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エンドロールでくちづけを  作者: セキド ワク
21/36

二一話  熱帯夜



 あっという間に夏休みが終わろうとしていた。


 仲根と里見と茨牧とは、二度も遊ぶことができた。

 一度目は、何を思ったか遊園地へ行き、汗だくになりながら、男同士で乗り物に乗った。

 色々なアトラクションではしゃぎ、特進らしからぬテンションで笑った。

 ミニゲームやアスレチックでも散々遊んだ挙げ句、ヘトヘトになった帰り際に、真夏の遊び方じゃないとようやく反省した。

 そして次は涼しげな海かプールだねと約束した。


 その数日後、早速プールの誘いがきた。ウォータースライダーや流れるプール、高飛び込み、ボディーボードなどで遊びつくした。

 茨牧のパンツ紛失事件や茨牧の恋という思いがけないアクシデントもあったが、どこにでもあるようなハプニング。

 まぁ細かなことは色々あったが、無事に遊び終え、次は学校でと分かれた。



 佐伯とはちょくちょく会うようになって、家にも何度か遊びに来た。

 一緒に花火も見に行った。この前野球の試合を行った場所近くだ。

 多摩川にて、八月十五日に平和都市宣言を記念する花火大会。

 二人並んで夜空に咲く花を見上げた。


 受験勉強の疲れを癒すには最高だった。

 そして今日、夏最後になるであろう、商店街の盆踊り。

 毎年八月の二十四日、五日のどちらかに行われる。


「どう? 似合う?」

「うん。すごく綺麗だ」

 白い浴衣に紫と水色の紫陽花(あじさい)。そこに赤とオレンジのアゲハが描かれている。


 時刻は午後六時を回っているがまだ少し明るい。

 商店街の放送で予定が流れる中、俺と佐伯は出店のかき氷を探す。


「相楽君浴衣似合うね」

「よかった。ありがとう。なんか照れるな」

 見慣れた商店街を二人で歩く。


 俺は「手を繋いでいい?」と聞こうとしたが、それはやめて、さり気なく繋いでしまった。聞くのが怖いのだ。

 本当は嫌がられたらヤダから、承諾を得たいけど、前にお爺ちゃんと良治君が、女性は、あれこれ聞けば、必ず「イヤイヤ」と答える生き物だと、言っていた。

 それに深い意味などなくてもそうなのだと。


 女心は永遠に分からないのだから、男に出来るのはなるべく紳士で男らしくするしかないと。

 丁寧に優しく接して、それでもダメな時は、もう何したって合わないから諦めろと笑われた。

 確かにそれでダメなら、こっち側もさすがにギブアップだ。


 手を繋ぎしばらく歩くと、佐伯が綿飴やミルク煎餅(せんべい)を食べたいとせがんできた。どっちがイイと聞くと、ミルク煎餅を指さし俺の手を引き()けていく。

 俺がお金を払うとすぐ、佐伯が楽しそうに枚数を決めるルーレットを回した。

 すごくはしゃいでいる。きっとこのルーレットがしたかったのかも知れない。


 ミルクをたっぷりと付けてもらい、食べながら歩く。下駄の音が風流だ。

 今度はヨーヨー釣りがしたいとせがむから、いいよとまた付き合う。

 赤い色のヨーヨーを取りボヨンボヨンと水の音をさせて歩く。


 佐伯を見ていると、可愛くて抱きしめたくなる。


 しばらく歩くと、盆踊りがスタートすると放送が流れた。

 そして、東京音頭が流れ、生の和太鼓を打ち鳴らす音が聞こえた。

 誰も踊っていないようだったが、一分もすると列をなして沢山の人が現れた。


「どうする相楽君? 踊る?」

「踊り方知らないけどイイよ。踊ろうか」

 列の隙間に紛れ二人で踊った。最初は俺が前で踊っていたが、曲が変わると入れ替わって欲しいと言われた。

 理由は二つ。

 一つは、俺が前の人を真似て踊るそれを、コピーするのが相当恥ずかしいことになってるからと。

 もう一つは、踊っているところを俺に見て欲しいという理由だ。


 位置を入れ替わって三曲ほど踊った。確かに恥ずかしいことになる。

 それでも、佐伯は上手に真似してるから見やすい。俺が前だった時には、それはヤバイことになっていただろう。

 じんわりと汗をかく。沢山の人が行き交う中、グルグル商店街を踊り歩く。


 きりよく曲が終わった所で、二人は踊りの列から離脱した。


「喉も(かわ)いたし、そろそろかき氷食べようよ~」

 ネコのように甘える佐伯を連れて、出店を探す。すぐに見つかり注文した。

「それじゃ俺は、メロンで」

「私、イチゴ」

 かき氷のカップを持ち、商店街を少し外れた所にある公園へと向かった。するとそこでもお祭りが開かれているようで、沢山の屋台が並んでいた。

 ブランコは釣り上げられ、縛られている。


 俺と佐伯は座る所を探し、ようやくベンチを見つけた。

 並んで座り「美味しいね」と食べる。


「ちょっと食べる相楽君?」

 俺は一口貰い、自分の方も佐伯にあげた。

 しかしなぜか「あ~ん」というモーションをする。

 俺は人目を気にしながら、佐伯の口へとストロー型のスプーンを入れた。

 パクっと可愛く食べる佐伯。佐伯の魅力に完全にやられていく。


 このままでは、勉強がどうこうと言っていた俺は消し飛んで、危険な俺が現れてしまいそうだ。

 必死に理性を保とうとするが、佐伯の魅惑は一瞬で恋に落とすレベル。

 ただでさえカリスマ級なのに、この浴衣姿と可愛い仕草、綺麗にアップした髪、うなじ、指先、白い肌、唇、()んだ瞳。……ヤバ過ぎる。


 こんな可愛い佐伯を見ていたらおかしくなってしまう。


「ん? どうしたの、相楽君」

「いや、可愛いなと思ってさ。やっぱお前、可愛いよ」

「ちょ、ちょっと、なに? うそ、やだ、恥ずかし~よ。もぅ。反則だよ」

 俺は照れてくれた佐伯の肩を何も言わず抱き寄せた。


「なあ佐伯。この前さ、一年生の時に、隣の席の俺が、いきなり助けてくれたって言ってたけど、いきなり助けてくれたのは、佐伯の方なんだぜ。本当は佐伯が先に俺のこと……」

 俺がそういうと、俺に凭れながら不思議そうにしていた。


「覚えてないのか?」

 俺は母親もいないし他の子みたいに器用じゃなくて、皆が先生の言う通りに筆箱出したりあれやこれやしてる時、何も出来なくて困っていて、そうしたら横にいた佐伯が全部教えてくれて。いつも世話をやいてくれた。


 佐伯に当時のことを色々と説明した。


「え~ホント? よく覚えてないよ。私そんな気の利いたことできたかな?」

 六年生と一緒に学校巡りするという最初のイベントの時も、トイレに行った後、パートナーとはぐれて、迷子になってる俺の手を引いてくれたのが佐伯だった。


 他にもいっぱいある。

 給食をひっくり返して、真っ青になった俺を、庇い、慰めてくれたり、忘れ物をしたら貸してくれたりと数え切れない。


「それホント? うふ、相楽君ってどじっ子だったのネ。今とは全然違うね。私が覚えてるのは、掛け算を覚える時に語呂合わせで覚えるって言い出して、ニニンガ忍者って連呼してたのは覚えてるけど」

「ウソだ。いくらなんでもそれはないよ。それ佐伯が今作ったんでしょ?」

「ヤダ。やめてよ。私、そんな発想ないわ。掛け算に関しては酷かったよ、覚えてないの?」

 覚えてるよもちろん。勉強始めた時そのせいで凄く苦労したし遠回りになった。でも恥ずかしいからここは……とぼける。(しら)を切り通す。


 ににんが忍者、にさんが転んだ、にしが沈んだ、にご忍者、にろくと僕、にしち団子、にっぱっぱ、にくジャンケンポン。思い出すだけでおそろしい。

 九の段まで、そういうヘンテコなのがびっしりだ。

 至る所に忍者が忍んでいて困った。


 俺は、佐伯を腕に感じながら、どの面下げて女子を抱き寄せているんだろうと、恥ずかしくなった。あの頃の俺は本当に抜けていた。

 勉強をなんだと思っていたんだろう。


「射的とか輪投げとかありそうだね。佐伯なにかして遊ぶ?」

「うん。でももう少しこうしてたい」

 綺麗に結ってある頭を撫でれないから、ぎゅっと寄せた。嬉しそうにしてくれる佐伯を見ながら、呪文のように浮かびくる掛け算を必死に頭から振り払う。


 しばらく寄り添い、行き交う人を見ていた。

 腕に伝わる温度や感触が、身近に感じたり遠くに感じたりする。

 きっと、心や気持ちも同じで、一つになりかけたり、また、個々の存在を別だと意識してるのかも。



 何となく二人で立ち上がり、屋台を見て回る。手を繋ぎ、あれがイイこれがイイと色んなものにトライした。二人で夏祭りを肌で感じる。

 一通り遊び商店街に戻ると、例の金魚すくいがあった。

 ペットショップの催し物だから、金魚の中に豪華な物も混じっている。


「どうする? 遊んでく? でももう飼えないよね?」

 俺がそう言うと、別に平気だよと笑う。

「でも、新しい金魚入れると病気とかうつるよ」

 俺は、父親がペットマニアだからある程度は詳しい。

 生まれた時からそういう環境で育って、嫌でも知識がある。

 ににんが忍者と言っていたあの頃でさえ、動物図鑑は何冊も読破していた。

 字を読むのが苦手なのに、絵本のように眺めていた。


「そっか、なら飼うとしたら別な水槽だね」

 俺は頷く。


 しばらく悩んで、欲しい金魚がいたらしようということになった。


 小さな子供たちが嬉しそうにすくうその後ろから覗く。

「どう相楽君、可愛い金魚とかいる?」

 いるにはいる。らんちゅうという高価な金魚だ。

 サイズは小さいけど、それでも最低五百円はする代物だ。

 一回で取れるかは別として、他にも凄いのが沢山いる。


「いる。ほら、そこの金魚、赤くて可愛いでしょ? 顔の所だけ白くてさ、なんか化粧してるみたい。それと黒いゴマみたいな、そうそれ、東錦っていってね」

 俺が説明していると、下ですくってる子達がこぞってそれらを追い回し始めた。しかし、みんなことごとく破けてしまう。

 他人に取られまいと、焦ってポイを突っ込むからだ。

 それとこの金魚は弱ってないし生きがイイ。さすがペットショップのだけある。


「それじゃ私もやろっと」楽しそうにいう。

 俺は三回分のお金を払い、ポイを三つ渡す。


 佐伯は鉄のどんぶりに水を入れて浮かべると、左手にポイを二つ持ち右手で目的の金魚を追う。と、スーッと一発ですくい上げた。

「うまいよ佐伯」佐伯が照れたように笑う。

 いきなり目的のらんちゅうゲット。子供たちが悔しそうにそれを見ている。


 お母さん達から「そんな大きいの狙うのやめなさい」と注意を受け、渋々小物を狙っている。


 更に佐伯は、俺が先ほど言った東錦もゲットした。

 ポイは破けたが、すでに目標は達成している。

 すると佐伯が、俺にポイを渡し、可愛いのがいたら取ってという。俺も分かったと頷き水面を覗いた。ポイを一つずつ手に持ち佐伯と探索する。


 基本は、肉食魚の餌用、あまり可愛くない金魚ばかりだ。



 探していると隣で佐伯が「あ~あ破れちゃった」と笑う。

 俺がポイを渡そうとしたら、いいという。もう集中が切れたと。

 佐伯がどれを狙っていたのかを聞くと、指さす先にらんちゅうの黒色がいた。


 俺に取れるか? 泡のところでストップしている。失敗したら終わりだ。

 何度もやる訳にもいかない。それなら普通に買った方がいい。これはゲームだ。

 佐伯はたった一つのポイで二匹もゲットした。でも次は失敗した。


 ヤバイ、緊張する。ポイを濡らしたくない。

 俺が必死に狙っていると、やはりお店の人もそれを凝視している。

 金魚すくいを生業(なりわい)にしている訳じゃなく、ごく普通のショップ店員だから、俺と同じくらい緊張してみてくる。佐伯も笑っているがドキドキが伝わる。

 なぜか周りの人も、俺の仕草をみてざわつく。


 声や音が水面に反射して俺にぶつかる。緊張する。――集中。


 昔お父さんに教わったことを思い出し実行する。

 揺れの少ない所へ追い込む、そして水に対して直角に入れ、金魚をポイに誘う。

 方向を変えられ逃げられたら、水中でそろっと真横にし、水を切るように真横にスライドさせる。つまり、ポイの紙部分に常に水の抵抗が無いようにする。

 そのまま黒らんちゅうの真下へと移動し、ゆっくりと動きを合わせる。少しずつ浮上し、器を用意しつつ、ポイの水を流す。

 そして、金魚が暴れ出す前に、すくい上げる。


「やったぁ。出来た」

「ホント凄い相楽君」

 店の人も周りの人もなぜか拍手してる。お祭りならではの雰囲気だ。


 三匹の金魚を、酸素たっぷりの袋へ入れてもらい、佐伯に渡す。


 金魚すくい場では、子供たちのお父さんが、こぞって勝負を始めた。

 みな、昔は上手かったと口走る。

 本当かどうか定かではないが、そこまで言って取れなかった時に、なんて言い訳するかは考えていない感じだ。

 大人達は皆、大物狙いだ。それを仕留めて家で飼う気なのだろう。


 なにせ目の前で三匹もの目玉商品をゲットされたばかりだ。



 しばらく佐伯と見ていたが、ほとんどの者が失敗し、もう一回とポイを買う。


「そろそろ行こう相楽君」

「う、うん」

 どうなるのか後ろ髪を引かれる思いだが、佐伯が金魚を心配そうに見ていた。


「その金魚持って帰ろう。もうほとんど見回ったし、早く水槽に入れてあげよう」

「でも……いいの? まだ焼きそばとかイカ焼きとかご飯系のもの食べてないよ。相楽君お腹減ってるでしょ?」

 俺を心配してくれている。優しい。確かにもうすぐ八時になろうとしている。

 当然お腹も空いていた。きっと佐伯だって同じだ。


「それじゃさ、なんか買って佐伯の家で食べようよ」

「うん。そうする」

 急いで焼きそばとフランクフルトを購入し、佐伯の家へと向かった。

 家に着くと家政婦が出迎えてくれた。

 どうやらお父さんとお母さんは留守の様だ。


「それじゃ、いれよぉ」

「あ、まだダメだよ、袋のまま少しその水槽に浮かべておくんだ。いつもお父さんはそうしてるよ。あとさ、この水槽のお水はカルキとか抜いてある?」

「もちろん。他にも水質の調整はちゃんとしてるよ」

 佐伯は金魚の飼育経験者。当然、色々な用意はできている。


 早速、金魚の入っている袋を浮かべ、先に焼きそばを食べることにした。

 手を洗い、椅子に座る。

 凄く不思議だ。高級レストランでカップ麺を食べるような気分だ。佐伯の家ではこの焼きそばもフランクフルトも合わない。


「頂きます」

 仲良く隣り合って食べる。

 ぺろりと焼きそばを食べ終えて、フランクフルトへ移る。

 からしとケチャップとマスタードの三色を、たっぷりとかけて美味しそうだ。


 するとなぜか、佐伯がプィッとそっぽを向いてしまった。


「おっ? どうしたの?」

「何でもない。平気」

「そう。……え、怒ってるの?」

「何でもないよ。……恥ずかしいからみないで」

 恥ずかしい? なんで? どして? あっ、自分ちで二人きりだからか。

 急に照れちゃったのかな? 浴衣姿だし。

 でも、家政婦さんいるし、正確には二人きりではない。


 俺は佐伯の顔を覗き込んでみた。すると顔を真っ赤にして見ないでと照れる。

 よほど恥ずかしいのかプィッとする。


 金魚のことやお祭りが嬉しかったのだろう。確かに童心に戻れたというか。

 ま、この豪華な部屋には不釣り合いかもだけど、焼きそばとフランクフルトは、お祭りの定番。きっと子供の様な気持ちを覗かれて、恥ずかしくなっちゃったか。


 あっという間に食べ終わると、恥ずかしそうに俺を見る。下を向いて照れる。

「大丈夫だよ佐伯。俺も同じ気持ちだから」お互いまだ子供だしさ。

「え? 相楽君? ……まぢ?」

 佐伯が凄く驚いている。いくら俺が高校生で背が伸びたからといって、俺だってそういう純粋な気持ちは分かるし残っている。ロマンチックなところだってある。


「まぁ、佐伯を見てると俺もそんな気持ちになる……かな」

 佐伯が顔を真っ赤にして、しどろもどろになっている。結構ウブだ。

 見た目は超カリスマ女子だけど、心はあの頃のままだ。

 そういうところがまたイイ。


「相楽君でも……そういうの、考えるの?」

「当然だろ。まあ佐伯がそうさせるのかもな? 佐伯ってそういう魅力あるだろ」

「ないわよ! エッチ。ばか。もぅ。はずかしいわよ」

 バカってそりゃないよ。どんだけ照れてるンだよ。

 いくら童心に戻ってるからって、ちょっとは傷つく。顔真っ赤じゃねぇか。え? それとも照れてるンじゃなくて怒ってる?


「佐伯……怒ってる?」

 佐伯は首を横に振る。そして「怒ってはいないけど……」と呟く。

「よかった。佐伯も同じ気持ちなんだろ?」

 なんともはっきりしない感じだ。


 ま、でも、恥ずかしい気持ちが分からないでもない。

 俺達はもう高校生だし、いつまでもお祭りで浮かれている訳にもいかない。あと少しで受験生だし、逆にもっと大人になってから、羽目を外して騒げばいい。


「……エッチ」佐伯がそう言って両手で顔を隠す。

 全く意味が分からない。どういうことだ? いや、待てよ、よく考えろ。

 そうすれば必ずなにかヒントはある。落ち着けオレ。

 俺、エッチなこと言ったか? 絶対言ってない。いや、思い出せ……。


 まず佐伯がどのタイミングですねたのか。


 ……。やっぱこの場所来てから俺が口を開いたのは、頂きますだけだぞ。ん?

 待てよ、つまり佐伯はその言葉を勘違いしたってことか?


 確かに二人きりで頂きますって言ったら、勘違いされるかも知れない。

 なにせ、俺にとっては家政婦さんの存在は目立つけど、この家の者達にとっては見慣れているし、いないも同然かも。


 二人きりの家で頂くと言えば――。

 これはマズイな、どうにか誤解を解かないと。

 それで恥ずかしくなったのか……。全く気が付かなかった。

 これが例の、噂の、女心ってヤツなのか。


「佐伯? あのさ。ちょっと、言っておくけど、その、なんていうの、さっきさ、頂きますって言っただろ、あれ、佐伯が思っている意味と違う意味だから……」

「え、どういうこと? 違う意味?」

「そう。違う意味の頂きますというか、食べるぞっていうか……佐伯にはそのこと分かって欲しくて。ほら誤解しているかも知れないしさ。分かってくれた?」


「違う意味の……。うん。……分かった」

 佐伯が恥ずかしそうに頷く。良かった誤解が解けて。

 そりゃ女の子だもん、二人きりの時にいきなり頂きますって言われたら、エッてなるよ。俺が全面的に悪かった。もっと丁寧に相手を思いやらないと。


 それにしても、いきなりプィッてなったから焦った。本当に女心って難しい。

 男はこうやって一つずつ経験して、大人の男になっていくワケか。大変だ。


 でも俺は自力で誤解を解いたわけだし、ほっと一息だ。


「相楽君。……あのさ、……欲しいの?」

 欲しい? あっ、金魚ね。いや、俺は佐伯のように面倒みれないよ。

 あ、でもいらないなんて言ったらせっかく取ったのにテンションが下がるよな。ここは欲しいけど的な感じを出しつつ、無理というニュアンスがベスト。

 慎重に女心を読んでと。


「欲しいよ。苦労してやっと出会ったわけだし。可愛いし。他とは全然違う。一目見て欲しいと思った。でも、佐伯に大切にしてもらいたい。今までみたく大事に」

「うん。ありがとう。でもちょっと残念。でも嬉しい」

 にっこりと笑う佐伯。俺もつられてにっこりと笑う。にしても相変わらず佐伯の顔は真っ赤かだ。色白だから目立つ。


「相楽君さ、酔ってないよね? さっきのかき氷って本当にメロン? もしかしてブルーハワイとかお酒が入ってるの頼んでない? 置いてあるお酒を水と間違えて飲んじゃったとかない?」

「ないよ。あ、でも、違う意味で酔ってるかな。今日は、佐伯の可愛さにちょっと酔ったよ」

「もぅ。絶対酔ってる気がする。公園でも積極的だったし、お前とか言うし……」

 照れてる佐伯って凄くイイ。こんな俺の言葉に照れてくれてありがとう佐伯。

 俺、それが凄く嬉しい。ありがとう。



「そろそろ金魚の様子みてみようか?」

「うん」

 二人で仲良く水槽のある場所へと向かう。

 そして、袋から金魚を解き放ち、水槽を泳ぐ姿を眺めた。


 今度こそ一緒だ。


「綺麗だね」

「うん。可愛い。このゴマちゃんが東錦っていうの?」

 俺はそうだよ微笑んだ。まだ水槽に慣れていないが、いずれ大きくなって五匹で泳ぐ日が来るだろう。楽しみだ。


 水槽を覗く佐伯を見る。恥ずかしそうに佐伯も俺を見てくる。

 にっこりと笑い、また金魚を見る。何度も何度も金魚と佐伯を見る。


「このらんちゅうって背中にヒレがないのね。丸くて可愛い。それに本当にお化粧しているみたい。あっ、この子、唇のトコがオレンジで、口紅付けてるみたいね。カッワイイ」

 ウンウンと頷きながら佐伯を見る。このままずっと眺めていたい。

 そう本気で思った。





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