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別れ


 翌朝、目がさめる。

 時間は八時半、だいぶ遅めだ。寝るのも遅かったから仕方ないな。

 急いで着替えて朝食を取る。母さんとばーちゃんに今日は午前中公民館に集まることを告げる。


「そういや、ちーちゃんのお見舞いとかいけるのかな」


「あ~、どうだろうね。もう目が覚めたのかな。昼に聞いといてあげるよ」


「ありがとう」


 部屋に戻り出かける準備を整える。ノートに筆記用具。よし、行こう。

 っと、お守り。これ持ち歩かなきゃか。

 机の上に置いておいたお守りをポケットにねじ込んで家を出た。


 今日は暑いな。

 一昨日までの陽気をしっかりと取り戻してるな。

 まあ、公民館はクーラー付いてるし、今日はそこまで時間のゆとりはない。


 俺は日差しに立ち向かうように目的地へと歩いた。


 公民館に到着すると既にトモヒロ、エイコ、ノブが来ていた。


「よう、タクヤは?」


「あ、おはよ~。あいつは今日は午前中来ないって。まんまと逃げよったよ」


 あ、そう。まあ期待はしないけど。


「じゃあ、ナオが来たら始めるか」


「だなー」


 それから俺たちは適当に本を読みながら時間を潰した。

 なかなか現れないので時計を見ると、もう十時は過ぎていた。

 遅刻か……何かあったのかな。


 そんなことを思っていたところで、ノコノコとやって来た。


「やぁ、ごめん。ちょっと遅れちゃったね」


「どうした? 何かあったか?」


「寝坊かー? これはアイスおごりかー?」


「あはは、まいったな。……悪いついでにもう一つ謝ることがあるんだけどさ」


「な、なんだよあらたまってよー」


「うん、実は昼前に立とうと思って」


「え? もう帰るの?」


「そう」


「ええ~! 夕方じゃなかったの〜!」


 エイコは声を張り上げた。

 もしかして……


「寺の掃除の件か?」


「え? いやいや、全然違うよ。電車の都合だ。まあすぐってわけじゃないから、資料まとめ少し手伝うよ」


「そうか? 何時頃行くんだ?」


「うーん、十一時ごろかな。そんなに時間はないから、とっとと始めよう」


 そういうとナオはリュックを下ろして席に座る。


「まとめる件は川、神社、山の三点かな」


 ナオが口火を切る。俺はそれの追従する。


「ああ、そうだな。まず、川のついては寺で聞いた伝説と、ヘビ神様のことを書けばいいだろう」


 みんなが頷く。特に異議はないようだ。


「次の神社、これは見たものをそのまま書けばいいだろう」


「神秘的でもあり、ミステリアスでもあったな」


「だな。そして最後の山については……」


「聞いたまま書くか?」


 ここでノブが俺の話を遮ってくる。


「……と、いうと?」


「事故は多分方便だろ。おめぇらなんか裏付けるものは見なかったのか」


 なんだってんだ。さっぱり話が見えてこない。

 ナオもだんまりだ。と思ったら口を聞いた。


「……そうだな。墓は古いものから新しいものまであったよ」


「つまり……どういうことだ?」


 思い切って聞いて見ることにした。


「んー? ユウキは昨日の話が不自然には思わなかったのか?」


 トモヒロに指摘された。

 あれ、分かってないのは俺だけなのか?


 見かねたようにノブが説明を始めた。


「あの場所で事故が発生したとする。それを供養するために祠を建てたと言っていたが、多数あったんだろ? それはナオの言う通り墓なんじゃねえか? で、仮に墓とするだろ。昔の人間はどうだか知らねえが、俺らの感覚からすると、身内が事故でその場所で死んだからって、そこの墓を建てるか?」


「遺体を持ち帰って、自分ちの墓に入れる……、普通は……」


「そうだ、ならなんでそこで供養するのか」


「戻って来られては困る……」


「そうだ、神隠しが成立するんだ。そしてそれが組織的に行われていたとすると……」


「口減らし……とかか?」


「まあ、一つの可能性だけどな」


 完全に住職の言うことを鵜呑みにしていた。

 確かに疑ってかかれば矛盾だらけだったかもな。

 しかし、街中から親しまれてる住職だもん、疑いもしなかった。

 それで口止めを、さらには資料の添削までかって出たのか。


 点と点が結ばれた気がした。


「面白い解釈だね。まあ、間違えてもよそに出せるような話じゃないだろうけど。変に大人たちに目をつけられたくなかったら、心に留めといたほうがいいだろう」


 街の人の考え方が怪異だったわけか。場所に怪異があるわけではないから、行動を強く制限されるわけでもなかったって事か。


「さあ、この考察も捨て難いけど今は表向きに資料をまとめないとだよ。山の行方不明は、謎は深まる……とかで終わらせてもいいだろうし、天狗を創作してもいいんじゃないかな。まあ、時間はあるし、よく考えるといいよ」


「そうだな、そういえば昔、俺らの親たちも同じように集まって探索してたって知ってたか?」


「あー、昨日の帰りに聞いたなー」


「しらねぇ」


 ノブは知らないか。ってかノブの親は父さんたちのグループにいたのかな。


「で、山に何やら宝物を隠したらしい」


「なんだよ、宝物って」


「さあな、知りたきゃ探せってさ」


「ほっほー、おもしれーじゃねーか。見つけてやろうじゃん」


 みんなノリノリだった。


「面白そうだな。……さてと、じゃあ僕はそろそろ行こうかな」


「おっ、もうか?」


「電車乗り遅れるわけにはいかないからね」


「駅まで見送るよ」


 公民館を出て俺たちは駅へ向かう。

 駅は山までの道をさらには進んだところだ。


 俺たちはナオと出会ってからの出来事を思い出し、話しながら歩いた。


 トモヒロは走りで競った時、勝負には勝ったが内心は完全に負けを認めたそうだ。

 ノブは引越しの時に全体を見て的確に判断できるやつだと、すごいやつだとも思ったと。

 エイコは前情報を嫌という程聞かされて、出会う前からすごそうな人だと少しビビっていたそうだが、いざあって見ると親しみやすそうでホッとしたとのこと。


 なんだ、この流れは。俺も言わないといけないのか?

 まあ仕方ない。俺は正直に感じたことを伝えた。


 トモヒロが、ノブが、そしてエイコがナオを認めるにつれて、一人取り残されるような孤独感を感じたことを。

 ナオに居場所を奪われるんじゃないかと嫉妬感を抱いていたことを。

 それらが杞憂とわかって心の底から湧いた安堵感を。

 そして今まで曇ったガラス越しように盲目的だったが、改めて澄んだ気持ちで接したそいつはなかなかすごいやつだったことを。


 ……めっちゃ恥ずかしいじゃないか! なんで俺だけこんなに語ってるんだよ!


 みんなは笑っていた。笑って聞いていた。


 そんなこんなで駅まで到着した。


 ナオは券売機で切符を買う。

 チャリン、チャリン……ピッ、ジャラジャラ。


 そして買ったばかりの切符を通して改札を通り振り返る。


「余裕で間に合ったよ」


「そうだな」


 俺たちは向き合ったまま黙る。が、すぐに間が持たなくなる。


「トモヒロ」


 ナオが口を開いた。


「ん?」


「お前は抜けてそうでしっかりしたやつだった。チャラい感じは計算か?」


「そんなんじゃねーよ」


「そうか? まあ、お前はの行動力や判断力は優れたもんだよ。ユウキには持ち合わせてないもんだ。助けてやれよ」


「……ああ」


 ナオはトモヒロから視線を外す。


「ノブ」


「おう」


「お前は冷静で意外と頭が回るよな」


「意外は余計だ」


「そうだな、こいつらはテンパりやすい。不測事態はお前が頼りだぞ」


「わかってんよ」


 そしてナオはエイコに向き直る。


「エイコ」


「うん」


「君は立場をよくわきまえているね。自分の役割をちゃんと把握し、こなしている」


「まあね、私器用だから」


「まあ、不器用な面もあるけどな……頑張れよ」


 ナオはこっちをチラリと見る。なんだよ。早いな、俺の番か。


「うぅ~ん、がんばるよぉ」


 と思ったら、ナオはエイコに向き直り笑いかける。なんだよ。


「ユウキ」


「あっ、おう」


 へんなフェイントかけられて動揺したじゃないか。


「お前はこれからもリーダーとしてやっていくつもりか?」


 なんだ、さっきまでと様子が違うぞ。


「ああ、そのつもりだ」


「リーダーは大変だぞ。成果はみんなのもの、責任はリーダーのものだ。その覚悟がお前にはあるか?」


「……ああ、元よりそのつもりだよ」


「そうか……。お前は……」


 何が言いたいんだ? 俺は試されているのか? リーダーとしての資質がない、だから僕がリーダーを代わる、とか言い出す気か?


「リーダーに向いてると思うよ。覚悟もあるみたいだしな。人の立場になって物事を考えられる、普通のようでなかなかできないもんだ」


 いきなりの事に呆気を取られているとナオは続ける。


「でもお前は色々と考えすぎだな。今も思考の迷宮をさまよってんじゃないか?」


「べっ、別にそんな事ねーよ」


 図星だが強がってみる。


「まあ、一概に悪いとは言えないけど、柔軟な考え方も重要だよ。それに万能である必要はないんだ。その為の仲間だろ。お前の立場から言えば上手く人を使う。これは結構難しいところだ。頑張れよ」


「お、おう」


 ちょうどその時電車がやってきた。


「あ、やっときたみたいだな。じゃあ、この五日間楽しかったぜ」


「ああ、俺たちもだ」


「またこいよー!」


「そうだな、来年かな」


 二、三言葉を交わして、ナオは到着した列車に乗り込んでった。改札の外からは見えなかったが、俺たちは電車が出発するまでナオに手を振り続けた。


そして列車は出発する。


俺たちの、今年の夏休みで最初の、今までの夏休みで最大の冒険はこうして幕を閉じた。




「行っちまったなー」


「ああ、思い返せばあっという間だったな」


 しみじみと思い返す。


「これからどうする」


「そうだな、図書館いって続きをやってもいいけど……午後にちーちゃんのお見舞いに行けないか、母さんが確認してくれるって言ってたんだ。うちにきてどうなったか聞いてみるか」


「まあ、時間的にもちょうどいいしなー。そうすっかー」


みんなの賛同を得たので、俺たちは帰路に着いた。



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