眠らない街の居眠り探偵
診断メーカーより『しんだことに気づいていない医者とまったく役に立たない探偵が一緒に暮らす話書いてー。』
へっぽこミステリのブロマンス。
警察を依願退職と言う名の解雇にあってから開いた探偵事務所は、立地もあってかそれなりに稼いでいると思う。
都心から然程離れていないそれなりに大きい街の繁華街ど真ん中。
まともな依頼は少ないが、代わりに身入りの良い依頼は多い。
一人身でわざわざ事務所と住居を分けるのもめんどくさかったのと、金が勿体無いのが理由で、事務所兼自宅になるのはまぁ、当然の成り行き。
そこそこ広いけどそれなりに築年数の経っているビルの2階。そこをワンフロア借りて、中を住居と事務所に分けた此処が、今の俺の城であり、きっと終の棲家になる場所。
繁華街の活動時間は時代の移り変わりと共に変わってきたと思う。
それこそ前時代だと繁華街は太陽が出ている時間はひっそりと静まり返っていた。
しかし度重なる風営法の改正や客層の変化、より多くの客を取り込もうとした結果、確かに一番華やかな時間は夜なのは変わり様が無かったが、日中営業のみの飲食店や服飾品店も増えホストクラブやキャバクラも2部制を導入し朝営業している。
警察官時代は度々起こる事件に手を焼いた事もあるが、いつだって騒がしい街は嫌いにはなれなかった。
借りているフロアが入っているビルは4階建て。元は有名企業の支店事務所として使われていたが、もっと大きなビルに拠点を移すということで空きビルになりテナント募集の張り紙が出された丁度その日、俺はビルの前を通りかかり、これまた運良く1階のテナント希望で見学に来ていた客を連れた不動産屋に出会い、流れでその客と一緒にビルを見学し、とんとん拍子に契約までしてしまった。
運命なんて言葉は使いたくないが、運命ってヤツだったんだと思う。
出会った不動産屋は俺より幾分か年嵩の女性で、こんな街の不動産を仕切ってるなんて思わせない、落ち着いたベージュのパンツスーツの似合う女性。
居合わせた客は逆に俺よりも大分若く、聞いたらまだ大学生。
大学卒業と同時に飲食店を開業する為の店舗を探していると言った青年は、髪こそ今時の若者らしく明るい茶髪だったが、身に着けている物は白を中心とした爽やか。
言葉遣いも仕草も丁寧さが窺えて、不動産屋の女性と合わせて繁華街の住人独特の空気なんて微塵も感じさせなかった。
賃貸と売りの両方から選べると言われ提示された値段は、予算から足が出る金額だったが…立地や広さを考えたらお買い得物件。