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エンドロールでくちづけを  作者: セキド ワク
23/36

二三話  選抜選手



 夏休みが明けて二週間とちょっと経った。

 初日からほぼ連日、佐伯と車で登校している。しかしお弁当に関しては、なにをどう決めているのか知らないが、まちまちになった。


 新学期が始まってまだちょっとなのに、学校内かネットでなのか分からないが、様々な俺の噂が立っている。

 そのほとんどが、俺が女子生徒達を惑わし虜にしているというもの。


 陰では、特進のインテリハンター。ハートキャッチャー。土下座のジゴロ。

 などという、数々の呼び名が囁かれている。


 まだまだあるにはあるようだが、特に最後の、土下座してでも女を口説き落とすというとんでもない噂だ。正直、困っている。

 どこかで聞いたようなフレーズもあるが、そのどれも、何かしらの噂がねじれてできているようなもので、女子がおしゃべりしながらあれこれつけた感じだ。


 とりあえず昔からの言い伝え通り、この噂が消える(しち)(じゅう)()(にち)、待つしかない。


 ほとんどの人が嘘だと理解してはいるようだけど、たまに、噂を本気でそうだと信じている者もいるにはいる。

 割合からすれば少ないが、ならなぜこれほど噂が、とも思う。



 今日は滝沢玲奈のお弁当を食べている。ちなみに昨日は清水梢だった。

「どう? おいしっ」

「おいしい」複雑だ。

 確かに美味しいし、有難い。でも、お金を支払えたらどれほど楽か。

 こういう環境というか、いわく付きというか、なんとも申し訳ない。

 素直においしいで終わりたい。


 最初の頃はその意識がもっと強くて、遠くで食べてる佐伯をチラチラと見ながら色々なことに遠慮して食べていた。

 しかし「相楽君に食べて欲しいから作ってきてるし、ちゃんと決まってるルールで今日はアタシだから」と諭された。

 納得がいった訳でも、それがしっくりきた訳でもないが、日が経つにつれ罪悪感というか偏見が少しだけ薄まった。もちろんまだ、わだかまりはある。


「今日もできたら相楽君家に行きたいな~」

 そういえば滝沢と椎名と鈴原が別々の日に訪ねてきた。最初が滝沢、次が椎名、最後が鈴原だ。


 鈴原には悪いが、家に上げることはしなかった。

 あげたのは滝沢と椎名の二人だけ。


 最初は何が起きたのかと思った。話したいことがあるというから、よほどのことがあるのかと怯えたが、なんてことはない勉強のことであった。

 丁度俺が、お爺ちゃんとお父さんとモップの床拭き決めをしている時にきた。

 家ではそれぞれがお掃除ロボを所持していて、それらを、空の状態からスタートさせて、もっとも働きが悪い、つまりゴミを取らなかった持ち主がその後一週間の床拭きを担当するのだ。


 だが、俺は勝ったことがない。最新のマシンを購入するが、なぜかお爺ちゃんとお父さんのそれらに遠く及ばない。

 結果は見えているし、もうそんな試合はしなくてもいいのだけど、自分の可愛いお掃除ロボを見てると、毎回、今回こそ勝てるンじゃないかと賭けてみたくなる。

 ……負けるけど。


 お爺ちゃんのお掃除ロボの上には、文字通りロボットが座っている。

 お父さんのには、ペット好きらしく縫いぐるみが座っている。そして俺のには、お爺ちゃんが買ってきた可愛らしい女の子の人形が、前掛けと頭に三角巾を巻き、ほうきを手にペタンと座っている。

 いつかは勝たせてあげたい。



 自動掃除機を充電して、滝沢を部屋へ招き入れた。

 マッサージチェアに座ってもらい、俺は滝沢に飲み物を運んだ。コーヒー牛乳でいいというが、うちのコーヒーは濃いからと思い、健康を考えて、普段俺が飲んでいるコーヒー牛乳を、更にカフェオレ状態まで薄めて持っていく。


 アイスカフェオレを飲む滝沢。それで丁度いいといった感じに見えた。

 滝沢は社会科が苦手だと俺に相談するが、すぐ別の話へ脱線する。

 今までに、誰がこの部屋に来たことあるのかとか、誰の家に行ったことがあるかなど。俺は清水と佐伯しか来たことないと答えるとビックリしていた。

 佐伯は分かるが、清水がこの部屋にいたのかと。


 滝沢はすごくオシャレで、学校での滝沢とはまるで別人だった。

 本当に別人と言われてもおかしくない。私服と髪型、お化粧や仕草や笑顔。


 俺が鈴原を家に上げなかった理由は、実は滝沢と椎名を部屋へ入れた時に、凄く言いづらいが、心が如何(いかが)わしい気持ちへ揺らいだからだ。

 誘惑というか甘えられたというか、滝沢と椎名の魅力に落とされかけたのだ。

 それに、コンドームを持ち歩いてる鈴原を家に招くわけにはいかない。


 最初から誘惑されるのが予想出来ていて入れれば、それは相手のせいではなく、自らの過ちということだ。



「また行きたいな~相楽君の部屋」

「あ、うん~」何ともぎこちない俺。

 食堂の至る所で皆が見てくる。一体この状況は何だろう。

 どんなルールがあるのか?


「また家までバイクで送ってくれる?」

「ま、まぁ、そうなるかな。でも、前も言ったけど、約束してからでないと、もうダメだよ」

「うん分かってる。だから聞いてるのよ。今度はウチにも来てよ。場所、知ってるでしょ? 私の部屋にも来て、結構広いよ」

 確かに滝沢のお家は大きかった。家というよりビルで、各階にテナントの会社が入っている。

 目黒と恵比寿の中間辺りだった気がする。


 ビルを所有してるのがどれほどの資産かは分からないが、相当なお金持ちだとは分かる。たぶん。

 椎名の家は台東区の浅草近くにあり、四階建ての一戸建てで、普通の住宅街だがスカイツリーの見える穏やかな場所だった。

 鈴原は豊島区池袋付近のマンション。周りは賑やかで派手な感じだ。


 育つ家や家族、地域や環境で、人の性格や思いは変わるだろうけど、いざ色々な場所に行くと、想像する単純さを越えて何も分からなくなる。


 俺の携帯の地図にチェックされた家は、惣汰。航也。佐伯。清水。滝沢。椎名。鈴原。の計七人だ。

 メールのやり取りで、仲根や里見や茨牧の住んでいる地域も分かる。

 それと女子では、染若が文京区。河末が墨田区。岡越が江東区。安倍が品川区。望月が渋谷区。近野が目黒区。新山は川崎市。松宮が港区。永見が新宿区。

 という住まいらしい。

 後輩の桜庭に関しては、メールをしてないので何も知らない。


 地域だけで住所は分からないけど、ウチの学校に通う者は、やはりお金に多少の余裕がある感じの人が、割合的には多いのかも知れない。

 一度停止になった高校無償化も所得制限付きで戻り、私立とはいえ、大分格差はなさそうに感じるが、学校にかかっているというよりここまで辿り着くプロセス、つまり塾や家庭教師など、様々なオプションにかかったに違いない。


 入学してからももちろん塾や予備校でかかるし、おまけにこの学校は何かというと寄付金を募る。何度もそんなプリントが配られる。

 これは卒業しても送られて来るらしい。

 まぁその分、卒業生家族が利用出来る施設が多いのだけど。



「ごちそうさま。美味しかったよ」笑顔でお礼を言う。

「良かった。でも家に来てくれたらもっと美味しいの沢山作ってあげるのになぁ」

 俺は笑顔で頷く。

 滝沢が優しく微笑む。すごく可愛い、それに誰がなんて言おうが綺麗だ。

 綺麗な肌に切れ長の目、通った鼻。上下整った唇。

 こんなに綺麗な女子にここまで言って貰って、この態度は正直ありえない。


 佐伯の存在が無ければ、それこそ土下座している。

 いや、でも、滝沢だけではなく、昨日お弁当を作ってくれた清水にしてもとても可愛い。岡越や染若も可愛い。

 ただ、断トツに可愛いとされているのは、松宮麗香だ。

 あまり良く知らなかったが、この学校で佐伯と松宮と()(ほり)綺乃(あやの)という三名が頂点を競い合っているようで、学校は三つの派閥に分かれているようだ。


 その誰が優勢かによって、下についた後輩たちの、のちの立場も変わるらしい。前に社会問題になった学校内序列制度とはまったく別物だが、女子の美的争いは、昔からそういう流行(はやり)(すた)りではなく、もっと根深く危険な香りがする。


 俺が言いたいのは、誰がどれくらい可愛いか、ではなく、一人一人を知れば知るほど好きになってしまうということだ。

 傍に居て愛したくなる。

 噂では俺が女子を落としているとなっているが、それは全くの逆で、虜にされているのは、こっちの方だった。


 気楽なアニメでは、複数の女子達から迫られて羨ましく感じることもできるが、俺の本心は違う。俺は胸が痛い。切なくて苦しい。

 こんな俺ではなく、君一人を愛して大切にしてくれる人をと心から願う。

 それほど素敵な子ばかりだ。


 俺は数日前に、まだ面識の浅い今ならと思い、皆を集めてその(むね)を伝えた。

 しかし返ってきた言葉は――。

「あなたしか見えないし、他の人はいらない」

「本当に、好きなのはあなただけだから」

「あなたがイイ」

 他にも数え切れない愛の言葉が……。まるで切ない恋の歌でありそうな。


 俺は今まで、思い出すだけで吐きそうになる酷い言葉を浴びせられてきた。

 キモイ、ウザイは軽いジャブで、本当にボディにずしりとくる言葉や一撃で脳を震わす言葉に何度もダウンした。

 誰かに愛されることを信じて、勉強に逃げながら必死に明日を夢見た。


 実際、気付くと今になっていたという感覚だが、このモテ方は少々俺にはご褒美が過ぎると神様に言いたい。

 いじめや罵倒の言葉で傷ついた分、今のこの状況が全身に染み込んでくる。

 言葉の一つ一つが有難いし愛おしい。

 嫌われ続けた俺が、こんなにも求めてもられるなんて、それこそ、願いが届いたようで――。でも、これでは傷を付けてしまう。


 女子がどんな恋愛観でどんな恋心なのか、不器用な俺には全く想像もつかない、けど、それでも俺は思う、こんな俺ではなく、素敵な人に愛されて、幸せになって欲しいと。


 皆は言う。こっちが好きなのを拒まれる方が傷つくし、チャンスさえ貰えないのは悲しいと。こっちが勝手に好きなだけだから、そこはあまり悩まないでと。

 ちゃんと接してくれて、それでちゃんと選んで、と。


 でも……。


 俺は佐伯を裏切れない。皆が言うように、付き合ってもいないし、本当は、何も始まってもいない。けど、俺は佐伯の笑顔や泣き顔を知っている。

 怒ったところや困ったところも、色んな嘘も……。

 まだそれくらいしか知らないけど、でも知っている。


 このまま、滝沢や椎名、清水や染若、他にもいるけど、少しずつ仲良くなって、相手を知ってしまったら、本当に困る。

 皆が言う『本当に好きな人を選んで』というそれが困る。

 それがもし佐伯でなかったら、他の人に運命を感じてしまったら、俺は、佐伯を裏切ることになる。


 これはお世辞ではなく、彼女たちにはそれほど魅力がある。俺一人虜にするのは簡単だろう。皆は俺が、落ちないしなかなかなびかないと思っているようだけど、それは違う。俺は愛することも愛されることも……不慣れで免疫もない。



「そろそろ終わりよ滝沢さん。相楽君開放して」松宮だ。

 見れば見るほど可愛らしい。でもなんで俺なんだろう。


 俺が注目されるようになったのって――、久保への土下座辺りかな?

 いつだろう?


「相楽君。次の時間は体育館に呼ばれるから先に行こうよ」

 松宮が突然そんなことを言ってきた。

 どういうことと聞き返しながら体育館へと向かう。その後ろを滝沢と鈴原と永見が付いてくる。すると、校内放送が流れた。


「来週行われる合同体育祭の代表メンバーは、体育館までお越し下さい。なお五、六時限目は各クラスで、体育祭の選手を選出し、競技などを話し合うように」

 松宮が俺の腕に絡まり「ねっ」と下から覗き込んできた。

 その仕草の破壊力は佐伯と同等のレベルで、間違いなくカリスマだ。


 この学校すべての女生徒の中で、そう呼ばれているのは八名。

 三年の先輩に二名。そしてウチの学年が三名。

 そして、後輩はその三名に一人ずつ付き従う同じく三名のみ。


 その八名の中でも、佐伯と松宮と小堀は別格だそうだ。


 佐伯を好きという男子は相当いるはず、更にこの松宮に関しては、電車で通っているから他校からも相当人気がある。青柳先輩並みに出待ちの者が居る。それらが俺のことをどう思っているのか正直気になる。

 誰もなんの文句も言ってこないし、それどころか遠くで見守ってくれているようにさえ感じる。なぜかは分からないが。




 体育館に着くと、次第に生徒達が入ってきた。

 少しして授業開始のチャイムが鳴った。


「よ~し集まってくれたな。おっ、相楽、来てくれてたのかぁ? どうせ来ないと思って町下先生に引っ張ってくるように通達しておいたんだが、内線で連絡入れておいた方がいいかな、たぶん探してるから……」

 体育科の先生がそう言って、体育教官室に走って戻る。


「え~と、早速だけど、今日ここへ来てもらったメンバーは、基本スポーツクラスだけれど、各クラスからも、代表で、最低一名ずつは来てもらっている。三年生に関しては、やはり受験があるから呼んでない。ただ青柳と柏原と市村の三名に本番よろしくと通達してある」


 先生が言うには、今ここに居る者達が、姉妹校である高校と代表で競うらしい。


 それ以外の生徒はいつも通り色分けしたチームに分かれ、点を競い合う恒例の、運動会だという。

 もちろん、他校との点の取り合いは否めないから、盛り上がりは凄いという。


「今、ここに居るメンバー諸君は、一体この合同体育祭とは(ナン)ぞや? と思うかもしれないけど、これはこの学校にとって凄く重要なイベントだ」

 先生いわく。二年に一度開かれるこの体育祭は、姉妹校どうしの経済的な争い、つまり分配を大きく左右する大会らしい。


 勝った学校は、体育館に冷暖房が完備され、もちろん、一年中の光熱費込みで、優遇されたり、前に一度ウチが勝った年には、プールが、室内温水プールになったともいう。

 他にも生徒達に直接関係してくる食堂の設備、教室の設備、パソコン室や各選択授業室の設備投資が大幅にアップしたり、教師の給与にも関わるらしい。


「先生。先生のお給料の為に戦うンですか~」

「ばか。馬鹿久保。先生の給料が上がったら、どうなると思う? 教え方が優しくなるぞ~」

 冗談のように笑う生徒達を尻目に、先生達は大まじめだ。

 それがいいことに、この場所には、体育科の教師だけではなく、一般教科の先生も複数いて、おまけに校長と副校長もいる。


「いいか、実際、この八年この合同体育祭で連敗だ。勝てた試しがない。向こうの学校はどんどん良くなっていく。ウチはというとどんどん(すた)れていく。前に一度、女生徒側が奇跡的に勝てて、それでどうにかプールを改装した。それによって先生や生徒の寒い懐がどうにか温まった」

 なんって? 


「先生、四連敗もさせられてるんでしょ? 相手に勝てる見込みは?」

 誰かが問う。

 先生が首を傾げて悩む。先生の困り方を見た感じ無理だ。しかし、先生というかこの学校の方針として、この合同体育祭への思い入れは凄い。

 この合同体育祭の歴史の中で、様々な取り組みが施されてきたようだ。

 実はスポーツクラスやスポーツ推薦が、その一番の対策だったようだ。


 ただの進学校、それがこの体育祭の為にわざわざスポーツクラスを設け、戦いに挑む。

 高校生たる部活動の為ではなく、この(いくさ)の為のスポーツクラスだったようだ。


 どれだけ校長率いる先生方は、この体育祭に賭けているのか。更にそれでも歯が立たず、二年に一度の年に合わせ、二学年になる年に、スポーツクラスを二クラスに増設した。


「先生? 一年と三年はスポーツクラス、一つなんですか?」誰かが尋ねる。

「当然だろ。三年は受験で身動き取れなくなるし、怪我されたら困る。うちは基本進学校」

 確かに。一年生を率先して使うほど戦力があるかと言えば危ういし、今の一年も同じく三年に上がったら同じこと。そんな年に、スポーツクラスを大人数取れば、その分何かしらの弊害が出てしまう。割合が大切なわけだ。

 その点、合同体育祭の年に当たった二学年は、合同は一度きりだが、受験状態でもない、脂の乗った旬な学年ということだ。



「それじゃ今から名前を呼ばれた者は右へ、そうでない者は左へ寄ってくれ」

 次々に名前が呼ばれていく。

「ア~相楽」

 体育館には一般の生徒も次々に見に来ている。自分達の出場する競技が決まったのか、一年と二年の姿がチラホラと増えてきた。


「あとは~久保と富永だな」

 呼ばれたのはたった九人。クラスAから順番に、(つき)(しろ)(あきら)三好(みよし)(ひろ)()前草公彦(まえくさきみひこ)菊池(きくち)政基(まさき)富永凌(とみながりょう)久保(くぼ)(まこと)(いずみ)(はし)一樹(かずき)。そして俺、()楽章和(がらあきかず)

 一年生からは、あの後輩一モテる、安住(あずみ)(ゆう)()。以上だ。


「一応、青柳と柏原と市村、それと相楽は補欠ということになっているから、安心してくれ。特に相楽は三年と同じ扱いだ。特進だから、特別扱いだ」

 久保や富永がブゥブゥ言っているが、俺は少しだけ疑問がある。

 なぜ補欠枠に青柳先輩がいるのかが。絶対に勝ちたければ、お願いするはず。

 キーパーの件で、あそこまで粘着してきた先生が、このあっさり感。

 逆に、パサパサ過ぎて、クッキーが口内に張り付くイメージだ。


「先生? 補欠っておもに何をするんですか?」

 俺は確認の為に質問してみた。そこに居る皆も俺と先生の会話を興味深くみる。

「え? な、なにってなんだ? 補欠だよ。ただの。ほ、ほら、誰かがケガしたり体調崩したり、調子が悪くなった時に代わりになっ、まぁ、そういうことだから。そんな深く考えなくても大丈夫。安心しろ。それとも、レギュラーでバリバリ参加したいってか?」

「い、いえ、補欠で……」あやしい。


 要するに、青柳先輩も柏原先輩も市村先輩も、俺も、競技を限定されずに……、レギュラーの体調のよしあしで出場するってことか。

 なにか裏が見えそうな感じだけど、でもさっきみたくレギュラーでバリバリってのにされたら溜まったもんじゃない。

 疑惑は大いにあるが、ここは沈黙するしか方法がない。


「この中で一番足が速い者は。え~っと、相楽か。ま、相楽は補欠だから次ッと」

 なんだこのサバサバした感じ、周りの生徒でさえ不自然さに気づいてる。

 先生は記録表を見ながら競技を決めていく。一つずつ枠が埋まっていく。


「先生。でも今回の体育祭で勝つと何か特典とかあるンすか?」

「ばか久保。あるよ。今回活躍し更に勝った暁には、推薦入試優先権とか色々だ」

「なにそれ?」久保が首を傾げる。

「ドアホ。お前は偏差値Zか。ウチにくる推薦枠が、どのランクか知ってるか? 凄いぞ。それがなんとフリーパス。つまり、今回活躍し仮にも勝ったら、大学入学おめでとうってことだ。スポーツクラスには、願ってもないチャンスだろ? それとも受験戦争に参加して、低~い大学へ行くか?」

 久保や富永がプルプルッとホッペタを左右に振る。


「でも先生、それなら三年でそれを狙ってこの体育祭で活躍した方が受験勉強するよりイイんじゃないですか?」

「ホントお前等は浅はかだなぁ。まず、そこまでは高い推薦枠じゃない。ただな、スポーツクラスにとっては最高級だけどな。それに、普通クラスの生徒が、逆に、そんな勝てるかどうかも分からない体育祭に賭けてどうする? しかも勉強の方が得意なのに? 体育祭に賭ける?」

 すごく罪の匂いがする。なんかこの推薦がどうのという話、裏口入学よりも更に焦げた匂いだ。良くない異臭がプンプンする。でもこういうやり取りが現実か。


 要するにスポーツクラスがよりイイ進路先を獲得できる仕組み。

 こりゃ、この体育祭で体育科の先生の命運が分かれる……。

 もちろん一部の生徒達も。


 スポーツクラスを受け持つ担任にしたら、生徒達をいい条件で卒業させられて、おまけに給与もアップ。願ったり叶ったりか。――勝てればね。

 ただ、このやり取りが漏れることはないのか?

 たかが、ちっぽけな学校の、閉ざされた体育祭の抗争だから平気なのか?


 学校という密室の裏側を覗いた気がした。


「さて、早速練習に取り掛かろうか。先ほど名前を呼ばれた者は、自分の参加する競技の練習や準備を始めてくれ」

 そう言い終えると、先生が俺の所まで来て「相楽は自分の得意そうなものだけ、ちょちょっと練習してくれればいいから。何せ補欠だから。いいな~補欠は楽で」

 という。


 もう不自然さ極まりない。教師の対応ではない。

 普通の教師なら、たとえ補欠だろうと、いつ自分の番が回って来るか分からないから、そのつもりでレギュラーと同じように頑張れと、当然、叱咤(しった)して丁度いい。

 それを考えれば先ほどの口調や態度は異常だ。

 劇中に出てくる、悪意を隠したチンピラのでまかせに聞こえる。



「相楽君補欠なの? え~なんで~、私、選手に選ばれたのに~」

 松宮が寄り添ってくる。

「私も~」永見も来た。


 顔の分かる女子で、選手として選ばれたのは――。

 松宮(まつみや)(れい)()(なが)()(きみ)()椎名(しいな)(さき)(こん)()(もえ)。それと後輩の鈴原凛(すずはらりん)(さくら)()()()

 以上六名で、後は知らない子達だ。特進クラスは一人もいない。

 残念というか仕方ないかと思う。

 佐伯も選ばれていないようだ。

 佐伯は、それなりに運動神経が良かった気がするけど、その記憶は小学校までのだから何とも言えない。


「一緒に練習しよ」松宮が甘えてくる。

「先輩~。相楽先輩、指導して下さい」

 鈴原と桜庭が、後輩として可愛く頼ってくる。

 するとスポーツクラスの者が「俺が教えてやろうか」と松宮に声をかける。

 それを「誰?」というマイナス4℃のセリフで振り払う。

 何とも懐かし響きの言葉……。よくそういう扱いをされた覚えがある。

 後ろからプリントを集める時に、自分だけ飛ばされて、後から一人で先生の所へ提出する冷たさにも似ている。


 深入りせずに退散する男子。それを周りの生徒達が目で追う。

「相変わらず男子に偉そうにして、いい気なもんね松宮」

 誰だ? でも松宮にこれだけの口を利くということは――。


「アンタみたいに誰にでも愛想振りまく趣味ないだけよ。それよりイチイチ絡んでこないでよ、せっかく相楽君と居るんだから、邪魔よ小堀」

 これが小堀――か。にしても、仲悪そうだな。

 とはいえ、本や映画なんかでは、友達や同じグループ内ですら、いざこざがあるように描かれているし、あからさまに敵対している派閥ならこれくらい当然か。


 小堀は、ゾロゾロとド派手なメンツを引き連れて、俺や松宮の周りを、ぐるりと取り囲んでいる。凄い威圧感、いじめられそうな雰囲気だ。


「相楽ね~。大したことなさそうじゃん。やっぱ青柳先輩の方が上よね」

 小堀の周りの女子がもちろんと共感する。

 小堀は青柳先輩がお気に入りのようだ。


 松宮も永見も椎名も後輩達も、小堀を無視して俺に話し続けている。そのシカト状態が気に食わないのか、チヤホヤされてるからって調子に乗って馬鹿じゃないのと悪口を吐いてくる。


「もぅ~しつこい小堀。邪魔だって言ってるでしょ。消えてよ」

 松宮が少しキレ気味で言う。どうやら本心の様だ。悪口というより、本当に今のこの時間を邪魔されたくないという雰囲気。

 永見も椎名も激しく同意といった感じ。


「なんなのよ。張り合いないわね。逃げてんじゃないわよ」

 小堀はそう言い残しこの場を離れた。これがどう見えるかは個々の見解で違うと思うが、松宮は全く相手にしていない。それよりも俺と話したいオーラ全開だ。



 ついに、この学校のカリスマを、三人とも見た。さすがに凄い。

 納得する美貌だ。ただ、まったくタイプの違う三人。うまくは説明できないが、個人的なイメージでいうと――。


 小堀は、綺麗なキツネ的イメージ。

 それに比べて松宮は、愛嬌のタヌキ的感じ。まつ毛や眉毛がしっかりしていて、一目で吸い込まれるクリックリの目をしている。

 とにかく目鼻立ちがしっかりしている。

 佐伯は美しく妖艶な猫的イメージ。


 パッと見でそうは感じないが、敢えてイメージし分類すれば、そういう分け方になると思う。

 圧倒的な存在感と羨ましいまでのシンメトリー感。同性から憧れられて当然だ。テレビの作られたアイドルとは違う天然(ナチュラル)の良さがある。



「相楽君。どうだった?」佐伯が体育館へと入って来た。

「俺? 補欠だよ」

 佐伯が、それじゃ少しは勉強に専念できるねという。

「たぶんだけど、色々と呼び出されたりして、あまり選手と変わらないと思う」

 と笑った。

 絶対に負けたくないだろうし、少しでも可能性を上げる為には、何かしらの練習はするはずと。


 すると遠くから体育科の先生が。

「相楽は補欠だから呼び出したりしないぞ~。三年生と同じ扱いだぞ~」と笑う。

 どうやら本当に呼び出しはない様子だ。

 確かに先輩達も受験の真っただ中で、呼び出せば反感を買うだろう。

 それに呼ばれても来るかどうか分からないし、俺が本当に同じ扱いなら呼び出しも練習もない気はする。たぶん。


 それにしても、普通より小さめな声量で話してるのに、この騒がしい体育館内でよく聞こえたものだ。余程の地獄耳なのだろうか?



 他愛もない雑談をしながら軽く運動する。

 すると、五時限目の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 休み時間になると、仲根と里見と茨牧が来た。特進の女子も来た。

 皆が俺にどうだったと聞いてくる。俺はそのすべてに、補欠だったと答えた。


「いや~町下先生が焦って探してたから教室が大変だったよ」茨牧が笑う。

 どうやら町下先生がパニックを起こして、相当取り乱したようだ。

 仲根も里見も笑っている。仲根と里見の横にはすっかりお馴染みのお弁当の子が寄り添っている。まるで特別な……彼女のような。


「皆は何か出るの?」

 茨牧と仲根がいうには、特進の男子は特に個人競技はなく、綱引きや棒倒しなどの団体競技が主な参加種目だという。

 やはり今回の体育祭は基本スポーツクラスにかかっているようだ。

 ま、特進に日々の練習をする時間はないから、丁度いいと思う。


 舞台前で固まって話していると、小堀グループが再度アタックを仕掛けてきた。さっきまで体育館のど真ん中で、大勢の男子達と話し込んでいたのに、なぜかまたちょっかいを……。


「佐伯も来たの。なに? 佐伯と松宮って組んだワケ? 仲直りでもした?」

 佐伯が小堀を無視して俺と話す。佐伯もまた俺と話すことに夢中だ。

「ちょっとなにシカトしてるの? つぅかアンタさ、高校デビューなんでしょ? さっきそこの男子が言ってたわよ。一部の間じゃ噂だってさ」

 小堀が傍にいる男子を指さす。


 とその男子が、少し焦った感じで、そうだとかなんとか(つくろ)う。

 俺も、仲根達や女子達も相手にせずにいると、少しずつ悪口というか、絡み方がヒートアップしてきた。


「相楽君、ここうるさいし場所移そうか」佐伯が俺の手を引く。

 皆でゾロゾロと移動しようとした時、その男子が佐伯を止めようと、佐伯の腕に触れかけた。その瞬間、俺はそいつの手を掴み、絞り上げていた。


「痛っ、痛ぇな相楽、なにすんだよ。離せよ」

「お前、今、佐伯の腕掴もうとしたろ? 佐伯はお前にそこまでされるようなことしたか? 何様のつもりか知らないけどあまりふざけたことするなよ。すぐそこに先生もいるし、事情を話してお(きゅう)でも()えてもらうか?」


 大勢が見てるからか、ブツブツと小声で文句を言っている。周りに居る者は既にここで何やら揉めているのは知っている。

 数人いる先生達ももちろん気付いている。

 さっきの声よりも遥かに大きいし、地獄耳の先生なら当然聞こえている。

 しかし、見て見ぬフリというか、様子をみている感じだ。


 まぁ元から、小堀が絡んでいたのは知っていたはずだし――。


 同じ体育館上にいる生徒も、二階席に三列だけある椅子にまばらに座る生徒達も野次馬とは別な雰囲気でこちらを見ている。いつの間にか後輩も沢山見ていた。


「へぇ、相楽君って珍しいよね。佐伯なんか庇ってさ。相楽君さぁ、正直、ここに居る女子のことどう思ってるの? 重いンでしょ? お弁当だのなんだのってさ、男子はそういう手作りとか嫌なんじゃないの? 甘え方もそうだし。それに――」

 小堀も絡まってきた。


「あのさ、君がどう思ってるかは知らないけど、俺は君の意見は関係ないから」

 そういういじめっ子的なコの意見には乗らない。それに興味ない。

「はぁ? ちょっと何? 相楽(アンタ)もチヤホヤされてるくらいでいい気になってるの。アンタ等って、そんなヤツの集まり? 見ていて不愉快。本当は重いって思ってるくせにさ」

 小堀が周りに居る男子に共感を求める。

 するとなぜか、仲根や里見や茨牧まで、共感しているかのように下を向く。


 確かに今までの女子の強引さや態度を身近で感じてるし、時には俺の為に口論もしたから……。

 それにもしかすると、ここに居る男子の大半はそう思っているのかも知れない。皆……不愉快なのかも。


 俺は佐伯や松宮や後輩の鈴原を見た。不安そうに俺を見る。


 確かに、しつこくされたり過剰なやきもちが重いと言って、それが原因で別れるような本を読んだことがある。いや、そんな話しかない。

 馴れ合いで喧嘩したり別れたりすれ違ったり。

 俺は本やテレビでしか恋愛を知らない。経験値がまるでない。


 言わんとしていることの意味が分からないでもない。皆が不愉快な意味も。

 でも……。人なんて、他人を不愉快に思うものだ。


「なんだよ相楽、小堀さんの言う通りなんだろ? 図星か。本当は重いと思ってるくせによ。佐伯なんて高校デビューのくせにさ――」

 ブツブツ文句言っていた男子が、息を吹き返したように絡んできた。

「だからよ、さっき言ったろ。そこの女子がどういう恋愛観とか、ましてお前が、何を重いって思っているか関係ないンだよ」

 俺の言葉に、反論し畳み掛けてくる。それじゃペアルックがどうだとか手編みのセーターがどうだとか、いくつもアホみたいな例えをしてきた。


 俺はそれらを無視して、この状況をどうするか迷う。


「相楽、久保に土下座したこと忘れてんじゃないのか? また皆の前で恥かくぞ」

 と、佐伯がいい加減にしてとその男子に食って掛かる。松宮も少し遅れて罵る。徐々にこっちの女子がヒートアップしそうになる。俺はそれを止めに入った。


「やめよぅ。こんなヤツと言い合いしても意味ないから。大体、俺、こんなヤツら知らないしさ、これからもどうでもいいし。それとはっきり言うけど、俺はお弁当も皆が好意を持ってくれるのも重いと思わないから。ソイツが何を言おうが、俺はそいつじゃないからさ」

 俺がそういうと佐伯と松宮がにっこりと笑う。鈴原も「先輩」と目尻が垂れる。


 大したことは言ってないつもりだけど、女子の照れたような微笑みが可愛い。

 俺ももし、好きな子に同じように言われたらニヤけるのかな?


「嘘つくなよ相楽。重たいと思ってるくせに。迷惑なんだろ?」

「もういいだろ。俺とお前じゃ違うンだよ。お前はそこの超軽い女子と気が合うンだからそれでイイだろ? 俺はそんな軽い愛に興味はねぇよ。黙れ」

 体育館中がシーンと静まり返った。


「そうね~。小堀の愛は軽そう。私達には遊びにもならないわ」松宮が笑う。

 佐伯も永見も椎名も染若も滝沢も、後輩の鈴原も笑う。

 まるで完全に勝ち誇ったように。


「なによ。私の愛が軽いって言うの……。なによ。何も知らないクセに。なによ」

 すごく悔しそうだ。きっと本当はもっと深いのだろう。相手に嫌われると思って上手に振る舞ってるのかも知れない。

 ……ま、知らないから実際は分からないけど。


「相楽。それ言い過ぎだろ。謝れよ。でなきゃ俺と勝負しろや。久保としたようにサッカーでな。喧嘩じゃないし受けれンだろ? 俺はリフティング得意だからよ」

 発狂したように威嚇し、あからさまに喧嘩を売ってきた。


 謝れか……。こいつ小堀が好きなのか? それともただのクズか。

 どっちにしても、俺はもうこいつを許すわけにはいかない。

 俺は佐伯が責められ罵られても、我慢して流した。

 今だってそうすべきかなとも思う。


 でもこいつは、俺に謝らせようとしている。……謝る訳にいくかよ、本当は俺がコイツと小堀の二人に、佐伯に吐いた暴言を、謝らせたいのに。


「お前、それマジで言ってるのか?」

「当然だ。どうせ苦手だからって逃げるンだろ? なぁ、どうする相楽」

 逃げる? 俺が? 逃げる訳ねぇだろ。

 強引に引き留めてまで、佐伯に高校デビューだなんだのと罵った。こっちは逃げて避けて流してたのに……、もう充分逃げ過ぎたくらいだ。

 これ以上、逃げる訳ないだろ。奴隷や下僕じゃねぇんだよ。


 みせてやるよ、良治君に嫌って程教え込まれたブラフを。


「リフティングでいいのか? 俺はお前の申し出で構わないぜ。それよりまず確認しておく、お前はこの勝負、本当にやるんだな? なら、最後まで逃げるなよ」

「おおイイぜ。俺はサッカー部で一番リフティング上手いからよ。久保よりも遥かに上だ。相楽の方こそヘタなくせにいいのか? また土下座することになるぜ」

 凄く嬉しそうにしてる。余程自信があるようだ。

 それに、俺がヘタなことを知ってる。


 俺は大きく頷き、これで決まりだとアピールした。

 周りで見ている者達も固唾(かたず)をのんでいる。


「それじゃまず、賭けの仕方はトランプの――、つまりポーカーやバカラなんかと一緒だ。まず俺が賭けるのは、負けた方はこの学校から自主退学な」

 俺のその言葉に皆の目の色が変わる。グワッと空間がどよめく。


「お、おい、いいのかよ? ハッタリかましてるんじゃねえよ」

「ハッタリ? 何寝言いってんだ、マヌケか。もう勝負すること決まって、とっくに始まってるのに、今更なんのハッタリだよ。オメェは俺と同じ条件かそれ以上の条件を上乗せすればいいの。まさか今更ビビッて逃げる気か? 言っとくけどな、今下りても賭けの半分の代償は支払って貰う。つまり自主退学の半分。ま、お前は逃げないから関係ないだろ? 最後までやるって言ったよな?」

 なかなか返答がない。体育館中をキョロキョロと見てばかりだ。


「相楽はリフティング何回出来るんだよ?」

「何回? どうした? ビビったのか? ちなみにお前はさっきからリフティング何回とか言ってるけど、この勝負はガキみたいに回数こなす勝負じゃないからな。高校生のリフティングって言ったら当然フリースタイル技だろ。地面に置いたとこからスタートして、右足を外回し、次が内回し、それを左足でも同じことしたら、次は首の後ろで止める。それを空中へあげたら頭で二回、肩で一回、そのまま外側に出した足のモモとふくらはぎで挟むようにして止める。次がジャンプして右足を外回しに一周させ左足でボールを跳ね上げ、今度は反対で同じことをする。そして最後は足の甲でボールを止める。どうだ、サッカー部で一番リフティングが得意なお前には簡単だろ? これを三回のチャレンジで成功させる。失敗したり負けた方は、今のトコ自主退学だ。ただお前がもっと重い条件を上乗せするのは自由だぜ」

 俺は体を動かしながら、さもボールがあるように演じて説明した。


 俺の言葉にざわつく。相手の強張(こわば)った表情をみてはっきりと分かる。

 ――コイツはできないと。


「さ、相楽はそれ出来るのか?」

「俺か? 三回では無理だ。最高でも十回に一回できればいいとこだ。でもこれは勝負、条件としては三回だ。久保に土下座させられた日からずっと練習してきた。夏休みも毎日な。いつかこういう日が訪れるかもって思ってな。二度あることは、三度あるってな。もしそんな日が来たらリベンジすると決めてた」

 余程土下座が悔しかったのだろうと皆が納得する。当然かと。


「嘘だろ? 出来る訳ない。ハッタリじゃないのか?」

「おい、お前ッ、いい加減気づけよ。俺のがハッタリかどうかは、関係ないだろ? よく考えろよ。俺は、このリフティングを失敗したらって言ったんだが、つまり、できないで負けたら自主退学って言ってンだぞ。両方失敗しても引き分けじゃないんだぜ、二人ともに退学だからな。要するに俺がどうかじゃなく、お前はその得意だって言ったテクニックで、リフティングを成功させれるかだ。お前こそ思考停止してないで、さっさと賭けろよ。出来る自信があるなら、俺の出した自主退学に、更にヤバイの賭けてこいよ。俺がビビって失敗するような凄い条件を。ただ、俺は集中して必ず成功させるけどな」

 俺は余裕を見せてニヤリと笑った。


 ようやくことの重大さが分かってきたようだ。


 相手がどうかではなく、自分ができるか。出来ないのであればこの勝負の最悪の結末は二人同時に退学しかない。ヤツにとってすでにこの勝負に勝ちなんてない。

 良くて共倒れ、悪ければ自分だけがこの学校から去る。

 まして出来ないと分かっていて、条件の上乗せなんてするはずもない。

 ――ブラフでない限り。


「二人とも出来なかったら……二人とも退学……」ぼそぼそと呟く。

「ほら、さっさとレイズしろ。お前の望み通りのリフティング対決だぞ。急に問題でも起きたのか? 俺より上手くて、久保よりも上なんだろ? オマエ、もうこの勝負の答え出てるだろ?」 

 するとそこへ久保が飛び込んで来た。


「ばかやめろよお前。相楽に勝てる訳ないだろ。お前っ、知らないんだよ、俺がPK勝負した時、正直相楽が初心者だったからギリで行けたけど、俺はその後、相楽が多摩川で野球の試合してるのも見たし、体育の授業も見たけど、間違いなくレベルが違う。相楽があの後練習したっていうならもうアウトだ。大体お前できないだろそんな連続技」

 久保は早口で焦ったようにいう。セリフの飛び飛びな感じから必死さが分かる。


「で、で、出来る技もある……」

「そっか、じゃあやるんだな? どうなっても知らねぇぞ。俺は連続してちゃんとできるかを聞いたし、キャプテンとして止めたからな。バカは知らねぇ。まぁよく考えな。自分にできるのか、体育の成績がいくつだったのか。ちなみに俺は四だ。お前は? 相楽は余裕で五だぞ。それじゃバイバイだな、短い付き合いだったな」

 久保が下がっていく。

 その久保にすがるように呼び止めて「じゃぁどうしたらいい」と泣き言をいう。


「ちゃんと謝って許してもらうしかないだろ。なにせ、相楽は俺に土下座したし。たぶん半端なことでは許してくれない。でもお前『技』出来るのあるんだろ? 今そう俺に言ったろ。やれよ。そして退学しろ。さっきから見てたけど、百%お前と小堀が悪い。俺は知らねぇよ。一応、キャプテンになったばっかだし、ここは俺がと思ったけど、オメェのそういうトコがイケナイんじゃね」

 俺よりリフティング上手いンだろと笑いながら元の位置へ戻っていく。どうにか三回の内に奇跡起こせるといいなと下がった。


「ほら、キャプテンもそう言ってるぞ、さっさと条件を賭けろよ」

「相楽は本当にやるの?」

「俺はとっくに『ベット』した。あとはお前がレイズするか、現状維持で同条件をコールするかだ。ま、コールしても俺は更にレイズして条件を上乗せするけどな。言っておくけど、こんな生易しい条件で終われると思うなよ」

 そう、まだ最初の条件を提示しただけ。まだまだこれから。


「相楽は、ホントの、本当にやるのかって、……聞いてんだよ」

「当然だろ。俺はお前が佐伯を高校デビューだって言った言葉を許さない。別に、俺の退学を賭けるくらい何とも思わない」

「いや、別にそんな悪気があって言った訳じゃなくて、佐伯が、小、中学校で虐められてたって、塾で噂聞いて、それで高校に入ってデビューしたって……、塾で皆言ってたし」

 言い訳がましいそいつに、俺は、少し距離を詰めた。本気で睨んだ。


「俺が言っている意味が分かってないんだな。俺は、てめぇが佐伯をデビューだと言ったその意味に怒ってるンだよ。佐伯は虐められてたよ。俺だってそうだ。ここに居る生徒の中にもいるかも知れない。だから、はっきりさせたい。お前の言う、デビューってのはいじめに遭ってたようなヤツが自由に振る舞うのが目障りだってことだろ? それがデビューの定義か? 俺の思うデビューってのはよ。オメェのことだよ。かつて虐められてたり目立たなかった生徒? 別にいいだろ。そこまではいい、けどいじめをしてたようなクズに憧れ(あが)めて、高校に入ったらその真似事みたいなことしてるヤツ。口調も態度も全部。俺は、いじめをするようなヤツは、高校だろうが中学だろうが、一度も認めてねぇよ。お前は虐めてた奴らが偉くて、虐めを受けてた者が低いって言いたいンだろ? 佐伯は、昔から可愛かったし、今よりもっとヤバかった。写真見たらお人形かってくらいだ。優しかったし。佐伯が誰より劣ってたのか言ってみ。佐伯の何がデビューなのか教えてくれよ。オマエはもちろん昔から、凄かったンだろ。お前は、どこの中学の誰で、誰より何が優れてたっての? ここに居る皆に説明してみろよ。自分は子供の頃からワルで凄かったから高校でも人を見下してエバってますって。根っからの虐めっ子ですって」


 なんならネットで、お前の過去が、どんなヤツだったか調べてやろうかと言った時、突然、俺の背中に誰かが抱き付いてきた。もういいよと。佐伯だ。


 佐伯が背中から包んでくれたことで少し正気に戻れた。

 熱くなって長々と話してしまった。

 自分が何を口走ったのかまったく覚えてない。


 上手に気持ちを言えたのかも分からない。不器用だから。

 でも、ここに居る佐伯や、他にもいじめられたり省かれた者の為に、どうしても言いたかった。


 ウチの親や佐伯の親、惣汰のお婆ちゃん、皆こんなバカなヤツらのせいで、散々苦しんだ。誰があんな虐めするようなクズと同じ存在になりたいか。

 何がデビューだ。

 この世の中で責任も取らずに暮らしてるカスに……。

 佐伯や俺が憧れるワケないだろ!


「相楽君、私の為に退学なんて賭けないで……」

 すると泉橋が出てきて、俺もデビューだという。

 勉強ばっかで目立たなかったけど、今はチヤホヤされてるからなと。

 松宮も「それじゃ私もね」と笑う。

 スポーツクラスの富永も俺もと出て来た。しかし久保が「お前は別に、人気出てないだろ」とツッ込む。

 その台詞で張りつめた糸が一瞬緩み、久保がそのまま俺の所まで来た。


「相楽、スマン。キャプテンに任命されたばっかで、まだ上手く仕切れなくって。俺からきちんと言っとくし、部活でしごくから、ちゃんと責任取らすから、今回は勘弁してくれないかな。頼むよ」

 そういって土下座しそうになったから、俺がそれを止めた。しかし、久保は何を勘違いしたのか、俺が抱き付いて来たと思ったようで、逆にハグしてきた。

 ぎゅっと抱き付き背中をパンパンとしてくる。ちょっとキモイ。

 お互いの筋肉が嫌だ。固い。


 別に男同士、抱き合う状況は初めてじゃない。試合で勝てば、いつも惣汰や航也とも、抱き合ったり手を繋いで回ってた。ただ、これはなんだかゾワッとする。



 せっかく良治君仕込みのブラフを決めようと思ったのに、まだ、三割ちょっとのところで脱線してしまった。俺はまだまだ甘い。

 ここからが本領発揮の中盤の流れ、そして終盤へと行き、最後にガツンと……。

 ――まっ、いっか。


「よし、そこまでだな」先生方がついに出てきた。

「小堀と、オマエっ。ちょっと名前は分からないけど、久保に感謝しろな。助けて貰わなきゃ確実に相楽の餌食にされて退学コースだぞ。ホント、馬鹿だなお前は。久保も言ってたけど、相楽の運動能力は学校一だぞ、それもダントツだ」

 ちょっと来なさいと、二人を連れて体育教官室へと入っていった。

 小堀の取り巻き達がそれについていき、スーパーで主人を待つ飼い犬のように、大人しく教官室の窓を見つめている。


 先生方が寄って来て、途中で止めるのもどうかと思って、様子を見ていたと謝罪してきた。俺はハイと頷き会釈する。


 時計を見るととっくに六時限目に突入していた。

 チャイムの音にさえ気づかなかった。


 佐伯と松宮が甘えてくる。なんか恥ずかしい。

 さっき「軽い愛に興味ない」と言ったからか、それとも別の言葉にか分からないけど、甘え方がエスカレートしている気がする。


「ありがとう相楽君。私の為に」佐伯が寄り添う。

「何言ってるの佐伯。私の為にジャン。私が小堀にちょっかい出されてたのよ」

 松宮と佐伯が自分の為だと言い張る。


「それにしても相楽君、リフティングの練習してたんだね」

「あっ、それ? それここだけの話――、ブラフ」

 その場の者にだけ聞こえる小声でブラフだと教えた。


 するとブラフってなに? と女子達が聞いてきた。それを小声で話す。

「ハッタリってことだよ」里見も小声で言う。

 トランプの駆け引きとかで使うハッタリだよと。

 ポーカーフェイスとか聞いたことない? と色々説明し出した。


「え? 嘘? それじゃ相楽君できないの?」

「できないよ。サッカーの練習したことないもん」

 周りにいる皆が裏返る。ウソでしょと。ありえないよと。

 当然だ、それを読まれたり悟られたらブラフにならない。


 良治君は言う。世の中で言われている、ケンカは八割がハッタリ勝負というのは嘘だと。喧嘩は十割ハッタリだと。

 言うならば、ヤクザやマフィアがなぜ怖いか? 喧嘩が強いから?

 確かに強いけど、弱いヤクザも強いヤクザも、怖さは変わらないということ。

 手を出したら最後、行き着くところは同じ恐怖や結末に向かう、というそれだ。


 俺は良治君やお爺ちゃんでないから上手く説明できないが、要するに、勝つ者や上に立つ者が、必ずしも腕っぷしではないということ。

 これはケンカでなくても同じようだ。



 先生が体育教官室から出てきて、俺の方へと来る。

「相楽、すまなかったな。大分、お灸は据えたつもりだけど……。なんかなぁ」

 先生が言うには、前に俺と久保がやり合った勝負の後から、自分もリフティングなら勝てるし、皆の前で勝負したらどうこうと頭の中でシュミレーションしていたらしくてと。


 自分も有名な相楽を倒して、一躍有名にと目論んでいたとかいないとか。


 話を聞いて納得いく事の成り行きだった気はする。

 しつこさといい、強引さといい。


 小堀が好きかどうこう以前に、クズな方だったワケだ。

 世の中には、わざわざこうしたアヤを吹っかけてまで、目立とうとしたり(えら)ぶりたい奴がいる。……困ったものだ。


 今回の件を見て、更なる()(ほう)(はん)や『俺ならもっと上手くやれる』とか、そういう悲しい思考の者がいないことを祈るばかりだ。妄想くらいは自由だけど……。


「今回、ことがことだけに、停学処分にしようかと思うのだけれど、相楽はそれで勘弁してくれるか?」

「停学にしなくてもいいですよ」

「でも、それじゃ通らないだろ? アイツは、自分の得意なもので、関係ない者を強引に土下座させようとしたわけだからな。酷い話だ」

 周りの者達がそりゃそうかと頷く。先生方もけしからんと腕組みする。


「たまたま相手が相楽だったから、返り討ちにされたけども。そうじゃない者を、そんな姑息な手で土下座させたら最低だと、俺はアイツに言ったンだよ。もし逆にいきなり相楽の得意なことで勝負挑まれて、皆の前で土下座させられたらと――」

 先生が教官室で叱った内容が一通り話された。


「でも先生、停学は止めた方がイイです。傷つくのは親ですから。先生からアイツにそのこと伝えて、逆に親孝行でもさせたらどうですか? 先生方みたく、自分で生計立ててる大人がビシッと、親のスネをかじってる状態で一人前の顔するなと。先生みたく自分で食べれるようになってからしろと」

「それじゃ……、相楽はそれでいいのか?」


「もちろんです。先生が厳しく指導するだけで充分です。それに、せっかく久保も新キャプテンになったみたいだし、いきなりチームメイトが停学じゃ……、部活でしごくって言ってたし」

 体育科の先生が我先にと教官室へ向かう。自分が指導したいのだろう。

 ここに居る生徒達がその成り行きを見ているし、何より自分で生計を立てている一人前の大人として、一言指導してやりたいと思ったのかも知れない。


 停学ではなく、親孝行しろと!



 段々と雰囲気も良くなり体育館にいつもの空気が流れる。

 久保や富永が悪ふざけしていたり、泉橋と後輩の安住がバスケットをしてたり。それを女子がキャッキャと喜んでみている。


「ねぇ、運動の代わりに鬼ごっこしよ」松宮がいう。

 まあずっと座ってるのもアレだしと思い立ち上がると、松宮が「相楽君が鬼ね」と言い走り出した。


「あ、危ないよ、周り見て」俺は人をすり抜ける松宮を注意した。

「相楽君の鬼。私を捕まえてごらん」佐伯も笑顔で走り出した。

 女子達が次々に走り出す。


 よし、それじゃお望み通り、この俺が鬼として捕まえてやる。


 人をすり抜け佐伯を追い詰める。やはり佐伯は運動神経がいい。

 フェイントを交えながら隅へと詰めた。


「いや、やめて。もう、相楽君」佐伯が首を振って嫌がる。

 必死に逃げようとしてるポーズが可愛い。しかし、俺からは逃げられない。

 これでも元キャッチャーだ。後ろのベースは踏ませない。

 あっという間に佐伯を捕まえた。


「キャッ。掴まっちゃった~」

 佐伯を抱きかかえている俺。いいのだろうか? 良くない気がする。

 焦ってスッと離れる。一瞬の出来事で違和感はない様子だ。良かった。


「それじゃ私が鬼ね。相楽君捕まえちゃうぞ~」佐伯が俺を狙おうと構える。


「ちょっと~。相楽先輩が鬼です。女子を全員捕まえるまで鬼なの。じゃなきゃ、佐伯先輩と二人で追いかけっこになるでしょ?」鈴原が突然割り込んできた。

「そうね~、相楽君が鬼よ」松宮もいう。

「相楽君鬼で続行~。佐伯は抜けて」永見もいう。

 仕方ない。全員捕まえるか。


 追いかけてるウチに、体育館にいた者達が端へと避けて、俺らの鬼ごっこを見物している。恥ずかしい。二階席からも観戦の声がする。


 俺は松宮を追い詰めた。佐伯同様に凄く焦っている。

 まるで狼に狙われた子羊のよう。

 左右にフェイントをかけながら、一気に距離を詰め松宮を捕まえた。


「いや~ん。掴まっちゃった」松宮が俺にがっしりとしがみ付いてくる。

 俺が焦って振り払おうとするが、なかなか外れない。

 仕方なく一度宙へと持ち上げ、くるりと反転して、トンと床に置いた。

 腕が緩んだ瞬間を狙い、スッと離れる。


 次に狙うは鈴原。

「先輩怖いです。ちょっと、ダメです。やめて下さい」

 なんかあまり騒がれると、鬼ごっこじゃなく犯罪の気がしてくる。ただ、逃げる姿勢やステップが間違いなくスポーティなので、辛うじて遊びに見える。


「あ~、捕まっちゃった」鈴原もまた抱き付いてくる。

 次に滝沢を捕まえた。次が近野。その次に椎名。次が安倍。

 染若。清水。望月。岡越。河末。永見。新山。そして最後、後輩の桜庭。

 全員捕まえた。さすがに十五人はヘトヘトだ。


 体育館の床に寝転び荒い息をする。

 夏休み中仕事して、体力も筋力も上がってはいるはずだが、なぜか、スタミナが切れかけている。


「どう? いい運動になったでしょ?」松宮が俺に寄り添う。

「これから、暇な時やりましょうよ先輩」鈴原も来た。

 寝転ぶ後頭部に、床からバタバタと振動がくる。

 見てみると、久保や富永、泉橋や後輩の安住が鬼ごっこをしている。

 きっと女子が、私達もと誘ったのだろう。

 でなきゃセクハラの匂いがしてしまう。これは男子から言い出す遊びじゃない。体験してみれば分かる。


「相楽君疲れた? 膝枕する?」染若がとんでもないことをいう。

「いや、いいよそんなこと。ダメだよ」

「なんで~」

 すると滝沢が、それならジャンケンでという。

 皆がいいよとノリノリで輪になる。しかし、ジャンケンを始めて数回目のあいこの時、六時限目を終えるチャイムが鳴った。


 先生達がそれじゃ教室戻って帰りのホームルームをと告げる。

 俺は、体育教官室前で良い子に待つ愛犬を尻目に、教室へと戻っていった。


 教室へ戻り、帰り支度をしながら色々なことを思い出す。

 横や後ろに居る、滝沢や染若や岡越を見る。

 そして、松宮の顔とセリフを思い出す。


 あんなにも可愛い子が、俺を好きだと言った。

 何も手につかないくらい俺に夢中だと。

 他の人じゃ意味がないと、切なく囁いてくれた。


 優柔不断なんて簡単な言葉じゃ足りないくらい、俺は錯乱している。

 傍に佐伯が居てくれないと……、付き合うという約束の言葉がないと、俺はいつ落ちてしまうか分からない。何かに負けそうだ。


 女子達が言う『誰とも付き合ってないフリーの状態なんだからちゃんと選んで』という問いに息ができない。

 これが今学期中続くのは、無理だ。





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