三三話 クライムマックス 弐
仲根、里見、茨牧、室隅の四人は、病院の個室を一端出されて、病院近くの公園で昼食を食べてくると出て行った。渡辺は俺の傍で世話をしてくれている。
部屋には、ヤクザみたいに強面の刑事二人と、美織さんがいた。
「良かった意識が戻って」美織さんが俺の手を握ってくれた。
美織さんが持ってきた花を花瓶に入れて飾る中、刑事と名乗った者達が俺に質問してきた。
「体調は大丈夫かな? 早速で悪いけど、犯人について覚えていることがあったら話してくれないかな?」
いきなりの問に俺は混乱した。ここは落ち着いて、逆にこっちから質問しなくてはと――。
「俺、実は記憶がないみたいで……。できれば、何があったのかを教えて欲しいンですけど、そしたら何か思い出せるかも知れないし」
「記憶がないのかい? 犯人を庇っているわけじゃないよね?」
俺は頷く。
「実は君は――」
一週間前、俺は犯人である何者かに襲われ腹部を鋭利なナイフで一突きにされたのだという。
ナイフは即死してもおかしくないほど深く突き刺さり、出血もひどくショックで心停止した状態で病院に運ばれたようだ。
「それって死んでたってことですよね」
「私達は、病院でどういう状態だったかはよく分からないけど、いくつもの奇跡が重なって助かったのは確かだね」
話によると、犯人の企みで現場に集められた容疑者が何人かいて、それらが俺を見つけて救急車を呼んだ。
救急車はすぐに来たのだが、救急搬送の受け入れ拒否を受け、たらい回しになりかけた時、連絡を受けた渡辺と渡辺のお爺さんが超法規的措置で俺を優先的に引き受けてくれたのだ。
一秒の遅れが左右するほど、奇跡が起きたと病院では言われていた。
なにせ俺は、何度も蘇っては心停止を繰り返したという。
「状況がイマイチ分からないのですが」
「話を勝手に進めるようで悪いのだが、これを見てくれないか」
そういうと刑事の一人が、胸元から折りたたまれた紙を差し出してきた。
「それが今回の事件の容疑者だ。なにか思い出したことがあったら、すぐに連絡をくれないか。とりあえず相楽君の傍には、付き添い兼護衛として、錦戸とあと一人付けるから、ちょっとでも何か分かったら――」
忙しいのか急いで用件などを告げると、美織さんを残し退室した。
ドア付近で「それじゃ護衛頼むぞ」という声がした。
どうやら廊下にも誰かが居るようだ。
俺はゆっくりと渡された紙を開いた。
「なにこれ?」
そこにはよ~く知っている名前ばかりがずらりと書かれている。
事件現場に居た者。という項目の下に、清水梢。椎名咲。松宮麗香。小堀綺乃。染若葵。滝沢玲奈。鈴原凛。柴谷貴代。国分杏。以上九名の名があり。
現場周辺、約二キロ圏内。近野萌。新山ルミ。二名の名。
五キロ圏内。岡越一花。桜庭真央。となっていた。
アリバイ有り。安倍雅、家庭教師中。河末渚、大学サークルにて合宿。
永見君絵、関西在住、アルバイト中。渡辺花帆、自宅にて医療勉強会参加。
佐伯結理、海外在住中。
なにがどうなってるんだこれは? まさか、この中に俺を刺した犯人が居るってことか? そんなバカな。絶対にない。それだけは分かる。
俺は紙を横へと置き溜息をついた。
「どう章和ちゃん。なにか思い出せた?」
「この中にはいないよ絶対。だってみんな悪い子じゃないよ」
俺のその言葉に、美織さんも渡辺も逆に溜息をつく。
「相楽君。私が言うのもなんだけど、相楽君は女のことまったく分かってないわ。相楽君がどういう風に記憶しているか分からないけど、相楽君が覚えてるその頃でさえ皆凄かったわよ。相楽君は……、違うわ、男子は知らないのよ裏の顔を」
渡辺のセリフに美織さんも頷く。
「章和くん。最初ね、章和君が刺されたって連絡が入った時、警視庁では大騒ぎになったの。実はね、覚えてるかな? 磯島家のお婆様が誘拐された件。実はあれ、警察内部に犯人を手引きした者がいるって、そういう情報を、上の方で入手して。ほら覚えてないかな? そのお婆様って、警視庁の偉い方の義理のお母様だって。つまり本当の狙いは――」
俺は真剣に話を聞いた。
「あの事件は未だに、ちゃんとした意味では解決していないの。あれからいくつも似たようなことがテロのように起きてね、つまり、警察内部に、黒い闇があるの。そのことで何度か私も酷い目に遭ったのね。それで最初、この事件もそうかも知れないって」
「そうじゃなかったの美織さん? だってこの紙に書かれてるのは……変だよ」
「章和君のことは、警察庁でも重要人物としてチェックしてあるけど、別に今まで一度も何もなかったわ。あの頃なら分かるけど、今更、章和ちゃん襲って刺しても意味ないもの。でしょ?」
「でも……」
「聞いて。あの事件が起きた日、私が章和君のお父さんに用があって呼ばれたって言ってたでしょ。実はあの時、相楽家の敷地内の物が盗まれたり、変な物が置かれたりしてたの。一体誰の仕業かって思ったお父さんとお爺様が、自分達で調べれるだけ調べたんだけど、誰かは突き止められなかった。でも、誰が狙われていたかは分かったの。それはね章和ちゃん」
「あの頃から……、俺は女子の誰かに狙われてたの?」
「そう。それは間違いない。ストーカーね。しかも、相楽家の皆の動きを、完全に把握しているの。つまり当然ながら身近な人。章和君は高校卒業する頃にはもう、凄い人気だったでしょ? 街を歩いてても見知らぬ子から後付けられたり。でも、私が相談を受けたのはそうなる前。そして何よりね、今回の事件は、メールで呼び出されて現場に大勢の子が集まったってことが問題なの。どう考えても警察関連の件じゃなく、ストーカーだった子の仕業」
「それがこの紙の中に居るの?」
俺は恐る恐るもう一度紙を覗く。嘘だ。絶対にいない。
いくら俺が女子のことを分からなくても、それだけは、それだけは信じたい。
「思い出せない? 章和君の刺された状況から言って間違いなく顔を見ているし、抵抗した形跡もない感じからして、会話もしてるかも知れないわ」
頭の中が混乱している。犯人どころかここ数年の記憶がない。
俺の身近な人。つまりご近所って意味か。いや、同じ学校ってことか。でもその両方を兼ね備えてるのは佐伯だけ。その佐伯は海外だ。
しかも事件のあった日は帰国もしてないし、その確認も取れている。サスペンス映画じゃあるまいし、このアリバイは白。
ストーカー? あの頃? そう言えば俺、職員室に呼ばれて……。
「美織さん。俺、ちょっと思い出したことがあって」
俺の言葉に美織さんも渡辺もベッドに前のめる。なになにと凄い食いつき。
「実は、合同体育祭で着たユニホームが、当時誰かに盗まれたって。つまり。この紙には専舞女学園の生徒の名前が入っているけど、その子達に学校に忍び込んでの犯行なんて無理じゃないかと思って」
「そうね。まぁ無理ではないけど、それは分かってるわ。実はね。章和ちゃんが、さっきから言うように基本はこの子達の殆どは犯人じゃないのよ。アリバイとまではいかないけど、犯人じゃないと思うって子もいるの。実際、犯人は一人なわけ。他は白。今言った理由で容疑者を抜いていくと全員抜けちゃうの。私も何度も紙に書いてみた。でも、紙にかくと、全員白だけど、逆に言うと皆同じくらい黒、って捉えることも出来てそれで……。それで出た答えは、勝手な推測はしないで、章和ちゃんの回復を待つことに。そしたら今日、念願かなって、章和ちゃんが目覚めてくれた訳。だから、せっかくユニホーム? 思い出してくれて嬉しいンだけども、章和君は、見たであろう犯人を思い出すことだけに集中して欲しいの。冤罪とかは嫌だから」
そりゃそうだ。冤罪なんてごめんだ。美織さんの言う通り。俺が犯人を見ているのなら、確かに余計な推理なんていらない。
皆を疑わないのと皆を疑うはイコールって時もあるのか。
それにしても本当にこの紙の中に犯人がいるのだろうか。信じられないな。
何度も紙を見て、確かにここに書かれている名前は皆、俺にストーカーしてくれそうなほど俺を好きと言ってくれた記憶がある。沢山の良い思い出がある。
良く考えたら、物がなくなったとしても、それを一人が盗んだとも限らない。
色んなことをごっちゃにしても仕方ないってことか。
こんなことは口に出せないけど、この中の誰かになら刺されても文句はない。
例え誰が犯人でも恨みすらない。目の前に居る渡辺を見ながらなおそう感じた。
しばらく話していると、ノックと共に誰かが飛び込んで来た。
「おぅ章和。気が付いたのか。心配させんなよ」
「惣汰。来てくれたんだ」
「当然。一日おきには見舞いに来てたよ」
「そうよね。惣汰君いつも泣いてたもんね」渡辺が嬉しそうに友情を語る。
「泣いてねぇえし。で、もう佐伯とは会ったのか? 事件のあった二日後くらいに日本に急いで帰国して、見舞いに来てくれて。ロビーで泣きながら、文句かなんかブツブツ言って。そうそう航也のヤツは今、福岡だから東京に戻って来たら会おうってさ」
「福岡か~、随分遠い大学行ったんだな」
「なに言ってんのお前。頭は打たなかったんだろ?」
俺は記憶がないと説明した。
最初は嘘だろと信じなかったが、本当だということが分かるとビックリしながらも信じてくれた。
「忘れるなよな友達なンだからよ。まぁ、全てを忘れてなくて良かったけど、俺も忘れたい記憶はあるよ。ほら、高校の時付き合ってた伊部っていただろ? アイツに浮気されちまって、はぁ~傷ついたよ。この色男を出し抜いて『ごめんなさい、つい魔がさして、本気じゃない』とかなんとか言い訳してたけどさ。俺は昔章和と話してた通り、恋人を裏切る奴は、男も女も関係なく嫌いだからよ。ま、世の中にしちゃ、ちっぽけな戯言だけど」
「そんなことないよ。全然ちっぽけでもないし、負け惜しみでもない」
「章和~、誰が負け惜しみなんだよバカ。俺はおかげで名取桂って最高に可愛い子と巡り合えたわけだし、負けてなんてないぜ。むしろその逆だよ。傷くらいはあるけどナ」
「へぇ、今度紹介してくれよ」
俺がそういうとすぐ「そうか?」といい、惣汰が「お~い桂」と廊下に向かって呼ぶ。その声が届くとすぐ「失礼します」と言って可愛らしい女性が入ってきた。
「お久しぶりです相楽先輩」
「あ、うん」記憶にない。
すると、今度は渡辺にも挨拶をした。
「相楽君、覚えてないかなぁ? 高二までの記憶はあるんだよね? この子、合同体育祭で専舞女学園の一年生の代表にいたんだけどなぁ。しかも私の直属の後輩。風紀委員長を継いでもらった子よ」
びっくりした。凄い繋がりだ。
「凄い繋がりだね」
「繋がりというか……、だって色々あって私が惣汰君に紹介したのよ。覚えてないかな?」
すると今度は、惣汰が説明してくれた。
彼女の前だからあまり話しづらいけどと前置きし話す。
伊部と上手く行かなくなった理由の一つに、俺がした、あのソフトボール部へのアドバイスや練習、つまり桜庭真央が関係していた。
専智ソフト部の勢いのおかげで、伊部率いるチームは当然苦戦をしいられた。
別にスポーツというものはそういうものだ。どこかが出ればどこかが引っ込む。そのかけ引きや頑張り全てがスポーツ。勝敗とはそういうもの。
しかし、元々、ソフトボールが大好きでしょうがなかった訳でも、自分で何かを思って始めた訳でもない伊部は、くすぶる状態に耐え切れずに、焦れて投げ出してしまった。それにはチーム内の不和や色々な要因も重なったようだけど。
そして遊び盛りの年頃も合い塗れて、サボり、ついには浮気となった。
ほんの小さな綻びだった。それが理由で惣汰と俺は幾度も口喧嘩し、俺は一方的にごめんと詫びていたようだ。
もちろんその都度、惣汰も「俺が章和より上手に教えられなかったから悪いんだけどな。……悔しい」と落ち込む結末。
ただ、悔しくて悲しくて辛くてどうしようもなくて、友達である俺に愚痴って、やつ当たりしていたようだ。
俺も周りで見ていた者達も、それが痛い程に分かっていたから、傷が癒えるまで見守ってたと。
そんな中、合同体育祭代表選手、名取桂、渡辺の後輩。
当時、風紀委員書記のその子が、密かに惣汰に恋をしていた。
一目惚れだったらしい。
運命は二人を少しだけ繋いでいたようだ。
体育祭が終わったあの日、名取は敗北した代表者と反省会をしたのち、渡辺から頼まれていた荷物を持って帰ろうとした。しかし、思いのほか見つからず、時間はどんどん経っていった。
見知らぬ会場だし当然だ。
会場には係員や、まだ少し生徒も先生も残っていたけど、名取の携帯には親から遅いとメールが引っ切り無しに着信する。そんな不安の中、ベソをかきながらようやく見つけた時には、時刻は午後八時ちょっと前。
六時からの催促から言えば、とんでもない状況だった。
泣きながら会場の出口に向かうと、いきなり声を掛けられた。
「どうしたのお嬢ちゃん。こんな遅くに? 周り、もうほとんどいないよ。って、幽霊じゃないよね? 俺、そっち系は苦手で。ははっ」惣汰だ。
惣汰はあの日、良治君にバイクを取りに送ってもらっていた。
名取は泣き笑いしながら事情を説明する。
「埼玉付近まで帰るの? こっから? ん~十時過ぎちゃうよ」
それが二人の出会いであった。
惣汰は名取をバイクの後ろに乗せて、当初の帰宅時間よりちょっと遅れたかな、というくらいの時間帯には名取を家まで送り届けていたという。
大回りして乗り換えの続く電車と、小回りと近道と惣汰のバイクテクは雲泥の差だった。時間を半分に短縮するどころか、四分の一程度。
無事送り届けた惣汰。しかしこの時、二人は、二度目に合うきっかけが、すでにあった。それはその日惣汰が埼玉付近から神奈川まで帰るのに、とんでもなく時間がかかったということだ。
普段なら問題ないけど、惣汰には重大な問題があった。それは試験だ!
寝不足と普段からの不勉強で、その次の日の試験は赤点だらけ。
元々、赤点をギリギリで免れる勉強法が惣汰の信条。
ほどよく遊びギリギリの成績で乗り切る。
しかし、言わずとも寝不足という不測の事態にダブリの危機。
後日、色々な伝手を辿って名取がお礼をしに来た時、惣汰はダブリの恐怖と追試やレポートに追われる日々。
必然的な流れで、惣汰に名取が勉強を教えることになった。
これが二度目の出会いだ。
ただ逢うだけでは、ただお礼を言うだけでは、二人は通り過ぎていただろう。
一度目も二度目も、その出会いに何かの縁があったか、ということにつきる。
でも、そういうちょっとした縁だけで、しばらく二人は離れ離れになる。
元の他人同士。次に出会うのは惣汰が失恋し、俺に愚痴を言っている所へ、俺とメル友となった渡辺が名取と現れた時、その光景を見た名取に何かしらの強い感情が芽生えたようだ。
後は渡辺がキューピットとなりゆっくり時間をかけて、四度目、五度目と徐々に二人は繋がり、恋人になったという話だ。
「そうか。茨牧君もそうだったけど、運命ってそうだよね」
俺が感心していると、渡辺が「私達の運命の方が凄いわよ」という。
俺はふと「付き合って……ないよね?」と訊くと、渡辺は首を横へと振り「付き合ってるわ。恋人同時よ」と真剣な顔で囁いてきた。
びっくりして戸惑っていると、そこにナースが昼食を運んできた。その後ろから仲根や里見達四人も顔を出した。
入ってもイイかな? と惣汰に気を使いながら笑顔で入ってきた。
どうやら廊下で聞いていたようだ。惣汰も仲根たちも渡辺の方を見てニヤニヤと笑っている。
「なに、二人って付き合ってるの? 初耳だけど」と惣汰が微笑する。
俺は皆を見渡した。なんとなく皆が同じように笑っている。
「そ、そうよ。皆には隠してたの。相楽君が二人だけの秘密だって。ネっ」
俺は記憶がないからもちろん分からない。と、同じことを皆がいう。
章和が記憶失くしてるからって、それはやめときなと。見た感じ一生失くしてる感じじゃないし、結構すぐに戻りそうな雰囲気ジャンと。
その時変なことになるから、やめときなと。
「あ~あ。チャンスだと思ったのにな」渡辺が悔しそうにそっぽ向く。
ベッドに移動式の細長いテーブルを設置し、その上に昼食を置いた。
ベッドの角度を変えるスイッチを押し、背凭れを上げた。
渡辺は俺の横に座ると、おかゆの様なドロドロの食事をスプーンですくい、ふうふうして俺の口へと運ぶ。
「はい、ア~~ン」
恥ずかしい。
口元で鰹節と卵の匂いがする。白ゴマか何かも見える。
俺はぱくりと食べてみた。美味しい。でもやはり口にしみる。めくれて剥がれた裏側の皮膚も一緒に食べてしまっている。
たぶん、ビロビロと要らなくなった角質が剥がれているに違いない。
またも「ア~ン」という。それを見て皆がいう。
本当に付き合ってるカップルみたいだよなと。でも、二人は付き合っていない。今聞いたばかりの惣汰の話や茨牧の話より、確かに目の前にいる渡辺の方が遥かに繋がりは濃く感じる。けど……、まだ繋がってはいない。
「でもさ、章和はずっとフリーだもんな。ありえないよ。すげぇモテるのに。人生で誰とも付き合ったことないんだぜ」
惣汰のセリフに男たちが不思議がる。
俺は仲根と里見と室隅に、彼女居るのと訊くと。室隅以外はいると答えた。
俺は一瞬で、例のお弁当の子の顔が浮かんだ。
「あのお弁当の子?」
俺の問に即答したのは仲根だけだった。里見は首を横に振った。
「そっか、覚えてないんだよね。当然か。章和は連合体育祭で大活躍して、人気が凄くてさ。他校からもわんさか。色々あったんだよね、事件が。修学旅行もそう。それと、そうそうバレンタインの時もヤバかったよ――」
色んなことがあったというが、具体的なことは教えてくれない。
あとで、映研が撮った映像見て思い出してと、意味ありげに笑うばかり。
「でも章和が信吾を抜くことに執念燃やすでしょ。それを拒み立ちはだかる里見もまたどんどん女子に人気が出ちゃってモテモテ。俺だって、四位は死守したんだよこれでも」
そうか、里見はモテモテになったのか。
でも、文化祭の時にその片鱗は見えてたな。
「なんで俺のことも褒めてくれなかったのさ。章和が一言博教も頭良い的なことを嘘でも言ってくれれば、モテたかも知れないのに……」
冗談にも本気にも取れる口調で笑う。
話す横で、当然のように「ア~ン」してくれる渡辺。俺は色々とごめんねというと、渡辺は「平気。好きで勝手にしてることだから」という。
しかし、惣汰が教えてくれた。俺が倒れてからの世話を全てしてくれていたと。
伸びてきた髭を剃ってくれたり、熱を持つ体を冷やすために、ひざ裏を冷やしてくれたり、汗で汚れた身体を、全身くまなく拭いてくれたり。
至れり尽くせりだったという。
俺はそれを聞いて凄く有難く思った。けど、一つ二つ気になることがある。
それは全身をくまなく拭いたというところだ。
ついさっきのポロリとした状態が頭から離れない。
もしかしたら、ナニかを見られてしまった?
バカか俺は。看病して貰っておいてなんて馬鹿な疑問だ。
医者が手術するのに患者の裸見るのは当然だし、例えただの診察でさえ男女関係なく胸でもなんならお尻でも診察するのは当然。
まして看病してもらうのに、俺は何を恥ずかしがってるんだ。
――でも、でも恥ずかしい。必死だな俺。
とはいえ、昏睡状態の俺の髭を剃ってくれてたなんて。
きっと優しく剃ってくれて、その後も優しく拭いてくれたんだろうな。
その時、俺、アホ面してなきゃいいけど。気になるなぁ。
食べさして貰いながら、色々なことを考えていた。
しばらくするとお爺ちゃんとお父さん、それと良治君に邦茂オジちゃんも見舞いに来てくれた。皆、もう俺は助からないかもという状況下で、何度も諦めるレベルから七転八倒する俺をずっと見守ってくれて、ようやく山を越えたけど、その後も意識が戻ることを信じて祈る生活をしてくれていたようだ。
……心配と迷惑をいっぱいかけた。
涙は流してないけど、震えた声と言葉で、俺の生還を喜んでくれていた。
友達の反応とはまるで逆だ。
友達は、意識不明の時に泣きじゃくってくれて、戻った時には笑顔で会いに来てくれた。もちろん多少は涙ぐんではいたけど。
でも家族は、俺が生死の境を彷徨っている間は誰一人泣くこともなく気丈に振る舞い、すべきことを見つけて出来る限りのことをしてくれていたみたいだ。
立場が違うだけでこんなにも、いや、全てにおいて、態度や涙の流し方まで違うなんてと俺は改めて胸が熱くなった。
色んな人が色んな立場で考えているんだと。
友達も家族も皆……些細な態度まで優しい。
枕元にある刑事から渡された紙を意識していた。
中を見なくても名前も顔も分かる。この中に書かれた子もきっと、色々な思いで色々な立場で考えているんだと思った。




