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少年2


 さてと、俺らも作業を開始しよう。

 

 まずは新ベースの向きを決めよう。この領域の入り口を正面にするか、山道の方に向けるか、ちょうど両方は九十度の位置取りだ。みんなの意見を聞いてみる。

 その結果、最初は意見が割れてしまったが、ちーちゃんからベース正面は入り口に向けて、山道の方は窓を付ければいいと、ナイスな提案が出たので即採用とする。


 ソファーをみんなで動かした。その後、仮壁をダンボールで作る。チビ共は俺が買ってきた雑誌を一生懸命読んでいる。

 そんな作業をしていると、ノブが話しかけてきた。


「おい、ユウキ。おめぇ、ナオとなんかあったか?」


 その質問を聞き、おれの鼓動は高鳴った。


「え? なんかって、なんだよ」


「いや、なんかギクシャクしてるように見えたからな」


 俺は驚き、作業の手を止めてノブの方を見る。ノブは手を動かしながら、こちらには目もくれず聞いてくる。


「べ、べつになんもねーよ」


「……おう、それならいいけどよ」


 そう言うと、それ以降ノブは黙り、作業を続けている。俺も作業を再会した。




「……ノブ。お前はあいつのことをどう思う?」


 俺はこの言葉を口に出すまでに、二十回は心の中で繰り返した。聞くべきかやめるべきか……。返答次第では後戻りできなくなるかも知れない。最悪、やつにチームを明け渡す結果もあるかも知れない。それでもこのままこの気持ちを棚上げして表面上の関係でやっていくのは耐えられない。

 そう結論づいたので、意を決して聞いてみることにした。


「ナオのことか? 大した奴だと思うよ。足も速かったし頭もいいな。気配りもできるし。あいつよ、ソファー運んでる時俺と後ろついたろ。かなり重たかったんだがな……」


「そうか、お前も俺よりあいつの方がいいんだな」


「……は?」


 こちらから振った話題だ。それは分かっているんだが、ノブの話を聞いていると、無性にはらただしく感じてきて、ついに聞くに耐えられなくなり言葉を遮ってしまった。


「もう俺なんかよりあいつについていった方がいいんじゃねーの!?」


 さらに俺はおもわず怒鳴ってしまった。

 自慢じゃないが俺は生まれてこの方、まともにケンカなどしたことがない。

 面倒事はなるべく避けて通ってきた。だから、こんなにも感情的に怒鳴るなんてこともなかった。

 それが今日はどうした事だ、短時間で二人の人間に対してこうも感情をぶつけてしまった。

 相手も驚いていることだろうが、俺自身も驚いている。

 ノブはすっと立ち上がると俺に向かって歩いてきて、眼の前で立ち止まる。


「立て」


 言葉短にノブは告げてくる。その言葉に応じ俺は手を止めて立ち上がる。

 こうして対峙してみるとやはり威圧感がすごい。腰が引けそうになるのを必死に耐える。


「こい」


 俺は殴られると思い顔の前に腕を出し防御の姿勢に入ったが、ノブからは拳ではなく、短い言葉が飛んで来た。

 ノブはこの領域の隅の方に歩いていく。

 俺も歩み出そうとした時に、ちーちゃんがオロオロしながらこちらを見ている事に気が付いた。安心させようと、笑顔を作り、返すがちーちゃんの表情は変わらなかった。多分、俺の今の笑顔は不安を懐柔させる程上手に出来てはいなかったのだろう。

 俺はノブの言葉に従いついていった。


「お前さ、ナオが現れてからなんかおかしいぞ。どうしたんだよ」


 ノブはベースに背を向け、しゃがみながらそう言葉を投げかけてきた。俺にも座るように促して来たのでそれに従う。


「ナオと自分を比べてんのか? それであいつに嫉妬してんのか?」


 俺はうつむきながら考える。

 多分そうなのだろう。自分でも正直よくわからない。でも、あいつといると不安な気持ちになる。自分よりも優れた人間が現れたから? 自分の地位が脅かされるから? 俺はあいつに嫉妬しているのか?


「……まずはじめに言うが、俺が思うに、お前はあいつに劣ってなんかいない」


「……え?」


 何か頭を殴られるような衝撃が走る。

 思わず顔を上げてノブを見た。


「考えてみろ。あいつがしてきたこと、お前には到底できないと思ったか?」


あいつがしてきた事……。


「……俺はあいつやトモヒロには足で敵わない」


「……言い方が悪かった。あいつは確かに的確な意見をして、ソファー運びの時にも率先して働いていたかもしれない。俺はその対応は申し分ないと思った。けどお前にはあれが到底敵わないと思ったか?」


「……あの程度のこと俺だって。いや、俺はあいつよりもお前らのことを知っている。あいつ以上の指揮が取れる」


「そうだ。お前の方ができる。足だって、トモヒロの方が速い。気配りだってエイコの方が繊細だろ」


「え? エイコが?」


「そこに食いついてんじゃねえよ、ったく、お前は。今までどんだけエイコとつるんでんだよ。だからお前はエイコの……とにかくだ」


 エイコは気遣いとは無縁だろ。あのガサツさ。


「話を戻す。……それからあいつ、穏和そうな雰囲気を出しておいて、実際かなりの力を持っているみたいだ。だがな! 俺はあいつに負ける気はしない」


 やっぱりあいつはすごい奴じゃないか。俺らが誇る各分野、その全てで同等の才能があるなんて。


「そうだ。あいつはすごい奴だ。あらゆる分野に秀でている。得意分野じゃなければ到底敵わないかも知れない。けど逆に得意分野なら負けない。俺らにはやつよりも誇れる分野があるんだ」


 そういう考え方も……出来るのか?


「それにあいつは一学年上だ。あいつが俺らよりもすごいのは当たり前だ。逆に言えば、そんなあいつよりも俺らはすごいもんを持ってる。それに来年、別分野でもあいつよりもすごくなりゃいいじゃねえか」


 確かにな……俺はあいつよりもすごい奴になれる……。いや、成る!


「それにな、俺は確かにあいつをすごいと思うが、……それ以上にお前はこの俺が認めた数少ない男だ。誇れよ」


「ノブ……」


 俺の目からはいつの間にか涙が流れていた。こんなにも俺のことを思ってくれているやつを、俺は一瞬でも疑ったのか。自分で自分を殴ってやりたい気分だった。


「あいつが気になる存在だってのも確かだ。でもこのチームのリーダーはお前だ、ユウキ。しっかりしてくれよ」


「あ、ああ。がんばるよ……」


「さ、泣いてる暇はねえぞ。作業再開だ。連中が帰ってくるぞ」


「お、おう」


 俺とノブは持ち場へ戻った。するとちーちゃんが寄ってくる。


「わ、わたしはあの人のこと、よくわからないけど……。わたしはユウキくんの方がすごいと思うよっ」


「ああ、ありがとう、ちーちゃん。俺はいい仲間に恵まれて幸せだよ」


 ちーちゃんに向けた笑顔、今度はちゃんと笑えていたと思う。




 あいつの言う通り飲み物を持ってきておいてよかったな。

 合間に水分補給をしながら作業を行っていると、どうやら物資運搬班が帰ってきたようだ。ちょうど山道側の壁を作っていた所だったので気付いた。確かに山道の方を注意してみているとわかるな。


「ふいー。つかれたー」


「行ってきたよ~」


「おつかれさん」


 物資調達しに行ったメンバーを迎える。

 あいつも両脇に荷物を抱えて戻ってきている。リュックも背負ったままで大荷物だな。


「おおー。だいぶ出来てんじゃーん」


「まーなー、がんばったんだからなー」


 ノブラザーが胸を張って答えるが、お前は雑誌を読んでただけだ。


「すげーなー、今日で完成しちまうんじゃねーかー?」


「ああ、まあ仮だけどな」


「よーし、もうひとふんばりがんばるかー」


「おー」


 それから俺たちは陽が傾くまで頑張って作業を行った。そして、トモヒロの時計で四時ニ十分ごろ、ついにその時がやってきた。


「おい、ユウキよ。こいつはもしかして……」


「ああ、一旦完成ってやつだな」


「うおおおー! 完成だー」


 やったなー、やったなーと、みんなでハイタッチした。思い思いに労い喜んでいる。


「おつかれさん」


 声の方を振り向く。あいつが遠慮がちに話しかけてきていた。


「ああ、お前も……手伝ってくれてありがとうな」


 やつは驚いたような顔でこっちを見てくるが、すぐに笑って手を差し伸べてくる。

 俺は先ほどのやりとりで、少し気持ちに余裕が生まれた。今まではこいつに怯えていたかも知れない。でも、今は先ほどまで感じていた嫌悪感が若干薄まっているのを感じる。

 俺はその手を取り、固い握手を交わした。


「おーい! ユウキー! なにやってんだ! 早く書けよ」


 ちょうどその時、ベースの入り口にいるトモヒロが声をかけてくる。


「ん? なにって、お前こそなにやってんだ?」


「名前書くんだよ! チーム名もいっそ新生しちゃうかあー?」


「そんなのお前らが先に書けばいいだろ」


「ばっかだなー。お前がリーダーだろ! 最初に書かなくてどうすんだよ!」


 トモヒロのその言葉にハッとし、周りを見渡す。エイコもノブもチビ共もみんな頷いている。俺はあいつの方を見る。あいつは握手していた手を離すと、その手で肩を小突いてきた。


「ほら、行けよ。リーダー」


 俺はその瞬間、心につっかえていた何かが外れて、抑えられいた感情が湧き上がり、流れる、そんな気がした。

 涙が溢れそうになるのを堪え、トモヒロの元へ歩いて行く。


 トモヒロからペンを受け取ると、新ベースの入り口横、木の板を見る。

 チーム名、リーダー、メンバーと上から順に板の左側に書いてあった。

 トモヒロは、リーダーの横をトントンと指差す。俺はそこにユウキと書き記した。

 今までモヤモヤしていた気持ちが晴れた気がした。あいつが来て、俺は全てを奪われた気がしていた。でも杞憂だったんだ。みんなは俺を、最初から最後までリーダーとして認めていてくれたんだ。


「よし、じゃあ次は俺が書くぜー。副リーダーだからな」


「えー! そんなのないよ! でもあるならあたしが書くよ!」


「もう書いちゃったもんねー」


 トモヒロは俺からペンを奪い取ると自分の名前を下に書き添えた。そしてペンをその場に放り投げて走り出す。


「あー! コラー! っと、名前書いてから。カキカキ。コラー!」


 エイコはトモヒロを追いかけるのを留まり、ペンを拾って名前を書く。そして、トモヒロを追いかけて行った。


「全くあいつらは、何やってんだか。……おい! なに勝手に書こうとしてんだコラ。次は俺だろ?」


 エイコが放ったペンを拾い、名前を書こうとしてたタクヤがノブに一喝された。


「はは、もちろん。はい、ペン」


 ノブはタクヤから差し出されたペンを受け取ると自分の名前を書いて、そのままタクヤの方にペンを放った。


「……ほら、てめぇの番だ。タクヤ」


「はい、どうも」


「にーちゃん、僕は次?」


 ノブラザーとノシスターがノブに聞いている。


「おめぇらは最後だろ」


 タクヤがちーちゃんにペンを渡し、その後ノブラザーとノシスターが名前を書いた。


 さすがはトモヒロ、エイコを巻いて戻ってくる。遅れてエイコも息絶え絶えで戻ってきた。


「よーし、これでとりあえず完成だなー」


「もう1人忘れてるぞ」


 トモヒロの言葉を遮り、俺は発言した。みんなは一斉に視線を俺に向ける。


「ナオ、お前の番だ」


 俺らの様子を遠巻きに見ていたナオに向かって言い放つ。


「へ? 僕も書いていいのかい?」


 ナオはあっけにとられている。


「あたりまえだ。仲間だろ」


 俺の言葉にみんながわく。


「さすがユウキだぜー!」


「ああ、ナオも俺らの仲間だもんな」


「イエーイ!」


「ありがとう」


 俺はペンを拾い上げるとナオの元に歩み、手渡した。そしてナオはペンを受け取るとベースまで歩いて行き、メンバーの一番下に名前を記した。


「これで真の完成だー!」


「ああ、完成だ!」


 俺たちはひとしきり騒いだ後、いい時間だったことに気がついて今日は解散することにした。


「第二拠点が完成したし、明日はこっち集合かー? 集合してなにすんだー?」


「そうだな、集合はこっちでいいだろう。まだ拠点も手を入れないといけないしな。そうしたらまずはこの周りの散策かなあ。使える資材がないか探さないといけないしな。壁も仮だし。他に何かやりたいこと、提案はあるか?」


 俺の言葉にみんな意見はないようだ。では、拠点の整備と探索かな。

 そう言おうとしたところで、ナオが手を挙げる。


「いいかな」


 普段ならここで意見が出る事なんか滅多にない。提案は毎回受け付けるが形式的なもんだった。

 けれどナオが来てからは毎回何か言ってくる。長年つるんでいるとマンネリ化してくるが、これが新しい風というやつなのかな。刺激が出て大変よろしい事だ。


「おう、あたりまえだろ。意見は聞くよ。賛同するかは聞いてみてからだな」


「ああ。じゃあさ、ひとつみんなに聞きたいことがあるんだけどさ」


 ナオは一呼吸おいた。

 みんなは静かに次の言葉を待つ。


「知ってたら教えて欲しいんだ。あのさ」


 さらに声のトーンを落とす。

 日も暮れたからか、周囲が若干暗くなる。それに依存してか、風も出てきたみたいだ。周りの木々がざわめき出す。


「あのさ。この街昔、神隠しあっただろ」



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