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【BL】謎の多い友人×友達の少ない不良

診断メーカーで出た『友達が少ない不良と謎の多い友人、二人が二人の出会いをやり直す物語書いてー』から始まったの。



「実籾!」





出会いは最悪だったと思う。よく分からん連中に絡まれて、ぶっ飛ばして、最後の抵抗とばかりにナイフで切られて、俺が倒れた隙に逃げやがった。

ここで追い打ち掛けねぇから雑魚なんだって言われてんだろ馬鹿共が。

出血量は大したことも無いし切られた場所も大したこと無い。

しかしシャツ1枚しか着てない所にそんな事されたもんだから、とてもじゃないけど明るいうちに人通りのある場所を歩ける感じじゃない。

こんな時に気軽に呼び出せる友人など、俺にはほぼ居ない。居ない事も無いが、きっと呼んでもこない。

となると日暮れまでのあと数時間をここで過ごさなきゃいけない。

まぁアレだ。駅前から離れたこんなブランコとベンチしかない小さな公園、誰も来ないだろ。

そう思ってベンチにだらんと寝っ転がった。

夏の直前の日差しが眩しい。

その眩しさから逃れようと目を瞑りかけた瞬間、日が遮られたのを感じた。

さっきの奴らの仲間か!?

勢いよく起き上がると、そこにはシャツにパーカーを羽織ってスキニージーンズに身を包み、サングラスを掛けた男。

サングラスで目元が見えないが、多分そんなに歳は離れていない。同い年か、少し上くらいか?

「……誰?」

「それ、痛い?」

「まぁそれなりに。ってだから誰だよ」

「ふぅーん……」

俺の誰何の問いだけを無視して、男はふらふらと俺に近付いてくる。

サングラスの向こうの目を確認出来るほど近付いてきた男の、顔の近さに思わず体を後ろに引く。

しかしベンチの上という関係上、そんなに離れられない。

「なぁ、アンタ誰なんだよ……」

「誰だと思う?」

「は?」

何度目かになる問いに漸く答えるのかと思ったら、誰だと思う?だと…?意味が分からん。

少なくてもさっきの奴らの仲間じゃなさそうだし、俺に危害を加えてきそうな様子も無い。

ならもう良いや。面倒だ。

体から力を抜いて、サングラスの向こうの伏せられた目を何とは無しに見る。

伏せられた目を縁取る睫毛の長さに一瞬、ドキリとした。

しかし相手が自分と同じ性別の人間だし、それもスグに収まったけど。

「ねぇ、ここに住んでるの?」

「はぁ?ンな訳無いだろ」

ここに住んでるって、それじゃあホームレスだろ。

俺は男の意味の分からない質問に顔が険しくなる自覚があった。

「じゃこのままじゃ困るよね」

「まぁ…な」

だから暗くなるまで寝てようと思ってたわけだしな。

男はふんふんと何度か頷き自分の羽織っていたパーカーを脱ぐと、俺に差し出した。

「……なに?」

「これあげる」

パーカーを差し出したまま、動かない男と俺。

「…貰う理由が無い」

「貰わない理由も無いよ」

そうだけど…そうだけどさぁ!

それでも動かない俺に男が耐えきれなくなったのか…いや、なんだかコイツの場合自分が決めた事なんだから俺は関係ないって感じか?

男はパーカーを一旦ベンチに置くと、俺のシャツに手を掛けた。

「は?ちょ、は!?」

元々第二ボタンまで開けていたシャツのボタンを外すのは容易い。

しかも男は卑怯な事に、ナイフで切られた近くを掴んでいるから、俺が動こうとすると切り口に男の手が触れそうで動けない。

本当、誰なんだよコイツ。

シャツのボタンを外し終わった男は容赦無くシャツを剥ぎ取る。

白昼の公園で半裸とか、人が居なくて良かった。

喧嘩で掴まるのは自業自得だが、自分の意思と無関係に脱がされて掴まるのは勘弁願いたいからな。

もうここまできたらなるようになれば良いさ。

シャツを脱がした男は脱がしたシャツをビリビリと裂くと、それで器用に傷口を覆う。

手当…してくれてんのか?

それなりに高かったシャツは見るも無残な姿に変わった。

まぁナイフで切られた上に血で汚れてたし、捨てようとはしてたけどさ。

自分の手当てに満足したのか男は脇に置いてたパーカーを無造作にぐいぐいと着せてくる。

「だっ!いってぇよ!」

「痛くないよ」

誰基準で痛くないんだよ!

俺が痛いんだよ!

そう怒鳴りたくなるのをぐっと抑える。

落ち着け。

落ち着くんだ俺。

コイツに怒鳴ってもきっと意味は無い。

そしてやり口はアレだが、手当してくれたしパーカーもくれた。

ここで怒鳴るほど、恩知らずでは無い…と自分では思っている。

「…ありがとう」

「じゃ、行こうか?」

「は?」

「え?やっぱりここに住んでるの?」

「だから住んでねーって」

「じゃあ誰か待ってるの?」

「待って無いけど」

「うん。だったらここに居る理由は無いでしょ?」

強引だ。

強引すぎる。

男は怪我したのと反対の手を握って俺を無理矢理立たせると歩き出す。

ここ数分の間で何度言ったか分からないが、もう一度言わせてほしい。

意味が分からない!

普通見ず知らずの、しかも明らかに喧嘩しましたとばかりの男の怪我を手当てした上にパーカーをあげるか?

なんなんだコイツは!?

「ハンバーガー食べたいんだよね。君はハンバーガー嫌い?」

「嫌いじゃねーけど」

「美味しいハンバーガー食べられる所知ってるんだ」

「あ、っそ」

もう良いや。

きっとコイツは何言っても聞いてはくれないんだろうし。

確かに腹減ったし。

最近ハンバーガー食って無いもんなぁ。

うん。もういいや。

公園のあった路地から大通りに抜ける。

それなりに栄えた町の大通りは、相変わらずの人通り。

てっきり大通りにあるチェーン店に行くものだと思っていたんだが、男が進んでいくのは大通りを挟んだ違う脇道。

住宅街へとどんどん進んでいく背中に段々と不安が湧きあがる。

「なぁ?どこに行くんだよ」

「美味しいハンバーガーが食べられる場所」

俺とこいつは本当に同じ日本語を喋っているのか?

それとも、なんだ?

この男の耳は自分が聞きたい言葉しか拾わないのか?

「予定あった?」

「無いけど」

「ハンバーガー好きなんでしょ?予定も無い。じゃあなんで困るの?」

「だって…俺、お前の事なんも知らないし」

「僕の名前は酒々井。高校3年。君は?」

「……実籾。お前と同じ高三」

「うん。これで知らない仲じゃなくなったから問題ないね」

駄目だ。

この男にはきっと何を言っても通じない。

こうなったらさっさとハンバーガー食って別れちまおう。

器用に細い路地ばかりを抜けていく酒々井と名乗る男の背中を追う。

手は相変わらず掴まれたままなのだが、俺に合わせているのかそれとも元々この早さなのか、引っ張られているという感覚は無い。

そうして10分程歩いただろうか。

辿りついた場所は小さな店が連なる商店街の外れだった。

「こんな所に商店街なんてあったんだな…」

先程まで通ってきた細路地では一切人とすれ違わなかったが、商店街はそこそこ人通りがある。

商店街なんてテレビでしか見たことが無かったから、この人通りが多いのか少ないのかは分からないが、それなりに繁盛してそうな雰囲気だ。

俺の手を掴んだまま歩いていた酒々井の歩みが止まったのは一件の小さな喫茶店の前。

赤味がかった茶色のレンガの壁に木の扉。

窓から見えたカーテンは橙色のチェック模様。

なんていうか、レトロっていう雰囲気で、俺が女子なら「かわいい!」と騒ぎそうな店だった。

店内は外観から想像できたが、やっぱりそんなに広くは無かった。

でも狭いという感じはしなくて、カウンター席と5卓しかないテーブル席の落ち着いた店だった。

酒々井は一番奥のカウンター席に座ったので、必然的に俺もその隣に座ることになる。

「ここね、ハンバーガー以外も美味しいんだけど、今日は僕がハンバーガーの気分だからハンバーガーね」

酒々井がそう言うのと、壁で遮られていたカウンターの奥から人が出てくるのは同時だった。

「いらっしゃいませ…あれ?君が誰かを連れてくるなんて珍しいね?」

「うん。拾って来たんだ」

「拾…!?」

拾ってってなんだ拾ってって。

俺は猫かなんかか?

「ハンバーガー2つね」

「飲み物は何にする?」

「僕はレモンスカッシュな気分。実籾は?」

「は?」

「飲み物。何が良い?」

「…炭酸じゃなきゃ何でもいい」

「炭酸苦手なの?」

「悪いかよ」

「悪くないよ。実籾可愛いもんね。似合ってる」



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