無いとは思うが、会話のタイミングがばっちりだっただけに、ドキッとした。
近くにいた技術者と思われる客に、何事か聞いてみる。
「よくわからないが、技術者の間では最近、治安が悪くなってきたって有名なんだ。君たちも気をつけた方がいいよ」
と、言っていた。治安、悪いのか。せっかく月にいるのに悪いことするなんて、浪漫が無いね。わざわざ月に来て悪いことする奴ってどんな奴なんだよ。ん? 住んでるのか?
「全く! 何処のどいつよ! 私がとっ捕まえてやる!」
と、ハルカが息巻いている。
「頼む。やめてくれ。話がややこしくなる」
と、懇願しておいた。こいつ本当にしでかすから。ある意味ハルカの方が危険人物になり得るから。
「さ、チェックインしましょう」
ナミが会話を切ってくれたおかげで、それ以上騒ぐことは無かった。
しかし、ちょっと気になることが……。
「あの~、このホテルの代金って」
「大丈夫。安心して、父の会社持ちだから。すべてプランの中に入ってるよ」
「いやあ、安心しました。さすがに払える自信が無い」
まあ、そんなことを言ってしまったら、超高額な月旅行の代金なんて逆立ちしても払えないんだけど。
この旅行はナミのお父さんの会社、「イザナギグループ」の社内枠を使わせてもらい来ることができた。そこらへんの経緯については説明が長くなってしまうので、今は回想するのをやめておこう。とにかく、ナミのお父さん、ありがとうございます!
チェックインは受付に備え付けてあるパネルで行う。スタッフはあまり見当たらない。さすがに地球並みの第三次産業を行うのは無理があるか。
基本は無人の機器かドローンのどちらからしい。ナミにとっては天国なんだろうなあ。
「キャー! このドローンかわいい! さっきのと違う!」
極度のドローン萌。ヒト型、飛行型、車両型問わず。月でしか稼働してないドローンも多いから、さぞ楽しいのだろう。
チェックインを終え、部屋に向かう。ロイヤルスイートになれば最上階に陣取り、地上と隣接したフロアで天井から綺麗な星空が見えるそうだが、さすがにそんな部屋は一介の高校生に当たるはずもなく、中層くらいの部屋に通された。それでも立派な部屋で、地球でも泊ったことがないようなレベルの広さだった。
宴会ができそうなリビングに二つのベッド、別室に主寝室がありそこにもベッドが二つ。ウォークインクローゼットもあり、バスルームに至ってはオシャレな映画に出てきそうな雰囲気。
でも、月に来た感覚は味わえないなあ。なんだろう。見栄っ張りな人が作ったのだろうか? まあ部屋が広い分にはありがたいのだが。
女子三人はベッドの場所を決め始めていた。というか、俺が部屋の中を見て周ってる内に、もう決めていた。つまり残ったベッドが俺のベッドということか。まあいいけど。それくらい別にいいさ。俺の荷物を主寝室の空いているベッドに置こうとしたら、隣のベッドに横になっていたハルカが俺に注意してきた。
「ちょっとタカ」
「ん? どうした?」
「どうしたじゃないよ。なんのつもり?」
「は? なんだよ。ベッドに荷物置くだけだよ」
「いやいやいや、アンタ、まさか、そのベッド使おうと思ってる?」
「ああ、そのつもりだが」
「ちょっとタカ、私たち女子よ。なんで男子のアンタと一緒に寝なきゃいけないの?」
「おいおい、別にいいだろ。部屋一つしかないんだし」
「いけません。私たち幼気な女子高生ですから。タカの入室を断固拒否します」
「は? そりゃないだろ! 今から別の部屋とれってか? 無理にも程があるわ!」
「大丈夫、私もそこまで鬼じゃないわ。あそこに一人用の部屋があるじゃない」
ん? 一人用の部屋?
「……。あれは部屋じゃない! ウォークインクローゼットだ!」
「一人横になれるスペースあるじゃない! 寝れるわ!」
「寝れるか! 人はそこを物置と言うんだ! あんまりだ! 扱いが酷すぎる!」
必死に訴えていたら、ナミが申し訳なさそうに会話に入ってきた。
「タカ、ごめんね。お父さんの条件で、一緒の部屋に寝ちゃいけないって言われてるの」
「お父さん! だったらもう一部屋とって下さい! お父さーーーーん!」
「だまらっしゃい!」
あれよあれよと俺は一人部屋(物置)に入れられた。
バタン。扉が閉まる。
…。母さん。月は孤独で無慈悲です。俺は自然に体育座りになった。
急に扉が開く。冗談だったんだな!
「ほら、何してるの? もう集合の時間よ」
畜生! あんまりだ!