七話 イカサマ
「おバカ。お前、なんてことを……。そんなことでいいわけないだろ。良く考えてみろ、清水さんって子は子猫の為に色々なものを買い揃えてだな……。まったく。ご家族だって、すごく悲しむに決まってる。どんなことしてでも、その勝負無効にしてこい」
「分かってる。でもひとつ問題なのが、清水さんと女子達の間の確執が、チャラになるという条件なんだよ」
俺の言葉に、お父さんも『確かにそれは魅力的だ』と言う。しばらく黙る。
と、そこにお爺ちゃんが来た。
「さっきから話聞かせてもらったが、すごく簡単な方法が、あンぞ」盗み聞き?
少し酔っ払っているからあまり期待できないけど、何? と尋ねた。
「影武者だ。替え玉ともいうな」
替え玉? 偽物ってこと? どゆこと。
「おおっ、それはいいぞ。それなら、恵まれない子猫を、あと一匹は救えるしな。清水さんも子猫と離れずに済むし、いじめの件も解決。一石三鳥。すげぇな親爺。ただの酔っ払いじゃねぇな」
「おうよ。これが俺の酔拳だ。酔えば酔うほど冴えてくる、ってな」
とても賛成できない。でも……お父さんの言う通り、清水さんの家族のことや、猫を育てる一式を購入してるであろうことを考えても、やむを得ない。
「分かった。とりあえずその旨を清水さんに伝えてみるよ」
「お、おい待て、早まるな章和。いいか。爺ちゃんが思うにな、一番問題なのは、章和が同じようなネコを用意できるかってことと、あと重要なのは、絶対に、その清水さんって子が、その勝負で負けるということだ。もし勝ちでもしたら二匹飼うことになっちまう。そのことをしっかりと伝えないといけない」
「大丈夫、勝負を棄権すればいい」
「そいつはダメだな。ちゃんと勝負したフリして負けないと、いじめの問題にアヤが付くかも知れないだろ? だから一生懸命負ける」
なるほど。でもとりあえず、清水さんに連絡だ。
俺は清水さんと何度もメールのやり取りをした。
その内容を清水さんも家族に話した。すると、家族の意見は勝負を真剣にして、もし負けたなら、その後で子猫を探せばいいという意見らしい。
俺は本当にそれでいいのと何度かメールした。が、やはりご家族は、清水さんのネット配信が理由だから、ということだ。
つまり二択。
是が非でもアズキを確保し、替え玉でいくか。それとも、清水さんの家族の意見通りに、ちゃんと勝負して、敗れたらその時、新たに子猫を探すか。
悩んだ末に、やはり正当に勝負することを選んだ。正解といえばそうだ。
清水さんの家族はしっかりしている、改めてそう思った。
どう転ぶか全く読めないが、ズルをしなくて済んだことで、少しだけ重圧がなくなった気がした。
「章和~、どうなった? じいちゃん考えたんだがな、この際、裏で参加者全員に子猫を飼わせる方法をだな~、編み出してやったぞ」
「もう解決した。イカサマしないでちゃんと勝負することになったからさ」
俺はお父さんとお爺ちゃんにメールの経緯を掻い摘んで説明した。
と、正しいことはいいことだが、つまらないなと笑う。
そして、その甘さが相手にもあるといいけどなと。