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TSUKUYOMI - Moon Phase -  作者: moge(regolith junction)
No.101 Fly me to the moon
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No.101-1-02 arrive 02

< Log name = Taka >


 到着ロビーの数人がいっぺんに座れる椅子に、ぐったりと腰を下ろしている我ら一同。到着してからこのロビーにずっと足止め状態のまま。月に降り立って小一時間が経っていた。単なる待ち疲れか、高揚感による疲れなのか、長旅の心労か、よくわからないが、まだ到着して間もない俺たちを疲労感が支配していた。ナミに至っては顔面蒼白で、

「いつまで待たされるんだろうね」

 と、引き攣った笑顔で俺たちに問う。まったく俺も同じ気持ちなんだが、知らないとしか言えない。入領審査ってこんなにも時間がかかるものなのか?


 レンにはあまり疲れがみられない。じっと座っている。動かないレンを見ていると座りながら寝てるんじゃないだろうかと心配になってしまう。なんて変な気の回し方が出来ている分、俺はまだ余裕があるのだろう。


 ハルカは足をバタつかせ天井を見上げている。明らかに飽きている。しかもちっちゃい子が飽きたときにみせる行動だ。こいつは本当に同じ高校生なんだろうか。そんなことを思ってハルカを眺めていたら、不意に目が合った。


「ねえ、タカ」

「どうした?」

「暇」

「知らん」

「なんでこんなに待たされるの?」

「知らん」

「もう飽きた! タカ、ちょっと空港の人に言ってきて!」

「できるか!」

「できる! あんたならできる! やるしかない!」

「意味がわからん! だいたい高校生にもなってこのくらい待てなくてどうするんだ! もうすぐ呼ばれるだろうから我慢しろ!」

 そう両断すると、ふてくされベンチに寝そべってしまった。子どもか!

 でも長いことこのロビーで待たされて、月へ来たワクワク感が消えかかっているのも事実。なぜこんなに待たされるんだろうか。


 すべての荷物は事前に預けている。何故なら、月のシャトルは無重力航行をするため、手荷物は機内に持ち込めないからだ。

 ロビーにある電光掲示の立体ホログラムに名前が表示され、呼び出しアナウンスがあれば、入領審査室に通され審査があり、問題が無ければ荷物を受け取り無事月へ入ることが許される。だが、それまでが長い。事前にそんな噂は聞いていたのだが、まさかこんなに待たされるとは思わなかった。


 周りを見ていると俺たちだけではなく、不満を漏らす金持ちの姿もちらほら見られた。技術者っぽい人たちは偉いもんだ。持ち込み可能な薄っぺらいタブレットを使い仕事をしているようだった。

 とりあえず待とう。問題を起こして地球に強制送還なんて馬鹿らしい。

 なんて思っていたら、俺たちが待機している到着側のスペースよりももっと出口に近くの方、入領審査室の前でキラキラした服を着た趣味の悪いオバサンが、近くにいたスタッフに文句を言っているのが見えた。しかも館内に響き渡る大きな声を張り上げている。やだやだ金持ちは。みっともない。自分の思い通りにならないと叫ぶってのは良くないぜ。


 ん? よく見てみたら、知っている顔が金持ちのオバサンに詰め寄って行くぞ。


 んー、そうだな。あれはハルカだ。我々の友人、ハルカだ。


 一直線におばさんに向かって行っている。しかも早歩きの結構なスピードで。六分の一の重力なのに、地球と変わらずよく動けるな。ハハハ。


 でも、これは……。俺の危険管理アンテナがヤバいと言っている。絶対に何かしでかす。悪いことが起きてしまう。まずい。と、思った瞬間、俺の体は勝手に動き出していた。


 ハルカは既にオバサンに詰め寄り何か言っている。

「ちょっと、あんた。さっきから聞いてたけどなに? みんな待ってるんだから、大人しく待ってなさいよ。大人なんでしょ?」

 あいつ! それはさっき俺が言ったセリフだ、しかもお前に向けて!

「なんなのこのガキは。あんたに言われる筋合いなんてないわ」

 うん、たしかに。

「大人ってそうやってすぐ上から言うよね」

「あんたみたいな小娘に丁寧に言う必要がないだけよ」

「そうやって年齢で人を見下だす。最低ね。心が貧しいのねきっと」

 オバサンがわなわなと怒っているのがわかる。

「なんなのこのガキは。私を誰だと思ってるの? 国際…」

「知らないわよ!」


 なんか言いかけてるのにぶった切ったー! オバサンは顔を真っ赤にして震えている。金持ちの自尊心超傷ついてるー! ヤバい! 止めなきゃ! ダッシュだ!

 ん? 体が軽くていつもより速い。というか、体の制御が効かない! スーン、スーンと跳ねるように体が進み、足を動かす度につんのめっていくのがわかる。


 歩調に合わせて、こ、れ、は、ヤ、バ、いと足がもつれていく。転ばないように体にブレーキをかけようと足に力を入れた瞬間。俺の体は俺のモノではなくなり、俺は宙に浮いた。俺の体はX軸とY軸とZ軸がそれぞれ、数値を変動させ、立体的な回転軌道を描いている。


 事故の時にスローに感じると言うが、その通りだなと我ながら冷静に思った。俺の体がわけのわからない軸で回転しながらハルカの前を通過し、オバサンの目の前を霞め、二人の顔を見ながら俺はくるくる回っている。ふと、おばさんの後ろにある柱に「Don’t Run!」と書かれた看板が見えた。ハイ、今身をもって体感しております。と思った瞬間、体に衝撃がはしる。どうやら壁に激突したらしい。頭は下。おそらく最終的に上下反転してぶつかったんだろう。それにしてもよく飛んだ。そして…痛い。

「アンタ、なにやってんの?」

 なにやってんの? じゃないよ! お前を止めようとダッシュしたらこのザマだよ! でもここは努めて冷静に、二人に向かって口を開く。壁に激突したままの姿で。


「あのさ、せっかく地球を離れて月に来たんだから、仲良くしませんか? 月は逃げませんし、ゆっくり待ちましょうよ」


 キリッ。ドヤァ……。上下逆さまでかっこつけても様になってないの位、俺でもわかってる。


「プッ」

 ケンカしかけていた二人を見たら、俺のザマを見て笑っていた。お互いに馬鹿らしくなったのか、口々に非礼を詫びあっている。うん、平和になって良かった。でも、俺のことを忘れちゃいけないぞ。


 ロビースタッフが俺にかけ寄ってくる。体を起こしてくれるのかなと思ったがスタッフは、

「お客様、場内走られますと大変危険ですのでお止め下さい」

 と、ちょっときつめに俺に言った。


 …。


 …。


 知っとるわ!



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