十七話 催し過ぎて
「もしもし、俺だけど。だから本人だってば! それより今日さ、なんか、泊まりみたいなンだよね。えっ、知ってたの? それじゃ言ってよ。俺だけだよ、着替え持ってきてな……うんそう。ま、一応そういうことだからさ、今日は泊まり。ん、分かってる、ちゃんと行ってから寝るよ。平気。それじゃ明日」
夕食を終えて、俺は家へと連絡を入れた。
今日が泊まりだと知らなかったのは俺だけだったようだ。
親は当然、今回のキャンプの内容を連絡事項できちんと把握しており、お金なども振り込んでもいる。
一言いってくれれば寝間着くらい用意できたのに、俺だけ浴衣というか甚平だ。普段、客となる卒業生の家族用に置いてあるものだ。それでも私服よりはいい。
これから風呂にも入るだろうし、楽でイイ。パンツは売店にある物を購入した。
「さぁ、それじゃ肝試しやるみたいだから、班ごとに表に出てね~」
町下先生が部屋を回り、声を掛けていく。
六人部屋くらいの部屋に、俺と仲根と里見と茨牧で泊まる。各部屋に小さな風呂もありトイレもある。暗くて良く見えないが、窓から見える景色も良さそうだ。
茨牧の指示で廊下へと出て並ぶ。見て分かるが一応点呼を取る。
そして建物の裏庭へと集まった。副校長先生の挨拶の後、学年主任の先生が注意事項を話し、次に体育科の先生達が話し出した。
「え~、各自班ごとに分かられてスタート位置から二分ごとに出発。地図は持っていると思うけど、明かりから次の明かりに向かって進むように。毎年迷子や転んでひざを擦り剥く者が出るから、スエットの者は、わざわざ裾を捲らないようにな。じゃぁ、特進から順番で――」
話が続く中、班の中で更に細かく分かれることになった。
一班、二班ともに男子は男子、女子は女子で二人ずつになっていく。
が、三班であるウチは、女子の要望で男女が組むことになった。
「それじゃ、グゥパーチョで決めよう」
茨牧の指示で、組み決めジャンケンが行われた。
「グ~、パ~、チョッ」
皆がチョキを出す。なぜか俺だけがグーだ。
頭のイイ人間は、チョキを出すと聞いたことがあるが、これほどまでにはっきりしているとは。
俺も昔は、バカだったけど小細工的な意味でチョキを多用していた。
けど、お爺ちゃんや邦茂おじちゃん、良治君が、男は黙って「グー」といって、それしか出さない。それを見て、今じゃ真似ている。
例え負けても、グゥで散る美学だとか。
ちなみにお父さんは、男は包み込む「パー」に決まってると言い張っている。
だから家ではジャンケンが成立しない。
すでに結果が出ているので、まずやらない。
「グッパ~、チョス」
今度はばらけた。俺はもちろんグーだ。別に強い拘りではないけど、真似る。
「きゃ。私、相楽君と」岡越一花だ。
茨牧と河末、仲根と安倍、里見と染若、そして俺と岡越だ。
前の班が出てきっちり二分後に出発した。俺と岡越は班の最後尾だ。先頭を行く茨牧と河末も相当怖いだろうけど、後ろも相当怖い。
女子が横に居るから騒がないけど、本当は怖くてしょうがない。
黙ってるとどんどん恐怖が蓄積されていく。ガス抜きしないとお化けが出た時に心が破裂してしまう。
薄暗い中を歩く。先を行く班の悲鳴がする。そろそろ何か出て来そうな感じだ。隣を歩く岡越が徐々に寄ってくる。暗闇が怖い。
本物の何かが出てもおかしくない雰囲気。
茨牧には悪いが、いち早く被害にあって叫んで欲しい。それが先頭であり班長の役目と思って、後ろの班員を守ってくれ。
怯えながら必死に願う。どうか出てこないでと。
「ウゥアォワァ。ウガァーアアーァ」出た!
仲根と里見の丁度間くらいを、真横からブッタ切るように飛び込んできた。
最悪だ。てっきり先頭へいくかと思わせて、中央に来た。ただ単に出遅れたのか狙いか知らないが、班が真っ二つに割れた。
しかし、里見達がいない。出て来た化け物をかわし、前方へと逃げたのだ。
悲鳴を上げながらどんどん前に行く。
一方、俺と岡越は前方を塞がれヤバイ状態だ。
「ア~アッア、ガァア、アバァ~」
「ちょっと、怖いよ。やり過ぎだって。恨めしや~でいいだろ? ねぇ、聞いて、ねぇちょっと? もしかして本物さん? ですか?」
俺は崩れるように座り込む岡越を守りながら、悪霊に問いかけた。すると、何も告げずに元居た場所へと戻っていく。それを確認して岡越に話しかけた。
「大丈夫? 怪我してない?」
「ダメ。怖い。もう進めない……どうしよう」
相当怖かったようだ。それじゃ一緒に戻ると聞くと、それも怖いという。
「そりゃ怖いよね。えっと、じゃ、岡越さんは目を瞑ってて、俺が誘導してあげるから。どうせ真っ暗だし」
そういうと、とりあえず試してみると岡越がいう。
立ち上がるその体を、包むようにしながら誘導した。
どうにか班と合流できればいいけど、この暗闇だし、この恐怖。
お互い、他人にかまってられない状況。もちろん俺らもそうだ。
前方と後方から悲鳴がする。その声に岡越が震える。
「怖いよぅ、相楽君」
なんだか可哀そうだ。
「大丈夫だよ。俺がついてるから」嘘だ。俺は、幽霊は苦手だ。
幽霊を得意な者なんて、余程じゃなきゃいないだろうけど、苦手な者達の中でもトップクラスのビビリだ。弱虫だ。でも、今はそんなことは言っていられない。
声を掛けながらゆっくりと歩く。足元を照らしながら安全を確保する。
「オォェエー、ドォビャアー」
心臓が止まるってば! アホか。死んでしまうよ。よく考えて脅かせよ。
もぅ~やり過ぎ。
岡越が完全にストップした。足が動かないという。
しかし脅かし役の者達は、なおも周りをうろつき畳み掛けてくる。
「あぅ、もぅダメ。歩けないよ、足挫いたかも。どうしよう相楽君」
怪我?
俺は御免ねと言って、岡越をひょいと抱っこした。こんな所を見られたら、ヘタすりゃ停学かもと過るが、それを覚悟で持ち上げた。
「目を瞑ってな。俺が連れてってあげる」
「いいの? だって悪いよ。重たいでしょ、アタシ重いでしょ? ごめんなさい」
「全然重くないよ。それよりごめんネ、こんなことして……」
それにしても軽い。
仕事現場で十キロの鉄板を三つ持つと相当ヤバイけど、岡越は軽い。もしかして二十キロとか……そんなバカな。絶対もっとあるはず。でも軽い。なんでだ?
もしかして火事場のなんとかってやつか? いや、それはない。
足元に気を付けながら、落とさないように歩く。
岡越は何度も『重くない?』と心配してくる。全然平気だ。嘘なく大丈夫だ。
二つほど恐怖を潜り抜けた。
「ちょっと~。何しているの? なにそれ」
突然の怒鳴り声に、岡越がびっくりして俺の首へしがみ付いてきた。
「さ、相楽君どうしたの?」茨牧の声。
班の皆だ。てっきり化け物かと思った。足元ばかり照らしていたし周りを敢えて見ないようにしていたから、全く気付かなかった。でも良かった合流できて。
これで、気持ち的に、大分、助かる。
「岡越さんが足を挫いちゃったみたいで、それで」
「ウソっ。絶対歩けるよ。なんでお姫様抱っこなの?」なぜか染若が怒っている。
「いや、本当はおんぶにしようかと思ったけど、足怪我してる子を立たせる訳にもいかないし、それに悪霊がすげぇ襲ってくるから、抱えて逃げてきた」
俺だって怖い。一秒でも早くあの場を離れたいさ。超怖かったもん。
状況を把握した男子がなるほどと理解する。しかし女子達は不信な感じで探る。
「で、岡越さん本当に歩けないの?」
「ン~歩けるけど、怖くて。このままじゃダメ?」
そんなのダメに決まってるでしょという。危ないからと。自分で歩けと。
随分と厳しい意見だが、確かにと思える意見が多く上がる。俺も言われるがまま岡越を下ろす。
「どう? 大丈夫?」俺の問いに岡越が頷く。
挫いたのは本当のことだろうけど、ここまで皆に責められたら、さすがにおんぶも無理そうだ。痛くなったら言ってねと伝えて、包み込んだ。
女子達が、またはぐれるとアレだからと、俺と岡越の位置が最後尾から二番手へと繰り上がった。
順番は、茨牧と河末、俺と岡越、里見と染若、仲根と安倍の順だ。
ちなみにはぐれたのではなくて、俺は置いて行かれたというトコを推進したい。
「相楽君、後ろって結構怖いね。なんかスゥスゥするよ」
仲根も泣き言を言い出した。
分かるよその気持ち。ドンケツは怖いよね。
真ん中は結構怖くない。不思議だ。
さっきみたいに、真横から来るかもしれないが、前と後ろに仲間が居るとさほど怖くない。
「ねぇ、相楽君? その歩き方……止めた方がいいよ」染若がいう。
確かにこの位置ならそんなに怖くないし、もう平気かもしれない。
肩というか背中に腕を回して、包むように誘導していたけど、周りともギャップあるし、言われてみれば、そりゃそうだ。
「そうだね。岡越さん目を開けて歩ける?」
俺の問いに無理と首を振る。しかし、振り返る河末が無理じゃないといい。
後ろから染若も、大丈夫でしょという。
「それじゃ薄目にしたら? 俺、手を繋ぐから。ねっ?」
岡越がコクンと頷く。手を繋ぎ歩くがやはり誘導しづらい。
たまにつんのめったりする。岡越は本当に怖くて薄目なのだ。
まあ怖いのは班の皆同じだが、たぶん茨牧と仲根の怯えも岡越に匹敵している。ここまでに四回の脅かしに遭遇しているが、それで心が砕かれたのだろう。
「なんか書いてあるよ」そこには――。
班の男子と女子が一名ずつ代表で、地図に印鑑を押すよう書かれていた。
たぶん最後の試練だろう。
「どうする? 誰が行く?」張り紙を見ながら仲根が呟く。
皆が班長と副班はというが、副班は岡越。無理だ。
「いや、それダメだよ。逆に班長と副班は抜きで行こう。もう充分頑張ってるし、ここは……、俺いくよ。そんで、女子は……、一番怖くない子がきて」
皆怖いに決まっている。いかにもヤバイ色のライトに怪しい祭壇。
絶対後ろや横から出て来ると分かる恐怖。
と、一人の女子が手を挙げた。
「あの、私、いくわ」安倍雅だ。
「怖くないの?」
染若の問いに、たぶん平気という。
俺は茨牧から地図を受け取り、危険地帯へと一歩進む。
なぜか安倍が俺を見つめてきた。
更に一歩踏み出すが、怯えて見える。たぶん怖いンだ。暗闇の中で微かに見える安倍の瞳が、光を反射してうるんで見える。
「怖い? 平気?」俺が聞くと、首を少し傾げて、ちょっと怖いと小声でいう。
俺は安倍と手を繋いだ。そして「がんばって行っちゃおう」というと「ハイ」と可愛く返事をしてくれた。
一歩ずつ近づく。絶対何かあると分かるそこへ。
後ろから茨牧や里見が、がんばれ~と応援してくる。
どうにか祭壇の様な場所に着いた。
「どうする? 傍にいるから安倍さんが先に押す? たぶん、後に押す時に来ると思うから」
俺のその予想に、そうだろうなと理解してくれた。
勇気を振り絞り安倍が押し終えた。次は俺の番だ。
すると後ろから悲鳴が聞こえた。振り返ると、仲根や里見達が襲われている。
安倍の押した合図で発動したのかもしれない。
逃げ惑う茨牧や河末達。遠くから「早くしてくれ」とか「助けてくれ」と聞こえてくる。俺は急いでもう一つのしるしを押す。
その途端、辺りからゾロゾロと化け物が這い出してきた。これがラストと分かる最悪の演出だ。
俺は安倍の手を取り、来た道を戻ろうとする、が正面からこっちへと迫り来る。
――怖い。安倍も手が震えている。怖いンだ。
「大丈夫だよ。怖かったら目を瞑っていいからね」ヤバイ、超怖い。
全力で逃げたい。
安倍の手を強く握らないように意識しながら、手を引き早足で歩く。
相変わらず呻き声がキモイ。足元を気にしながら安全第一で進む。
それでも、どうしても悪霊とすれ違わなければいけない。
勇気を振り絞り、通過を試みる。安倍を背中へと回し必死に庇う。
こんな恐怖初めてだし、余裕なんて微塵もない。
「うぅぅうぅ。ぬぁあねぇえあ」
「きゃぁ、怖い」安倍が俺にしがみ付いてきた。
俺は無意識のうちに抱きしめていた。抱え込んだままゆっくりと歩く。
どうにか抜けると、嘘のように化け物たちが、元居た場所に戻っていく。
俺は、ずれて外れそうになっていた安倍さんのメガネを直してあげ「平気?」と微笑んだ。安倍が「ハイ」と頷き、俺はようやく安心する。
「あれ? 皆は?」安倍がキョロキョロと班の者達を探す。
いない。仕方なく手を繋いだまま道なりに歩いて行くと、前方に出口が見える。沢山の明かりが灯り、多くの人が見える。
ようやく出口に着くと、班の者達が髪をびしょびしょに濡らして立っていた。
「最悪だよ。なんかかけてきたッ。何アレ反則だろ」
すぐに皆が、逃げてごめんと謝ってきた。
俺は皆を見て、仕方ないよと笑って、絶対自分でも逃げてると悟った。まして、周りが逃げて一人そこに残る自信もない。
誰か一人でも逃げだしたら、後は芋ズル式に走り出す。
それに、どれだけ濡らされてるか。見れば納得。
出口にいると、次から次へと逃げてくる。戻ってきては、誰が逃げただのなんだのと、どこの班でも同じような会話がされていた。
入口と出口は近く、先生方が居る待機場所へと向かった。
皆がウチの班をジロジロと見てくる。ニヤニヤとしながら見てくる。
俺は安倍と手を繋ぎっぱなしなことに気づいて、焦って手を離した。
ごめんと言うと、安倍が首を振って「ありがとう」とお礼を言ってくれた。
手を離しても心なしか、皆がこっちを見ている気がする。もしかして俺が甚平を着ているからかも知れない。
「あ、相楽君。もぉ凄いよぅ、有名人」滝沢だ。
「何が?」
するとこっち来てと俺の手を引く。班の皆も、俺と滝沢の後についてくる。
「こ~れ!」
ん? なにこれ。えっ、映像? 俺が驚いていると、そこへ町下先生が来た。
「相楽君。女子がキャアーキャアー騒いでたわよ。全くもぅ女子泣かせね」
俺がなんでこんな映像があるのと言うと、危ないから、各ポイントや道に監視用として設置してあるという。毎年のことだそうだ。
後で、映像研究部が編集して売ってくれるらしい。
暗闇の中でも映像が鮮明に捉えている。怖がる生徒の表情まで。ただ暗視モードだからすべてが薄緑色の世界、でも充分すべてが分かる。
「と言うことは……、見てたってことですか?」俺は焦る。
「当然見てたわよ。皆凄かったわ。あ~だこ~だって。相楽君のセリフ聞きながら皆色々言ってたわね」
恥ずかしい。甚平とは関係なかったのか。あの視線の訳は――これか。
映像を見ながら色々と想像する。それにしてもこの映像を見てから行けばどこに何があるか分かるからちょっとずるい。
まぁ、実際は真っ暗で全然雰囲気は違うけど。
班の者達と話しながらしばらく映像を見ていると、映像に佐伯と門石という子が映った。女の子同士の組だ。
よく一緒のテーブルでお弁当を食べている子で、前に一度、床で座っていたのを間違えて席に座らせてしまったあの子。
後ろからは椎名と新山の組が来る。ここも女の子の組だ。
そのほとんどが、男子と女子で分かれている。
俺は佐伯が出るまで映像を目で追った。
最後の試練だけは、班の男子を待たなければならない。最後は班で協力させる為という意味もあったのかと、これを見て分かった。
試練に挑んだのは、新山と知らない男子。息を切らせながら逃げ惑っている。
他人のこういう姿は確かに面白く感じる。
どんどんと流れるように進んでいく。
クラスAが終わりBも終わる。順番に次々とゆき、あっという間に、クラスDまで終わった。
一クラスに五班、二分毎に入口へ入る。
つまり、一クラス約十分程度で、あの世界に呑まれてゆく。
残りはEとSの、肝試しを担当してない生徒達だけだ。
終わりが近づくと、何やら体育科の先生が、周りで監視している先生方の番ですと進める。先生方は怖くて断るが、それじゃ生徒に示しがつかないからと、理由を付けて強引にいかせようとしている。
「ほらぁ、町下先生も。特進クラスの皆も頑張って帰ってきましたし、先生も勇気をだして」
町下先生が絶対無理と首を振る。しかし体育科も一歩も引かない。
前に、キーパーの件で俺が呼ばれた時、町下先生が言ってたことを思い出した。
普段職員室にいる担任と体育教官室にいる先生とはあまり話さないし、それこそ仲良くないと。怖いしとっつきにくいとも言っていた。
先生は基本一人ずつ行くらしい。それを生徒が見て喜ぶ儀式だ。
脅かす側も、毎年気合いが入るという。
「無理です。どうしてもと言うなら、相楽君ついて来て!」
なぬ? 絶対にヤダ。超怖かったよ。あんな恐怖は一度で充分。と言うか無理。家に帰ってもしばらく一人でトイレに行けないくらいトラウマだよ。
口には出せないけど、女子が居なかったらとっくに泣きながら逃げ出してた。
正直にいうと、おしっこちびるくらい怖い。
「先生。それは無理ですよ。ルールだし。どうしても無理だったら先生は先生同士で行かれたらどうですか? イイと思います」俺の言葉に首を振る。
確かにあんな道のりを一人でいける奴はいないよ。想像しただけで背筋が凍る。
町下先生がそれなら無理だと言う。歩けないという。怖いと。
知ってる。ここに居る生徒の殆どが知ってる。アレはやり過ぎだ。怖い。
「それじゃ仕方ないですね。相楽、行ってやれ。今回だけだぞルール曲げるの」
「はあ? いやいや、無理ですって」怖いンだってば。
ルールなんて関係ないンだよ。
心底、怖いの。もう嫌なの。二度と体験したくない。怖いの、お化けが。
「なんだ意地悪だな~。相楽はこういうの怖くないだろ、平気だろ? 見てたぞ。お前だけぞ余裕あったの。ウチのクラスの久保だって半ベソだぞ」
何言ってるのこの先生。節穴だ。教師じゃねぇ。俺がどれほど怯えてたか。
俺だって見てたよ、久保も泉橋も月城も富永も他も、知ってる顔は全部ね。
でも絶対俺が一番ビビってた。顔に出さないように格好つけてただけ。
いや、こんなに鮮明に映る映像があるなら、バレてたんじゃないの? ねぇ?
教師でしょ? 見抜けよ。生徒の本心を読み取ってよ。
読み取れないか……。なら、ちゃんと口にしないと伝わらないなこれ。
「いや、意地悪とかじゃなくて、ホント言うと怖くて……、先生同士でペア組んで行けばいいじゃないですか? 生徒達も同じ条件で頑張ったし」
確かにと体育科の先生もいう。
しかし、町下先生が七クラスで一人ハンパだと主張する。
「いやいや、それなら誰か先生が二度行けばいいのでは?」俺も必死だ。
「相楽君ッ。担任の先生を見捨てるの? 困っている人を放っておくの? ねぇ、お願いついて来て? ねっ」
女性のお願いを断る奴は半人前だって、いつもお爺ちゃんが言っていた。
男は例え騙されてでも女性の前では紳士でいろと、それができて一人前だって。
正直無理だ。もうすでに断ってる。けど……先生の目を見てると……クソッ。
怖い。本当に怖い。体験したから余計に怖い。でも、もう、どうにでもなれ。
「分かりました。それじゃお供します」
「本当! ありがとう相楽君」
町下先生が喜んでくっ付いてきた。それを見て女生徒たちが騒いでいる。
「え~、今から特進クラスの、町下先生と相楽がそちらに向かう。全員配置につくように。休憩していた者達も、急いで戻りなさい。どうぞ」
体育科教師がトランシーバーで、生徒達に指示を出す。
ずっと休憩していてくれたらいいのにと思いながら、入口へ向かう。
入口から見えるその景色は、黄泉の国への道に見える。
「行きますよ先生」
「ええ、いいわよ」
「ちょっと先生、なんで後ろに……」
俺の後ろに隠れる先生。まるで、連結列車のように、肩に手を乗せ、下を向いてついてくる。しばらく行くと薄暗い闇の中に包まれた。
なにかさっきとは様子が違う気がする。闇の底から呻き声が近づいてくる。
「なに? なによ? 相楽君なに? 怖いんだけど、無理~」
俺の方が無理だよ。これ、俺が付き添っているンじゃなくて、実質、俺が一人で闇に呑まれていっているけど……なんで先生、後ろで下向いているのさ。
せめて横でしょ?
お、押さないで、ってば。
「来た! うっそ」
四体くらいの悪霊というか化け物が近づいてくる。焦って後ろを向くと至る所に長い髪の悪霊が立って、こっちを見ている。
ヤバイ。さっきと全然違う。グレードがマキシマムだ。
「先生? 町下先生? どうします? 俺は、先生の付添ですよ。先生が指示して下さいよ」
先生が俺の言葉に顔を上げて状況を見た。
「キャァ。無理。無理。無理よ。終わりよ。中止。リタイア!」
町下先生がパニックを起こす中、悪霊達は呻きながら傍まで来た。俺は仕方なく先生の手を引き逃げたすことにした。しかし先生はもうすでに動けない。
「先生、それじゃ目を瞑っていいから。俺が連れて行くから、とりあえず怖いからここは離れましょう。ねっ」
先生は小刻みに、何度も頷き下を向く。
俺は岡越の時と同じように、背中に手お回し包み込むようにして歩き出した。
……とんでもないことに巻き込まれちまった。
呻く化け物の横を通り過ぎる。しかし、元の場所には戻らず、ゆっくり後ろの方からついてくる。ありえない恐怖。離れているが常に気配がする。
「先生、先生、できたら下向いたままでいいので、足元か道を照らしてもらえないですか?」
俺の言葉に先生が分かったわとライトを照らす。すると、通り道を塞ぐように、日本人形がずらりと並ぶ。
「何だよ~これ……反則だろ。本物じゃねェかよ。グロいよぅ」
暗闇で見るそれらは紛れもなく本物の霊に見える。
白い顔に黒い小さな目がこっちを凝視している。
震えを通り越して嗚咽しそうになる。やり過ぎだ。
しかも、後ろからは呻き声と共に奴らが来る。怖過ぎる。
町下先生は人形に気付くと、ヒィっと息を飲み、小さな声で無理を連呼する。
何度も後ろを振り返る。もしかしてこの人形を跨げという試練? だとしたら、校長先生もしくは理事長に言いつけて、体育科全員クビにしてもらう。
「先生……もしかしたら、あの人形を……跨がなきゃダメかも知れません」
もちろん首を振って嫌がる。当然だ。馬鹿げている。
それでも立ち止まっている訳には行かない、後ろからは恐怖が迫ってくる。
この挟まれた感覚が、更に心をおかしくする。
クソ。怖過ぎてヤバイ。気が変になる。くぅ~、もう行くしかない。
「先生。掴まって」
俺は先生を抱っこした。ここで立ち止まっていたら漏らしてしまう。
もうさっきから、下腹部がウズウズしていた。
もうすぐ夏だと言うのに、生暖かいのに、背中に悪寒が走る。
ここで行かなきゃアウトだ。
人形の手前まで来ると恐怖が千倍になる。跨ぐ瞬間、真下から股間へ霊気が吹き上がってくる気がした。
どうにかそこを抜けるが、道の至るところで人が立っている。呻きながらこっちを見る。糸に吊るされた生首が無数に垂れている。
もしかして俺は、本当に霊的な世界へ迷い込んでしまったのかと震える。
もし抱えている先生が血だらけの老婆に代わっていたら、俺は失神してしまう。
先生の顔を見ずに声を掛ける。
「せ、先生? そろそろ下りてもらえます」
「無理。もうこのまま出口まで行って。お願い」
またお願い? これ先生の肝試しじゃなく、俺一人の罰ゲームじゃん。
やはり下りてもらおうと体を傾けると、俺の首に抱き付いてきた。
その手の感触が背筋をぞっとさせる。うなじ辺りがゾワッとする。怖過ぎる。
恐怖のあまり、少しずつ早足になる。転ばないように注意するが、もうとっくに限界は超えていた。
すると前方を二体の化け物に塞がれた、そして、左右から這い出すように悪霊が出てくる。後ろの悪霊は大分振り切ったが、それでもたぶん来ている。
つまり四方を塞がれた。抜け道はない。一体何をどうしたい。
徐々に迫ってくる。先生もパニックだ。暴れる先生に目を瞑っててという。
来る。怖い。血塗れのメイクの女子が俺の目の前まで来て覗き込む。
耐えられない。俺も目を瞑りたい。
すると突然、後ろから俺の背中を指でツゥーとなぞってきた。
「うわぁあ。さッ、触るの? 触るのナシ。死んじゃう。ヤバイ」
俺の「うわぁあ」の声に、町下先生がビックリして騒ぎだした。
俺の泣き言に女子達が笑う。しかしその笑い顔が怖い。
血塗れの口元が吊り上った瞬間、意識を失いそうになる。
「相楽君。逃がさないわよ。ひひひっ」成仏して。
徐々に俺の体に触れてくる、他の悪霊も化け物も。四方を囲まれた俺は止めてと言うしかない。先生を落とさないようにしながら、触れてくる手の感触に怯える。
止めてくれないそれらを抜ける為、強引に歩き出した。しかしついてくる。
こんなの無理だ。趣旨が分からない。
だが、歩いていくうちに少しばらけた。その隙をついてまた早足で歩く。
次の明かりを目指して、足元だけ、気をつける。
なんかやけに重い、まるで現場で物を運んでいるような。
「先生? 先生? え、失神しちゃったンですか?」
「してないけど……しそうよ。もうクタクタ」
重い。酔った爺ちゃんを運ぶ時レベルに感じる。無理だ。
「先生……重い。ちょっとそんな風にされると持てないですって」
先生が分かったと言うが、なぜか腕に力が入らない。もしかしたら、腕の限界が近いのかも知れない。さっきの襲撃で余計なダメージを喰ったようだ。
俺は先生にそのことを伝えた。すると先生が、ようやく下りてくれた。
軽くなった手をグゥパーしながら、ハリを確かめる。筋がパンパンだ。
「あと少しだと思います。行きましょう先生」俺は先生の手を引く。
襲いくる度、先生を背中に隠したり抱きしめたりしながら乗り切る。
すると例の張り紙の所へと来た。そこには――。
「ん、お参りだけ? かな」
「嫌ね……此処。ホント不気味」
細い道を進み祭壇の前まで行く。手を合わせたその瞬間、前回同様、ゾロゾロと出て来た。俺は慣れた感じで道を戻る。
しかし正面から来た者が、突然、俺と先生に何かを吹きかけてきた。
「うっ、冷たい」
先生もこの攻撃には叫ぶ。びしょびしょになる。
するとなぜか、逃げる俺の体を悪霊が掴む。触れるのは反則だ。
甚平の胸元に濡れた手を忍ばせてくる。
「ちょ、ちょ、なしだよ。コレ、反則、ちょっと、くすぐってくる」
とそこへ、聞きなれた声がした。
「おおい、お前等やり過ぎだ」体育科の先生だ。
脅かしていたそれらが、蜘蛛の子を散らす。
「すまんな。こりゃやり過ぎにも程がある。まさかここまでとは思わなかった」
そう言うと俺と町下先生を出口まで導いてくれた。
出口までの間にその理由を聞いた。
もちろん毎年そうなのだが、先生達は大人だし、更に担当の先生はこの仕掛けを知っているワケだから、先生達が来る時は、生徒主体の物に変えていいという話になっていたようだ。
教室では、絶対先生を驚かすだとか、先生は先生で「俺はそういうのは平気だ」とか言って盛り上がっていたようで、結果こうなってしまったという。
何度も謝る先生だが、そういう理由が裏にあるのなら、脅かす案で盛り上がった生徒が『アレは怖い』とか『これはヤバイ』とかってエスカレートするのは当然。
チェックする大人もいないワケだし。
出口に着くと、班の皆が走り寄ってきた。
「大丈夫? よく気絶しなかったね。皆、映像みながら悲鳴あげてたよ」
あの恐怖を味わった生徒達ならば、このグレードアップがどれほどの威力か想像できるのだろう。先生達もやり過ぎだと怒って、もう中止だと言い出した。
「おい、お前等、全員戻ってこい。やり過ぎだ。それに、ルール違反して触ったりした者もいるし、危ないだろうが――」
体育科の先生がトランシーバーでそう告げる。映像を見ていた生徒達も俺と町下先生を心配そうにみる。余程残酷に見えたようだ。
確かに、遊びや余興レベルじゃ~ない。
「ホントにすまなかったな。後でちゃんと皆に謝らすから許してくれ」
雰囲気が重いというか……悪い。確かに調子に乗り過ぎたかも知れない。けど。
「先生、一ついいですか?」
俺がそういうと先生達が「なんだ?」と向きなおる。もう一度俺は問い直した。
そして、今から言うことを聞いてもらえるかと伝えた、が内容によると言う。
俺は、それじゃとりあえずと言って、先生からトランシーバーを借りた。
「ア~こちら、特進クラスの、相楽。どうぞ。今から言うことを戻らず、定位置で聞いて下さい、どうぞ。今から体育科の先生が、二名ずつ組みで行くので、全力で脅かしちゃって下さい。どうぞ。それに成功したら、今回のルール違反の件は免責します。どうぞ。せっかくのキャンプだし、楽しく行きましょう。どうぞ。あっ、でも、触れるのは絶対ナシで! 触ると危ないし怖すぎるので。どうぞ~」
周りの生徒達がどっと沸いた。担任団も納得。
相当嫌な雰囲気が流れていたが、これにて一件落着といった雰囲気だ。
楽しい雰囲気が、一気に復活する。
しかし――。
「え、私らが行くのか? あんなとこに?」
中止にしそうな感じだ。あからさまに嫌がっている。
映像で見て、あの恐怖がヤバイと分かったのだろう。それに、こういうジャンルの恐怖に、大人も子供も、そして屈強な男も関係ない、必ずやビビリ上がる。
「先生。町下先生だって行ったンですよ。これで他の先生が誰も行かないのでは、ちょっとおかしくないですか? 最低でも一組は行かないとマズイですよ」
俺の言葉に、そこに居る全員がそりゃそうだとなる。あれだけ嫌がった町下先生一人だけが行って、残りの先生達は誰一人行かないとなると、それは相当おかしなことになる。
「ん~、それじゃ~、担任団で、ジャンケンで決めましょうか?」
体育科の言葉に、他の先生達が、今更それはないという。それに生徒達も免責を賭けて全力で来るだろうし、此処は、体育科で二名選出するしかないと。
体育科の先生が渋々ジャンケンをする。そして決まった。
真っ青な顔で入口へ向かう。そしてついに、地獄旅行へと出発した。
映像には、腰の引けた二人の大人が震えている。活き活きと襲う生徒達。
オネェ言葉で逃げ回る先生。
映像を見ている生徒も先生も、それを見て転げまわって喜んでいる。
ここに居るほとんどの者達が味わった恐怖。
それぞれが似たような思い出を作った。
「面白い。いつもあんなに怖いのに。いや~ん、だって」茨牧が笑う。
「テステックェ~。ってさ、助けてくれってことかな?」知らない生徒達が話す。
しばらくして命からがら出口から飛び出してきた。ゲッソリとしている。
こればっかりは大人でも相当怖い。呆然とし老けた先生。
そして数々の流行語が生まれた。
するとクラスCとDの先生が話し出した。
「まだ時間もあるし、ウチのクラスで用意したイベントを少しだけしませんか?」
他の担任団にいう。それを聞いていた生徒達も喜ぶ。まだ遊び足りないのだ。
その結果、少しだけならと話が決まった。
皆がCとDの実行委員に連れられて歩いてく。
そこにはすでに木で組まれた物があり、消火器やバケツなども用意してある。
生徒達が集まると、先生や代表者が話す。
「いいですか。キャンプファイアーはとても神聖なものです。まず、火が付いたら黙とうしましょう。そして、それぞれが、思い思いの平和を願ってから、ゲームに移ります」
神聖な感じで火が点火された。
火がくべられて皆が目を瞑る。俺も震災や事故や病気などで苦しんでいる方々の平和をご祈念した。
バチバチと勢いよく燃える炎。強さの中に癒されるような温かさも感じる。
学校の校歌を歌い、そして代表者の指示でゲームが始まった。
最初のゲームはくっ付きゲーム。
良く分からない変な歌の最中に、いきなり数字をいう。
その言われた数字の数だけ仲間とくっ付くのだ。
それにあぶれてしまった者は座る。踊り回りながらそれを繰り返す。
知らないクラスの者達や女子ともくっ付く。学校では絶対にできないが、なぜかこの雰囲気だと出来てしまう。
結構人見知りする方だが……面白い。
やがてそれが終わると、ブラスバンド部が来て少ない人数と楽器だが曲を演奏し始めた。皆が知っているバラードやラブソングだ。
「時間の関係上、大分プログラムを飛ばします。が、どうしてもダンスは入れたいので~。ブラスバンドの演奏が流れている間、素敵な異性とのチークタイムです」
基本、誰が誰を誘うのも自由だけど、断るのも自由だという。
あえて踊らないで踊る人達を眺めるのも自由だし、この時間をそれぞれが自由に堪能するようにとのこと。ただし、一人の相手とずっとはダメだという。
俺は、仲根や里見や茨牧と様子を見ていた。誰も踊っていない。
ただ曲だけが流れる。誰が一番に踊り出すだろう。相当恥ずかしいと思う。
「あの、相楽君。踊ってくれる?」佐伯だ。
皆が座っている中、立ち上がり、俺の座る所まで来た佐伯を、皆が目で追う。
相当恥ずかしい。これじゃ誰も立ち上がれない。
「うん。俺で良ければ」
俺も立ち上がる。そして炎の近くへと寄っていく。皆の視線がヤバイ。
すると佐伯が、俺の胸元近くへ入り込んできた。手を握り適当に揺れる。
チークダンスなんて知らないし、もちろん人生で一度もしたことがない。
知らないけど、曲に合わせて揺れながら回る。指を絡めたり腰に手を置いたり。周りのざわめきがヤバイ。
「相楽君。今日、夜中さ、一緒に星を見て欲しい。それが言いたくて、勇気出して来たの。ねぇ、ダメ?」
俺は佐伯と揺れながら考えた。
「無理しないなら。お互い無理して停学になったら困るから、もし抜け出せるようならいいよ。でもお互い、無理はなしでね」
俺がそう言うと佐伯が頷き胸に凭れてきた。
すると、踊る俺の肩を誰かがトントンと叩く。振り返ると町下先生がいた。
「代わってくれる佐伯さん」
佐伯が頷き、皆が座る輪へと戻る。先生が指を絡めて俺を見る。
「さっきはありがとうね。先生、本当に助かったわ。あんな所、一人で行ってたら大変だったわよ」
なんだお礼が言いたくて来たのか。確かに一人じゃ大変だ。
「ちょっと先生、くっ付き過ぎですよ」
「いいのよ別に、これはダンスでしょ。ほら向こうだって」
先生が指さす先に久保がいた。さすがはイケメン。抜け目ない。
先生にリードされ炎の周りを踊り回る。先生の両手が俺の首にかかった時、また俺の肩を誰かがノックする。
「相楽君、踊って下さい」
「えっ、こ、近野さん?」俺は頷く。
恥ずかしそうに手を握り、少し距離を取りながら揺れる。
会話はなく、ただ踊り回る。どれくらいか経ち、また肩を叩かれた。
「萌ちゃん代わって」清水さんだ。
いきなり距離を詰めてきた。俺はいいよとも何とも答えていないのになぜ。
もちろんこんな大勢の前で断ったりはしないけど。
今日の清水さんは結構強引な雰囲気だ。胸元にペタリとくっ付いてくる。
皆に見られている緊張が強くて、逆に、ダンスしているという恥ずかしさは感じないが、やはり、異性との密着の感覚には相当ドキドキする。ヤバイ。
次に滝沢が来た。次が望月。次が安倍で、その次が染若だ。
この頃になると、大分周りでも踊っている者達が現れた。
ただ、カップルで踊るにしても、いつまでも同じパートナーとはダメで、途中で入れ替わらなければいけないルール。
つまり、一度は踊れても、あとは他人と踊っているところを見なければいけないということだ。
岡越も来た。先ほどのお礼を言われながら踊る。
大分ダンスにも慣れてきた。揺れながら場所を移動していく。
「相楽君。踊って。いい?」し、椎名?
久保じゃなくていいのと聞こうと思ったが、なんか野暮なので止めた。
ウンと頷き椎名の手を取り、踊り揺れる。次いで新山も来た。
ノンストップで踊り続ける。
すると、また来たよと佐伯が俺を誘う。俺の胸の中で可愛く揺れる。
胸元のネックレスを見せて、ありがとうねと笑う。
すると今度は、見知らぬ女子が来た。初めましてと挨拶して踊る。次に来た子も見知らぬ子だ。
きっと、キャンプファイアーとは、見知らぬ者同士が、決められたルールの中で親睦を深め合っていく物なのかなと、勝手に思った。実際は分からないけど。
ただ、ダンスというスタンスは下品じゃなくて素敵だ。
もう少し男子同士の親睦が深まるゲームもしたかったが、たぶん、時間の関係でカットされたのだろう。
やがて曲が終わり元の場所へと戻る。
「どうでした? 皆さん気になる人と踊れましたか? こうして見ていると色々なことが見えてきます。本当はフォークダンスにしようかとも思ったのですが」
担当の先生が話し続ける。それを皆が静かに聞く。どこか神聖な感じがする。
この先生が演劇部の顧問だからか、それともこの炎に、そういう神聖なパワーがあるのか。
カレーのくだりや肝試しの話を交え、感動しそうな言葉で締めくくり、そして、炎を消火した。炎が消えたことを、しっかりと確認すると解散となった。
「各自、自室にあるお風呂か、クラスごとに大浴場へ行くように。結構時間が遅くなってしまったので、担任の先生や班長の連絡の元行動するように」
俺達は班ごとに部屋に戻った。
「どうするお風呂? 部屋で入る?」茨牧が聞く。
「いや~大浴場でしょ!」仲根が親指を立てる。
凄いテンションだ。さっきのキャンプファイアーでなにかあったのかな?
班ごとに風呂場に向かい着替える。別に深い意味はないけど、下を手拭いで軽く隠しながら風呂場へと入った。
ずらりと並ぶシャワー。俺は、座って洗うより立って洗うのが好きで、壁に備えついたシャワーのある個室へいき、洗い始めた。
汗もかいたし結構汚れたからあまり泡が立たない。二度洗いし、全身が泡だらけになるまで洗った。
ウチは素手で洗うタイプで、手を洗うように全身をくまなく擦る。
シャンプーしたまま顔を洗い、軽く髭とモミ上げを剃る。
まだ産毛に近いが、お父さんの真似だ。
全身を洗い、指先も足先も洗ってから湯船に浸かる。
「うあ~あちぃ~」どっぷりと肩まで浸かる。
「相楽君さ、超体育会的な肉体美だよね」仲根が笑う。
里見と茨牧も横で頷く。
「俺もそう思う」久保だ。
「ビックリした。何だよいきなり。ちゃんと体洗ってから入れよ久保」
「失敬だな。ちゃんと洗っとるわ。にしてもさ、どんな鍛え方したらそんな肉体になるン?」
俺は腹回りの肉をつまんで『これでも』というと、それ脂肪じゃなくて皮じゃんという。
昔は無かったと言おうとしたが、それこそ嫌味に取られそうだからやめた。
俺は何となく自分家にある運動器具の話をした。
それを家族みんなで使っていると。
「それってさ、子供の運動というよりは、大人の通う、スポーツジム的な運動ってことだよね」
他愛もない話をしながら湯船に浸かる。
「それにしても、相楽って結構モテるンだな。最初から最後まで踊ってたのって、相楽だけだったよ。みんな相楽のダンスに釘づけ状態」
「馬鹿だなぁ久保は。アレは、モテるとかそういう類のもんじゃないだろ。親睦を深める舞いというか、ダンスだろ」
「そりゃそうだけど……相当目立ってたぜ」
のぼせそうになりながら雑談した。
体が熱くて、仕方なく縁に座り、湯船に足だけ突っ込んで話した。
気が付くと、月城や富永、それに知らない男子も混じっていた。
「いやいや、ウチの班なんて学年のトップ集団が、もろ集まってるンだぜ」
茨牧が自慢げにいう。
それを皆がすげぇなと感心する。
お互いに自慢したりギャグを言ったりして笑う。するとそこに、先程の演劇部の顧問の先生が注意しにきた。
「ほら、お前等いつまで入っているんだ。あと五分で出ろよ」
まだまだ話したりないけど、上がり湯をかけて風呂を後にした。
部屋に戻り麦茶を飲む。いつもならコーヒー牛乳だけど仕方ない。
担任の先生が回って来て、点呼の確認を取る。
異常なしと分かると消灯と言われた。布団の上に寝転び話の続きをする。
他愛もない話をした。ウトウトしながらも笑う。
最初に落ちたのは仲根だった。次が茨牧。そして里見も眠った。
俺も重い瞼を閉じたらすぐに眠れる。きっと目を開けたら明日だろう。
俺は上半身を起こし、どうしようかと目を擦る。そして静かに立ち上がった。




