第3話≪氷の狼≫
氷の狼の登場です。
ドロドロさんを空間にしまってから街に戻ってきた。
行きと同じく東門から総本部まで転移して、クエスト専用受付カウンターの隣にある受付に向かう。
クエスト専用受付の横には素材買取専用受付カウンターがあって、その名の通りクエストで集めた魔物の素材を買い取ってくれるの。
買い取りと同時にクエスト完了か判断してくれるから、とても便利なのよ。
「お兄さん、買い取りとクエスト確認をお願いします。」
買取専用受付は女性じゃなくて男性だった。
爪とか魔核ならましだけど、剥ぎ取りたての毛皮なんかもあるし重いから、女性だとダメだってね。
「わかりました。素材をここのお皿に置いてください。」
受付の男性は、カウンターと一体となった深い鉄の皿を指差した。
素材の数と本物かを調べる魔導具だって。
いくら本物かを調べても、その人が狩ったものか解らないのにね。
そんなバカなことをする人はいないと思っているのかしら。
「はい。」
腰のポーチにしまっていた素材を皿に乗せた。
お父さんがヴァンなだけあってか、娘の私が魔法箱を持っているのを、男性は不思議には思わなかったわ。
「スゴいね。その年でこんなに沢山の素材を集めてこれるの。」
「お母さんに魔法を習ってたから。」
「剥ぎ取りも完璧だし、将来はお父さんみたいな冒険者になれるよ。」
「ありがとうございます。」
こういうのって、本心から言ってるからちょっと恥ずかしいのよね。周りの目が集まるし。
でも残念ね、お世辞や称賛はクロエの方が上手いのよ。
男性は疑いもせず、クエスト完了の報酬金と余った素材のお金をくれたわ。
クエストの報酬金は、最低額を銀貨5枚としている。
今日は、二つのクエストと素材のお金を合わせて、銀貨15枚だった。
この世界のお金は
白金貨1000万円
金貨 100万円
銀貨 1万円
銅貨 1000円
鉄貨 100円
石貨 10円
屑貨 1円
となっている。
石貨や屑貨は、小さい村でしか見ないし。
白金貨は国庫レベルのお金だから、オルトにいる限りは銀貨・銅貨・鉄貨が一般だ。
防具や武器の値段は、金貨計算だから見ることはあるけど、普段は金貨はそんなに見ないわね。
お父さんがAランク冒険者だから、見る機会多いけど。
人間領の生活水準の計算は、特殊な大国ではないオルトを基準としている。他の2つは、ちょっと特別なの。
農民の月収入は、銀貨4枚と銅貨5枚くらい。
四人分のパンで銅貨1枚だから、厳しくはないと思うわ。安い服とか、生活品は鉄貨で買えるし。
冒険者登録は銅貨5枚でできる。
冒険者カードの再発行には倍のお金がかかるけどね。
私の冒険者登録のお金は、お父さんが先払いしてたみたい。
ちなみに、この世界の月日の数え方は、月30日・年12ヶ月なの。
その後は、一旦家に帰ってクエストをこなしながら、氷の狼を待った。
オルトの北にある『毒牙の森』の調査のクエストを受けたから、しばらく帰ってないってリリィが言ってたわ。
なんでも、魔物の発生がおかしいらしいの。
前よりも強力な毒を持った魔物が増えたって。
タサックの森は、毒を持った魔物が多いから名がついたけど、あまりにも多いし毒が強い。
...大丈夫かしら?
それから氷の狼が帰ってきたのは、初クエストから三日後だった。
いつもの様にクエストを受けようとしたらリリィに声をかけられて、談話室に案内されたわ。
談話室は二階にあって、≪空間魔法:防音結界≫に守られているから盗聴の危険はない。
この魔法は、クロエが使ってたのと同じやつ。
中からも外からも音を遮断する完璧な防音の空間をつくり出せるの。
術式の組み方によって、中と外の防音の切り替えもできる。
談話室は簡素な造りをしてて、向かい合った二つの長椅子と長テーブルが一つ。それと、装飾品の花瓶のみ。
奥にある椅子に、氷の狼のメンバーである3人の男女が座っていた。
一人は鉄製の防具を身にまとい、腰に細身の剣を差した若そうな男性。
男性って言うより、青年が近いかしら。
第一印象は、目も髪も茶色のどこにでもいる優男。
二人目は高そうな軽めのローブを着た女性。
短パンを履いているから、太ももが見えて男性が喜びそう。
でも、手が出せない雰囲気がある綺麗な顔をしているわ。
金髪だけど、目は茶色。だけど、凛々しくてキレイな目をしてる。
左手に魔法媒体の杖を持ってて、ネックレスやブレスレットが魔導具になっているのね。
最後の人は、いかにも盗賊ですって見た目の人。
防具を上半身にしか着けてなくて、下は動きやすいブカブカのズボン。それと、黄色が混じった茶髪と黒目。
長椅子の横にある道具袋は魔法箱になっているから、道具担当なのかしら。
武器も短剣だし、腕に着けたリングから≪強化魔法:速度強化≫が刻印されてるのが見えるから、捜索に特化した前衛って感じね。
私が談話室に入ると、3人は立ち上がってお辞儀した。
偉そうにふんぞり返ってる人に見せてやりたいわ。
クエストを受けてる間、幼女だからってバカにする奴がいなかったとは言えないし。後でお菓子にしてやってけど。
向かいの椅子に座ると、まずは自己紹介から始まった。
「おはようございます。僕の名前は[ティス]です。氷の狼のリーダーで、盾無しの剣士をしてます。よろしくお願いします。」
最初は、茶色目茶髪の優男。
緊張からか、堅苦しい感じが伝わってくるわ。笑顔も不自然に固まってるし。
次は、ティスの挨拶を聞いて苦笑いした女性。
「初めまして、私は[グレイシア]。リーダーがこんなのだけど、気にしなくていいわ。緊張しやすいのよ。」
図星を突かれて肩を落とすティスを笑う様子は、美貌に合わず明るい性格の子な印象を受けた。
リリィと相性が良さそうね。
最後に、盗賊の男性。
「すまんな。二人がふざけるのはいつもの事でよ。ま、仲が良いのがこのパーティーの良いところって思ってくれ。
俺は、ライアン。鑑定と道具を任されてるって言ったら聞こえがいいが、ただの荷物持ち。」
二人の様子を砂糖を吐きそうな顔をして見てた男性は、苦労人みたい。
でも、嫌そうな様子はないし。クロエと同じようなやつか。
「初めまして、私はサヤカ。Aランク冒険者のヴァンの娘です。魔法使いをしてます。」
自己紹介が終わったら少し雑談をしてから、本題に入った。
私が、氷の狼に受け入れられるかどうか。
「リリィさんから話は大体したと聞いた。僕たちは、『鍵の迷宮』の最下層到達を目安として修行してる。シアは、攻撃魔法を使えるけど回復魔法に特化してて、遠距離攻撃を行える人を募集していたんだ。サヤカちゃんは、何魔法を使えるのかな?」
雑談をして緊張と敬語がなくなったティスが、そう聞いてきた。
リーダーなだけあってか、とても鋭い目付きをしてる。穴がないよう見張ってるのね。
「私は、火土魔法と無属性魔法なら一通り使えます。」
「私は水風魔法だから、これでバランスが良くなるわね。」
この世界の魔法には、相性がある。
弱点属性を克服するために、火と土・水と風のどっちかを習得するのだ。
でも、一つの魔法を習得したら有利属性の魔法を習得できなくなるの。
仕組みは簡単。有利属性に嫌われるだけ。
火を習得すると、風魔法の魔方陣を読み解けなくなるのよ。それは、全基本属性同じ。
光と闇は、特別な人しか使えないけどね。
不利属性なら習得できるけど相性を考えて習得しちゃうから、火土と水風に分けられたのよ。
私?私は特別だから、全部使えるの。
「グレイシアさんは、水風魔法を使えるのですか?」
「シアで良いわ。敬語もね。
私は回復魔法と同時に水魔法を習得して、回復魔法と相性がいい風魔法も習得したの。でも、水風魔法とも回復魔法に特化させたから攻撃は苦手なのよ。」
こればかりは、仕方のない事であった。
魔法を極めるには長い年月が必要だから、平行して何個も学べないの。
「じゃあ、シアお姉さんって呼んでいい?」
ロリとショタ必殺の上目遣いと、首かしげよ。
まぁ、こんなことしなくても。ティスは私を入れる気みたいだし、ライアンは二人に丸投げしているから、意味ないと思うけど。
「ティス。どうしよう、可愛いわ。パーティーに入れましょうよ。」
「言われなくても、そのつもりだよ。魔法の相性が良くなるし、回復魔法以外があるだけで安心できるようになるからね。」
「よし、決まりね!リリィさんに言って、パーティー登録しまょう!」
結構、あっさり決まったわね。
まぁ、3人とも人を見る目があるからの決定だと思うけど。
その後、思い立ったが吉日がピッタリなほど、早速リリィの総合受付カウンターに連れられて、パーティー登録をした。
クロエの時と同じように、私の冒険者カードに新たな項目が追加される。
≪サヤカ≫『氷の狼』
人間
女
10歳
≪クロエ≫
テイムモンスター
首輪なし
これから氷の狼とは、いつも一緒に活動することになる。
最後まで、ずっとね。
そろそろ物語を進めたいけど、まだ3話なんだよね。
あと、もしかしたら『氷の狼』のメンバーの口調変わりそうです。
次は、鍵の迷宮か周辺の魔物退治だと思います。