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エンドロールでくちづけを  作者: セキド ワク
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十二話  勉強ができない



 学校でも家でもなぜか勉強ができない。


 もうすぐ試験だというのにこれでは順位が下がる。

 おまけに俺の順位を抜いた内の一人は滝沢玲奈。もう一人は清水梢と分かった。


 なぜだか分からないけど勝てる気がしない。特進クラスに入るまでは負ける気がしなかったのに、なぜか自信が日々削がれていく。

 何より勉強をする状況が作れないことへの不安が半端ない。


 どうにか机にむかう時間が欲しい。


 しかし、今夜も家には招かれざるお客が来ている。

 邦茂おじちゃんと良治君のお二人だ。


 二人はお爺ちゃんの仕事関係だけでなく、親戚の様な存在だ。更にいうと、実は邦茂さんと良治君は義理の親子なのだ。深い事情があって養子に。



 邦茂さんはお酒を飲んでお爺ちゃんと騒いでいる。

 良治君は俺とお父さんを誘って、パソコンのオンライン戦争ゲームをする。

 俺はやり方もよく分からないし、足手まといになりながらもゲームに付き合う。お父さんと良治君が野蛮に盛り上がる。


 勉強のことを考えながら銃を構える。インカムからの命令通りに敵を射殺し罠も仕掛ける。勉強したいのに、俺は戦いたくなんてないのに。

 また戦場に駆り出される。


 ちなみにウチと邦茂さんとの関係は結構古い。

 邦茂さんとお爺ちゃんは、若い頃同じバンドのメンバーで、お爺ちゃんがギターボーカルで、邦茂さんはドラムスだったらしい。

 けど、お爺ちゃんが突如ロックスターを辞めて、重機のパイロットになると言い出しそれはそれは大変だったと聞いた。

 酔うとたまにその話になる。

 プロとして成功した矢先で、おかげでプロダクションやファンには迷惑をかけたと反省している。


 お爺ちゃんは自分の親の遺産全てを使い、中古のトラックを数台買い、運送業を始めた。それに邦茂さんも一からついてきて、お爺ちゃんを横で支えてくれた。

 重機のパイロットという目的に向かって、運送業をどこまでも大きくし、それを元手に更に勝負して今の会社に辿り着いたようだ。

 だから、お爺ちゃんの下請け会社の中には、お爺ちゃんが作り売却した会社も、いくつか混じっているらしい。



 邦茂さんはすごく変わった人で、一言で言うと変人だ。なにがとは言えないが、仕事中に風邪でぶっ倒れた時、インスタント麺の粉袋を薬のように口へ入れ、体が拒否してむせる中、飲み干して「病は気から」つまり薬だと信じれば治るといって本当に治す人。


 他にもいくつも逸話はある。その一つが、離婚歴が九回。

 ただ、そんなに結婚しているのに子供はいない。いるのは養子の良治君だけだ。

 ちなみに、良治君と邦茂さんの名字は堀塚だが、それは自分達のものではなく、何番目かの奥さんの名字である。ありえない感覚だ。


 今どきは、夫婦別姓がイイとまで拘る人だっているのに、二人は、自分の名字をとっくに失っている。


 お爺ちゃんと邦茂さんとが、会社をでかくする計画の最中に偶然出会ったのが、良治君で、なんでも、相当手のつけられないワルだったらしい。

 親もいない。学校にも行かない。仲間とつるんで悪さする日々。

 何度も施設を抜け出し、警察からも逃げ、捕まってはまた施設を脱走。


 良治君いわく、施設はクズが暮らすゴミ箱だという。どいつもこいつも死んだ目をして、ポケットゲームやらカードゲームをいじるだけだと。

 どうでもいいクソみたいな規則も、働いてる奴も皆クソだという。


 仕事して社会に出た今でも、その意見は変わらないという。


 良治君は日本の不良から連想するものとは違う。敢えて当てはめるなら、欧米のギャングのような感じだ。どこら辺がそうかと言えば、まず見た目かな。

 写真でしか見ていないが、濃い目のデニムに黒のТシャツ。腕にはタトゥ。金のネックレスにグラサン。

 見た目もいかつく、仲間も皆イカレた目をしていた。


 毎日喧嘩に明け暮れていたところ、仕事途中のお爺ちゃんと邦茂さんと出会い、ケンカになったようだ。

 格闘技もかじっていることもあって負けなしの良治君は、その時初めて負けたと言っていた。それも死ぬ寸前までヤラレて、今でも思い出す度に震えるという。


 その時のお爺ちゃんの言葉で覚えているのは「植物状態にしてやる」といって、笑いながら死ぬまで殴られたと言っていた。更に邦茂さんが「つぶれろ」と言って仲間の顔を地面に踏みつけているのを覚えているらしい。

 もしかしたら「埋まれ」かもと。


 気合いの入った仲間がガチで逃げすとこを目の当たりにして、自分は死ぬンだと思ったらしい。

 でも普段は自分が同じことを他人にしているのだからこのまま死ぬのも仕方ないと思って目を瞑ったら、病院だったらしい。


 警察が来て、事情聴取を受け、すでに得ている情報と比較確認され、今回は逆に返り討ちにされたかと嫌な顔で笑われたようだ。

 近くで見ていた店の者達、更には、監視カメラにもばっちり映っていたらしく、自業自得、因果応報だと。ただ被害届は出せるけどと。面倒くさそうに。


 要は、良治君は最寄りの警察に嫌われていたのだ。


 泣き寝入りし寝ていたら、お爺ちゃんと邦茂さんが訪ねてきて、見舞いのケーキと病院のお金、見舞金を入れた封筒を置いて『復讐したかったらここへ来い』と、名刺を手渡したようだ。

 しかし、完治に半年以上。

 煙草も酒もドラックも薄らぎ、牙が折れた野良犬のように街に放たれたという。行く当てなくさ迷い、気が付くと名刺の場所に。

 そこには、手に入れたばかりの重機で遊ぶ若き日のお爺ちゃんと邦茂さんがいたという。


 怖がるお父さんを、容赦なく、エレベーターといって持ち上げたり、頑丈で有名な物置を、ロボットパンチといってぶっ壊して遊んでいた。


 怖いものなんて何もないと生きてきた良治君、なぜか怖くて逃げだしたらしい。地球人じゃないと本気で思ったと。

 大きなマシンを操り、轟音(ごうおん)を立てながら物置を思いっきり破壊していたと。

 自分が殴り折られた骨の音と、その破壊音がリンクして、全身が強張(こわば)ったと。



 しばらく公園で野宿生活しているところに、偶然邦茂さんと再会し、昼飯の弁当をごちそうになりながら、なぜか生い立ちを話したという。

 その後、とりあえず暇なら付き合えと、トラックの助手席に乗せられて、荷物の上げ下ろしを手伝った。

 色んな話をし、夕食をごちそうに。そして「ほら、これ」と一万五千円の入った封筒。今日の給料だと。

 明日も来るなら、同じだけやると。助手席でお前の話を聞かせてくれと。


 それが二人の本当の始まりだったようだ。


 良治君も働くようになり、会社も徐々に大きくなると、いつしか良治君も幹部になっていた。

 かつての仲間や何かの出会いがあると、スカウトし、邦茂さんを真似て面倒みるようになっていた。



 俺が本当に遊んでもらうようになったのは、惣汰が転校してからで、それまではただの怖いお兄ちゃんだった。

 けど、俺が落ち込んでダメになりそうな時、傍で優しく支えてくれて、バイクやスケボーなんかも教えてくれた。


 良治君の一番得意なのは、フリーランニングといって、周囲の環境を利用して、どんな地形でさえも走り抜け、障害物をも越えて自由に走り、アクロバティックに飛び回るというスポーツだ。


 まぁ、パルクールの変化系とでも言えばいいだろうか?


 本気出した良治君を捕まえるのは、鍛えた警官でも絶対に無理だ。

 一緒に練習した俺が見てそう思う。


 凄い高さから飛び下りても平気なんて、俺には信じられない。

 俺なんて、教えてもらった通りにやっても、二階のベランダからが限度だ。

 それだって、一歩間違えば足にヒビが入るか骨折だ。

 こればっかりは怖くて真似できない。


 良治君は何をやっても凄い。

 口癖は怖いなら止めとけと、本当のことが知りたかったらラップを聴けという。奴らのリリックはこの世界で唯一の正義だという。

 ただ、聴くやつが、甘えん坊のくせに、歌に感化されて、自由だの大人批判だのしちゃいけないともいう。

 それをしていいのは、この腐った世界でしっかりとルールを守り抑圧されている者だけだと。




「章和~、お前、いつまでもそんなトコ突っ立てると、ブッ殺されっぞ。いいか、暗闇からの一撃を喰らわしてやれ、相手はただのゲームオタク、こっちは、マジ、ヤバイ、冷徹な、傭兵。金でしか動かねぇ、権力のイヌ。そして、半端ない最高のスナイパー」

 意味が分からない。勉強したい。ゲームなんてしている場合じゃない。


「あの~そろそろゲームやめようよ」

「ばか、途中で止めるということは、白旗振るのと同じだぞ。勝てる戦を、なんでわざわざ逃げる。お前の生きるモチベーションはなんだ? 生きること、すなわちゲームよ。人生なんて所詮ゲームよ」

 ダメだ。全く聞く耳持ってない。勉強したいのに。


 モンスターを狩ったり戦争したり、どんだけ仕事のストレス溜まってるんだろ? お父さんも良治君も社会人だから別に構わないけど、俺はまだ学生であって勉強が本分なのに。



「章和、勉強ばっかしてっから、この戦場で生き残れないンだぞ。悔しかったら、自分一人で突っ込んで、敵の少数部隊二つか、オタクゲリラ隊をぶっ潰してこい。もしその任務に成功したら、今日はこの辺で勘弁してやるよ」

「ホント? 分かった。やるよそのミッション。絶対だよ。約束ね」

 こうして俺は、勉強もしないで、ゲームフィールドを駆け回った。


 そしてハチの巣にされた。


 勉強もできずじまい、敵のゲーマーにも餌食にされ、お父さんと良治君からは、そうやって人生でも負けていくぞと笑われた。

 お父さんと良治君は俺が餌食にされてる間に、敵の拠点をいくつも攻め落とし、いくつもの罠を仕掛け、この戦いを勝利に導いた。


 まるで俺は、一人で踊る(おとり)の様。ただの捨て駒……、サクリファイス。


 俺はただ勉強がしたいだけなのに、家でも学校でも集中できないでいた。





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