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捜索2


「なんだこれ……確かに防空壕って言えば……そうなのか」


 ナオとしてみると、防空壕とは印象が異なるらしい。

 俺はもちろん存在は知っているが見るのは初めてだ。でもこれはただの洞窟じゃないのか。


 しかし、入り口はかなり広いな。高さは母さんの背と同じくらいかちょっと低いくらいだ。横幅が五メートルはあるな。

 そして全面に板が隙間なく打ち付けられていて入れそうもない。


 ん? よく見るとあそこ、板が抜けてるんじゃないか……。

 近寄って見ると洞窟の右下隅の部分、ここの板が割れていた。


「……ここから入れるな」


「ユウキ、ユウキ。これ……」


 ナオに呼ばれ向きなおり、ナオが指さす方向をみる視線を向ける。

 洞窟の脇にちーちゃんが持っていたピンクのバックが落ちていた。


「間違いないな。ここに来たんだ。母さん! トモヒロ達に連絡を! それと父さん達にも」


「わかったわ」


「ユウキのお母さん、懐中電灯を貸してください」


「……入るつもり?」


「わかってます。しかし、一刻を争うかも」


 言葉は少ないがこの場のみんなが理解している。その危険性を、そしてその必要性を。

 母さんは折れたようで、懐中電灯をナオに渡す。しかしここは譲らない。


「待て、俺が行く」


「わからないか? そんな事を言ってる場合じゃないだろう?」


「わかってるさ。治めるものの危機を部外者に任せるリーダーがどこにいる」


 俺の意思は固い。ここは絶対に譲れない。

 ナオの持つ懐中電灯をこちらに寄越すよう要求する。


 ナオは俺に対して真正面に向き直るとまっすぐ俺の目を見て来る。なんだか飲み込まれてしまいそうな、そんな目線を送って来る。思わず目を逸らしそうになるが、負けじとこちらも見返す。

 するとすぐに表情を和らげナオは懐中電灯を差し出してきた。


「……立派だな。上に立つものの志しってやつか。覚悟は見せてもらった。先に行け、僕も後から行く。これは年長者として譲れない」


 俺は頷き、懐中電灯を受け取った。


 懐中電灯で板の隙間から光を入れて中を見る。入り口すぐのところで地面が切り立ち、中は低くなっているようだ。高さとしては一メートルないくらいだろう。これくらいなら飛び降りれる。

 奥はそこそこ距離がある。十五メートルくらいだろうか。緑の領域くらいの広さだな。壁際には木箱やら土嚢やらが積まれている。

 ぱっと見ではチーちゃんは見つからないが、箱の陰にいるかもしれない。


 その事をナオに伝え、飛び降りる準備をする。


「まて、降りたらどうやって登るつもりだ」


 そうだった。ちーちゃんもいるんだ。よじ登れるのか? もう一度中をよく見ると、入り口の左の壁側、しっかりと板が打ち付けてある方が、人ひとり通れる幅で緩やかな坂になっている。そこから上り下りが出来そうだ。たぶんその為のものだ。


 ナオに伝えると入り口の左側に歩み寄る。

 そして板をまじまじと観察していると思うと豪快に踏みつけた。

 板は若干湾曲しているようだ。


「ちょっと時間がかかりそうだけど、なんとか通れるようにしておく」


 意外な一面を見た。

 ナオは頭脳プレイで問題解決するタイプだと思っていた。

 まあ、そちらは任せて俺は中に入る事にしよう。


 懐中電灯を握りしめ、入り口から中に飛び降りる。着地した瞬間にしゃがみ、うまく衝撃を逃す――はずだった。そにまま重心が後ろに流れ、仰向けに倒れて転がった。二回転も。


「お、おい! 大丈夫か!? 変な音したぞ!」


 ナオが心配したような声を上げる。


 当の俺は仰向けに倒れた拍子で背中全体、肘、さらに勢い余って後頭部を軽く打ち付けた。

 体が丸まっていた分痛みは少ないし意識もちゃんとある。


「大丈夫だ! 一応。ちょっとこけた!」


 何が起こったのか、体を起こして確認する。どうやら地面が手前の方に傾斜していたようだ。それも結構な勾配だ。上から見ただけじゃあまりわからなかったな。

 俺は立ち上がろうとして後ろに手をついたところ、何やら柔らかいものに触れた。


「ひゃあ!」


「おい! ユウキ! どうした!? ほんとに大丈夫か!」


 とっさに振り向くとそこにあったのは……人? 俺は思わずまた悲鳴をあげそうになったが飲み込む。よく見て見ると、それは横たわったちーちゃんだった。


「ちーちゃん! おいナオ! ちーちゃんがいたぞ!」


「落ち着け! もう少しで突破できそうだ……。それよりちーちゃんの様子はどうだ? 無事か?」


 ハッとして俺はちーちゃんの元に近づき、よく観察してみる。うつ伏せに倒れているちーちゃんは背中をわずかに上下させている。どうやら呼吸はしているようだ。だが意識はない。俺はそのまま伝える。



「なるほど……、とりあえずこっちはもう通れそうだ。今いく」


「あ、気をつけろ。手前側はかなりこっちに向かって傾斜してるから」


「こっちってどっちだよ。まあいい、いくよ」


 ナオは坂になってる部分から歩いて入ってきた。そりゃそうだ。わざわざ飛び降りてこける必要も無かったわ。っていうか懐中電灯をまだ持ってたのかよ、ちっちゃいけど。


「なんだ、奥だけかと思ったら手前もあるのか。さっき僕たちが立っていた場所からしたら完全に地下じゃ……」


 そう言いながらナオがこちらを向いて固まった。


「ナオ、どうした?」


 洞窟の中は入り口から見て一メートルほど低くなっていたが、さらにそこから下り坂。その下に俺は立っている。入り口から測れば二メートル以上はゆうにあるだろう。


 俺はナオを見上げていて、ナオは俺を見下ろしている。そう思ったが違った。ナオの視線は俺の頭頂部より上に向かっている。


 うしろ……?


 俺は手元に転がっていた懐中電灯を拾い上げ照らしながら振り向いた。

 そこには上と同じくらいの空間が広がっている。

 ただ、先ほどと異なるのは、この空間を満たしているのは、一面に並んだ石。簡素な墓石のようにも見える。


「なんだ、これ……」


「おい、ユウキ。気味が悪い。ちーちゃんを連れて早く出よう」


 ナオは坂を下りて来て俺の横に並ぶ。


「お、おう。でも動かして大丈夫かな」


「うつ伏せだし、頭打ったとしても額だろう。それよりもここに放置する方が嫌な感じがする」


 確かにその意見には同意せざるを得ない。

 俺とナオでちーちゃんを担いで坂を登り、さらに入り口まで運ぶ。


 入り口の板は十分な大きさで穴が開けられていて、ちーちゃんを担いだままでも問題なく通過することができた。


 洞窟から抜け出すと母さんが駆け寄ってくる。手には携帯電話を持ってどこかに連絡しているようだ。

 ちーちゃんを地面に寝かせると母さんが様子を探る。たぶん脈とか計ってるんだろう。


「はっきりとはわからないけど、たぶん気を失ってるだけみたいね」


 電話を切りながら母さんは言った。

 俺たちはほっと胸をなでおろす。


 その時、俺たちが来た方角の林からガサガサと音がした。


「誰だ? トモヒロか?」


 予想に反してそこに現れたのは坊主頭の男二人だった。俺とナオは身構える。


「何者だ?」


 ナオの問いかけに答えたのは母さんだった。


「あなたたち……お寺の?」


「はい。住職の指示でここまで参りました。少女が行方不明になったとのことで、見つかったんですね。よかった」


「なんでここがわかった?」


 ナオはさらに問い詰める。確かに、ピンポイントでこんなところに来れるのか?


「住職は神社に沼にそしてここ、山に人を遣わせているんだ。午前中に聞いた話を元に、とおっしゃっていた。そして山ならこの場所が怪しいとも」


「ここは、一体なんなんです」


 俺も質問を投げかける。


「……私たちの口からはなんとも。とりあえず山を降りましょう。そちらの少女は念のため病院へ、下に救急車を呼んでいます。あなたたちは当寺院までお越しください。他の場所に捜索に向かわれた方にも声はかけてあります」


 俺たちはその言葉に従った。確かにこの後のことをちゃんと考えてなかった。いや、トモヒロ達と合流後、ちーちゃんを運び病院へ送る流れになったのは確実だろうけど、ここまで周到な行動はできなかったな。素直に住職の采配に感謝しよう。


 坊さんの一人がちーちゃんを抱え、もう一人の坊さんの案内で林の中、来た道を戻る。山道に出ると幾らかの人気も感じられた。そのまま山を降りると救急車、それとトモヒロ達が待っていた。


「よー! 見つかったってなー! よかったぜ!」


「ああ、本当によかった」


「さすがユウキ。信じてたぜ、俺たちのリーダー」


 そんなノブの言葉に戸惑いつつナオの方を見やると親指を立ててくる。


「ああ……いや、みんなの協力のおかげだよ。ありがとう」


 そんなやりとりをしていたら救急車はサイレンを鳴らしながら出発していった。ここはトモヒロのお父さんが付き添っていったそうだ。ちーちゃんの親は自宅から直接病院に向かうことになったらしい。


「それでは我々も移動しましょうか」


 俺たちメンバーと母さんは、坊さんが乗って来たという車で寺まで向かうこととなった。トモヒロとノブは別の車だ。

 道中はあっという間だった。けれど口を開くものは誰もおらず、重い空気のまま寺に到着した。

 

 そこで待っていた別の坊さんに奥まで通される。



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