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探索の果て


 本堂に通された。

 

 そこには住職が立っていた。

 住職の前には座布団が敷いてあり、すでに座っている人がいる。


「おー、エイコじゃねーか。それとタクヤも」


「あ、みんな……。心配したよぉ……」


 エイコは今にも泣き崩れそうだ。

 その様子を見ているといきなりノブに小突かれてつんのめった。


「ちょっ、ノブ、な……」


「ユウキぃ~……」


 振り向くとエイコが涙をためている。今にも堰が切れそうだ。


「お、おい、エイコ。大丈夫だ。ちーちゃんは見つけた。ちょっと気を失ってたけど無事だよ。念のため今病院に行ってるけど。俺にまかせとけって言ったろ」


「……うん、ありがと」


 視界の入るタクヤも心配そうな顔をしていたが幾分か和らいでいたようだ。


「えー、コホン。よろしいですか?」


「あ、はい」


 住職が咳払いひとつ、話を切る。


「今回は大変でしたね。また、見つかって本当によかった」


「ありがとうございました。事態を知って色々動いてくださったんですよね。おかげで大変助かりました」


 母さんがお礼を言った。俺らもそれに合わせて頭を下げる。


「いえいえ、当然のことです」


「それで、僕らはなぜここに呼ばれたんですか?」


 ナオが住職に問いかける。食ってかかる勢いだ。冷静というか冷徹というか、若干ドライに感じるな。

 まあ、付き合いの長さ的にも仕方ないことか。

 それに呼ばれたことには俺も甚だ疑問だ。むしろよく聞いてくれた。


「……中に入ったのは君ですか?」


 住職は逆に質問を返して来た。


「ええ、入りましたし、全部見ましたよ」


「そうですか」


 なんだなんだ。中に入ったのはまずかったのか? あの墓石のようなものを見たのは問題だったのか?

 ナオは叱られるのか。


「他に入った人はいますか?」


 俺の心臓は高鳴る。当然のことだがトモヒロ達は的を射ないようだ。ナオは黙って住職を見据えている。

 ナオは何も言わない。俺を庇うつもりか?


 俺は黙っていていいのか? リスクは当然避けたい。怒られるのは嫌だ。

 ナオはどうせ明日にはこの地を離れるし明るみには出ない。でもその前にみんなにチクるか?

 川の件でも黙ってて驚かれたしな。もし今回も後から知られたら信用をなくすか?

 入ってないってなるとちーちゃんを助けたのはナオだけの手柄か。ならいっそ、こっちから……。


 あー! もう!


 俺はこんな打算的な考え方しかできないのか!?

 メンバーは俺のことを信頼してくれてるんだ! それを俺は自分の都合を優先するのか!

 これはみんなに対する裏切りだ! そんなんじゃやっぱりナオの方がリーダーにふさわしいじゃねえか!


「俺もっ! ……俺も入りました」


「ふーむ。君もですか」


 ナオを見る。ナオもこちらを見返してくる。ナオは微笑んでいるように感じられた。


 ふっ、罰でもなんでも授けてくれ。なんなら明日にはいなくなるナオの分まで背負おうじゃないか。あいつも俺が率いるチームのメンバーだ。


「まあ、仕方ないですね。今晩中に補修に参りますよ」


 住職は寺の坊さんに向かって言い放つ。


「あなた達も、勇気と無謀は異なりますよ。今回はうまく言ったけど次回以降も同じとは決して思わないように」


「ほーい」


「はい……」


「そしてあの場所にはもう近づかないようにしてください。危ないので」


「それで、あれはなんなんですか?」


 ナオは物怖じしないでグイグイ聞いている。


「あれですか……」


「あ、その前に入ったから……その……罰とか?」


 しびれを切らして俺の方から聞いてしまった。住職はぽかんとした顔をしている。


「へ? あー。では、一週間、毎朝六時に寺に来て境内の掃き掃除でもしますか」


 あれ? ……しまった。やぶへびだったっぽいぞ。


「えーと、僕は明日の朝にここを立つんです」


 うそつけっ。夕方って言ってたじゃないか。


「じゃあ仕方ありませんね。片方だけ罰といいのも平等でないですし、今回は特別に無罪放免としましょう」


 ほっ、ナオに借りを作ってしまった。


「それで、話の続きは?」


 ナオは以前食い下がる。


「あなた、なかなか抜け目ませんね……いいでしょう。あそこにもう近づかないように釘をさす意味でも教えましょう。あの洞穴は昔は塞いで居ませんでした」


「あれは洞窟なんですか? 防空壕じゃなくて?」


 思わず聞いてしまったが、そもそも防空壕を知らないから初めから洞窟として認識していた。


「ええ、ただの穴。昔は倉庫とかの目的に使ってたのかもしれないですね。あなたは中に入る時、飛び降りましたか?」


「は、はい。で、転びました」


 俺は急に質問が飛んで来たので戸惑い、ありのままを伝えた。


「そうなんです。地面が急勾配になっているので仰向けに転ぶんですよ。それで今は撤去したのですが、前は地面がむき出しの岩でゴロゴロしていました。そこに飛び込んだ子供達が転び、頭を打つ……と言った事故が多かったんです」


「確かに今思えばちょうど転んで頭の位置、地面がボコボコしてたかも……」


「岩があった名残ですね。それで惜しくもその事故で亡くなった方を供養するためのお墓を建てているんです」


 なるほど、そんな経緯があったのか。山での行方不明事件もそこらへんに絡んでくるのかもな。


「まあ、真相なんてそんなものですね。あの場所が危険な所と理解して頂けましたか? 頂けたのなら、この事はあまり他言しない様に。今回はその話がしたくてお越しいただいたんです」


 住職は指を口に当てた。

 ナオは納得したのか、腕を組んで目を瞑り黙って聞いている。


「自由研究の成果には書けないか」


「うん? まあ、今言い聞かせた話を避けて書くなら許可しましょうかね。出来上がったら持って来なさい」


 俺の漏らした言葉に住職は答えてくれた。


「話は以上です。それではもう夜も遅い。今日はお開きにしましょうか。希望があればお宅までお送りいたします。あ、そうだ。沼に向かった方達もそろそろこちらに着く頃です。お知り合いがいたらすれ違いにならぬよう……」


 って事は、父さん達もこっちに来るのか。なら待つしかないな。


 本堂を出るときに、住職から全員お守りを受け取った。念の為、年内は肌身放さず持っていなさいとのことだ。

 母さんはお代は? と慌てていたが住職は受け取らなかった。


 そういえば、ばあちゃんからもお守りを預かってたんだった。なんだ、おんなじ奴じゃん。

 それを住職に告げると古い方は引き取られた。

 それからしばらく境内で待たせてもらうことのなったので、明日の予定を確認するためみんなを招集した。


「みんな、集まってくれたな」


「おう、どしたー」


「まずはみんな、今日はおつかれ。大事に至らなくてよかったよ。それで明日なんだけど、さすがに探索を続ける事は……出来ないな」


「そうだなー、ここいらが引き際だよなー」


「ああ、どのみちもう探索する場所もねぇしな」


「うん、というわけでまとめに入ろうと思う。この冒険を無駄にしたくはないしな」


「そうね。元々自由研究の為にやってたんだもんね」


「ああ、だから明日は公民館で集合でどうかな。そこで午前中に起きた出来事を整理して記事にする部分を決めていこう。そして午後から作成だ。あと午後に面会できたらちーちゃんのところへ行こう」


「だな、ったく。人騒がせな奴だったぜ」


「こら、ほんとは一番心配してた癖に。そんなこと言わないの」


「ばっ! 誰が心配なんかすっかよ!」


 全く、タクヤも素直じゃない。


「誰が見たって心配してたよなぁ。わからないとでも思ってんのかな」


「……オメェも大概だな」


 なんだノブのやつ、もしかしてわかってなかったのかな。


「にしてもよ、なんであいつはあんなとこに行ったんだろうな」


 そういやそうだ、動機がわからないな。


「バッグ忘れて山に取りに行って、でもってその流れで行っちゃったんじゃねーか?  直前に中腹でっていう情報も得てたわけだしな。ちーちゃんはヘビ神様が見えてたんだろ。何かに導かれたのかもなー」



「なんだ、あいつバッグ山に置いてきてたのか」


 まじかよ、全然気がつかなかった。あのあと一人で山まで取りに行ったのか……。

 思考のループの入りかけたところでナオに肩を叩かれる。


「ユウキ、君は考えすぎだ。人は万能じゃないんだよ。ここは周りに助けを求めなかったちーちゃんの責任だ。突き放した言い方になるけどね」


「あ、ああ……そうだな。一緒に行って欲しいといえばみんな行ったな」


「もちろんだよ。仲間だもん」


「だなー」「当然だ」「しょーがねえやつだよ」


「元気になって戻ってきたら言わないとな。もっと俺たちを頼ってくれって」


 みんなが頷く。


「それじゃあ、明日は十時、公民館集合でいいかな」


 誰からも異議はなく決定した。


「んじゃあ悪いけど僕はもう帰るね。お母さん達によろしく」


 間髪入れずにナオは言った。


「あ、送っていかなくて大丈夫か?」


「大丈夫だ、じゃあね」


「またなー」


 そういうとナオはさっさと帰ってしまった。


 それからすぐに父さん達が寺に到着した。住職から経緯の説明が簡単に行われ、その日は解散となった。


 ノブは坊さんに送ってもらうことに、トモヒロもお父さんが病院へ行ってしまったのでノブと一緒に坊さんの車だ。エイコ達はここへは両親と来ていたようで、うちの家族と途中まで一緒に帰ることになった。


「そういえばあの子は? ナオくんだっけ」


「ああ、ナオはもう帰ったよ」


 周りを見渡しながら聞いて来た母さんにそう答えた。


「あらそう、あの子はどこの子なんでしょうね。お父さん知ってる? 最近里帰りして来たって子」


「いや、見たこともないしなあ。見当も付かんよ。でも噂も聞かないってことはここいらじゃないんじゃないか?」


「そういえば学校の向こう、図書館側で行動してたような気がするよ。あと明日帰るんだってさ」


「そっか。なかなかどうして大人びた子だったわね」


「ほう、どんな風に?」


 母さんは父さんの問いかけに答え、説明を始めた。


「ねー、もうかえろーぜー」


 エイコの両親もその輪に入り、昔話にまで及んでいる。現在は中学生の頃までさかのぼっているようだ。

その状況にタクヤはしびれを切らして訴えた。


「あ、そうね。帰りましょっか」


 両家族一行は帰路に着いた。大人たちはまだ話に華をさかせているようだ。


「結構な冒険だったみたいね」


 エイコが話しかけて来た。


「そうだな~。ほとぼりが冷めたら洞窟行ってみるか?」


「行きたい! 明日行こう!」


 タクヤが食いついて来た。


「明日は無理だよ。これから住職たちが向かって補修するらしいしな。夏休み中盤になったらベース周辺の探検としてしてみよう。もとよりそのつもりだったしな」


「いいのかなぁ……」


 エイコは戸惑うが、前の方から声が飛んで来た。


「まあ、あんまり変なとこ行かなきゃ大丈夫だろ。親としては止めるべきなのかもしれないけどな」


「私たちも通って来た道だしね。そういえばあの山にアレ、隠したよねー」


「あー、懐かしいなあ」


「なんだよあれって」


「父さんたちが隠した宝物だ。気になるなら探してみな」


「まじかよ……! 宝探しだぜ!」


 タクヤが興奮して飛び跳ねている。かくいう俺もだ。ワクワクしてくるぜ。

 今後の目標は決定だな。父さんたちの隠した財宝を求める冒険がいま始まる……!

 今じゃないけどな。宿題しなきゃだ。


 途中でエイコたちと別れ、俺たち三人で家に帰った。


「今回の件については、いい判断をしていい働きもした。それは褒められたことだろう。けれども、一歩間違えればお前がちーちゃんのようになってたかもしれないし、そのままずっと見つからないかもしれなかったんだ。その事だけはちゃんと受け止めておきなさい」


「はい」


「まあ、お前は賢いし、言われなくても分かってるだろう。よく考えて、今日はもう帰ったら寝なさい。明日の夜にでもまた話そう」


「うん、分かった」


 家の着くとばーちゃんに出迎えられる。

 どうやら寺から連絡が入り、既に一部始終知っているらしい。

 父さんと母さん、ばーちゃんはこれから居間で一杯やるそうだ。

 聞き分けのいい俺は風呂の入って寝るとしよう。

 今日は疲れたな……机に向かう気力もないや……。


 布団に入るとすぐに眠りに落ちた。



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