No.101-1-01 arrive 01
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プシュー。
着陸した機内の前方からシャトルのドアの開く音が聞こえた。宇宙空間を進んでいた時に感じていた、無重力をシードベルトで抑え込む感覚は既に無くなっている。
シートベルトの装着サインが消えると一斉に、大人たちが降りる準備を始めていた。
一方、私はまだ動けずにいた。ずっと胸がドクンドクンと高鳴りっぱなしだから、目を閉じ心を落ち着かせる。ちょっとだけ深呼吸。また、目を開ける。窓側の席からふと左側を見ると、みんな同じような不安な顔をして前を見ていた。
「ぷっ」
思わず吹き出してしまった。その様子を見ていたタカが口を開く。
「なんで笑うんだよ」
「だって、そんな顔でみんな並んでいたら、可笑しいに決まってるでしょ」
「お前だって同じ顔をしてたんだからな」
そう言ってタカはシートベルトを外し降りる準備を始めた。
「まあまあ、二人とも。せっかく来たんだから」
とナミがその場を収めてくれる。レンはいつも通りこちらを見守るだけ。私たちの立っている場所は変わっても会話の内容は変わらない。よし、いつも通りだ。
シートベルトを外し、席から立ち上がると体がフワッと浮き、危うく前の席に体をぶつけそうになった。地球よりも重力が少ないから、いつもの感覚ではダメなんだ。
「おい!」
タカが咄嗟に私の体を支えてくれた。良いところあるじゃないと思った矢先に、ちくりと皮肉で刺してくる。
「到着のアナウンスで散々言われてただろ。六分の一の重力なんだから、慣れるまで慎重に体を動かせって」
うるさーい。聞いてなかったもん仕方ないじゃない? それに、そんなの耳に入ってこないくらい月の景色に夢中になっていたんだもん。
「小姑……」
とボソッと呟いたのは聞かれなかったのかスルーされたのはわからないが、タカは無反応だった。いつもだったら口やかましく……じゃかなった、ツッコミを入れてくるのに。さてはタカも普段と違う状況に気分が上擦っているんだな。
通路を挟んで座っていたナミが立ち上がり、フワッと浮く感覚に目を輝かせていた。レンはまだ微動だにせずに左奥の席で外を眺めている。
「レン、行くぞ」
タカが声をかけると、コクリと頷き立ち上がる。みんな地球とは違う重力に戸惑っていたのにレンはすんなりと立つ。うまいもんだなあ。この子こういうところあるのよねえ。
シャトル内の通路を前方に向かって歩く。モタモタしているのは私たちだけで、もう他の乗客はとっくに降りてしまっていた。
出口の扉にはタラップが接続してあり、そのまま月の大地へと降りる階段が続いていた。
「これが、第一歩……」
私の中にちょっとした緊張感が走った。フライトアテンダントのお姉さん(美人)が優しく私に声をかけてくる。
「月の重力は地球の六分の一ですから、一歩づつゆっくり慎重に降りてください。力の加減がわからなくて飛び出してケガをされる方が稀にいらっしゃいますので」
と、にこやかに怖いことを言っている。
「おい、いきなりケガ人の介抱なんてごめんだぞ」
後ろからひょっこり顔を出し、タカが口を挟んでくる。うっさい、わかってるわよ! さすがに初日、しかも到着してすぐに、病院送りになるなんて私だって嫌だ。一歩ずつゆっくりと階段を降りていく。
空港は月面ではなく地中にある。タラップから空を見上げると、すでに天井の大きなハッチが閉められ星空は見えなくなっている。
「なんだ。空見れない」
隕石対策に街そのものが地下にあるとタカが出発前に言っていたのを思い出した。
徐々に近づいて来る整地された地面。それは地球のものではない月の地面。最後の一段、月への第一歩をエイっと、ちょっと軽めに、体を浮かせるイメージで一歩を踏み出す。思ったよりも前に進んだ。
トン。と、左足かかとから着地をする。そして右足。バランスは大丈夫。今、両足が月の大地をしっかりと踏みしめた。自然にY字に手を開いて伸ばしているのが、自分でも面白くてにやけてしまった。振り返ったら三人の笑顔。私も笑顔で答える。タカが声をかけてきた。
「どうだ? 生徒会長」
もちろん答えは一つ。
「最ッ高ッッ!」